簒奪魔剣/Sickness. Sword. Successors. 作:龍川芥/タツガワアクタ
――――飢えていた。
それは、月すら凍った夜のこと。
眠りを拒む飢餓感のままに、男は夢遊病者めいて冬の夜道を彷徨っていた。
都内某所、
都心からやや外れた午前三時の街は、完全に眠りについている。
いや、凍り付いている、と言ってもいい。
文明の
ここ一帯は駅前のような繁華街の無い、行儀の良い住宅街ではあるが、今宵は殊更に生気がなかった。
まるで街全体が息を顰めているようだ、と男は思う。
それは、幽霊が怖くて夜明けを待つ子供のように。
街は街灯の明かりというささやかで頼りない毛布に
建物が密集した現代都市は、普段は人々に安心感を与える鉄の城塞だが……些細な風音、遠くから聴こえてくる野犬の声にさえ、今の街では太刀打ちできない。
昼間の活気が嘘のような臆病さ。
だがそれも昨今の『流行り病』や、それに関連する凄惨な事件のことを考慮すると仕方のない事だろう。
こんな夜更けにちょっとそこのコンビニまで、なんていうのは、今の三辻坂では莫迦のやることだ。
ならば、飢えに背を押され夜道を歩くこの男も斯様な愚者の類か。
……否。
彼はそんな愚者よりもなお始末が悪い、最低最悪の下種であるが故に。
片付け忘れたおもちゃ箱みたいな夜の街。
所狭しと並んだ民家に小高いマンションが点在する、
―――「
そんな、街を凍らせる昏い噂に、男は月光の影でほくそ笑んだ。
ネットを中心とした風説に曰く。
男が罹患した
ならば、己の心が病巣を招き入れた隙とは何だったのか。
寝静まった街を進みながら、男は悪夢めいた
―――最初の歪みは小学校の頃だったか。
昔からずっと不思議だった。
人は何故、喧嘩のときに殴ったり蹴ったりするのだろう、と。
だって、拳にも脚にも肉が付いている。それでは威力は減衰して伝わらないし、反動に痛んでしまうだろう。
だから、
ずっと思っていた。そう信じて疑わなかった。
肉から剥き出しの、肉を千切り磨り潰す為にある
殴打ではなく裂傷、切断を齎す、より効率的な暴力の
それを用いる方が、ずっとずっと役立つだろうに、と。
果たして―――幸か不幸か、実践のときはすぐに訪れた。
五年生の頃、ガラの悪い中学生グループに目を付けられたことで暴力沙汰になって、自分はかねてよりの疑問を試してみたのだ。
結果は予想通りの成功で、そして取り返しのつかない大失敗。
血に濡れた児童公園。
蝉のように泣き喚く中学生。
劣勢を覆したことへの高揚ではなく、やっぱりそうだった、という納得に冷えていく体。
とはいえ、子供の喧嘩で流血沙汰はやりすぎだった。
幼い倫理の適用された社会では、相手に血を流させた時点で、それまでの過程に関係なく『悪』の烙印を押されてしまう。喧嘩の原因はあっちだとか、自分も彼等に殴られたとか、そういった弁明は聞いて貰えない。
当然だろう。
善良な大衆を羊の群れに例えるならば……彼等にとっての喧嘩とは、柔らかい体をぶつけあうことだ。
流血沙汰なんてもってのほか。
もし血が流れたとすれば、それは―――群れに居てはならない、爪牙持つ狼の
かくして、自分は『
子供の喧嘩で肉を噛み千切った異常者として、中学校に上がってからも排斥され続けた。
ああ、正直に白状すれば。
あの
自分が
自分すら知らなかった自分の正体。
化けの皮が剝がれた時点で、幸福な人生は失われた。
残ったのは上手くいくはずもない、憐れな狼の羊ごっこ。
どこに行っても奇異と偏見の目を向けられる
初対面でのマイナス評価を覆せるほど器用ではない
終わらない排斥に荒れた
そしてやっぱり。
自分は喧嘩の
高校生になる前に。
狼は、狂犬にまで格下げされた。
その後のことは語るまでもない。
もはや挽回のしようもなく、狂犬は狂犬として生きるしかなかった。
人の世界で、支配者と相容れぬ薄汚い獣としてゴミを漁る。それだけが、この身に残された最後の道だった。
負け犬となって十年近く。
未だに思う。
どうして自分は、二度目も同じ
あれは間違ったやり方だと知っていたのに。
いや、心のどこかで、あれが間違ったやり方だと認められてはいなかったのか。
あるいは―――最初の
肉を噛み千切り恐怖を啜るあの味を、
だから、我慢できずに噛み付いて。
また恐れられて、の無益なループ。
そのたび普通の幸福や人間らしい目的が剥がれ落ちて、あの感触にのみ
それは、異物を獣として排斥する冷たい社会と。
雪山を思わせる孤独の中、獣に堕ちていく
そんな
「……ああ。早く、
白く濁った声と息。
理性は雪に覆い隠される野のように漂白されて久しい。今や男の自我の全ては、その欲望と同義である。
月夜が作る影の中、襟で隠した口元に意識を向ける。
口の両端。
咬筋がある頬の下に、蒼白の
「―――あハ」
鏡で
人間の小さな口が、いかにも肉食獣らしい裂けた大口に憧れたかのように、唇の両端から罅割れ始めている―――。
当然、それは印象の話で事実ではない。
真実、それは血管だ。
まだ血液が充填されていない、
どこにも繋がっていない暴力回路。
ほんの一か月前までは自分の肉体に存在しなかった、異物の器官。
そんな
瞬間、耐え難い飢餓感が脳髄を貫く。
出番はまだか、と喚くように、蒼白の血管は疼いている。
ああ、飢えは強まるばかりだ。
これを解消できるなら、相手が子供だろうと老人だろうと構わないほどに。
だというのに、通り魔の噂が浸透し切った夜道は、想定よりずっと人気がなかった。
街に繰り出してから十五分、未だ誰一人ともすれ違わない。
巡り合わせが悪いな、と内心で呟いて。
その言葉が、再び意識を内へと堕とす。
―――思えば、中々に巡り合わせの悪い半生だ。
買った玩具の歯車が最初からひとつ足りなかったような。
些細な、そして致命的な先天的破綻。
あるいは、人間にさえ生まれていなければ……近代化に消えゆく野山で獣として生きられたなら、そちらの方がまだ幸福で、いくぶん救いがあったろうに。
少なくとも、今より不幸ではなかったに違いない。
「……でも、今は違う……」
そうだ。それももう過去の話だ。
自分は生まれ変わった。
熱病に魘されるように、あるいは雪山で
産まれる前からやり直さずとも、今世に救いはあったのだ。
「……なア、おれの『魔剣』。そうだろう……?」
応えるように、口元が疼いた。
蒼白の血管が主張している。
口元の罅が広がっていく。
破顔は、醜悪な獣のソレだった。
童話の狼を思わせる、醜い加害欲に歪んだ
男はまるで似合わない、被害者の論理に身を預ける。
『これ』は苦しみを背負った者達に与えられる救済だ。
社会の中で虐げられていた
そうだ、オマエたちは今まで充分恵まれてきただろう。
だから、今度はこちらの番だ。
マイナスをゼロに戻すのだ。
それさえ奪おうとするなんて赦さない。
赦さないから、自分が罰を与えるのだ。
「……そうだ、おレが……」
―――男は、間違いなく破綻していた。
それは精神ではなく、肉体の問題だ。
はぁ、と吐き出される白い息。
焼け付くような欲望、という言葉に反し、男の体温は死体じみて、冬の夜よりも冷たかった。
その低体温の原因は血液にある。
彼の全身を廻る血液は、今や液体のままで氷点下の温度を記録している。
感染から一か月。
口元から全身に波及した病の影響で、男の全ては氷結した。
低温の血液は脳を麻痺させ、正常な思考を喪失させる。
とはいえ本来なら細胞が活動停止・壊死する温度……
だから、凍り付いたのは正気と倫理。
歯車がひとつふたつ機能停止しただけで、人間は途端に暴力装置に変貌する。
そしてもっと不幸なことに―――人間は破綻した程度では止まれない。
壊れた機械が、己が壊れていることになど気付けず、歯車を回し続けるように。
がちがちと、歯を打ち鳴らす音。
それは寒さに凍えているのではなく、恐怖に震えるのでもなく。
ただ柔らかい
冷血の男は永劫に彷徨う亡霊めいて、夜の街を彷徨い続ける。
その
果たして……計二十分の放浪の後。
「―――」
待ちわびた人の気配が、月光に照らされた道の先から近付いて来た。
草原を往く肉食獣のように。
思考さえままならない男の五感が、凍り付いたまま
電灯もまばらな暗い夜道。
ざっ、ざっ。
どこか頼りない足取りで夜を彷徨う、音。
距離にして三十メートル先。
直線の歩道を、
体臭、肌感覚、唾液の放出。
そのどれもが、眼前の存在が幻ではないと叫んでいる。
「……居た……」
ぽつり、歓喜の声が喉から漏れる。
なんとか小声で収めた声は、自分でも驚くほどに冷え切っていた。
だって、月すら凍った夜なのだ。
こんな夜に悲鳴を響かせるなら、冷たい
限界だった。
他に人気がないのが
じいい、とジッパーを下げる。
口元を隠していた襟が裂け、主役が舞台に現れる。
どくん。
外気に触れた口唇が、戒めから解放された獣のように
どくん。
口の両端には、通常人体に存在しえない蒼い
どくん。
伽藍洞だったそこに、今、全身から血液が充填されていく。
カラだった血管の弁が開放され、血液が殺到するように血管内に侵入を始めた。
増設された管を通った瞬間、絶対零度にまで蒼く沈んでいく命の赤。
血管の色は毒々しい赤紫へ。
それは奇しくも、男の瞳が更なる狂気に濁るのと綺麗に連動していた。
―――それは、性器の怒張を思わせる禍々しさを纏った光景だった。
どくん、どくん。
鼓動が早鐘を打つたび、蒼白の血管は淋しい空洞を冷たい赤で満たしていく。
だが、そこに満足感はない。
冷血が管の端まで行き渡り、限界を超えて管が膨張し始めるにつれて、脳を突く飢餓感は爆発的に増していく。
みりみりと。
男の頬、咬筋が、血管の拡充につられるように異常な隆起を見せる。
弧を描いた口元、獣じみて剥きだされた
今や、男の咬合力は猛獣の500kgを超越していた。
そしてその口元は、周囲の水分が白く凍り付く程の冷気を纏い、放っている。
「……はあア……なんて、いい夜だ……」
当然、そんな魔法じみた超常現象を起こす男が、常人であろうハズも無い。
人間を逸脱した肉体機能。
社会から脱落してしまった精神構造。
あるいは、健全なる精神は健全なる身体に宿る、と云うように。
常人を逸脱した異常なる精神とは、肉体に異常な機能を追加してしまうのか……。
いいや。それは病の仕業だ。
病んだ精神に憑き、肉体の一部として根を張る
現代の夜を震え上がらせる、最新にして最凶の流行り病。
病の名前は『魔剣病』。
狂気への墜落者に兇器を授ける、肉体変貌の病魔である―――。
「……!」
どくん、どくん。
魔剣病巣が鼓動する。
蒼白から赤紫へ反転した血管が、漸く訪れた晩餐の予兆に軋んでいる。
全身を廻る氷点下の血液。
冷え切っていく身体の芯。
行き過ぎた冷たさは感覚を逆転させ、全身が燃えるような錯覚を引き起こす。
距離二十メートル。
瞬間、遂に抑えきれなくなったと叫ぶように、頬を内より突く血液の激流。
満杯になっても止まらない供給と、直径が数倍にも膨れ上がった樹状パイプ。
辛うじて肉の下までで収まっていた蒼白の血管が、遂に、絶頂にも似た激痛を伴って破裂した。
口の両端。
蛹が羽化するように蒼白の罅が開いて。
圧力にて皮膚を裂き、そこから外へと飛び出した過冷却状態の血液が、周囲の水分を纏い、瞬く間に
冬の月夜に行われたそれは、時間にして僅か十秒間の変貌。
伝説に謳われる狼男を再現するが如き、男の正体の顕現であった。
「……ぐる、ルゥ……アは、
がちん、と。
堪えきれない哄笑と共に、顎と連動した氷の魔剣を打ち鳴らす。
月夜に浮かぶシルエットは狼そのもの。
前方に細長く伸びた肉食の
―――魔剣とは、欧州の英雄伝説に代表されるような神秘を宿す剣に
それは感染者の体内で成長した病巣本体が、ときに周囲の物質を巻き込んで顕現する固有の
即ち―――肉体と一体化した魔の武装こそを、現代の
魔剣・
それが、零下の血液を骨格として形成される氷の
咬合に呼応して冷気を炸裂させる計十三の牙の特性は、雪山の孤独を逆流させる、彼にとっての復讐の象徴である。
距離十メートル。
ついに、
向けられた殺気を漸く察知したのか、それとも相手の様子が尋常ならざることに気付いたのか。獲物が弾かれたように相手を見る。
月が見下ろす夜の淵。
凍り付いたセカイの中、そのアカイ瞳と目が合って―――。
「ヨコセ―――」
極限の飢餓感によって獣の唸りと化した声が、惨劇の開演を告げる号砲だった。
どう、と黒い影が奔る。
夜に溶け、夜風そのものとなったかのような疾走。
十メートルの距離はたちまちゼロに。
だというのに獲物は動けない。
当然だ。
襲われる心構えなどしていない憐れな犠牲者は、ただ茫然と、
ごう―――黒影が風を切る音は、やはり獣の吼える
そのまま、黒い夜風の襲撃は成る。
交通事故にも似て衝突する影。
ふたつの人影は一体化し、縺れ合って道に倒れ込む。
標的にあらゆる面で勝っている捕食者は、当然
無力にも地面に押さえつけられた獲物が、三十センチ先、爛々と輝く凶眼を呆然と見上げる。
「寄越せ……!」
唸り声がいっそうの熱を帯びる。
凍った夜が、灼熱の欲望に呑まれていく。
そして、氷血の
悪夢から醒めるように―――ようやく、気付く。
“――――あ、れ……?
今更ながらに理解する。
不意の突進を受け地面に引き倒されたのが、自分の方だということに。
寄越せ、と嗤ったあの声は。
極限の飢餓に焼け付くあの唸りすら、自分の喉から出たものではないことに。
それは、余りにも歪んだ鏡。
男という獣が
この凶眼を燃やす
爛々と。
絶対零度の夜の中―――
吐き出される灼熱の狂気、涎に濡れた
「
──―飢えている、と言うなら。その怪物は、自分以上に飢えていた──―
男は漸く
悪夢よりも悪夢じみた眼前の光景が、現実であると理解した。
地面に押さえつけられた
覆い被さる赤い目の
思い出したように足掻いてみても、馬乗りの人影はびくともしない。それほど重量があるようには思えない柔い輪郭は、けれど魔剣病によって膂力が増しているハズの五体が全霊で駆動しても、全くもって跳ねのけられる気配がなかった。
かちかちと。
恐怖に歯を打ち鳴らす音で、漸く、思い出す。
自分の口には
そこまで考えて―――けれど、男は抱いた想像を、首を横に振って否定した。
“……む、無理だ。出来るワケないだろう、そんなこと……!”
冗談ではない。
こんな、視界に入れることすら恐ろしい怪物に噛み付くなんて―――自分から向かっていくなんて、ましてや
だって、もし反応されて反撃されたら。
この体を地面に固定する万力の力で
そうやって、死の恐怖に固まって。
彼は、当たり前の事実にようやく気が付く。
だって、拳や脚を使った方が、うまく相手と距離を取ることができるんだから。
頭は生物の弱点なんだ。自分が詰まった場所なんだ。
そんなものを武器にするなんて、獣を脱却した人間に真似出来るワケないじゃないか―――。
簡単な話。
自分は結局、何も
ただ、舐めていただけだ。
他人のことを舐めてかかっていた。
自分以上に危険な反撃なんてしてこないだろう、なんて高を括って、自分だけが無造作に境界を跨ぐ
その代償がこの絶望。
超えてはならない一線の先で待ち構えていた、真の異常者による真の捕食。
「ヨコセ、寄越せ、よこせ、ヨコセ……俺に、
悪夢に呻くかのような、否、悪夢そのものであるかのような怪物の声。
ぶわり、夜風に攫われるように掲げられた片腕が、月を背にミシミシと変形していく。
肉体の変貌。
正体の露出。
同じ
「……ま……『魔剣、病』……」
―――顕れたソレは、御伽噺よりも魔剣らしい魔剣であった。
夜なお
所有者の身長を超えて長く伸びていく両刃の大剣を、怪人は右腕一本で高々と
振り下ろすだけでどんな大岩も両断するだろう分厚い刀身。
切っ先から刀身半ばまで走った亀裂は、まるで自分を押さえつけている怪物の
どくん、どくん。
黒く脈打ちながら完成を迎えるそのカタチは、己以外の全ての魔剣を否定するかのような、堂々超然たる威容を以て人間の
まるでサスペンス映画の中に迷い込んだファンタジーの魔王様。
都会の真ん中に突如として現れた滅亡の異形は、どこか滑稽で、そして場違いなくらいに恐ろしかった。
凍った月を、漆黒の魔剣が喰らい尽くす。
その様に、男は自身がこの夜で犯した、一番の勘違いを悟らされた。
だって、月すら凍った夜なのだ。
こんな月夜を切り裂くのは、沸騰するような
魔剣の亀裂に呑まれた青白い月は、そのまま、男の未来を暗示していた。
「……や、やめ……!」
そんな命乞いが牙の隙間から漏れる。
だが、捕食者は止まらない。
当然だ。だって、自分が相手の立場でもそうする。
不幸な獲物の都合など、極限の飢餓の前では紙屑も同じ。
理解した途端、急激に冷えていく体。
ああ、この感覚は知っている。
そうだ、これは―――血の気が引いていく、と言うのだったか。
そうして、冴えない辞世の句を切って捨てるように。
掲げられた魔剣は、遂に、
―――奇しくも男が望んだ通り。
捕食者の牙は獲物に突き立ち、その血肉と恐怖とを啜る。
但し、男が望んだのとは逆の立場で―――。
さくん。
氷牙に沈む黒い剣。惨劇の絶頂にしては呆気ない音。
新雪をシャベルで裂くような、絶対的で無慈悲な手応え。
そうやって。易々と男の
赤い凶眼を携えて、月よりも
――――――魔剣・
それが。
男が夜の最期に聞いた、
◆
誰も知らない魔王討滅から早くも一世紀と十年が経った現代、西暦2028年。
一見して例年通りの平和を演じる冬の東京は今、輝かしい現代文明の影で、みっつの問題を抱えていた。
ひとつ。最新の現代病にして流行り病、『魔剣病』の密やかなる隆盛。
ふたつ。
みっつ。どこからか湧いてくる野犬と、それを殺して回る女の目撃情報。
社会の裏より秩序安寧を守護する警視庁公安部対魔一課・『魔弾の射手隊』は対応に追われるも、未だどの問題も解決の糸口すら掴めていない。
今はまだ重大ではない病巣。
それが育ち切ったとき、この大都市すら崩壊する死病に果てるだろうと……きっと誰もが直感しながら、嵐の前の静けさに溺れている。
それは、魔剣と魔弾が交錯する現代の夜。
真の怪物は、いずれ、その狂騒に惹かれ目を覚ます―――。
玉座を攫え、簒奪の魔剣。
禁忌を謳え、宿痾の剣士。
魔王の呪いは未だ潰えず。此処に、ひと振りの魔剣/独りの少年を中心とした、