死に戻りのダンジョン探索者 ~他の探索者と違ってレベルアップもスキルもないけど試行錯誤で最適解を見つけ出す~   作:リテイク

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「右は行き止まり。左はゴブリン20匹の巡回ルート。前は落石の罠だけど回避可能。その後にいるオーガは右目にダメージ」

 

 迷路のように入り組んだ回廊の中、地図を描いたメモを見ながら歩き進む。

 

「グォォォォォォォ!!」

 

 現れたオーガが振るった棍棒を左側に避ける。

 そのまま壁抜けのトラップを使って隣の通路へ逃げる。

 

「グルルルルルルル!!」

 

 そこにいた犬が全速力で突っ込んでくる。

 落とし穴の罠を起動させるとブレーキがかかり切らなかった犬が落ちていく。

 穴の底にあった剣山に串刺しにされていた。

 

 道なりに通路を進み、最初の別れ道を左に曲がると宝箱がある。

 中身は回復ポーションと毒ポーション。

 

 持ち込んだロープを足下に張り、俺は来た道を引き返す。

 

「グォ!」

 

 オーガのいる場所まで戻って来て、発見される。

 逃走開始。

 200メートルほど走るとロープの罠の場所まで到達。

 視界の狭いオーガが転ぶ。

 

 距離を稼ぐと共に、回復ポーション→毒ポーションの順に投げつける。

 

 オーガの右目が治癒され、毒が付与される。

 

「さて、421回目。行くか」

 

 ダンジョンの最下層。

 宝物庫の一つ前の部屋。

 そこはダンジョンの主が住まう『ボスの部屋』だ。

 

 宝物庫とボス部屋は結界によって完全に隔絶されており、宝物庫に到達するにはボスを絶命させるしかない。

 

 オーガから逃げながら俺はボス部屋に入る。

 

 このダンジョンのボスは『ゴーレム』だ。

 ボス部屋に入って来た存在を警戒度(ヘイト)が高い順に攻撃する。

 

 ゴーレムの武器は大きく分けて三つ。

 右腕から飛び出たチェーンソー。

 左腕の筒から発射される炎の球。

 殴る蹴るなんかの近接攻撃。

 

 ボス部屋に入って即座に身体を右に流せばゴーレムは96%の確率で左腕の武装『火炎弾(俺命名)』で俺を狙う。

 

 ゴーレムが腕を俺に向けた瞬間、左側方向に身体を逸らす。

 

 タイミング完璧。

 俺の右側を通り抜けた火炎弾は、今丁度ボス部屋に入って来たオーガに命中する。

 

 オーガの習性は『全力戦闘』。

 相手が誰であろうが見境なく戦う。

 特に自分を攻撃してきた相手に対して強い怒りを持つ。

 

 ゴーレムはなんの力も持たない俺を脅威と認識しない。

 オーガは俺よりも直前に攻撃して来たゴーレムに怒りを持つ。

 

 徘徊型のボスであるオーガと、宝物庫の番人であるゴーレムの戦闘力はややゴーレム優位。

 しかしそれはオーガの右目が潰れていた時の話。

 

 両目が見えている今はオーガの方が強い。

 飛来する火炎弾を棍棒で打ち払いながらオーガはゴーレムに突撃する。

 

「69、68、67、66……」

 

 心の中でカウントしていた数字を声に出し、意識はゴーレムの流れ弾の警戒に寄せる。

 

 接近してからはオーガの無双だ。

 殴り、蹴り、叩き、潰し、ゴーレムが破壊されていく。

 

 1分後……

 

「10、9、8……」

 

 オーガがゴーレムを機能停止まで追い込む。

 そのまま次の狙いを定めたように俺を向き、ゆっくりと歩いていくる。

 

「5、4、3……」

「グホ……」

 

 オーガが吐血。

 口からだけではなく目や鼻、耳からも紫の血液が噴出する。

 

「2、1……0」

 

 オーガが倒れる。

 そのまま絶命する。

 逃走中にかけた毒が全身を回り生存不可能なレベルで身体組織を破壊したのだ。

 

「よしっ」

 

 迷宮の地図と罠の場所やモンスターの習性を暗記。

 その情報から最適解を導き出し、戦闘能力の不安を補う。

 それが俺の攻略だ。

 

 そのまま俺は宝物庫へ進む。

 

「やっとだ」

 

 毒ポーションをかけるタイミング。

 罠の位置。

 ゴーレムの誘導。

 

 それが全部上手くいってもいくつもの乱数(うん)が介在する。

 この戦術を考えてから25回目にしてやっと成功だ。

 

 しかしその苦労も今日で報われ――

 

 ドスンと、地面が音を立て『床が消失』する。

 

「嘘だろ、まだ罠あんの……?」

 

 そんな間抜けな声と共に俺は落下し、剣山に串刺しにされて死んだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「今日も疲れたねー」

「ポーション補充しないとな」

「道具の手入れはしとかなきゃ」

「オラ荷物持ちさっさと歩け」

「俺も早くレベルアップしねぇかな」

「さっき手に入れたスキルがさ……」

「そういやさっきSランク探索者を見たぜ」

「使えないからあんた追放」

「僕なら君にそんな思いさせないんだけどな」

 

 

 T県S区の駅前ダンジョン『混魔の回廊』。

 その入り口のゲートを中心に作られたエントランスに俺は瞬間移動していた。

 

 40年前、この世界にダンジョンが出現した。

 ダンジョン内の魔物は現代兵器が通用しないような存在も多く、人にはそれに対抗する手段はなかった。

 

 だが神が顕現したことでその状況は一片する。

 一人につき一柱の神を見初められることで加護(スキル)を得ることができる。

 

 炎の神を信仰すれば炎を飛ばしたり纏うスキル。

 水の神を信仰すれば水中での活動や水を操るスキル。

 風の神を信仰すれば飛行したり。

 

 その神に関連する特異な力を誰もが持っている。

 

 俺は死神に選ばれ『死に戻り』の力を授かった。

 

 ――ダンジョン内で死亡した場合、ダンジョンの入り口で復活する。

 

 それが俺の能力のすべてだ。

 

「また明日だな……」

 

 スマホで確認するとすでに19時を回っている。

 俺の最適解はダンジョンの状態がリセットされる12時ジャストにダンジョンに侵入することを前提としたものだ。

 

 今から潜っても攻略は不可能。

 

 だが問題はない。

 今までも数百回失敗するなんてザラだった。

 

 牛歩でいい。

 

 周りの探索者が魔物との戦いの経験でレベルを上げ、新たなスキルを得て強くなっていく中、俺は最も弱い魔物とすら満足に戦うことはできなかった。

 

 どうやら神様は罠を用いた討伐は経験とは判断してくれないらしい。

 

 俺はレベルアップも新たなスキルを得ることもない。

 

 俺はただ記憶してやり直す。

 

 おそらく世界最弱の俺でもダンジョンを攻略できる【最適解】を見つけるために。

 

「もう一回」

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