異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。 作:卍錆色アモン卍
迷宮対策課本部の端っこにて、グレイは鈴木凪と怪しげな取引をしていた。彼が鈴木凪より受け取っているのは、分厚い包み紙に包まれた謎の物体である。
「クククッ! 鈴木さん、誰にも見られてねえよな?」
「ええ、勿論ですよ。どうぞ、こちらが例のブツです……!」
「ああ、ありがとよ……!」
グレイは鈴木凪と顔を見合わせると、彼と一緒にくつくつと笑う。だが、そこへスーツ姿の女性がやってきたのだ。
「グレイさん、鈴木さん。一体、何をなさっているのですか?」
「ば、馬鹿なッ⁉ あの超絶美人で数多くの男性から熱視線を送られている佐倉ハルコが、なぜここに⁉」
「あ、ありえません! 私は確かに、あの真面目過ぎて友人が少ないことを密かに悩んでいる佐倉ハルコを撒いたはずです! 私の計算に狂いなど……⁉」
「好き勝手言ってくれますね⁉ あと鈴木ィ! お前あとで覚えてろよ⁉」
顔を真っ赤にして怒りを顕にする佐倉ハルコ。どうやら、グレイたちの取引現場は彼女に押さえられてしまったようだ。
グレイは観念をして、佐倉ハルコに例のブツを見せる。
「ライ麦パンにチーズ。それに、香辛料……。本当にこれだけですか?」
「ああ、これだけだぞ。ダンジョンで消費をしたから補充しておこうと思ってな」
「普通にやり取りしてくださいよ⁉」
「別にいいじゃないですか。我々はただユーモアを交えてやり取りをしていただけですよ。もしかして、真面目で堅物な佐倉さんには理解できませんでしたか?」
「鈴木ィィッ‼」
怒り狂った佐倉ハルコが鈴木凪へ掴みかかるが、レベルワンのサイボーグ故なのか、それとも単純に力量差があるのか、彼女は鈴木凪に軽くあしらわれていた。
「ム、ムカつく! 本当にムカつく! 私、こいつ嫌い!」
「佐倉さん、いい加減気づいてください。いつまで経ってもユーモアの欠片もない真面目人間なんて、誰にも相手をされないものですよ」
「お、おお。二人ってあんまり仲良くなかったんだな……」
「私は別に佐倉さんを嫌ってる訳ではないんです。ただ単純に、彼女を憐れんでいるんですよ。たった一人で何もかもを抱えて、自分一人で全ての問題を解決しようとする。いずれ心身に不調をきたすことは明白なんです。ですので、私は誠心誠意を込めて、それは間違いであると彼女に教えているんですね」
「グレイさん、どう思いますかこのクズ! 変に理由を並べ立てて私を虐めてくるんですよ! 酷いでしょ⁉」
「お、おぉん。俺氏、コメントに困っちゃうねぇ……」
グレイは当惑した。鈴木凪の話した内容が正しいのなら、確かに佐倉ハルコは人を頼るべきだ。これは冒険者にも通ずる事柄である。だが、かといって過度な指摘が正義とはなり得ない。なぜなら、それは指摘を笠に着て、ただ己の欲求を満たしていることに他ならないからだ。
「ここは、第三者である俺が裁定を下そう……。佐倉ハルコ! もしも一人で物事を抱えているのなら、ほんの少しでもいい、他者を頼る努力をするべきだ。俺は長年冒険者をやっているが、仲間たちがいたからこそ今を生きていると断言できる。誰かと協力をしてこそ、最高効率が求められるものだぞ? そして鈴木凪! お前はちと、自身が正義だと信じ過ぎているきらいがある。それは大変素晴らしいことだが、一度その場で立ち止まり、己を客観視するべきだ。さすれば、より世界は広がって見えることだろーう‼」
「確かに、グレイさんの言う通りかも知れませんね。佐倉さん、今度から気をつけますよ」
「……私も、少し改善を試みます。ただなあ鈴木ッ! お前ここで謝罪をしないところがクズだな⁉」
「はて、なんのことやら……」
裁判官グレイのおかげで、多少なりとも二人の仲は縮まった。しかし、あくまで仕事だけの関係だろうなとグレイは思う。それほどまでに、両者の溝は深そうだなと彼は感じたのだ。
何はともあれ、これで異人四課の結束が少しでも強まるなら、喜ばしいことである。
初のダンジョン攻略から、既に一週間ほどが経過をしていた。その間にもグレイたちは何度も迷宮へと潜り、崩壊都市の調査を進めている。
そんなある日、グレイたちはいつも通りランクルの荷台に乗り込み、寂れたアスファルトの道を走っていた。
〔グレイさん方、そろそろこの山を登り切ります。そうすれば見えてきますよ〕
「おお、楽しみだなぁ」
自然に満ちた山中は広葉樹の木々で溢れ返っており、何よりも多種多様な魔物たちによって生態系が築かれていた。
やがて、グレイたちは山を登り切ると、彼らの眼前には広大な盆地が広がり、加えて、人工物に支配されたコンクリートジャングルが視界に飛び込んできたのだ。
〔あれが、崩壊都市にいくつか存在する都市の一つ、〝第一都市〟です〕
「ほお、これはアチーじゃねえの。アチーぜ、アチーブメント解除だぜ」
「うるさいわよ」
レアに小言を貰ったグレイは、盆地に広がる荒廃した都市に胸を躍らせると、荷台に立て掛けていた愛剣を手繰り寄せた。
第一都市と自然との境界線は、まるで水と油かのようにはっきりとしていた。
壁のように立ちはだかる人工物の群れは、自然を拒絶しているようにも見える。しかし、それらは過去の出来事だと言わんばかりに建物の多くには草木が生い茂っており、第一都市とはさながら、忘れ去られた都市といった風情であった。
ひび割れた道路の上を走るグレイたちは、周囲を見渡す。そこにはコンクリート造りのビルが何棟にも連なっており、尽くが廃虚と化しては自然に飲み込まれている。また、晴天の日ということもあって、無機質な都市を彩る自然色が、陽光に照らされて映えていた。
どこを切り取っても絵になるような、ポストアポカリプス然とした美しい景色。それが、グレイたちの視界に広がっていたのだ。
「テーマパークに来たみたいだぜ! テンション上がるなぁ〜」
「ええ、そうね。じゃあシズ、今日の予定を教えてくれる?」
「分かりました。私たちの仕事ですが、第一都市の西地区にてマンドラゴラを採取するようです。どうやら、かなりの数が群生をしているようなので、いくつか採取をして持ち帰って欲しいみたいですね」
「マンドラゴラか〜、最近関わってなかったねぇ」
毎度ボケを拾ってくれるレアに感動をしたグレイは、キュルルンとした瞳で彼女を見つめた。そして、変顔をしながらピースを作り、レアに感謝を伝えたのだ。
「愛してるぜ☆」
「はいはい、私も愛してるわよ」
第一都市の西地区は住宅街のようであったが、殆どが自然に飲まれているようだった。そこに道路や家屋は存在するのだが、木々によって破壊をされていたり、陥没した土地には池ができていたりと、荒廃した街と自然が上手いこと融合を果たしている。
その影響により、生物多様性に富んでいる上に視界が悪いというダブルパンチが発生しており、それらがグレイたちに降り掛かっていた。
「ここには、主にユニコーンが群れをなして生息をしているようですね」
「ほお、ユニコーンとは珍しい。軽種か、中間種か、重種か。気になるところだな」
「もれなく凶暴だから、気をつけないといけないわね」
高く聳える木々によって、トンネルを思わせる道路を走っていたグレイたち。その時、ルークが停車をするようにと声を上げた。
「皆、ここから先はユニコーンたちの縄張りかも。明らかに自然が生き生きとしてるから」
〔それはユニコーンと関係があるんですか?〕
「あるよ、ユニコーンの角には水を浄化する作用があるからね。彼らが住む森は往々にして、命の輝きに満ちているものさ」
「よし、ならばここからは歩いて行こう。鈴木さん、それでもいいか?」
〔ええ、構いませんよ。では、行きましょうか〕
グレイたちはランクルから飛び降りると、草花で彩られた道路を踏み締め、その先へと進んだ。
地盤が沈下し、数多くの家屋が池に沈んでいる。そこには多くの水生植物が繁茂をしており、目が眩むほどに美しい水面が陽光に照らされては、キラキラと輝いていた。
アースガルドではまず見られない景色だったため、グレイたちは感嘆をするようにその景色を眺めていた。しかし、池の外周から魔物の群れがやってくることに、彼らは気づいたのだ。
近場の廃屋に身を潜めたグレイたちが見たものとは、体高二メートルはあろうかという巨体を誇り、鋭くも端麗な角を額より生やした、馬の魔物の群れであった。また、彼ら──ユニコーンたちは十頭以上もの群れを形成しており、青毛や栗毛などが大半を占める中、非常に珍しい純白な毛色をしたユニコーンが、群れの中に混ざっていたのだ。
「おいおい、重種の中でもとびきりデカイな。それに、あれは芦毛か? それにしてはやけに白いが」
「もしかして白毛? いや、流石にないわよね」
「いやいやレア、あれは間違いなく白毛だよ……! すごいや、まさか生きてる間に出会えるだなんて!」
「発見例が少ないユニコーンの中でも珍しい重種でかつ、さらに希少な白毛ですか。本当、人生って何があるのか分からないものですね」
興奮冷めやらずといった様子のルークはさておいて、グレイはシズにマンドラゴラの群生地の位置を聞いた。すると、彼女はこの池の中心部にある陸地だと答えたのだ。
「そうか。ならシズ、『水上歩行』を頼む」
「ええ、分かりました。〈ウォーキング・オン・ウォーター〉」
シズの唱えた魔法によって、グレイは水の上を歩けるようになった。
その後、他の仲間たちも同様に『水上歩行』の魔法を掛けられると、グレイたちは池の中心部を目指して進んだのだ。
足元には透明度の高い池が広がっており、そこには道路や水草などが沈んでいる。そして、群れをなした小魚や大型の魚たちがグレイたちに近寄ってきては、我先にと逃げていった。
〔私、水の上を歩いたのはこれが初めてですよ……!〕
感動した様子の鈴木凪が、口を開く。
「フッ、これが魔法、だぜ?」
「なんでグレイがカッコつけてるんですか……」
少し不満げな表情を浮かべるシズ。それもそのはずで、グレイは魔法の類を一切扱えないのだ。しかし、彼はそのことを不満に思うことなどなかった。なぜなら、魔法を扱えるレアが隣にいるからである。
「一家に一人、レアがいると便利だよな〜」
「私を道具扱いしてたらブッ飛ばすわよ」
「そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました」
「正直でよろしいわね。じゃあブッ飛ばすわ」
「ふぉっ⁉」
グレイは鋭いハイキックをかましてきたレアの足を掴むと、ウィンウィンと呟きながら彼女の足を撫でた。
観念をしたのかレアがため息をつき、足を離すようにと伝えてくる。
「グレイは本当に冒険者になれてよかったよねぇ。もしかしたら、どこぞの闘技場で剣闘士をやっていたかも知れないよ?」
「それはそれで楽しそうだな!」
「グレイなら、どこでもやっていけそうですね……」
他愛もない会話を楽しみながらもグレイたちは歩き続け、やがて池の中心部に浮かんだ、小さな森へと辿り着いた。
池に囲まれているからこそある程度の湿気があり、周囲に木々があるからこそ一定の影が作られている。
そこは、マンドラゴラの聖地と言ってもいいほどに、かの根菜の生育条件が揃っていた。そして、それを裏付けるかのように、地面いっぱいに自生をするマンドラゴラが広がっていたのだ。
「おいおい、どれも立派な葉をつけてやがるぜ。こりゃ期待できるぞぉ!」
「ユニコーンの縄張りだもの、そりゃ最高品質に違いないわ」
「じゃあ、いつも通りに採取をしようか。グレイとレアは警戒を頼むよ」
「了解だ。鈴木さん、俺たちと一緒に離れておこう」
〔ええ、分かりました〕
グレイとレアが鈴木凪を伴って離れると、シズが魔法を唱えた。
「〈サイレンス〉」
シズの唱えた魔法とは、『静寂』だ。それにより、グレイたちの目前には半径六メートルほどの防音の玉が生み出され、マンドラゴラの群生地を覆った。
〔これにはどういう意味があるんですか?〕
「マンドラゴラは引き抜くと狂気を伴う絶叫を上げるからな。『静寂』を唱えることによって、それを無効化してるんだ」
「ちなみに、本来の使い方は魔法詠唱者を封じることよ」
〔なるほど、勉強になります〕
感心したように頷く鈴木凪の前方では、ルークとシズがせっせとマンドラゴラを掘り起こしていた。かの根菜は根茎が人型を取るように生えるため、やや採取がし辛いのだ。
「『静寂』の中に入っていると何も音が聞こえない。そのせいで、ルークたちは今無防備な状態だ。俺たちの役目は彼らに危険が及ばないように周囲を警戒し、いざって時に助けることだぞ」
「マンドラゴラの採取には時間が掛かるから、気を抜かないようにお願いね」
〔ええ、了解です〕
その後、特に問題が起きることもなくマンドラゴラの採取は終わり、グレイたちはそれらを納品するために前線基地へと帰還した。
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崩壊都市攻略の最前線に築かれた前哨基地にて、一人の転生者が優雅にディナーを楽しんでいた。彼が食しているのは、様々な野菜を炒めた上にトマトで煮込んだラタトゥイユにも似た料理であり、菜食主義者が多いエルフらしい食事内容であった。
「ヤンマー二! 今日も素晴らしい出来だよ、シルヴィ」
「えへへ、それほどでもあるかな?」
長く伸びた緑髪と、そこから突き出た長い耳。そして、端正な顔立ちが印象的な青年こそが、エルフ大陸で活躍をする冒険者兼、地球からの転生者、エルウィンであった。
そんな彼は終始笑みを湛えて食事を済ませると、相方である緑髪の女性、シルヴィを伴って自室へと向かう。
前哨基地内に設けられた個室はお世辞にも広いとは言えず、設備も褒められたものではない。
エルウィンはここへ来るたびにナンセンスに感じ、ため息をつく。
「はあ、そろそろ地上に戻りたい頃合いだね……」
「そうだねえ、私も日の目を浴びたいよ〜」
自然と共に生きるエルフである彼らは、あまり人工物が好きではなかった。無論、彼らが身に着けている武具は加工品であり、そもそもとして、エルフは目新しいものが大好きだ。しかし、それらが自然を尊重していなければ、彼らの琴線に触れることはない。また、エルフの宿敵たるドワーフの技術が頭をよぎるため、彼らとしてはあまり現代日本の文明が好みではなかった。
それはともかくとして、午後の調査まであと小一時間ほどある。そのことを確認したエルウィンは姿身鏡の前へ立つと、決めポーズをとった。彼にとって、これは数ある日常風景の一つである。
「フッ、ボクは美しいね……」
「もう、エルウィンったらすぐ脱ぐんだから〜。でも、今日もカッコいいね!」
「シルヴィ、ボクは明日も明後日も明明後日も、カッコいいのさ……」
「ヒュー!」
すらりとした上半身を惜しげもなく晒し、鏡の前でドヤ顔を披露するエルウィン。彼は紛うことなきナルシストであった。しかし、彼は自身がナルシストであることを自覚しており、その上でナルシストらしい態度をとっているのだ。
これは彼の性格によるところも大きいが、エルフという種族柄、傲慢な性格をしている者が多いので、それも影響をしているのかも知れない。何はともあれ、エルウィンは自分が大好きなナルシストであり、彼の相方であるシルヴィは、そんなナルシストな彼が大好きなイケてるガールフレンドであった。
永沢君の名言
『キミは、人のことをあれこれ言えるほど立派じゃないだろう。』