異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。 作:卍錆色アモン卍
やけに乗り心地の良いエレベーターを経て、グレイたちはビルの屋上へとやってきた。そこから見える景色は絶景と呼ぶに相応しく、天高く聳える摩天楼が間近で確認できる。地上からはよく分からなかった謎の飛行物体は小型ドローンなようで、鈴木凪曰く、公安の警備ドローンとのことだった。
都市風に吹かれるグレイたちは屋上を歩き、やがてヘリポートへと上った。そして、ツインローターが特徴的なヘリコプターを視界に収めたのだ。
黒光りをする機体は明らかに兵装と思われる物体を装着しており、グレイは思わず険しい表情で見つめてしまう。だが、その時、鈴木凪がいかつ過ぎるドアガンを慣れた手つきで折りたたむと、次のように言ってきた。
「こちらからお乗りできます。足元にご注意ください」
彼が触っていたのはワイバーンでもミンチにできそうなガトリングガンであり、グレイはなぜこんな機関砲を搭載したヘリが普通に出てくるんだと疑問を覚える。しかし、安易に聞くのもちょっと怖いなとグレイは感じたため、鈴木凪の指示に従い、無言でヘリに搭乗をした。
「皆さん、こちらのヘッドセットを装着していただけますか」
四苦八苦をしながらシートベルトを付けたグレイたちは、鈴木凪より手渡されたヘッドセットを、これまた四苦八苦をしながら頭に付けた。すると、ヘリのツインローターが回転しだし、徐々に爆音を奏で始める。
やがて、操縦士の『離陸いたします』という声と共に、グレイたちは空の旅へといざなわれた。
すごい景色。それに、私たち空を飛んでるわ。そうレアに声を掛けられたグレイは、彼女に返答をしながらも、一寸先の地上を見下ろした。
大地を埋め尽くす、人工物の海。それは波を打つかのように波紋を広げており、中心部に向かうほど、巨大な波しぶきを上げていた。また、僅かながらに見える地上部では、まるで巣を這う蟻のように自動車たちが行き交い、これでもかと緻密に設計された未来都市の全貌が、グレイたちの視界に飛び込んでくる。
グレイはネオ東京の威容に感嘆し、惚れ惚れといった様子で呟いた。
「とんでもないな……」
「これが、街なの……? 一体どれだけの人間が住んでるのよ?」
「なんだか怖いね。僕たちの住む国も、いずれこうなっちゃうのかな」
「ここは日本の首都ですからね。あと、アースガルドがここまで発展するのは何百年と先かも知れません。こう言ってはなんですが、地球とアースガルドの文明レベルは違い過ぎますから」
地球人に畏怖を覚えたグレイたちは、鳥のように空を泳ぐ小型ドローンたちに見送られながら、ネオ東京を後にした。
ネオ東京、彩の国を越え、グレイたちは群馬県のはるか上空を飛んでいた。なお、彩の国とは元埼玉県のようで、過去に様々な出来事があって独自の自治権を獲得した、いわば州のようなものだとか。
グレイは詳しく聞くのが怖かったので、彩の国について言及はしなかった。しかし、シズより血で血を洗う闘争がかつてあったと伝えられてしまったのだ。
「人類史は争いの歴史……!」
「争いがあったからこそ、今の日本があるんじゃないですか?」
「何たる皮肉。我、世界平和を希うもののふなり」
「口調どうしたんですか」
他愛のない会話を楽しむグレイたちは、やがて雄大な山々が眼下に広がっていることに気づく。どうやら、今はダンジョンへと続いている利根川に沿って飛行をしているようで、あと数分で迷宮対策課本部へ到着するとのことだった。
切り立った岩壁に築かれた、巨大な格納庫然とした迷宮対策課本部。雄大な大自然をぶち壊すかのように存在するそれは、グレイたちの搭乗しているヘリが近づくと、けたたましいサイレン音を鳴り響かせながら、巨大な扉を開閉させた。
顔を覗かせるのは綺麗に整列されたヘリコプターの群れであり、その他には見慣れぬ不審人物こと、武装を施した全身タイツの変態たちが慌ただしくしている。
「レア、見ろ! こんなところに沢山生息してるぞ!」
「グレイ、失礼極まるわよ」
誘導員の指示に従ってヘリポートへ着陸したグレイたちは、小一時間ぶりに地上へ舞い降りた。続けて、辺りを見渡す。
基地内部を行き来する人々はもれなく小銃や拳銃を携行しており、中にはスーツ姿の者もいるが、大半が筋肉モリモリマッチョマンの変態であった。
さしものグレイであっても、なぜこれほどまでにマッチョが溢れているのかと疑問に思い、鈴木凪へ問いかける。
「鈴木さん、彼らは何者なんだ?」
「公安機動制圧隊所属のサイボーグ兵ですよ」
「サ、サイボーグ兵?」
「そうです。身体の殆どを人工的に製造された生体部品に入れ替えた、我が国が誇る人間兵器です」
「人の心とかないんか?」
彼曰く、人工筋肉、人工臓器、人工骨格などの生体部品に身体を置き換えた元人間であり、パーツ総数に応じてレベルワン、レベルツーと階級が上がっていくらしい。また、最高到達点であるレベルファイブに辿り着けた人物はごく僅かで、サイボーグ兵たちは日々レベルファイブを夢見て、生体部品と向き合っているとか。
「そ、そうなんだな。まあ、本人が幸せならオッケーです」
「メンテナンス代は国が受け持ちますし、意外と人気がある職業なんですよ。ですが、ある程度の肉体スペックが要求されますね。その点、グレイさんは良い素体となるでしょう」
「勘弁してよ⁉」
眼鏡をくいくいっと上げ下げした鈴木凪は、それだけ伝えると歩き出した。彼の行き先は迷宮対策課を束ねる課長の元であり、グレイたちを彼に紹介するとのことだ。
グレイたちは整列したサイボーグ兵たちや、訓練に勤しむ彼らの横を通り過ぎ、『迷対課本部』と書かれた大型テントへ入室をした。
様々な大型機器が押し込まれ、部屋の最奥には巨大なモニターが所狭しと敷き詰められたテント内部。そこには多くの女性公務員たちがパソコンらしきものと向かい合い、ヘッドセット越しに何らかのやり取りをしていた。
グレイたちは興味深く観察をしながら歩いていると、やがて一人の男性と対面する。どうやら、彼が課長のようだ。
「阿部課長、異人四名をお連れしました。彼らは迷宮対策異人四課へと配属される予定です」
「鈴木君、ご苦労さん。して、君たちが異人か。私は公安迷宮対策課課長の阿部ヒロシだ。かれこれ十年近くこの役職についていてね、そのおかげで、此度の迷宮騒動の全体指揮を任されている。現目標は、五年以内に迷宮の謎を解明することだ。よろしくね」
「はじめまして。俺は『黄金の剣』のリーダーを務めています、グレイです。こちらは仲間たちのレア、ルーク、シズ。我々もぜひ、あなた方と協力をして、迷宮の謎を解明したいと思っています。こちらこそ、よろしくお願いします」
当たり障りのない挨拶をしたグレイは、軽く頭を下げた。それに続くように、レアたちも頭を下げる。すると、阿部課長が笑い声を上げたのだ。
「ははは、そこまで畏まらなくていいよ。我々は住む世界は違えど、同じ謎を究明する同志だ。共に頑張ろう、グレイ君!」
「ええ、よろしくお願いします……! 阿部課長!」
スーツ越しからでも分かるほどに巨大な大胸筋を膨らませた阿部課長と、グレイは固すぎる握手を交わした。
「じゃあ鈴木君、今後の予定は送信しておくからね」
「承知いたしました、ありがとうございます。では、これにて失礼いたします」
キビキビとした動きを見せる鈴木凪の後を追い、グレイたちはテントから退出をした。
次にグレイたちがやってきたのは、簡易的な宿舎である。
お世辞にもお金が掛かっている印象はなく、ずらりと並んだ室外機や、外付けの階段などが見窄らしい。
しかし、謎の鋼板で覆われた宿舎は新築同様にピカピカであり、グレイたちが案内された四人部屋にはユニットバスが付随をしていた。
「グレイさん方のお部屋は、六号棟の二〇一号室となります。こちらがキーカードです、二枚お渡ししておきますね」
「ありがとう。それにしても、どんだけ山を削ったんだ。宿舎が大量に立ち並んでたぞ?」
「現在、ここには百五十名近い人数が動員されていますからね。それなりに費用が掛かっています」
「一体幾らになるのやら。一般人には想像もつかないな」
軽く世間話を交わしたグレイは、一度鈴木凪と別れることとなった。彼は彼で仕事があるようで、また夕方に来ると伝えられたのだ。
グレイは快く彼を見送ると、置いてあったソファに腰掛けた。
「はあ、急に疲れが出てきたな……」
「そりゃそうよ。遺跡の調査に向かったと思ったら、いつの間にか別の世界にいたんだから。私なんて、まだ実感に乏しいわ」
「いやはや、人生何があるのか分からないものだね」
「流石に世界を跨ぐなんてことは、そうそうないと思いますけどね?」
苦笑を浮かべるシズに同意をしたグレイは、身に付けていた鎧を脱ぐことにした。
鉄兜、ガントレット、ハーフプレートと外していき、鎖帷子やギャンべゾンもまた脱ぎ捨てる。次に、グレートソードと共に背負っていた魔法のリュックより普段着を取り出しては、彼は早着替えをした。
「すげー爽やかな気分だぜ!」
「ちょっと、床に鎧を置かないでよ!」
「シズ、トイレの使い方教えてくれない?」
「ええ、いいですよ」
今から夕方までの時間を自由時間としたため、グレイたちは各々で時間を潰すことにした。なお、グレイはひとまず、レアと共に鎧磨きである。
自慢の愛剣をピカピカに磨き上げ、油を染み込ませた布で刀身を拭き上げたグレイは、満足げに頷いた。そして、今日も美しいねとグレートソードに語りかけ、優しく撫で回す。その時、レアが声を掛けてきた。
「グレイ、ちょっと外を回らないかしら?」
「ああ、いいぞ。ルーク、シズ、俺たちは出かけてくるぞ」
「了解だよ〜」
「キーカードを忘れないようにしてくださいね」
丈の長い上着ことチュニックを身に着け、腰にベルトを巻いたグレイは、村娘然とした姿のレアを伴って玄関口へと向かった。
腰に差した短剣を確認し、革ブーツのつま先で地面を叩く。続けて、グレイはレアの手を取ると、彼女を先導した。
「さあ、行こうか。レア」
「ええ、そうね。グレイ」
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異世界転生したと思ったら、地球に転移した……。なんでやねん⁉ そんなことあんのかよぉ⁉
迷宮対策課本部の端っこで、一人の転生者──ランサは頭を抱えていた。彼はデミヒューマン大陸に存在する国家にて、冒険者として活動をしていたのだが、ひょんなことから地球へ転移してしまったのだ。
「あ、いた。おーいランサ! 飯食おーぜ!」
「さっき食べたじゃん……」
そんな彼は冒険者パーティーを組んでおり、そのうちの一人がランサに声を掛けてきた。
首元で切り揃えられた艶やかな黒髪、よく日に焼けた小麦色の肌、そして、露出度の高い民族的な衣装。
一見すると、彼女は踊り子のような印象を受ける。だが、彼女にはそれ以上に目を惹くものがあった。それは、額より生えた一本の角である。
しかし、これは彼女が特別というわけではなく、ランサを含めたデミヒューマンと呼ばれる種族は皆、生まれつき角が生えているのだ。そのため、ランサも側頭部より、一対の捻れた角が生えている。
「イオ、人様に迷惑掛けてないよな?」
「もう、大丈夫だって! あ、そういえば」
「なんだよ」
「さっき知らないヒューマンがいたな! 新顔だぞ新顔!」
「マジ?」
体育座りをしていたランサは顔を上げ、目を輝かせた。しかし、すぐに顔を伏せる。
「……イオも知ってるだろ。俺たちデミヒューマンは、角付きだの混ざりものだのと蔑称で呼ばれてるんだぜ? 他種族なんて碌なモンじゃないよ」
「でも、地球に来てるのは転生者って奴なんだろ?」
「……そうだけど、他種族じゃん。それに転生者だからって、良い奴とは限らないし」
「さっきモリモリマッチョマンと腕相撲してた!」
「サイボーグ兵な?」
「見に行こーぜ!」
「おい、ちょっと!」
イオに強引にも手を引かれるランサは、無理に彼女を振りほどくことはしなかった。
やがて、開けた一画に人だかりができていることにランサは気づく。どうやら、そこで腕相撲大会が開かれているようだった。
ランサはイオの手を離さぬように、遠目から彼らを観察する。
円を描くように集まっているのは大半が筋骨隆々のサイボーグ兵たちのようだが、ちらリと見えた中心には、中世の村娘を思わせる格好をした茶髪の女性が立っていた。そして、彼女は細身のサイボーグ兵と腕相撲をしており、周囲の歓声を一身に浴びていたのだ。
「確かにヒューマンだな……。それに、見たことない人だ」
「だからそう言ったじゃん!」
むすっとした表情のイオに軽く謝罪をしたランサは、やけに声を張り上げている人物がいることに気づいた。
ランサは少し移動をして、件の人物を探してみる。そして、ランサは見つけたのだ。
「いけるいけるいけるッ‼ 負けるな負けるな負けるなッ‼ お前ならいけるぞレアーーッ‼」
「さっきからうるさいのよ⁉」
レアと呼ばれた人物の真後ろで叫んでいる彼は、体格が非常に優れており、ランサはあれはヤバいと判断する。
その直後、女性は腕相撲で負けてしまい、周囲から健闘を称える声が上がっていた。
「ナイスファイトーッ‼ しゃあっ、次は俺の番だぜ〜ッ‼」
「もう、グレイのせいで集中できなかったじゃない……」
やがて、仇討ちだと息巻いた彼は、細身のサイボーグ兵を秒で吹き飛ばした。周囲からは一瞬のどよめきが起きるが、すぐさま大歓声へと変わる。しかし、そこへ彼以上に体格の優れたサイボーグ兵が現れたのだ。
〔で、出たァ〜〜‼ 公安機動制圧隊第一分隊所属の、『黒鬼』の坂東だァ〜〜ッ‼〕
〔オイオイオイ〕
〔勝つわアイツ〕
これからの展開は非常に熱かったが、ランサはイオを伴って他の場所へ行くことにした。熱血系のノリにこれ以上ついていけなかったためである。
イオは少し残念そうにしていたが、今から向かう先がオフィスコンビニだと知ると、すぐさま上機嫌となる。
「ランサ! どういう風の吹き回しだ?」
「いや、ちょっとプロテインをね……」
男と生まれたからには、誰でも一生のうちに一度は夢見る「地上最強の男」。ランサは、かつての夢を思い出していた。