異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。 作:卍錆色アモン卍
ゴトゴトと揺れる車内にて、グレイは外の景色を眺めていた。
彼の視界に映るのは長閑な田舎町であり、時折見かける住民たちが、こちらを物珍しそうに見ていることに気づく。そのことを鈴木凪に問えば、これらの車両は公安の所有する特殊車両にあたるため、物珍しいのだろうと教えられた。
「先頭車両はF1と言いまして、我が国が誇る高機動特型警備車です。そして、今乗っているのが遊撃車ですね。最後尾のトラックは、重武装特型警備車となります」
「なんか強そうな響きだな」
「実際に強いですよ。F1はああ見えて沢山の武装を積んでおりまして、オンロードもオフロードもこなせるので諸外国から高い評価を受けています」
「でも、お高いんでしょう?」
「いえいえ安心なさってください。一台あたり一億円と格安ですから」
「安〜い!」
「なんのやり取りよそれ」
レアに飽きられるグレイだったが、彼女が外の景色に興味を示していることには気づいていた。そのため、グレイもレアと同様に外を眺めることにしたのだ。
「何か面白いものは見つけたか?」
「そうね、街中に柱が立ってるのは何でなのかしら?」
「それは電柱だな。分かりやすく言うと、魔力を供給する線を架線している柱だ」
「へえ、じゃあどの家にも魔力が流れてるのね。凄い画期的だわ」
電柱に関心を示したレアをグレイは微笑ましく思うが、彼が生まれた時代には既に電柱は存在していた。また、そこから一〇〇年ほど前から電柱はあるだろうとグレイは考え、おおよそ四〇〇年前の技術だろうかと結論を出す。その時、シズが口を開いた。
「鈴木さん、先ほど所属する課を仰ってましたが、ダンジョンに関係する部署なんですか?」
「ええ、そうです。公安迷宮対策異人四課。長いので迷対異課とでも、異人四課とでもお好きに呼んでください。それで、グレイさん方は異人四課に所属することになりました。あなた方の他には私、鈴木凪と、今は居りませんが佐倉ハルコが所属しています」
「なるほど、ご親切にありがとうございます」
「お気になさらず。……せっかくですし、これからの予定もお話しておきましょうか」
自己紹介はとっくに済ませたという話はさておき、鈴木凪より今後の予定が教えられた。
現在時刻は午前十一時頃であり、今から一時間半後にネオ東京へ到着。そこで昼食を食べ、今度は空を経由して大水上山へと飛び、迷宮対策課本部へ向かうというのだ。
それなりにハードスケジュールではあるが、グレイたちはただついていくだけなので、そこまで負担ではないだろう。しかし、グレイにはとある不満があった。
「観光はできそうにないな」
「そうね。せっかく来たんだから、ちょっとは街を回りたいわよね」
「まあ、まずは指示に従おうよ。いずれ休暇を取ればいいんだしさ」
「気を抜き過ぎじゃありません? 私たち、アースガルドに帰れるか分からないんですよ?」
「女神様の試練なのだとしたら、きっと帰れるさ。なんたって、女神様の試練だからな」
「なんですか、その頭の悪い言い回しは……」
シズにため息をつかれたグレイであったが、彼は彼なりに考えているのだ。
この世界に発生したダンジョンは、どんな性質を持っているのか。他の転移者たちは、どれくらい集まっているのか。現地人である日本人は、どのようにしてダンジョンを攻略しているのか。
グレイには様々な疑問が浮かんでいたが、いずれ分かることだと自身を納得させていた。
おおよそ一時間後、グレイたちのいる車列は高速道路を走っていた。鈴木凪によれば、ここは山梨県上ノ原市に位置する、中央自動車道とのことだ。
けたたましいサイレン音を鳴り響かせ、多くの自動車をぶち抜いていく。明らかに速度超過をしているとしか、グレイは思えない。また、彼らが走っているのは高速道路の端にある路側帯であり、すぐ真横のフェンスには『緊急車両が通過します。ご注意ください。』と大きな文字が流れていた。
「速度いくつだよ。飛ばし過ぎじゃないか?」
「大体二百キロですね。ですがご安心ください、この車両と高速道路には最新の急制動システムが搭載されていますので、もしもの際にも対応しています」
「かも知れない運転を知らんのか……⁉」
「また、路側帯を許可なく走行した違反者には重税が課されますので、よほどのことがない限り事故は発生いたしません」
「マネー・イズ・パワー!」
どうやら、日本は監視社会になっているようだ。その証拠に、一定間隔にオービスらしきものが設置されては、時折大型ドローンがパトロールをしている。
「日本って、犯罪者に厳しそうな国ね」
「ええ、実際に厳しいですよ。犯罪を犯せば犯すほど重税が課され、もしも支払えない場合は、即座に矯正局の管理する収容所で教育を施されます。また、彼らは一律にして下級国民へと成り下がるため、その後の生活は苦しいものとなるでしょう」
「びっくりするほどユートピア!」
ただの生き地獄じゃねえかとグレイは思ったが、それで国が平和になるなら良いのか?とも思った。何はともあれ、花野アイのような少女が平穏に暮らせるのなら、そこは良い国であろうと彼は思い至ったのだ。
天高く聳える摩天楼が幾重にも連なり、その間を謎の物体が魚群のように遊泳をしている。その様はまさしく未来都市であり、道行く人々も奇抜な格好であった。
きらびやかな街中を物騒な車列が通過をするため、多くの人々がこちらを物珍しそうに見つめていた。また、彼らの中にはこちらに向かって、手のひらを見せつける者たちがいた。グレイはそのことを疑問に思い、口にする。
「あれは何をしてるんだ?」
「調べものをしています。手を上げるなどの動作をすると、脳に接続されたチップが所有者の疑問を感知し、インターネットに接続。そして、瞬時に情報を共有してくれるんです」
「なるほど。こいつ、直接脳内にって奴か。しかし、恐ろしい技術だな……」
「未成年はチップの所有を認められておりませんし、抵抗を感じる方はスマートフォンがありますから、そこまで普及はしていませんね」
「ちなみに、鈴木さんは?」
「常に最新チップを買い揃えています」
「ユーザーだった!」
未来技術に驚きつつも、やがてグレイたちは巨大なビルへと辿り着いた。そこは無骨な印象を受ける高層ビルであり、玄関口には見慣れぬ不審人物たちが警備に当たっている。
グレイたちは遊撃車より降車し、鈴木凪の案内の元、彼らに近づいた。だが、グレイは彼らの風貌に、警戒心を抱くこととなった。
はち切れんばかりの筋肉が浮き出たボディースーツに、のっぺりとしたヘルメットを被った黒ずくめの男たち。彼らは一見すると全身タイツの変態だが、胸や腰にゴツいベルトを巻き、そこには弾倉らしき物体を吊り下げていた。また、手にはコンパクトサイズの小銃を抱えており、威圧を振りまくかのように周囲を睥睨している。
グレイの前世からは、考えられないほどの危険人物だ。間違いなく、カタギではないだろう。
グレイは冒険者で培った観察眼でもってして、彼らの強さを測ろうとした。
〔身分証の提示をお願いします〕
「どうぞ」
〔所属部署と名前を教えてもらえますか〕
「迷宮対策異人四課の鈴木凪です」
〔要件はなんでしょうか〕
「異人四名を保護しましたので、これから昼食の後、攻撃ヘリにて迷宮対策課本部へと向かいます」
〔……事前連絡と相違無いようですね。お時間をいただきありがとうございました。どうぞ、お通りください〕
「ありがとうございます」
なるほど、これは強いな……。グレイは鈴木凪と小難しい会話を交わした不審人物を眺め、そう判断した。しかし、流石にそれだけでは彼らの力量を測れないため、グレイは不審人物の前へ立つと、にこりと微笑んだ。
「あなたは中々に強そうだ。ぜひ、俺と握手をしてくれませんか」
〔……ええ、構いませんよ〕
少し躊躇った様子の不審人物だったが、彼はグレイと同程度には体格に優れている。そのため、彼は意外と乗り気なようだった。
大きく胸を張ったグレイは、目の前の人物と握手を交わした。そして、徐々に力を込めていく。だが、それは相手も同様だ。
「っなるほどォ……! ですが、俺はまだフルパワーではありませんよ?」
〔ははは、勿論私もですよッ……!〕
凄みを利かせるグレイに対抗し、目の前の人物がバイザーを掻き上げた。すると、そこにはやけに色白な男性の顔があり、彼もまたグレイと同様に、獰猛な笑みを浮かべていたのだ。
やがて、両者は同じタイミングで力を抜き、大きく息を整える。そして、互いに称え合う。
「いやはや、まさか俺と渡り合える人物がいるとは思いませんでした」
「いえいえ、こちらこそ貴重な体験をありがとうございます。まさか、私どもと張り合える人間がいるとは思ってもみませんでしたから」
グレイは終始和やかに会話を楽しむと、彼と別れの言葉を交わした。さようならではなく、また会おう。それが彼らの交わした言葉である。
「この時間はなんだったのよ?」
「グレイなりのコミュニケーションさ」
「マッスルコミュニケーション……!」
後ろからコソコソと話し声が聞こえる中、グレイは深く考え込む。
先ほどの彼はフルパワーではなかった。それに比べて、自身は八割ほどの力を込めていた。まさか、この俺が負けるとはな……。
グレイは冷徹な瞳で自身の手のひらを見つめると、早く武器を振りてえなと小さく呟いた。だが、ダンジョンには明日にでも入れるだろうと考え、グレイは獰猛な笑みを浮かべてくつくつと笑ったのだ。
建物の中を進んでいったグレイたちは、やがて食堂に辿り着いた。ちょうど昼時ということもあり、食堂は大勢の人たちでごった返している。
そんな中を、鈴木凪が平然とした様子でグレイたちを案内した。
「皆さん、何か食べたいものはありますか」
「大盛りの肉と米だな。俺はちと、代謝が良すぎるんだ」
「せっかくだし、私は日本ならではの料理が食べたいわ」
「僕もレアと同意見だよ」
「私は麺類でお願いします」
スーツ姿の公務員たちが、ひっきりなしにグレイたちの側を通り過ぎていく。そして、グレイたちを見た彼らは、「これが、あの……⁉」やら「ほう、これほどとは……!」と深意に満ちた発言を繰り返していた。
それはさておき、鈴木凪が腕に巻いた端末を操作してしばらく待っていると、端末よりアラームがなった。もう既に昼食は用意されているようで、後は受け取るだけだとか。
グレイたちが半信半疑ながらも受取口へ行くと、そこには美味しそうな料理が並んでいたのだ。
「グレイさんはこちらの特選カルビ丼大盛りセットです。レアさんはこちらの大将おすすめ!まぐろ握りのランチ、ルークさんはこちらの絶品☆海鮮丼、シズさんはこちらの信州蕎麦〝雅〟でございます」
「──素晴らしい、百点だ」
「あら、美しい料理ね」
「ほほう、早く食べたいよ」
「懐かしみの蕎麦……! いいですね!」
各々が料理を手に持ち、空いている席へ座った。なお、グレイたちは武器を背負っているため、わざわざ丸椅子を用意してもらっている。また、彼らの周囲には、心なしか人だかりが出来ていた。
食前の感謝を述べたグレイたちは、早速とばかりに食事にありつく。
グレイは久方ぶりの箸を駆使して、カルビで白米を包み込み、口の中へと運んだ。
「くううっ! 美味すぎて、心がついていけない!」
「何よこれ、すっごい美味しいじゃない!」
「へえ、生魚ってこんな味なんだ。知らなかったな」
「間違っても、そこらで捕まえた魚を生で食べてはいけませんよ。それとルーク、ちょっと分けてください」
「いいよ」
和やかにも食事は進み、グレイは文字通り幸せを噛み締めていた。だが、彼は肉と白米の配分を間違えてしまい、先に白米が尽きてしまったのだ。
「なんということだ……! あっという間に、ご飯切れに追い込まれてしまった」
「あの〜、すみません。こちらをどうぞ!」
その時、見知らぬ女性公務員が、山盛りのご飯をグレイに差し出してきた。彼はそのことに少し驚くが、彼女の厚意を無下にしないためにも、笑みを浮かべて受け取る。
「ありがとう、お嬢さん。この恩は忘れないよ」
「その、あとで記念撮影ってお願いできますか⁉」
「記念撮影? ああ、構わないよ」
「ありがとうございます!」
元気溌剌といった様子の女性公務員は勢い良く頭を下げると、友人と思われる人々と楽しげに会話を始めた。グレイは物珍しいこともあるもんだなと感慨に耽ったが、湯気の立つカルビが冷えないうちに、食事を済ませることにした。
グレートソードをそっと床に突き立て、キメ顔を披露するグレイ。その隣には、メイスとラウンドシールドを持ったレアが自然体で立っている。
「じゃ、撮りまーす! はい、チーズ!」
前方にいた男性公務員より、スマートフォンのフラッシュが焚かれ、グレイたちは間でポージングを決める女性公務員と共にカメラに写った。
「わー! ありがとうございます!」
「どういたしまして」
そして、最後に彼女と握手を交わし、お別れをする。その後、グレイは「チーズってなに……?」と困惑するレアを伴って、ルークとシズ、鈴木凪と合流をした。
「時間を取ってしまって申し訳ない」
「いえ、構いませんよ。ですが、いつか私とも写真を撮ってください。SNSに上げたいので」
「鈴木さんは意外とミーハーなんだな……」
「万バズを目指してます」
彼の人となりを少し知れたところで、グレイたちは移動を開始した。