水が一滴落ちた音がした。目を覚ますと満天の星が瞬いていた。
「ここは…?」
私は役目を終えたはずだ。なのに意識がある。
『初めまして、"異界の案内人"。』
どこからともなく柔らかい声が聞こえてきた。
「誰ですか?」
『それは重要なことではありませんよ。』
声の正体を探ろうとするも拒まれる。
「あなたは…私に何を望むのですか?」
『いいえ、寧ろ逆です。』
逆?どう言うことなのだろうか。
『彼方の選択は何ですか、とアトラ・ハーシスの権限の持ち主…アリスやケイもここに呼び、同じことを聞きました。』
「…アリスやケイはどこに。」
『もうここを出ていきましたよ。』
良かったと思った。私には会わせる顔がないから。説教じみたことをして、まだ保持していた記憶で希望を見させて、私はそれを忘れてしまったから。
『彼方らは権限を使い、自身の願いを叶えて先生たちの元へ行きました。そしてあなたもその権限を持っています。権限を使って神になることも、不完全な存在へとなることもあなたの自由です。』
私の自由…。私は何を望めばいいのだろうか。ボクは物語を良い方へ向かおうとして失敗して、自分にできることをして物語を変えてしまった。外から来た者、存在しない者。…だったら。
「私は、自身の消滅を選択しましょう。」
『よろしいのですか?』
「…はい。」
正直に言えば怖い。消えたくない。でも元からいない者を消しても何も起こらないだろうから。
「ああ、でも…。」
心残りはある。震える体で祈りの姿勢をとる。合わせた手から眩い光が放たれる。
「ボクの選択が正しかったのか、答えが見てみたかった…。」
できることならただの人として、この世界を見てみたかった。
きっと最後の言葉は彼方でも口から出ていたのは気づかなかったのだろう。自分を嘘で取り繕い続けて、震えながら自身の消滅を願う。でも、心残りは本心であり、本心は願いでもある。
『それが彼方の願い、選択なのですね。』
光に包まれて消えた者を見届ける。
『彼方の旅路に、幸運があらんことを。』
また目が覚めた。見覚えのある天井だった。
「ここは、シャーレ…!?」
なぜ私はキヴォトスにいるのだろうか。辺りを見渡しても誰もいなかった。
「……あぁ。」
きっと私が生きていることを知ったら、生徒たちは…。
「私は…これ以上ここにいれば何が起きるかわかりません。」
ここを出よう。キヴォトスを出よう。部屋を物色して中身の入った財布と仕事用のスマホ、そして万が一の拳銃を持ってシャーレを出る。
「…誰かに会ったらまずいでしょう。」
道中でフード付きの上着とマスクを買い、駅に向かう。
「うわっ…。」
暫く進んでいると突風によってフードが脱げる。
「えっ……。」
店の窓に映った自分を見て声が漏れる。顔はプラナに似ているが、髪は黒く、ヘイローはブラックホールを模したものだった。
「これは…誰なのですか?」
記憶にない。あの時より先の生徒なのだろうか。
「…あぁ、ボクはまたやってしまったの?」
視界が揺れる。店の壁に寄りかかり、手で顔を覆う。
「こんな、はずじゃ…。」
「あの、大丈夫ですか?」
声をかけられた。急いでフードを被る。
「…大丈夫です。」
急いでそこを離れて駅に向かう。
「あの声、どこかで…。」
駅に着いた。中へ入り、キヴォトスの外へ向かう電車を探す。
「…どうして?」
しかしキヴォトスの外へ向かう電車は全て運休となっていた。
「なにか、スマホで…。」
スマホで調べると連邦生徒会の緊急事態宣言によるものらしかった。
「なんでこんなタイミングで…!」
駅から出る。こうなったら終わるまで隠れられる場所を探さなければ。
「あそこでなにか…。」
遠くで生徒が住民に話を聞いていた。
「すみません、ここら辺でこの子を見ていませんか?」
「この子?うーん、見ていないな。」
行方不明者だろうか?スマホで調べる。
「……!」
そこには窓に映った自分にそっくりな写真だった。
「もうバレているのですか…!」
モタモタしていられない。私のような浮浪者が沢山いる場所。
「…ブラックマーケット。」
背に腹は変えられない。
「マンモス校は監査の目が沢山あるはず…。」
…結局、あの場所にたどり着くのか。
「アビドス…。」
アビドスのブラックマーケットに辿り着き、廃墟の中へ身を隠す。誰の目もつかないように、人の少ない時間で場所を移動する。
「これで四日目でしょうか…。」
飲まず食わずでいると、いくらキヴォトス人でも限界が来る。
「…今なら。」
ポケットからシャーレから持ってきた拳銃を取り出して側頭部に当てる。この弱っている体ならきっと…。
「ッ……ウァ…。」
涙が溢れる。嗚咽が漏れる。また自分が死ぬかもしれない恐怖に体が支配されそうになる。
「ッ!」
両手で引き金を引く。
ビーーーーッ
「ヒッ……!」
拳銃からアラームが鳴り響く。急いで拳銃を投げ捨てる。
「これは…一体…?」
アラームが鳴り止む。遠くから音が聞こえる。
「足音…!」
一つではなく、複数の足跡が聞こえる。だんだんと近づいてくる。
「どこか隠れる場所は…!」
しかし廃墟の中は何もなく、部屋の隅で小さく蹲ることしかできなかった。扉が開けられ、月の光がボクを照らす。
["やっと見つけた。"]
安心するような大人の男性の声。忘れるはずがなかった。
「先…せ、い……。」
先生時空の声は「」、プレ先時空の声は[]で行きます。