異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。   作:卍錆色アモン卍

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8冒険者

 

 黄色い中央線の引かれたアスファルトの道が、山に沿うように続いては、等間隔に生えた電柱を引き連れていく。その様はまるで体をくゆらせる蛇であり、この先の田舎町へ狙いをつけるかのように延々と伸びていた。

 

 ブロロロと排気音を撒き散らしながら道路を進むグレイたちは、穏やかな春風に吹かれていた。彼らは荷台より平坦な大地を眺めており、そこには荒れ果てた水田が何処までも広がっている。

 グレイはここで稲作をするのはどうだろうかと考え、周囲を見渡してみた。すると、彼は用水路と思しき物を発見したり、遠くの方にローカル線の鉄道車両と思われる、朽ちた赤色の電車を見つけたのだ。

 

「ふむ、ここは随分と昔の日本のようにも思える。鈴木さんはどう思う?」

〔そうですね。迷対課でもそのような認識を持ってまして、おおよそ西暦1950年から、2050年までの間の日本を真似て創られたのではないかと予想しています〕

「なるほどな……」

 

 グレイは昔を思い出すかのように、遠くの空を見つめた。彼はその時代を生きた人間だったからだ。しかし、過去は過去だとグレイは考えると、レアたちを見やる。

 今を共に生きる仲間たち。前世を懐かしむことは多々あるだろう。しかし、グレイは引きずったりなどはしない。彼らと共に歩むのがグレイという男の人生であり、過去の自分とはもう決別をしたからだ。

 

「さらばだ、かつての俺よ。そしておはよう、今の俺よ!」

「何言ってんのよ?」

 

 怪訝そうな表情を浮かべたレアにグレイは微笑むと、何でもないさと伝えた。

 

 

 

 狭い道路の両端に広がるのは軒を連ねる家屋であり、それらは総じて古さを感じさせる木造住宅であった。また、かつての日本ではありふれていたコンクリートブロックの塀や、丸型の真っ赤なポストが町の中にあり、グレイは思わずといった様子で「ノスタルジア……」と呟く。

 

「シズ、私たちは何をするのかしら?」

「この田舎町へ、大量に流入をしてきたコボルトたちの数を減らすことのようです。よくある生態系の保全ですね」

「大切なことだね。自然と真摯に向き合わなければ、いずれ手痛いしっぺ返しを食らうものさ」

「コボルトか。こいつら、肉が臭いから食えたもんじゃないんだよな……」

  

 コボルトとは、二足歩行をする犬顔の獣だ。現代風に言い表すなら、動物界脊索動物門哺乳網食肉目コボルト科コボルト属コボルト種になるのだろうか。なお、アースガルドの冒険者たちはコボルトを犬に似た魔物としか認識していないため、詳しいことは何も知らない。

 

 ギアを二速に落とした鈴木凪により、グレイたちはゆっくりとした速度で田舎町の中を進んでいく。その時、前方の十字路から、体高八十センチほどの魔物が姿を現した。

 停止標識の横に立つ、赤毛のコボルト。彼奴はこちらを威嚇するように、歯茎を見せて低く唸っていた。そして、がなり立てるように何度も吠え出す。

 

「気をつけてください。情報では三十頭とありますが、誤差があるかも知れません」

「ああ、了解だ。ひとまず俺とレアで壁を張るぞ。シズとルークは荷台で警戒をしていてくれ」

「了解よ」

「任せて」

「分かりました」

 

 荷台から飛び降りたグレイは、レアと共にランクルの前に並び立った。

 その時には既に、コボルトが三頭に増えており、彼らの合唱が静寂に包まれていた田舎町に響き渡る。

 彼らがしているのは、仲間たちを集める行動だろう。しかし、彼らの駆除を目的とするグレイたちからすれば、それは好都合であった。

 

「レア、『魔法の武器』を頼む」

「ええ、分かったわ。〈マジック・ウェポン〉」

 

 グレートソードを引き抜いたグレイは、レアより補助魔法を受けた。

 彼女の唱えた『魔法の武器』とは、武器に火術の力を吹き込む魔法である。それによって、刀身が二メートルにも及ぶグレイの愛剣は炎を纏っては赤熱する。だが、『魔法の武器』には〝精神集中〟という技術が必要であった。

 〝精神集中〟とは、持続させる魔法全般に必要な技術であり、精神を集中させて魔法を維持し続けるというものだ。そのため、術者が意識を失ったり、相手から手痛い反撃を食らい意識が逸れてしまうと、魔法の維持が解けてしまう。また、〝精神集中〟は一つしか維持ができないため、術者は戦場において扱う魔法を吟味する必要があるのだ。

 

 閑話休題、コボルトたちの総数が十を超えてきたあたりで、グレイは突貫した。これ以上コボルトが増えると、処理効率が悪くなると判断したためだ。

 レアを伴ったグレイは、既に十五頭にまで膨れ上がったコボルトたちが、こちらへやってくることに気づく。どうやら、彼らも準備万端なようだ。その証拠に、コボルトたちの目は血走り、これでもかと戦意に満ち満ちている。

 

「レア! 抜けた奴は頼んだぞ!」

「ええ、任せて頂戴! くれぐれも気をつけるのよ!」

「ハハハハ! 当然だ!」

 

 彼我の距離が数メートルにも迫り、あと数秒と経たずに命の奪い合いが始まるだろう。だが、グレイは獰猛な笑みを浮かべて笑っていた。なぜなら、彼は生粋の冒険者だからだ。

 

「シャオラァァッ‼」

 

 馬鹿でかい刀身が唸りを上げて薙ぎ払われ、四頭にも及ぶコボルトたちが臓物をぶち撒けながらも両断される。無念にも、彼らは悲鳴さえ上げれずに天に召され、壁のシミとなっていた。

 続けて、グレートソードを翻して大上段に構えたグレイは、裂帛の声と共にグレートソードを振り下ろした。それにより、二頭のコボルトたちが叩き潰されては、見るも無残なミンチ肉と化す。

 グレイは周囲に漂う濃厚な死の匂いと、『魔法の武器』によって焼け焦げた肉の香りに鼻を侵されると、恍惚とした表情を浮かべた。そして、彼は堪らず叫んだのだ。

 

「あぁ〜たまらねえぜぇ‼ もう気が狂うほど愛おしいぜぇ‼」

「いい加減その癖やめなさいよ……」

 

 メイスを振り下ろし、コボルトの頭蓋を砕くレアから苦言を呈されるが、グレイは頬を引きつらせるほどに満面の笑みを浮かべると、グレートソードを強く握り込んだ。

 

 か細い悲鳴を上げ、次々と死んでいくコボルトたち。彼らだって、ただ生きているだけなのだろう。だが、それはグレイたちも同様なのだ。生物である以上、他者の命を奪わなければ生きてはいけない。

 ただ享受するだけの人生もいいだろう。しかし、真の人間となりたければ、現実から目を背けずに受け入れるべきだ。他者の命を踏み躙り、己の糧とする真実を。

 もしもそれが受け入れられないのであれば、そのまま淘汰されればいいだけのこと。それが、自然界というものなのだから。

 

 やがて時が経つと、田舎町に住み着いていたとされるコボルトたちが勢揃いをしていた。さしものグレイであっても、一人で二十頭近いコボルトたちを倒すことなど出来ず、彼らによって嬲り殺しにされるのがオチだろう。しかし、グレイは一人ではない。彼には信頼できる仲間たちがいるのだ。

 

「〈ファイア・ボール〉」

 

 ランクルの荷台より、轟々と燃え盛る火球が放たれた。それはシズが唱えた『火球』と呼ばれる魔法であり、その火球は重力を無視するかのような軌道を描いたかと思えば、密集をしていたコボルトたちに着弾をする。そして、次の瞬間。周囲に猛烈な勢いで爆炎を撒き散らし、数多のコボルトたちを消し炭にしたのだ。

 

 ゴウッという熱風が道路に吹き荒び、グレイたちの頬を撫でる。前方にはシズの魔法によって半壊をしたコボルトたちの群れがいるが、既に彼らは逃げの態勢をとっていた。しかし、そこへルークと鈴木凪の追撃が加わり、やがてコボルトたちは一頭残らず駆逐をされたのだ。

 

 

 

 コボルトたちの死体を一か所に集め、シズが『油』を、レアが『聖なる炎』を唱えて彼らを供養した。グレイたちの目前では、光り輝く神聖なる炎によって、コボルトたちが浄化をされていく。その時、鈴木凪が口を開いた。

 

〔……初めて、魔法を見ました。無から有限を生み出せるなんて、本当に不可思議な力ですね〕

「僕としては、鈴木さんの武器の方が不可思議だけどね?」

〔ああ、これですか〕

 

 鈴木凪がホルスターから抜いたのは、なんとも未来的な姿をした拳銃だ。

 鈴木凪は弾倉を下部から引き抜くと、拳銃上部をスライドさせて、薬室内に入っていた拳銃弾を取り出す。

 

〔こちらの拳銃は三五七マグナム弾を使用する自動拳銃です。無煙火薬を使用する銃火器、とでも言いましょうか〕

「ほお、こいつがチャカって奴か。愛称はなんだ、黒星か?」

〔惜しいですね、白星(しろぼし)です〕

「謎に惜しかった⁉」

〔白星は低ボア軸設計を採用してまして、そのおかげで、射撃時の反作用により発生するマズルジャンプを抑制し〕

「鈴木さんごめん! 誰も理解できねえ⁉」

〔ああ、すみません〕

 

 静かに話を聞いていたルークは頭に疑問符を浮かべており、それはグレイも同様であった。なお、グレイはルークに、銃とは鉛の礫を目にも止まらぬ速さで発射をする、クロスボウのような物だと教えた。

 

「こんなに小さいのに、クロスボウ並みの威力……。それに、弓ほど修練を積まなくても扱えそうな雰囲気があるね?」

〔私は弓を扱ったことがないので単純比較はできませんが、白星はかなり扱いやすい部類だと思いますよ。まあ、私の場合は腕部に装着した、サイバネティクスギアにかなり補助をされていますが〕

「触ってみてもいいかな?」

〔ええ、どうぞ〕

 

 何度か安全確認をした鈴木凪がルークに白星を渡すと、簡単な使い方などをレクチャーし始めた。それを横目に眺めるグレイは、普通にスルーをされたサイバネティクスギアとやらをじっと観察する。

 一見すると、未来的なガントレットといった見かけだが、サイバネティクスという名の関する通り、機械と生物とを繋ぎ合わせる代物なのだろう。また、先ほど鈴木凪が話していた補助機能とやらが搭載をされているなら、彼の神経と接続されていてもおかしくはない。もしくは、彼の微細な筋肉の動きを感知しているのか。いずれにしても、グレイからすればオーバーテクノロジーである。

 

「さっきまでファンタジーだったじゃんよ……」

「グレイ、コボルトの処理が終わったわよ」

「ああ、ありがとう」

 グレイは、レアとシズに感謝を述べた。

「ルークは何をしてるんです?」

「鈴木さんに銃の使い方を教わってるところだ」

「もう、あの人は何をしてるんですか……」

 

 はあ、とため息をついたシズは、ルークが心配なのか彼の方へと歩いていった。そして、この場にはグレイとレアの二人だけが残される。

 

「もう昼時だな。一旦帰還するんだろうか?」

「らしいわよ。さっきそうシズが言ってたわ」

 

 グレイはそうかとレアに返事を返すと、心地良い春風に身を任せて、淡い空を見上げた。

 ダンジョンの空ではあるが、現実と同じような春空が広がっている。おそらく、現在の日本の時間帯や天候がダンジョン内に反映をされているのだろう。おかげで、閉鎖的な空間とは微塵も感じない。

 

「世界が違っても、空は似るもんなんだな」

「ええ、そうね」

 

 他愛のない会話をレアと楽しんだグレイは、やがてダンジョンから帰還をした。

 

 

 

 ⚔

 

 

 

 午後一時頃。昼食を食べ終えたランサは、もはや日常であった崩壊都市での調査を進めていた。

 遠方に山々がうっすらと浮かぶ、なだらかな草原をランサはのんびりと歩く。そんな彼の前方には黒髪の少女であるイオがおり、その隣には彼の所属する冒険者パーティー、『炎の槍』のリーダーである女性が歩いていた。

 風にたなびく、緩やかなプラチナブロンドの髪。健康的でかつ、きめ細やかな褐色の肌。そして、もはや下着と見紛うほどに布面積が小さな防具と、惜しげもなく晒される、彼女の鍛え抜かれた鋼の肉体。

 彼女の名はゾネといい、肩には巨大な槍を担いでいた。その時、ゾネがこちらへ振り向き、やや童顔な印象の顔立ちをランサに向けてくる。

 

「ランサ、私たちは既に獲物として捕捉されている。気づいているか?」

「はい、師匠。計三頭の魔物が先ほどからついてきてますよね」

「よろしい。ならば、そろそろ方を付けようか。これ以上ついてこられても迷惑だ」

「分かりました」

 

 ランサはゾネと共に後方へと出向いた。すると、イオが忘れてるぞ!とでも言いたげな表情で話しかけてくる。

 

「なーなー! わたしは?」

「イオは夏目と待機だ」

〔イオちゃんは私と待ってましょうねー?〕

「ええ〜……」

〔凄い嫌そう⁉ 私、ちょっと傷ついちゃう!〕

 

 あからさまにテンションを落としたイオの隣には、のっぺりとしたヘルメットとサイバネティクスギアを身に着けたスーツ姿の女性が立っていた。彼女はかなり長身かつスタイルが良いため、ランサはきっとモテるんだろうなと感慨を抱く。

 

「イオ、行ってくるから」

「ガンバ!」

 

 イオに声援を送られたランサは軽く手を振り、彼女たちと別れた。

 

 

 

 晴れやかな草原の中に潜む、三頭の魔物。しかし、彼らは体高が非常に高いため、猛禽類を思わせる嘴をつけた巨大な頭部が、草原より顔を出していた。

 

「敵はテラーバード三頭だ。臨機応変に対応するぞ」

「分かりました……!」

 

 巨槍を構えるゾネの隣で、ランサは担いでいた槍を構えた。その槍は真っ直ぐに伸びた穂の横から鎌が生えており、いうなれば片鎌槍だ。

 

 麗らかな陽光に照らされ、じんわりと汗が滲む中、テラーバードたちが動き出した。彼らはこちらを襲う選択をしたようだ。

 

「ランサ、敵の動きを見極めろ。さすれば自ずと対処方法が見えてくる」

「はい、師匠!」

 

 巨大な飛べない鳥。そのような印象を抱かせる魔物こそがテラーバードであった。だが、彼らは飛べない代わりとして強力無比な脚力を備えており、体高二メートルにも及ぶ巨体には、それ相応の重量と筋肉が秘められていることが見て取れる。

 

 一頭のテラーバードを先頭にして、ランサたち目掛けて突進をしてきた。その速さは尋常ではなく、草原をえぐり抜くほど強く、大地を掻く様は圧巻だ。

 

 土埃を上げてやってきた先頭のテラーバードが、一歩前へ出ていたゾネを巨大な嘴でつついてきた。しかし、ゾネは身軽な動きで嘴を回避すると、そのテラーバードの脚目掛けて巨槍を薙ぎ払う。

 派手に草原へとすっ転んだテラーバードだったが、息絶えた様子は見られない。その時、第二、第三のテラーバードがランサに襲い掛かってきた。

  

 鋭い鉤爪を備えた脚で飛び蹴りを放つ、第二のテラーバード。もしもその蹴りを食らってしまえば、一溜まりもないことは明白だろう。しかし、ランサは片鎌槍の槍尻を地面へ突き刺すと、そのまま時の流れに身を任せたのだ。

 

 ランサの寸でのところで鉤爪は止まり、その瞬間、胴体に深く突き刺さった片鎌槍の穂先がぐんっと真上へかち上がる。そして、第二のテラーバードは血しぶきを上げながらも空を舞い、やがて地面へと衝突した。

 次に、ランサは片鎌槍を素早く持ち替えると、つついてきた第三のテラーバードへと薙ぎ払いを放った。その結果、テラーバードの首に鎌が深く突き刺さっては、大量の血を吹き出させる。

 悲鳴を上げるテラーバードだったが、顔を上げたのが運のつきであった。無念にも、第三のテラーバードは目にも止まらぬ速さで槍を突き出してきたランサによって、頭部を貫かれたのだ。

 喉を切り裂き、脳を貫き、そして頭蓋さえも粉砕する一撃に耐えられる訳がなく、テラーバードは即死し、その場で崩れ落ちた。

 

「いい動きだったな。随分と様になってたぞ」

「いえ、師匠には遠く及びませんよ。もっと精進しないと……」

「うぅん、もう結構強いと思うけどね……?」

  

 やがて、一仕事を終えたランサは、騒々しくもこちらへやってくるイオに手を振った。

 




 可哀想という感情は、下に見ている相手にしか抱かない。例えば、自身よりも不憫であるとか、不自由であるとか、不平等であるとか。
 人間とは合理的な生き物である。でも、夢を見たっていい、縋ったっていい。だって人間だもの。

 白星のモデルはImpulseResearch Wildebeestです。
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