異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。   作:卍錆色アモン卍

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29攻城戦

 

 おおよそひと月ほどが経った頃。公機制の増援が来たことで、無事に城下町は迷対課のものとなった。かつて巣食っていた魔物たちは排除され、今では多くのサイボーグ兵が跋扈する魑魅魍魎とした世界が形成されている。

 これはこれでなんか嫌だな、とグレイが失礼ながらに思っていると、城下町の作戦本部にて作戦会議が始まった。メンバーはいつもの榊分隊長を筆頭に、第二分隊分隊長、異人課のリーダーたち──アレク、エルウィン、ゾネ、グレイ、そして彼らの付き人たる、冬川トウジ、田中紫苑、夏目フミ、鈴木凪である。

 錚々たる面々が揃った会議室はそこはかとない重圧に包まれており、上座に座る榊に至っては机に両肘をつき、指を組んだ両手で口元を隠したゲンドウポーズであった。

 

「諸君、時は来た。今こそ、攻城戦を始めますよ」

 

 ──公安機動制圧隊第一分隊分隊長、榊小五郎。

 

「フフ、ついにこの時が来たのですね!」

 

 ──公安機動制圧隊第二分隊分隊長、橘サクヤ。

 

「ガハハ! 腕が鳴るわいッ!」

 

 ──迷宮対策異人一課、『鋼の拳』アレク・ガント・ウィンガー。

 

「どうやら、終わりが近いようだね。僕の美しさは終わらないけれど」

 

 ──迷宮対策異人二課、『森の影』エルウィン・フォン・サンダークルス。

 

「……この流れは何なんだ」

 

 ──迷宮対策異人三課、『炎の槍』ゾネ・テスカトリ。

 

「俺の計算によれば……成功確率、百パーセント‼」

 

 ──迷宮対策異人四課、『黄金の剣』グレイ・エルドー。またの名を、グレイ・エルドラン=エルデリア。

 

 おっほん、と咳払いを挟んだ榊が、厳かに話を切り出した。

 

「まずはこちらをご覧ください」

 

 グレイたちの囲う(テーブル)上に、ホログラムが展開される。そこには、この城下町の最奥に鎮座する城郭が映し出された。広大な面積を誇る水堀に守られた城郭は、おおよそ三つの階層に別れているようで、最奥に威風堂々たる天守閣があるようだ。

 

「我々の目指すべきはここ、本丸です」天守閣が赤く点滅する。「本丸に辿り着くためには三の丸、二の丸を越えなければなりません。また、本丸である天守は小天守が連結しており、まずは小天守を攻略しなければ天守には入れません。随分と手間が掛かりますが、我々だけで成功を収める必要があります」

 

 真剣な表情を浮かべる面々を見渡した榊が、続きを話した。

 

「天守を守護している魔物は鬼です。平均身長一八〇センチ、赤い肌が特徴的な人型生物。足軽、足軽大将、徒歩(かち)武者、侍大将と、多様な役職を確認しています。では──」本題だと言わんばかりに、真摯な声音が告げる。「作戦について、お話します。三の丸、二の丸は第一分隊と第二分隊で制圧します。敵は足軽隊であり、槍、弓、銃と集団に長けた武器を保有していますので、我々公機制が現代武器で殲滅します。小天守まで到達次第、異人課の皆様に突入してもらい、順次制圧していって貰います」

 

 榊は最後に、目指すべきは天守の最上階、そこにいるボスを倒すのが目標と言った。細かな作戦については、質疑応答の(のち)に話すとのことだった。

 何か質問はあるかと問うた榊に、疎らに疑問が投げかけられた。やがて沈黙が訪れると、榊は作戦の細部について話し出し、皆に共有していく。おおよその敵の数、身に付けている装備品、城の構造。情報が不足している部分もあるが、無いよりは遥かにマシだろう。

 

 しばらくの間は全員で作戦について話し合っていたが、やがて公機制組と異人組で別れて話し合い始めた。重要なのは立ち回りであり、どのパーティーが先頭を進むのか、どこで交代をするのかなどだ。最終的に異人一課を先頭にして、異人三課、異人四課、異人二課が続く形となった。

 アレクが先頭を所望して、ゾネもそれに続いた。反対にエルウィンは最後尾を所望していた。エルウィンは、異人二課の戦闘員は実質二人なため、殿(しんがり)で構わないとのことだ。また、アレクとゾネも先頭を所望したのには理由があり、前線でしか役に立てないからと言った。こうしてスムーズに作戦は決まり、作戦決行の時刻まで自由時間となった。

 

 

 

 まだ日の出ていない早朝は肌寒く、未明から少し過ぎた暁の空が天上に広がっていた。深い青色の空とぼんやりと浮かぶ雲が赤く焼けていき、徐々に城下町全体に日が差していく。

 物静かだった城下町は次第に活気に溢れ出すことだろう。そしてそれは、目前にある城郭も同様だ。

 

 大きな水堀に架けられた橋の先には、立派な櫓門が待ち構えている。二階建ての建物の二階部分には連子(れんじ)窓が並び、中には詰めている鬼の姿が薄っすらとだが見て取れた。

 立派な大門は固く閉ざされており、側には二人の武装した鬼が警備に当たっていた。足軽然とした二人の鬼はお世辞にも強そうには見えないが、軍隊となれば話が変わる。連携が取れるということはそれだけ知能が高く、戦術がとれることに他ならない。ならば、どうやって彼らの待ち受ける城郭、ひいては櫓門、三の丸、二の丸を越えるというのか。その答えは単純明快であった。

 

 二人のサイボーグ兵が前に出て、担いでいた円筒状の物体の後部を引っ張り出す。そして照準器越しに櫓門の連子窓、大門にそれぞれ狙いを定めた。

 

てぇ(撃て)ーっ!」

 

 榊の掛け声と共に、円筒状の物体──使い捨てロケットランチャーからロケット弾が放たれた。瞬く間に目標へ着弾し、ついで落雷のような爆音が鳴り響く。連子窓は当然ながら粉砕され、大門に至っては扉がすっかりと無くなっていた。側に立っていたはずの鬼たちの姿はなく、それもそのはずでロケット弾の火薬、及びに爆発の際に飛び散った破片によって水路に落ちていたのだ。たとえ無事であっても、致命傷は免れないだろう。

 

 城内から呼子笛(よびこぶえ)や鐘の音が鳴り響く中、第一分隊と第二分隊がまるで一つの生き物のように城郭内へ突入していった。早速とばかりの激しい銃撃音が鳴り響く。グレイ一行は勿論のこと、他の異人課の面々も順次突入していった。

 

 足軽隊が公機制組に襲い掛かるが、陣形もまともに組めておらず、ましてや現代武器である自動小銃や短機関銃に勝てる訳もなく、次々と討ち取られていく。槍を構えた足軽はいとも容易く撃ち抜かれ、上空より矢を降り注ごうとも最先端技術の塊であるサイボーグ兵には効果が無く、虎の子の火縄銃は多少の手傷を与えられるようだが、致命傷とはなり得ていない様子だった。

 もはや虐殺、足軽隊は何一つ公機制組に抗えず、大勢の死傷者を出しながら三の丸を手放した。

 

 続いて二の丸。こちらではしっかりと陣形を組んだ足軽隊が対抗をしてきた。さしもの現代日本が誇る人間兵器だろうと数の暴力には適わないようで、防戦一方となる。しかし、両者には技術的格差があり過ぎた。即座に陣地を構築したサイボーグ兵の一部が、背負っていた馬鹿でかい重機関銃を設置し、乱射し始めたのだ。電動ノコギリを思わせる甲高い射撃音が断続的に鳴り響き、陣形を組んでいた足軽隊を薙ぎ払う。

 たったの数十秒で陣形は崩壊し、それに伴って重機関銃の銃身が真っ赤に染まった。数える程度の動作で予備の銃身へと入れ替えたサイボーグ兵は再び銃を乱射し始め、銃弾を雨あられの如く、無慈悲にも降り注ぎ続ける。

 足軽隊は勿論のこと、徒歩(かち)武者なども皆等しく体をバラバラにされ、文字通り死体の山が築き上げられた。それは五分以上も続き、やがて足軽隊は一人残らず駆逐されたのだった。

 

「もうあの部隊だけでよくないか?」グレイは訝しんだ。「ここは俺たちで防衛しとけばいいのでは」

「グレイ、気にしたら負けよ」レアが諦めたように言った。「予測が正しければ、援軍──後詰(ごづ)めが駆けつけてくるもの。もしも軍隊が相手となれば、こちらの分が悪い。私もグレイの意見に同意するところではあるけれど、私たちではここを防衛することは叶わない可能性が高いわ」

「困ったもんだぜ……」

 

 これが最善なことは分かる。城内ならば少数精鋭の冒険者でも活躍できるだろうし、他の公機制の部隊は城下町で防衛戦を展開しているため、これ以上の援軍は要請できない。つまるところ、動ける異人課が天守を目指すことは何一つ間違っておらず、なんなら理に適っている作戦なのだが、ちょっと腑に落ちねえな、とグレイは思わざるを得なかった。

 何はともあれ、小天守の入り口まで辿り着いた異人課の面々は、榊分隊長より「ご武運を」と告げられると、中へ突入した。

 

 続々とやってくる鬼たちは足軽や武者姿であり、絶対に先へは行かせないとばかりに猛攻撃を仕掛けてきた。しかし、異人一課のアレク、シェリー、冬川トウジと、異人三課のゾネ、ランサ、イオ、夏目フミのおかげで楽々と突破し、やがて天守へと繋がる通路に迫る。

 弓を射掛けるための穴──狭間(さま)からは朝日が差し込んできており、少し覗いてみると公機制組が防衛陣地を築いて激しい戦闘を繰り広げていた。(小天守と天守は横並びである。)

 猩々、ラミアの他に、グレイの出会っていない魔物──セントール、河童、天狗などが連合軍となって押し寄せて来ていたのだ。その数は大地を埋め尽くすほどに膨大で、遥か遠い城下町でも巨大な爆発が家屋を吹き飛ばし、砲火による硝煙が至るところで上がっていた。明らかにダンジョンが意思を持って妨害しに来ている。下手をしたら、大損害は免れないのは確実だ。

 ──早く片をつけなきゃ、俺たちもヤバいぜ。

 グレイはより一層気を引き締めると、天守へと走った。

 

 事前情報によれば、天守は地上四階建ての、見るものを圧倒するような巨大建築物である。しかし、実態は異なっていた。内部の空間が歪められ、道場を思わせるだだっ広い空間があり、その最奥に階段があるだけだったのだ。

 たった一人の侍がいた。ボロ切れ同然の着物に武者袴、手には血濡れの大太刀。乾いた血のようにどす黒い赤肌からは曲がりくねった歪な角が生えており、瞳がこちらをぼんやりと見つめていた。

 

 冬川トウジが銀星を撃った。だが、弾丸は身体を突き抜けていく。続けてルークが矢を射り、エルウィンが魔法を放つが、これもまた身体を突き抜けていった。

 

「面倒くさそうだねぇ──」エルウィンが呟く。「ここは僕たち異人二課が引き受けよう。君たちは先に行っておくれよ」

 

 肩をすくめるエルウィンの隣からシルヴィが駆け出し、やがて侍と激しい剣戟を交わし始めた。エルウィンは第五位階召喚術魔法、〈秘術の門(アーケイン・ゲート)〉をその場に召喚して階段前に繋げる。そして、「さあ、行きたまえよ」と言って、グレイたちを促した。

 先を託された面々は異人二課に声援を送ると、〈秘術の門(アーケイン・ゲート)〉を潜って階段を駆け上がっていった。

 

 幾本もの柱が等間隔に並んた室内は、集団戦闘には向いていないことだろう。しかし、数え切れないほどの忍者装束に身を包んだ鬼たちが待ち構えていたのだ。

 イオが前に出てデミヒューマン語で祈りを捧げると、魔法を唱える。それは第五位階力術(りきじゅつ)魔法、〈太陽光線(サン・ビーム)〉であった。

 

「くらえーっ‼」

 

 全身から眩い陽の光を放つイオが両手を鬼たちに向けて薙ぎ払うと、手のひらから放たれた太陽光線が柱を枯れ枝のように薙ぎ倒し、全てを光に包み込んで焼き尽くしていく。悲鳴を上げる鬼たちはジュウッ!と小気味良い音を立てながら、焼死体へと変わり果てていった。

 多くの鬼を討ち取れたが、以前として敵は健在だった。次々とイオへ殺到するが、そこへ割って入ったのがゾネとランサである。

 

「ここは私たちが受け持とう」

 

 薙剣(グレイブ)が鮮血に汚れていき、それは片鎌槍も同様だ。ランサが「すぐに追いつく!」と声を上げて道を切り拓く中、グレイたちは頷き合い、感謝を告げて足早に駆け抜けた。

 

 最上階まで、残り一階。そんな時に限って足が止まった。畳張りの、侘び寂びを覚える室内には一体の鬼がいた。見上げるほどの体躯に、金砕棒と虎柄のパンツという潔いスタイル。蛮族然とした容貌は顔にも現れており、ザンバラ髪に伸び放題の髭が印象的であった。

 こちらが行動を起こす間もなく鬼が雄叫びを上げ、全速力で突進をしてきた。すかさず前に出たのは、アレクである。

 丸太のように太い腕が金砕棒を振るい、彫像のように逞しい腕が拳を振るう。両者は派手に激突し、部屋中に響き渡る金属音を鳴り響かせた。

 

「ガハハ! ワシ好みのバカタレじゃあ‼」

 

 渾身の左ストレートを鬼の腹にブチ込んだアレクは、グレイへ振り向いた。

 

「ここはワシらが引き受ける! 先へ行けい、超親友(ブラザー)!」

「おうよ! 任せたぜ、超親友(ブラザー)!」

 

 ニカッと笑ったアレクに、グレイは「にしし!」と笑い返すと、最後の階段を駆け上がるのだった。

 

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