異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。   作:卍錆色アモン卍

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28強敵

 

 グレイは幾度なく偉大なる剣(グレートソード)を振り回して、ラミアに攻撃を仕掛ける。だが、その尽くが防がれていた。上半身を狙えば大薙刀で真っ向から弾かれ、下半身を狙えば土埃を上げるほどに高速でとぐろを巻かれるか、尻尾で力をいなされるかをされてしまう。

 偉大なる剣(グレートソード)と大薙刀であれば、前者に軍配が上がるほどには重量さがある。しかし、ラミアは人外の膂力と、それを活かした遠心力を武器に対抗してくるのだ。銃弾さえ弾く下半身は致命傷を与えられず、だからといって、上半身はおいそれと攻撃を許してなどくれない。

 総じて、ラミアは非常に手強い相手と言えた。だが、希望はある。それは、偉大なる剣(グレートソード)は弾かれるが、決して負けていないこと、人数差で勝っていること、グレイたちはラミアよりも知能が高いことだ。有利な条件さえがあれば、勝利は掴める。グレイはその思いを胸に戦っていた。

 

 激しい金属音が鳴り響き、偉大なる剣(グレートソード)が弾かれる。だが、大薙刀もまた同様に弾かれており、すぐさま鍔迫り合いへと進展した。

 グレイは全身全霊の力を込めるが、地に足をつける、という表現が正しいのか迷ってしまうラミアは、クスクスと蠱惑的な笑みを浮かべながらも、人外の膂力で押し始める。

 ザリザリと地面を滑ったグレイは、なんとか踏ん張ろうと腰に力を入れて、偉大なる剣(グレートソード)で押し戻そうとした。だが、ラミアはそれをあざ笑うかのように、下段構えの大薙刀でグレイを浮かそうとしてくる。

 眼前の魔性の女はグレイに熱い視線を送ってきており、弧を描く口元では二股に別れた舌がチロチロと遊んでいる。グレイは獲物として見られていることに不快感を示しつつも、なんとか拮抗しているこの状況を良しとしていた。

 

「レアー、まだかーっ⁉」

「グレイ、気合を見せなさい!」

 

 ほんの数秒で耐えきれなくなったグレイを他所に、レアがラミアの下半身を踏み台にして、大きく跳躍をした。鎧を纏っているにも関わらずだ。

 サーコートが風に(なび)き、振り上げられた鎚矛(メイス)が陽光を反射する。レアの行動にはラミアも気づくが、グレイはその一瞬の隙をついて偉大なる剣(グレートソード)を押し込んだ。

 

 バランスを崩したラミアを襲うのは、斬り上げる偉大なる剣(グレートソード)と、空より(くだ)鎚矛(メイス)だ。ラミアは焦ったように身体を硬直させたが、すぐさま行動を起こした。

 長大な尻尾がグレイを強かに打ち据え、弧を描いた大薙刀がレアの胴体へと叩き込まれる。しかし、グレイは「ごっふ⁉」と悲鳴を上げながらも尻尾を鷲掴み、レアは大薙刀の刀身を肘と膝で挟み込み、受け止めるといった荒技で耐え忍んだ。

 目を見開くラミア。そこへ襲い掛かる、ルークより放たれた矢。ラミアは辛うじて避けるが、避けた先には狙いすましたかのようにシズの〈不調化光線(レイ・オブ・シックネス)〉が飛んできており、ラミアの肩へと命中した。

 焼けるような痛みを覚えたのか、ラミアが悲鳴を上げる。だが、乾いた音に反応して顔を上げた時には、既に勝負は決していたのだ。

 鈴木凪より放たれた銃弾がラミアの眉間を貫き、頭部を粉砕した。頭部の上半分がスイカのように弾け、脳みそや目玉が飛び散っては、辛うじて残っていた下顎部から舌が垂れる。

 たったの一発。されど、三五七マグナム弾に耐え得るほどラミアは怪物ではなかった。どうっとラミアが横たわり、身に纏っていた衣服が花弁のように広がる。大地に染み込んでいく真っ赤な鮮血が、ラミアが人間と同じく一生物であることを示していた。

 

「ふぅ、ナイス援護だぜ」派手に凹んだ胴鎧を撫でたグレイは、笑顔を浮かべた。「流石に、剣で倒せる相手じゃねえな」

 開口一番にレアが答える。

「ラミアは戦いづらくて敵わないわね。正直苦手だわ」

 ルークが続いた。

「一体だけならなんとかなるけど、それは上振れだから気をつけないとだね」

 最後にシズが言った。

「新手が現れないうちに、さっさと倒した方がよさそうです」

 

 地球産のラミアはアースガルド産のラミアよりも強大だが、理不尽なほど強くはないようだ。そう結論づけたグレイは、トドメを刺した鈴木凪を労り、より多くのラミアを倒そうと歩き出した。

 

 

 

 あれから何度かラミアと戦闘を交わしたグレイ一行は、段々と戦闘方法を確立していった。グレイとレアがラミアを引き付け、ルークとシズ、鈴木凪がトドメを刺す。途中途中でラミアの抵抗が激しく、前衛が怪我をする場面や、後衛に被害が及ぶ場面もあったが、無事に危機を乗り越えて勝利を手にしていた。そして、あと一戦を交えたら作戦支部へ帰還しようとした時、グレイ一行の前の強敵が現れたのだ。

 

 これまでと同様に、艶やかな黒髪に見惚れるほどに美しい(かんばせ)上衣(うわぎ)が目を惹くラミアだったが、額より天をも穿つような一対の角が生えていたのだ。体格もまた非常に優れており、通常個体よりも一回り大きく、下半身の大蛇の胴体は竜を思わせる刺々しい鱗が隙間なく覆っていた。手に握られた大薙刀は漆黒に染まり、ただならぬ雰囲気を醸し出している。

 

 グレイ一行が警戒をする中、ラミアが唄うように美声を響かせて、大蛇の胴体を激しく巻き始めた。それは家屋を優に超えるほど高く高く伸びていき、遥か天上を指すように大薙刀を掲げる。その瞬間、急激に分厚い雨雲が空を覆い、激しい雨が降り始めた。雷鳴が轟き、真っ黒な雲の中で稲妻が迸る。天より(いかづち)が降り注げば、長屋はいとも簡単に粉砕され、猛火を振りまき始めた。

 

「嫌な予感がするぜ……! レア、〈英雄たちの饗宴(ヒーローズ・フィースト)〉を」

「分かったわ。──〈英雄たちの饗宴(ヒーローズ・フィースト)〉」

 

 グレイ一行はレアの魔法により生命力に満ち溢れ、毒、病気、恐怖を受け付けなくなった。

 

 漆黒のラミアが動き出す。長大な大薙刀が天から降り注ぐように振るわれ、グレイの構えた偉大なる剣(グレートソード)を打ち据えたのだ。

 雨粒を消し去るほどの衝撃波と共に、大薙刀より雷撃が放たれ、グレイは木の葉のように吹き飛ばされた。全身を貫く雷撃は意識を遠ざけるほどに強烈で、長屋の壁に叩きつけられた衝撃によって肺に残っていた空気が一片残らず吐き出される。

 ──つ、強えかも……!

 朦朧とする意識とふらつく体に鞭を打ち、グレイはすぐさま前線に戻った。しかし、グレイの欠けた前線はほんの数秒で崩壊し掛かっていたのだ。

 

 レアの唱えた魔法──〈信仰の守護者(ガーディアン・オブ・フェイス)〉によって召喚された守護者は、漆黒のラミアと数度切り結ぶだけで塵と化し、ルークの放った矢、シズの唱えた〈殺戮の雲(クラウドキル)〉は嵐を思わせる突風が吹き荒んだことにより、瞬く間に無効化された。

 駆け出したグレイは、レアに薙ぎ払われた大薙刀を偉大なる剣(グレートソード)で弾く。だが、再び衝撃波と雷撃に見舞われ、吹き飛ばされてしまった。

 

「こいつ、対策積まないとキツイか⁉」

 

 思わず弱音を吐いたグレイだったが、それほどまでに漆黒のラミアは強かった。レアたちも苦しそうに表情を歪めており、引き時をしっかりと見極めなければ取り返しのつかないことになる、とグレイは苦渋をなめる。

 

 激しい雷雨に打たれていた、その時。グレイたちの背後より一人の影が飛び出し、漆黒のラミアに襲い掛かった。

 異質な鈍器が大薙刀と激しくぶつかり合った瞬間、爆炎の花が咲き誇り、雨粒を吹き飛ばす。それと同時に鈴を転がすような、軽やかに響く女性の笑い声が響き渡ったのだ。

 

「あっははは~! 獲物はっけ~ん!」

 

 魔法金属製のプレートアーマーに身を包んだ、危険な香りのする少女。グレイが彼女の正体に驚いた時、隣に筋骨隆々の戦士がやってきた。

 

「手を貸すぜ? 超親友(ブラザー)ッ!」

 

 勇ましい声と共に、差し出された手。グレイがその手を取り、顔を上げると、そこには異人一課のアレクが堂々とした立ち姿でこちらを見据えていた。

 

「アレク──いや、超親友(ブラザー)! 助かったぜ!」

「フッ、親友の危機となれば、どこでも駆けつけるわい!」

 

 頼もしい笑みを浮かべたアレクを他所に、シェリーの爆発金槌が猛威を振るい、漆黒のラミアを引かせる。続けて、走り込んできた冬川トウジが毎分七百発という連射速度を誇る銀星を乱射し、ラミアを防戦一方に追い込んだ。

 

 レアたちが態勢を立て直すことに成功し、再び攻勢に出始める。それに続くように、グレイとアレクも前線に駆けた。

 

 急遽として異人一課と協力することになったが、そこは優秀な冒険者パーティーたる『黄金の剣』である。アレクたちの息に合わせるように動き、徐々に漆黒のラミアを追い詰めていく。

 大薙刀が振るわれればシェリーを筆頭にアレクとグレイが気合で捌き、雷雨を操り落雷を引き起こされればレアが即座に治癒し、ルークとシズが妨害をする。鈴木凪と冬川トウジは隙さえあれば漆黒のラミアを銃撃し、思うように行動ができないように牽制し続けた。

 

 やがて、転機が訪れた。漆黒のラミアの両腕が銃撃され、大薙刀を手放したのだ。

 ここだ、と思ったグレイはアレクと共にラミアの胴体を駆け上がった。

 

「アレク、決めるぞッ!」

「おうともさ、超親友(ブラザー)ッ!」

 

 そして──渾身の一撃を叩き込んだのだ。

 

 ──黒閃ッッ‼

 

 グレイの偉大なる剣(グレートソード)がラミアを袈裟懸けに両断し、アレクの鋼の如き拳がラミアの顔面を粉砕する。

 グレイたちは即死したラミアを飛び越えて、地上へと着地した。その僅か後で、後方よりラミアが頽れる音が響き渡る。勝負は決した。空を覆っていた雷雨が霧散し、分厚い雲の隙間から降り注ぐ薄明光線を瞳に映せば、それは一目瞭然であろう。

 

 雨上がり特有の澄み切った空気を肺一杯に吸い込み、グレイは深呼吸をした。当世具足を滴る雫が、ポタポタと落ちていく。

 多くの水溜りに映る、仲間たちと晴れゆく空。どうにか勝利を収めたな、とグレイは今一度勝利を実感すると、雄叫びを上げた。この勝利は自分だけのおかげではなく、仲間たち、ひいてはアレクたちのおかげだ。グレイは豪快に笑うアレクと肩を組み、勝利を手にしたことを盛大に祝ったのだった。

 

 

 

 ⚔

 

 

 

 激しい土埃を上げ、五体のセントールがやってくる。重装備の戦士たちが槍を構え、こちらを貫かんと迫ってくる。

 ランサはじわりと滲む汗を拭い、片鎌槍を構えた。もし正面からぶつかってしまえば、ただじゃ済まないな、と心の奥底で呟く。だが、ランサはその思いを口には出さず、隣にいるイオへ声援を送った。

 

「イオ、頑張って」

「むふー、この程度、造作もないね!」

 

 既に勝った気でいるイオは、十体のウッド・ウォウドに命令を下していた。それは、『死ぬ気で受け止めろ!』というもの。

 ウッド・ウォウドたちの上位者であるドライアドはイオを守護するように佇んでおり、いつでも戦える予備戦力として待機していた。

 

 突撃をするセントールたちと、陣形をとるウッド・ウォウドたち。張り詰めた空気が最高潮に達した時、ついに両者は激突した。

 激しい破砕音が鳴り響き、本陣にいたランサたちにウッド・ウォウドの残骸である木片が降り注ぐ。ドライアドがすかさずイオに屋根を作る中、ランサは前方を見据えていた。

 次々とウッド・ウォウドたちが討ち取られていく。しかし、一体倒すごとにセントールたちの勢いは弱まっていった。それは、ウッド・ウォウドたちが(三角)の形をした陣形──魚鱗をとっていたことも大きいだろう。

 正々堂々と真正面から突っ込んできたセントールたちは、ついぞウッド・ウォウドたちの陣形を抜くことはできなかった。だが、残ったウッド・ウォウドたちは四体と心許ない。そこで活躍をするのが、ランサとゾネである。

 

「ランサ、行くぞッ!」

「はい!」

 

 大地を踏みしめ、ランサは駆ける。風と一体になったかのように速く、疾く駆け抜け、一瞬で前線へと辿り着いた。

 ウッド・ウォウドたちが、思いの外善戦している。木の巨人たるウッド・ウォウドたちと、槍の相性はいいのかも知れない。ランサはそんなことを考えながら、ウッド・ウォウドの影から飛び出し、一体のセントールに襲い掛かった。

 

 目にも止まらぬ速さで突きを繰り出し、セントールの下半身、その横腹を貫いた。虚をついた一撃は致命傷となったようで、セントールは暴れ出すが……やがて事切れる。そこへ、ランサの存在に気づいた二体目のセントールが突撃をしてきた。

 

 避けようとしたところで、ウッド・ウォウドが間に入り、セントールの上半身を殴り飛ばす。それによって引き倒されたセントールに、ランサは片鎌槍を突き下ろしてトドメを刺した。

 

「イオの奴、よく見てる!」

 

 小さく笑ったランサは頼りになる仲間に感謝を送ると、一体のウッド・ウォウドを倒した一際大きいセントールと相対した。

 漆黒の鎧には天を突く一角が生えており、手には十文字槍が握られている。馬の胴体もまた漆黒であり、そのセントールはただならぬ雰囲気を纏っていた。

 

 漆黒のセントールが駆け出した。ランサは片鎌槍を構え、迎え撃つ態勢をとる。そして、両者が交わる瞬間──漆黒のセントールが、黒い霧となって霧散したのだ。

 黒い風がランサを突き抜け、視界を潰す。不意をつかれたランサはすぐさま漆黒のセントールを探すが、既に背後をとられており、十文字槍が突き下ろされていた。

 

 激しい金属音が鳴り響く。ランサの片鎌槍が間に合った──訳ではない。ゾネの薙剣(グレイブ)が、十文字槍を大きく弾いたのだ。

 

「私を忘れてしまっては困るな!」

 

 今度こそ主役を貰うぞ、とでも言いたげに呟いたゾネは、怒涛の槍捌きで漆黒のセントール相手に善戦をする。

 セントールは不利を悟ったのか、黒い霧と化して姿を消した。

 

 こちらの損害はウッド・ウォウドの全て。対するあちらは漆黒のセントール以外の全てだ。数の有利はこちらにある。しかし、総大将とも言えるあのセントールは不気味な存在であった。ゾネもそう思っているのか、眉を顰めてこう言った。

 

「面妖な奴だ。ランサ、気をつけろよ」

「勿論です」

 

 遥か遠い空には不吉な積乱雲が発生しており、激しい雷雨が見受けられる。ランサは一向に姿を現さない漆黒のセントールの異質さも相まって、そこはかとない不安に襲われていた。

 

 数秒が経過した時、ゾネと間隔を空けて背中を合わせていたランサは、作戦を変える進言をしようとゾネへ振り向いた。すると、今まさに漆黒のセントールが十文字槍を振りかぶり、ランサを貫かんと迫っていたのだ。 

 ──馬鹿な、いつの間に背後を……⁉

 いくらゾネと間隔を空けていたと言っても、背後へ回れるほどの間隙(かんげき)などなかった。つまり、漆黒のセントールは音も無く瞬間移動ができるということだ。

 先ほど背後に回られた時は黒い風が吹いたが、あれはまた別の能力によるものだった。魔力を消費するのか、何かしらの条件があるのかは分からないが、漆黒のセントールは無法過ぎる力を身に付けていたという訳だ。

 

 ランサは凶刃から逃れようと足を刻む。しかし、それよりも疾く、十文字槍が迫る。

 このままでは非常に不味いのは分かっていた。だが、打つ手がない。ランサはせめて急所を外すようにと体をひねった。その時、視界の端に次元の扉、としか言いようのない摩訶不思議な扉が現れた。そして、十文字槍がランサを貫く寸前──扉よりフードを被った緑髪の女性が現れ、腰に差した刀より居合斬りを放ったのだ。

 

 神速の一刀。もはや剣閃しか残らなかった神風の如き一太刀が、十文字槍の柄を斬り飛ばした。即座に刀が翻り、漆黒のセントールの片腕を篭手ごと斬り飛ばす。

 

「間に合ったようで何より!」

 

 彼女の勇ましい声と同時に、次元の扉を越えて一人の青年がやってきた。彼を見たランサは純粋に喜び、なんとか生き延びた運命に感謝を捧げた。

 

「エルウィンさん! マジ助かった!」

ヤンマー二(いいね)、実にいいタイミ──いや予想以上に近いな⁉」

 

 穂先の無くなった十文字槍を振り回す漆黒のセントールとゾネ、シルヴィが目の前で激戦を繰り広げている。エルウィンは次元の扉をもう一度潜り、姿を消した。

 

「エルウィンさん帰っちゃったよ!」

 

 何はともあれ、形成は逆転した。ランサも心強い女性陣に加わり、程なくして漆黒のセントールは倒されたのだった。

 

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