善人家とマイナーキャラで逝く人外魔境新宿決戦   作:雲丹に似たナニカ

11 / 13
善人家とマイナーキャラで逝く人外魔境新宿決戦 <捌>

 

 

呪力の因果から抜け出すというのはどういうことだろうか。 その答えを知る者は誰もいない。 ……たった一人を除けば。 伏黒甚爾によって、呪術の因果に亀裂が奔り、天元は羂索によって取り込まれた。 最後のピースであった六眼を持つ五条悟も今や虫の息。 崩れかけた因果を完全に破壊したのが禪院真希であった。 二人の死闘を見学し、自身の力にを完全に掌握した彼女は今、人類の特異点的な存在へとなりつつあった。 独特の歩行術で真希が宿儺に迫る。 宿儺は四つの目を忙しなく動かし、姿を追うが其処には残像しかなかった。 

 

 

(……ッツツ。 ……何だ、この感覚は……? ……微かな違和感。 ……だが、決して無視できないと俺の勘が告げている……!! ……良いだろう、奴が残した最後の札……。 相手としては申し分ない……!!)

 

 

(……体が軽い……頭も澄み渡っている……。 ……これがあの人の感じていた世界なんだな……。 ……でも、まだ出来る。 考えていること全部!!)

 

 

険しく表情を構える宿儺とは対照的に、真希は心底心地よさそうに笑っていた。 父親を殺した宿儺へ憎しみを向けることもなく、只々、其処には世界への歓喜があった。 空気を裂く轟音が絶え間なく響いた。 己の肉体のみで超常の術を扱う者達を凌駕する真希は徐々に別の何かへ変貌を遂げていた。 より速く、より強く、相手を倒すため、細胞単位で変身しているのだ。 見た目こそ変わっていないが、対峙している宿儺はその変貌に気付いていた。 

 

 

(!? ……コイツ、一体何処まで昇り詰める気だ……!! こいつがしているのは殴る蹴るにすぎん……!! たったそれだけなのに何故俺が此処まで追い詰められてる……!! )

 

 

先程とは打って変わり宿儺がフェイントを仕掛け、乱打戦に持ち込む。 だが、彼女は片手で宿儺の体を持ち上げ、思い切り地面に叩きつける。 受け身を取り、最小限のダメージに済ませたはずだったが宿儺の口から血が噴き出す。 だが、膝をつく暇もなく真希が大振りの右を仕掛ける。 宿儺は避けて、反撃に出ようとしたが、悪寒がして飛び退いた。 瞬間、拳が地面を割り、大きなクレーターを作った。 途轍もない力がぶつかったせいか、もはやミサイルが着弾したかのような衝撃が辺りを包んだ。 それを見た宿儺は生まれて初めて戦慄を覚えた。

 

 

(……ッツツ、化物め。 術式を使うならまだしも、己の肉体だけでこれ程の威力を叩き出すとは……。 ……クハッ、良いだろう。 ……最後の出し物が極上の肉とはな……。 ……奴も良い置物を残してくれたものだ。)

 

 

宿儺の目は輝き、己を彩る極上の肉体に熱く語りかけた。

 

 

「……良いだろう、認めてやる。 お前が俺のデザートだァ!!!!」

 

 

真希は研ぎ澄まされた刀の如く、言い放つ。

 

 

「往くぞ、宿儺。 ……此処で今度こそ終わりにしよう。」

 

 

互いに限界を越えた今、因果の外側で最後の死闘が始まる。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一流のスポーツ選手の中でも限られた者達しか入ることのできない場所がある。 その名を『ゾーン』という。 この概念に似たものが呪術界でも存在し、その名を『黒閃』という。 これを決めることが、強者への入り口となっているのは周知の事実だろう。 さて、ここで一つ疑問が生じる。 その疑問は単純で『完全なるフィジカルギフテッドの人間はこのようなものを持たないのか?』だ。 非術師ですらこの領域に入ることができるのだから、彼らが入れないわけがない。 そう考えるのが自然だろう。 今の真希は『ゾーン』に入っている。 極限の集中と快感、思い通りに体が動くことに子供のような笑みを浮かべていた。 彼女の特異的な点の一つとして、『ゾーン』を重ねられることが挙げられるだろう。 通常の人間、術師も含めて、ある程度の境界線を越えると脳がオーバーヒートしてしまう。 だがしかし、真希は違う。 その尋常ではない肉体強度から、その負荷に難なく耐えることができ、あまつさえその重なりに上限が見えないことだ。 一歩が百歩、百歩が千歩になるのが彼女である。 無限に近い強化を続ける真希に、宿儺は打つ手が無くなりつつあることを感じていた。 打撃はもとより、斬撃でさえ弾き始めている点に宿儺は驚愕を隠せない。

 

 

(……無防備で食らって、傷一つないだと……? 俺の攻撃を悉く塵のように防ぐか……。 ……マズイな。 ……純粋に手が無くなりつつあるというのは初めてだ。 ……今まで色々な者がいたが、ただ漠然と堅く、速く、強いというのはいなかったな。 ……さて、どうしたものか。)

 

 

宿儺がそう思うのも無理はない。 彼女は今や純粋なる暴力の化身といっても過言ではない存在へとなりつつあったからだ。 力が強い、たったそれだけのことだが、突き詰めればもう誰にも止められない。 刃のように鋭い突きを繰り出し、宿儺の腕が切り落とされる。 格子状に斬撃を撃つが、釈魂刀で正面から切り伏せられる。 だが、真希も時間をかけ過ぎた。 練り上げられた強者との戦闘で、何とか時間を稼ぎ、再度回復する時間を作った後、縛りありきの領域を展開する。

 

 

「……ッツツ、領域展開『伏魔御厨子』!!!!」

 

 

間一髪繰り出せたその領域は見るからに不完全だった。 御堂は崩壊寸前で、宿儺の呪力も萎えてきている。 しかし、その効果と必中は健在であった。 絶え間なく降り注ぐ斬撃は嵐のようであった。 時間制限付きであり、外殻も付いた領域からは、宿儺がどれ程追い詰められているかが分かるだろう。 鈍い痛みが襲う中、宿儺は真希の情報を探る。 しかし呪力の影はおろか、生体反応さえ感じられない。 次々に起こるイレギュラーに宿儺は思考を止めない。

 

 

(!? ……やってはいないな。 ……だとすると、考えられる可能性は二つ。 一つ目は領域展開後に奴が死んだこと。 ……だが、これは有り得まい。 手ごたえがまるでないのだからな。 ……もう一つは俺の領域でも感知できない可能性だ。 ……奴は今、無機物と同じ扱いに成っているはず。 それでもなお、俺の捌でとらえられていないのは何故だ……? ……いや、待て、俺は一体何と戦っている……? 何だ……?、何なのだこれは……!?)

 

 

宿儺の頭には違和感が残る。 時間が経つにつれて、相手のことを忘れてしまう。 そして、それすらも知覚できなくなっていく。

 

 

(……まずい、何か分からんがマズイ……!! この意味不明なダメージと状況……。 途轍もなくマズイことが俺に起こっている……!! まずはここから離れるしか……!!)

 

 

瞬間、黒い影が通り過ぎる。 そして、宿儺の横を通り過ぎたかと思ったのも束の間、四本の腕が切り落とされ地に叩きつけられていた。 その瞬間、全てを思い出した宿儺はその恐ろしい真実に辿り着く。

 

 

(ゴハッ、……そこまでいくとはな、禪院真希よ。 ……お前は呪術の因果を超越したのか……!! この世のものは何であれ、その因果内に収束する性質を持っている。 だが、貴様はその因果から抜け出したというわけか……。 俺が捉えられないのも無理はないか。 ……何せこの世に存在しないものなんて分からないからな。)

 

 

禪院真希は呪術の因果を超越した。 宿儺の考察にもあった通り、この世の理を曲げてしまったのが彼女である。 超常が存在するこの世界で呪術の因果は何よりも重要なものだ。 宿儺や五条でさえも、その法則下にあることで呪術の使用ができる。 勿論、非術師も例外ではなく、吉野順平のように条件が整えば使えるようになっている。 何であれ呪いで生きて、呪いで死ぬという因果から超越してしまったのが今の彼女である。 その結果、何が起こったのか。 この世に存在しないものとしての扱いになり、宿儺のみならず世界から一時的に消去されたのが先の結果である。 それは『究極の不意打ち』。 彼女がいないことにすら、気付けないのだからこれを防げるものはいない。 これは宿儺にとっても例外ではない。 即座に縛りを結び、腕を再生する。 四本の腕のうち、二本の腕は永久に治せないという縛りをもって、竈を発動する。

 

 

「……ッツツ、まだだァ!!!! ……『竈』、……『開』!!!!」

 

 

なりふり構わない宿儺から放たれた最後の炎。 それは途轍もなく大きなものであり、観測を続けていた禪院家の精密機械が軒並み破損してしまう程であった。 人外魔境と化すことを想定して、超遠距離から観測していたにも関わらずだ。 膨大な熱が新宿を覆ったと思った次の瞬間、まるで無かったかのように炎は消えてしまった。 真希が釈魂刀を思いっきり振ったのだろう。 彼女の周辺だけがズタズタにえぐれている。 比喩でもなんでもなく、今の彼女に切れないものはない。 もはや形容する言葉もないほどの怪力と釈魂刀の性能も相まって、異なる形の最強として完成した。 ゆっくりと自分に近付いてくる真希に宿儺は嗤いながら言う。

 

 

「……天晴れだ、禪院真希よ。 ……お前が此処までの者になるとは夢にも思わなかった。」

 

 

「……随分と余裕そうだな。 ……もうお前にできることはねえよ、さっさと死んで恵に体を返してもらうぞ。」

 

 

「……ククッ、俺にできることはないか。 ……確かにその通りだ。 切っても、焼いても食えぬのであれば、俺にできることはない。 ……だが、想定が甘いんじゃないか?」

 

 

「ハッタリだな。 ……お前の術式は私には通用しねえし、殴り合いでも私が勝つ。 恵の式神もあの馬鹿目隠しが全部ぶっ壊した。 ……もういいか?、さっさと死ね。」

 

 

真希が釈魂刀を振り上げた瞬間、宿儺はニヤリと悪辣な笑みを浮かべた。

 

 

「呪術の因果を超越したお前にもはや何の術も効かんだろう。 ……五条悟の無下限でも無理だろうな。 ……だが、お前は致命的な思い違いをしている。 ……お前の存在が新たな『秩序』を形作ったのだ。 超常を否定する、更に上の『超常』。 人類の特異点としてなったお前は『不可能を可能にした人間』として前例を生んだのだ……!!!! ……感謝しよう、禪院真希よ!!!」

 

 

宿儺の言葉に考えを巡らせ、真希の思考が一瞬遅れる。 絶対に有利なのは自分の方であるのに何故か致命的なことをしてしまった感覚。 誰よりも研ぎ澄まされた感覚を持つ彼女はそれを痛烈に感じた。 振り返る暇もないまま、宿儺が叫ぶ。

 

 

「領ォ域展開!!!! ……何度でもやろう!!!! 真希よ!!!!」

 

 

世界は黒く染まり、存在しえない領域が世界を包む。 夜の闇よりも暗いそれは新たな可能性に満ちていた。 宿儺が打った起死回生の一手はどうなるのだろうか。 答えはまだ誰も知らない。

 

 







皆様、お久しぶりです。三月から新生活が始まり忙しく過ごす方も多い筈です。作者もその一人で、本当は三月中に完結するはずだったのが長引いてしまいこのような結果となってしまいました。本当は残り二話で完結するプロットだったのですが、いろいろ考えているうちにどんどん変わっていき、もうちょっと伸びる形になりました。次回の投稿は遅くてもゴールデンウィークになると思います。そして、多くの人に読んでもらって感謝の限りです!!!!遅くなってしまいましたが今回も読んで頂きありがとうございました!!!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。