先生は私の提案に悩んでいるように見えた。
「拒否しても何も問題はありません。」
きっとこの提案を拒否すれば、私たちに不都合が生じると考えているのだろう。ただ、別の世界に託すだけ。
「"君は…君はどうするの?"」
「私としてはこの提案を承だ…。」
「"そうじゃないよ。"」
そうじゃないとは?
「"もし私がこの提案を承諾したとして、君はその後はどうするの?"」
どうするか…。それは簡単です。
「元の世界に戻ります。この体は色彩の力で満ちています…、先生の世界に行けば多くの混乱を招くでしょう。」
「"君が…そこまでしなくても…!"」
そこまでする理由があるのですよ。
「少し…話をしましょう。」
私がしてきたことを全て話した。先生と同じ、何らかの理由で外から来た者であり、A.R.O.N.Aの体の中に入っていたこと。向こうの世界で起きたこと。一つのミスを皮切りに世界が滅亡に進んだこと。私の指揮によって生徒を殺してきたことを。そして私が未来を知っていたことを。
「"じゃあ君はその未来をどうにかしようとしたんだね。"」
「ですが全て徒労に終わりました。」
だからこの時のために全てを費やした。
「未来がわかっていても今はどうしようできません。長い時間がかかり、私の中の不要なものは段々と摩耗してきました。私の過去も、ここから先の未来も、今では覚えていません。」
「"……。"」
できればここで終わらせたい。
「先生、決まりましたか?」
「決めたよ。勿論承認するよ。でも、君も連れて行く。」
きっと先生ならそう言うと思っていた。
「…まずはサインを。」
先生がサインを書き、承認ボタンを押すと同時に私の意識をシッテムの箱に移す。
「お疲れ様ですA.R.O.N.Aさん。」
動かない光の玉に話しかける。
「あなたをあちらの先生のシッテムの箱に移します。」
暗闇から一筋の光が見えた。あれが通り道だ。
「このようなことに付き合わせてごめんなさい。あなたに多くの奇跡が訪れることを願っています。」
玉を一筋の光の方へ動かす。玉は段々と小さくなっていき、見えなくなった。光も消えてまた元の暗闇になった。意識を現実に戻す。
「先生のサインを確認。"シッテムの箱舟計画"を最終段階に移行。」
ポットの中の封筒が光に包まれる。光が人の形へと変わり、生徒の姿となる。
「一部の生徒はまだこちらで治療をしています。」
「"わかった。じゃああなたも…。"」
先生の足元を外と繋げる。
「"ダメ!"」
先生の姿が見えなくなる。
「先生、奇跡を信じてください。私が信じ切ることができなかったことをあなたなら…。」
ポットの方へと体を向ける。
「私が奪った日常を返しましょう。あなた方を帰しましょう。」
ポットが外へと放出されて行く。
「さようなら。さて、残った生徒たちの治療を急ぎましょう。」
待った。
まだ。
どれくらい時間が経ったのだろうか。赤い光が緑へと変わる。治療が終わった合図だ。3つのポットを外に放出する。ポットは搭乗者にとって身近な自治区へと落ちて行く。
「自爆シーケンスを起動。」
赤い光と大きな警告音が鳴り響く。私も還る時間だ。シッテムの箱の中に体を移す。もう外に出ることもないだろう。
「お疲れ様でした。」
起きているのか寝ているのかわからない世界で、私は揺蕩っている。
「まさか、ベアトリーチェを追放した際に使用した物が役立つとは。クックックッ…。話は聞かせてもらいました。先生、これは罪滅ぼしのようなものですよ。」