異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。   作:卍錆色アモン卍

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3旅立ち

 

 グレイは困惑する。今、目の前の人物がアースガルドの冒険者だと発言したのだ。彼女は、アースガルドのアの字も知らないような少女であるというのに。

 

「アイ、どうして俺たちをアースガルドの冒険者だと思ったんだ?」

「え? だって、そう見えるじゃないですか……?」

「質問を変えようか。どこでアースガルドを知ったんだ」

「わ、私失礼なことを言いました? ごめんなさい……」

「グレイ! ちょっとあんたは黙ってなさいよ⁉ ごめんね、アイちゃん。私たちはただ知りたいだけなのよ、教えてくれる?」

 

 レアに鉄兜をはたかれたグレイは、意気消沈した。彼は、ただ質問をしただけなのに、まるで化物扱いじゃないか……と嘆き、悲しんだのだ。

 

「その、巷で流行ってるゲームがあるじゃないですか? そのコスプレだと思ったんです」

「そのゲーム?ってのは……?」

「『アースガルド』っていう名前のVRMMOですよ」

 

 レアはゲームという単語に困惑し、グレイはゲームのタイトル名に困惑した。グレイは、もしや自分たちはゲームの住人だったのかと勘ぐるが、即座に否定する。なぜなら、グレイたちの住むアースガルドは間違いなく一つの世界であり、現実に違いなかったからだ。

 

「シズ、お前が頼りだ……! 俺たちに知恵を授けてくれ!」

「今調べました。どうやら、『アースガルド』というゲームは数年前にサービスを開始しまして、今もなお大人気な国民的ゲームのようですね。また、グレイの気になっている私たちとの関連性ですが、まだ仮説の域ではありますが、私はある予想を立てました」

「ぜひ、聞かせてくれ」

「『アースガルド』の開発責任者の思想や発言を調べたところ、彼が私たちの住むアースガルドに詳しいことが分かったんです。そこから推測するに、開発責任者はアースガルドからの転生者ではないかと」

「なにぃ⁉ 転生者だとぉ⁉」

 

 驚愕したグレイだったが、自身もシズも転生者である。そのため、シズの予想の可能性はゼロではなく、限りなく高いと結論づけた。

 

「なんだか置いてけぼりね、私たち」

「話題についていけないと辛いよねぇ」

 

 そして、お冷をのんびりと嗜むレアとルークに、グレイはあの手この手でゲームについて説明をしたのだ。しかし、彼自身も仮想現実なる大規模多人数同時参加型オンラインゲームを理解しておらず、とりあえず、夢の中にもう一つの世界があって、そこで世界中の人たちと遊べると説明をする。

 そんな努力の甲斐もあって、彼らから理解を得られる、なんてことはなく、当然のように首を傾げられた。

 

「よく分からないけど、凄いのね」

「へえ、凄いね」

「駄目だ、凄いしか感想が貰えない……!」

「無理に理解しなくともいいですよ、私たちが関わることはなさそうですし。それよりもどうしましょうか。私たちの目標はアースガルドへ帰還することですが、皆目見当もつきません」

 

 うむむ、とシズが悩んでいると、花野アイが不思議そうな表情で質問をしてきた。

 

「あの、レアさんたちはコスプレじゃないんですか?」

「コスプレじゃないわよ? 私たちは違う世界から転移してきたの」

「それにしては、シズさんとグレイさんは現代知識を持ってますよね?」

「二人は転生者だからよ」

「は、はあ。つまり、レアさんたちは『アースガルド』じゃなくて、アースガルドという別の世界から転移してきた転生者一行ってことですか?」

「まあ、そうなるわね。私とルークは転生者ではないけれど」

「なるほど、ちょっとよく分かんないです」

「安心してちょうだい、私もよく分からないから」

 

 微笑ましいやり取りをする花野アイとレアだが、それを眺めている暇はないのだ。グレイはこれからどうしようかと本気で頭を抱えるが、そこへ新たな人物が現れた。黒髪を長く伸ばした、妙齢の女性である。

 

「あんたら、アースガルドから来たのかい」

「ええ、夢物語だと思うかも知れませんが、私たちは間違いなくその世界からやってきたんです」

「そうかい。まさか、本当に実在するとはね……」

「何かご存知なんですか⁉」

「ああ、知っとるよ」

 

 彼女は疲れたように笑うと、グレイたちと同じ席についた。そして、驚愕する花野アイの隣で、ゆったりと口を開く。

 

「数ヶ月前かね、政府関係者を名乗る人らがやってきたんだ。彼らから伝えられたのは、富士の樹海から見慣れぬ不審人物が出てきたら連絡して欲しいってことさ」

「政府関係者? 政府はアースガルドについて、何らかの情報を得ているということでしょうか」

「さあ。詳しいことは知らないけど、名刺交換もされたことだし、政府の役人なのは本当だと思うよ」

 

 そう言って、妙齢の女性は一枚の名刺を取り出した。それは仰々しい部署名と名前が描かれた一枚のカードであり、素材も見たことがないものだ。

 グレイは観察をしてもよく分からなかったが、シズは軽く触って確かめると、本物ではないかと呟く。

 

「どうしましょうか。もう私たちは政府関係者を頼るしか方法はありませんが」

「政府なんて信じられるのか? 捕まって人体実験は勘弁だぞ」

「なんとなーく、政府とやらが国家運営を担っていることを察したわ」

「レアは凄いね。僕なんて全然さ」

「その、今の政府は信じてもいいと思いますよ?」

 

 シズと意見を交わしていたグレイは、花野アイに目線を送った。すると、彼女がおどおどとしながらも言葉を紡ぐ。

 

「今の総理大臣は信頼できる人ですし、日本が好景気なのもその人のおかげなんです。メディア露出も多い方ですから、国民の大半は現政府を支持してるんですよ。だから、あんまり悪い印象はないかな〜、なんて」

「……シズ!」

「今調べました。現在の総理大臣は、神乃ボーデンというドイツ系日本人のようですね。驚いたことに彼の所属する政党の支持率は非常に高く、独裁と言ってもいい状況です。ですが、アイさんが仰った通り日本は景気に沸いているようでして、国民の不満も限りなく少ないようです」

「なるほど、確かに信用できそうだ」

「グレイ、ここは政府とやらを頼りましょう。少しでも情報が欲しいわ」

「レアに賛成だよ。ここじゃお金も稼げそうにない。のたれ死ぬのは勘弁だね」

 

 レアとルークの意見だけでなく、シズの意見も聞いたグレイは政府を頼ることに決めた。そして、妙齢の女性に頭を下げたのだ。

 

「そこな貴婦人、申し訳ないが、政府関係者に連絡をとってくれないか。俺たちは彼らを頼りたい」

「ああ、分かったよ。それと言い忘れてたが、私は森崎凛だ。好きに呼んどくれ」

 

 よっこらしょと呟いた森崎凛と名乗る女性は、カウンターの方へと去っていった。その後ろ姿を見送ったグレイは、やけに年老いた印象を受けるなと疑問を浮かべる。

 そんな彼の疑問を見抜いたのか、花野アイが苦笑をしながらも、グレイに理由を教えてくれた。

 

「叔母さんは若作りをしてるんですよ。だけど、もう五十歳は超えてます」

「ご、五十歳は超えてる⁉ どう見ても二十代か三十代だったぞ⁉」

「ええ? じゃあアイちゃんはいくつなの?」

「私は十六歳ですよ? ちなみに、私のお母さんは五十五歳です」

「本当かい? だとしたら、少し……いや、何でもないよ」

「どうやら、平均寿命が少し伸びてるようですね」

 

 いやいやいや、少しどころじゃねえだろ⁉とグレイは思ったが、レアとルークも驚愕していたため、二人に同調をした。

 

「何よ、もしかして日本人ってエルフの血が流れてるの?」

「そうとしか思えないよねぇ」

「俺の知ってる世界じゃない……」

「まあまあ、お金さえあれば寿命を伸ばせるんですよ。そういう認識をしておいてください」

 

 信じられないような目でシズを見つめたグレイたちは、政府関係者がくるまで、彼女たちと会話をすることにした。

 

 

 

 やがて、半刻ほどが経った頃。花野アイを腕にぶら下げて遊んでいたグレイは、己の超感覚でもってして、数台の自動車が店の前へ停車したことに気づいた。

 

「何奴……!」

「政府関係者じゃないかしら?」

 

 そっと花野アイを降ろし、グレイはグレートソードに手を掛ける。しかし、室内で振り回すにはやや窮屈だと、彼は冷静にも判断を下した。

 

「グレイは何をしてるんですかね……」

「もしかしたら、僕たちに仇なす存在かも知れない。警戒をして損はないと思うよ?」

 

 入り口を見張っていたグレイの前に、ウィーン!という軽快な音と共に、一人の男性が現れた。

 ビシッと決まった真っ黒なスーツを纏う、眼鏡の男性。彼は神経質そうな顔立ちをしており、これまたビシッと決まった七三分けの髪型をしていた。

 そんな彼はキビキビとした動きで店内を見渡すと、スススっとこちらへやってくる。

 

「森崎様、ご連絡ありがとうございます。こちら、ささやかですがお受け取りください」

「あいよ、ありがとね」

 

 森崎凛が、眼鏡の男性より高級そうな封筒を受け取った。見ただけでは推測しかできないが、僅かな厚みを見る限り、おそらく札束であろう。

 眉をひそめたグレイは、警戒を解かずに眼鏡の男性と向かい合う。

 

「はじめまして。私は公安迷宮対策異人四課の鈴木凪と申します。早速で申し訳ございませんが、ご同行いただけますか?」

「おいおい、説明もなしについていけと? 流石に信用できないな」

 

 グレイは威圧感を与えるようにパンプアップをし、眼前の鈴木凪を()めつけた。すると、彼は眼鏡をくいくいっと上げ下げし、内ポケットより伸縮自在のタブレット端末を取り出す。そして、慣れた手つきで操作をしては、ある一つの動画をグレイたちに見せてきたのだ。

 

『はじめまして、我が同胞よ。私は神乃ボーデン。この国の行政府の長であり、君たちと同じく転生者だ』

 

 そこには、現総理大臣である筋骨隆々の大男が映っていた。

 グレイはシズを隣に並ばせ、真剣な表情で動画を眺める。

 

『私の過去を長々と語りたいところだが、簡潔に言おう。アースガルドの記憶を持った者たちが、数十年前からこの国で生まれ始めた。そして、数ヶ月前。この国でダンジョンが発生したのだ。私はアースガルドの現状を把握しているわけじゃないが、あちらも似たような事が起こっていると推測している』

 

「シズ、これは一体どういうことなんだ。現総理大臣が転生者だぞ……!」

「一旦落ち着いてください。まずは彼の話を聞きましょう」

 

『次に、君たちが現れ始めた。この星の記憶を持った、アースガルド人だ。彼らの多くは冒険者であり、皆優秀である。──諸君、これは女神の意思だッ‼ 彼女が、我々に試練を与えてくださったに違いない! さあ、武器を取れ。そして、共に試練を乗り越えようではないかーッ‼』

 

 動画の最後に、握り拳を掲げた総理は迫力満点であった。グレイはかなりの女神信奉者だなと考えると、シズの意見を聞いてみる。

 

「ひとまず、鈴木さんについていきましょう。私たちがこの世界へやってきたのも、何か理由があるのかも知れません」

「そうだな」

 

 レアとルークの意見も聞いた後、グレイたちは店を後にした。

 

 

 

 店の前には、三台の自動車が停車をしていた。先頭車両はいかにも早そうなスーパーカーであり、その後続には護送車にも似た車両が続く。そして、最後尾には背の高いピックアップトラックが止まっていた。なお、三台ともが黒光りをしており、何やら鎧を思わせる装甲を纏っている。

 

「なかなか物騒──ちょっと待て? 最後尾の車には何積んでんだ?」

 

 グレイが見つめる先には、ピックアップトラックの荷台があった。だが、そこには巨大な砲身を二本生やした謎の兵器が搭載をされていたのだ。

 明らかに武装の類であり、グレイは未来の日本に戦慄する。続けて、もしやここは世紀末なんじゃないかと恐れ慄いた。

 

 そんなことは露知らず、鈴木凪は洗練された動きでグレイたちを案内した。そして、彼らが辿り着いたのは装甲を纏ったバスである。

 

「どうぞ、お乗りください」

「鈴木さん、先ほどは威圧して申し訳ない」

「いえ、私の努力不足が招いた結果ですから。誠に申し訳ございません」

「いやいや、謝るのは俺の方ですよ。本当に申し訳ない」

「いえいえいえ、私の落ち度ですから。誠に申し訳ございません」

「いやいやいやいや、俺の」

「いいから早く乗りなさいよ⁉」

 

 レアに叱られたグレイは、鈴木凪と小さく笑い合った。そして、仲良く乗車をする。その様子を見ていたルークは吹き出し、レアとシズは馬鹿を見るような目で見つめてきていた。

 

「どうした? 早く乗れよ?」

「はあ、世界が違っても男って似るのね……」

 

 そんなことを呟いたレアの手を取り、グレイはレアと共に着席をする。その後ろには、ルークとシズが着席をした。その時、グレイたちは外から声を掛けられたのだ。

 

「グレイさーん! レアさーん! ルークさーん! シズさーん! また会いましょーー‼」

「フフ、アイちゃんが手を振ってるわよ」

「そうだな。──ああ、また会おう! この出会いに感謝を!」

「アイちゃん! また会うのを楽しみにしてるわ!」

「アイちゃん、森崎さん、じゃあね!」

「大変お世話になりました! 今度はお土産を持っていきますね!」

 

 元気いっぱいに手を振る花野アイと、小さいながらも手を振ってくれる森崎凛。短い間であったが、グレイたちは彼女たちと親睦を深め、友人となった。次会える日がいつになるかは分からないが、グレイたちは必ず会いに行こうと心に決めたのだ。

 

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