善人家とマイナーキャラで逝く人外魔境新宿決戦   作:雲丹に似たナニカ

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善人家とマイナーキャラで逝く人外魔境新宿決戦 <玖>

 

 

出来ないとやらないは必ずしも一致しない。 その想定が禪院家には抜けていた。 確かに宿儺は自身の持つ可能性を吐き出した。 不可視の斬撃や呪術的に完全な肉体、竈の炎までを使い切った。 本来であれば、受肉というカードも使い切ったので此処で敗北していただろう。 しかし、不幸中の幸いというべきか相手は禪院真希だった。 良くも悪くも無限の可能性となりうる存在が誕生してしまった以上、その可能性は平等に振り分けられる。

 

 

「(もっとも此処からは賭けだがな……)領域展開『嵌合暗翳庭』!!!!」

 

 

瞬間、世界は闇に包まれる。 粘ついたおどろおどろしい影が新宿を覆う中、真希は宿儺の狙いが読めずにいた。

 

 

(!! ……これは恵の領域……!? だが、一体何故このタイミングで……? ……ッツツ、時間が惜しい……!! ……相手の狙いが分からないけど、これ以上奴の思い通りにはさせねえ……!!)

 

 

思考を一瞬で纏め上げ、宿儺に襲い掛かろうとする真希。 だが、既にここは影という『負の世界』。 あらゆるものが影で出来ており、其処に実体はない。 だが、ぬかるむ地面にもたつく真希ではない。 強い気配がする領域の中央部に迫ろうとした間際、全方向から宿儺の『魂』の気配が増えた。 それと同時に四方八方から式神と宿儺が襲い掛かる。 それは真希への妨害対策。 どれだけ気配を隠そうと今の彼女には無駄であると悟った宿儺はありったけの呪力と集中で魂の気配まで再現した。 これは領域内だから可能な御業であり、限界を越えた証でもあった。 更に式神についても前述したとおり、領域内なら使用は不可能ではない。 だが、この攻撃は真希に確信を与えた。

 

 

(……これで確定した。 ちまちま小細工をかけてくる意味がな。 ……十中八九、奴の目的は時間稼ぎだ。 何をする気か分からねえが、……あの態度から察するに相当な自信があるみたいだな。 ……何にせよやるべきことはシンプルだ。 全部ぶっ壊す!!!!)

 

 

無限とも思える物量を一薙ぎで払いのける姿は、まさに鬼人というべきものだった。 玉犬の爪を素手で弾き、握りつぶす。 鵺の雷撃を嗤いながら払いのけ、釈魂刀で頸を断つ。 落ちてくる万象を片手で受け止め、逆に影の群れに投げつける。 大量の宿儺も本体ほどの強さはないのか、攻撃の余波でやられてしまうのも多くいるようだ。 混沌とした状況の中、研ぎ澄まされた感覚で宿儺を探り続ける真希。 凡そ二分ほど塵殺したほどだろうか、遂にそれらしき気配を捉える。 真希をもってしてもある程度時間がかかったのは理由がある。 一つ目はこの領域が影の性質を持つということだ。 影ゆえに空間の広がり方が多面的になっており、複雑な構造になっていることが原因として挙げられる。 二つ目は伏黒恵の領域が未完成なことだ。 未完成ゆえに宿儺には領域での編集余地が多く残されており、ある程度思いどおりに展開をすることが出来た。 宿儺が望んでいたのは未知の可能性。 全てを吐き出した己はもう不要で、未完成である伏黒恵の可能性が欲しかった。 だが、それでも真希は宿儺を捉えた。 結界の外殻の端っこに怪しい空間が三つある。 うち二つは万象を投げて、反応なしからポイントも絞られた。 音の壁を容易く超え、空を駆ける。 超速で駆け抜け、宿儺に詰みの一手を仕掛ける。 その空間に入った瞬間、悪寒が真希を襲う。 何より目を引き付けるのは、背骨のような大きな骨であった。 そこから神経のように細い線が広がり、何かを封じるように蝶々結びに紐が結ばれている。 真希の魂が告げている。 宿儺の狙いはあの骨だ。 そして、宿儺はあの骨の中にいる。

 

 

(なんだあれは……? ……蠢いているのか……? ……見ていて気持ちの良いもんでもねえ。 ……さっさとぶっ壊す!!!!)

 

 

その瞬間、産声を上げるが如く、円状に玉犬が出現した。 絶え間なく叫び続け、ぬるりと十種の式神が降臨する。 『玉犬』、『鵺』、『大蛇』、『蝦蟇』、『万象』、『脱兎』、『円鹿』、『貫牛』、『虎葬』。 そして、満を持して最強の式神『八握剣異戒神将魔虚羅』が邪悪な笑みで出てくる。 魔虚羅が腕を掲げた瞬間、他の式神が自らの心臓を抉り出す。 そして、それらが魔虚羅に集まり、大きく口を開ける。 真希はこの異常な儀式を止めようとするも、周りを包む結界に阻まれる。 何重にも編まれた真希専用の結界は刹那ではあったが確かに機能した。 その刹那が命運を分けた。 ぐちゃぐちゃと咀嚼し、心臓を吞み込んだあと、骨へと近付いた。 魔虚羅が跪き、伏黒のように両手を組んで、薬師如来印を組む。 瞬間、骨が蠢き、魔虚羅の背中に張り付く。 雄叫びを上げ、領域は崩壊する。 花弁のように領域の欠片が散る中、絶望の音が三度鳴り響く。 ガコンッと響くその音は、静寂に包まれた新宿に深く刻まれた。 そして、二つの影が上空から飛来する。 一つは言わずと知れた、禪院真希だ。 だが、その顔は苦虫を嚙み潰したように後悔の顔に満ちていた。 そして、もう一つは……。 天使の輪のように方陣を掲げ、高らかに嗤いながら落ちてきていた。

 

 

「……さて、幕引きとするか、禪院真希よ。」

 

 

「……………」

 

 

両者、戦意を剥き出しで相対す。 異なる次元に上り詰めた最強達が最後の死合いへと赴く。 轟音を響かせ、新宿は平安以来の人外魔境を更新する。

 

 

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今、目の前にいる存在は何なのか、あの領域展開は何だったのか。 無数の疑問が真希の頭を満たす。 筋骨隆々の肉体を持ち、頭に方陣を掲げる姿だけ見れば、それは五条悟が撃滅したはずの魔虚羅であった。 だが、相違点はいくつもある。 まず四本の腕だ。 まるで宿儺のように腹に口まで付いている。 そして所々斑に文様が入っており、蛇のような尻尾が生えている。 何より特筆すべきは言葉を喋ったことだ。 魔虚羅?は語る。

 

 

「……ククッ、感謝するぞ、禪院真希よ。 ……本来であればこのような真似は不可能だった。 何しろ術式の限界を越えているからな。 ……だが、貴様の特異性が確立された場合、話は変わる。」

 

 

「……どういうことだ?」

 

 

「前提として十種影法術は十種の式神を調伏し、使役する術式だ。 ……だが、貴様らならこの術式の欠陥に気付いているだろう?」

 

 

「……魔虚羅か。」

 

 

「そうだ。 ……断言するが、十種影法術で使役できる式神だけで奴を調伏するのは無理だ。 俺自身は御厨子があったから例外だが、千年を誇る貴様らの歴史の中で攻略法すらないのが答えだな。」

 

 

「……それが今のお前とどう関係する?」

 

 

「魔虚羅だけが異常すぎるのだ。 ……大方、貴様らの先祖がどこぞの神と縛りを結んだのだろうが、この術式の本質は使役ではなく召喚だ。 自らの力量を越えた化物と縁を結べていることが異常なのだ。」

 

 

「……………」

 

 

「俺がやったのは儀式だ。 ……ククッ、伏黒恵の領域が未完成のは好都合だったな。 おかげで俺の好きなように術式の解釈を広げることが出来た。 ……自らの肉体を影へと浸し、使いつぶした式神たちの能力を凝縮させる。 あとは領域内で模られたあの骨を移植するだけだったからな。」

 

 

宿儺の狙いは自身の再臨である。 未完成である伏黒恵の可能性を利用し、領域を卵のように定義した。 その後、領域内で式神たちと人間を捨てる儀式をし、完全体へと至った。本来であればできなかったであろう儀式は呪術の因果を超越した真希の存在によって肯定された。 この儀式の間、式神は使えないため、真希に対してはかなりリスキーなものだったが賭けに勝ったのは宿儺であった。 そして、三度方陣が回る。 その瞬間、宿儺の手に二振りの呪具が握られていた。 一つは鹿紫雲一が破壊した『神武解』。 そしてもう一つは既に喪失してしまったと考えられていた呪具『飛天』だった。 しかし、宿儺の満ち満ちる気迫に真希は一切物怖じしていなかった。 

 

 

「ハッ、……それが完全体ねぇ。 ……上等だ、返り討ちにしてやるよォ!!!!」

 

 

「……何処まで耐えられるか、見物だな。」

 

 

二つの影が激突する。 その衝撃と轟音は新たな戦いを鐘の音のようであった。 互いの拳をぶつけ合いながら、先に吹き飛ばされたのは宿儺だった。

 

 

(ッツツ、この状態でも力負けするとはな!! ……だが、先程までの差はない。 ……何、時間は俺の味方だ。 ゆっくりと極上の肉を喰らおうではないか!!!!)

 

 

(……力は私の方が強ぇえな。 ……だが、厄介なのは今の宿儺がどっちなのか分からねえことだ。 明らかに魔虚羅の性質も持っているが、戦い方は宿儺自身のものだ。 ……それにあの二振りの呪具……。 槍の方は分からないのも厄介だ。 何より魔虚羅の適応はグラデーションがあるって話だ。 三回の回転のうち、内二回は呪具生成の為のヤツだ。 あと一回は何に適応した……?)

 

 

互いに加速し、激突する。 小細工が一切ないその戦いはある意味、原始に立ち返ったかのようであった。 そこで宿儺が真希に対し、先手を仕掛ける。 腕が鋭く変化し、爪のようになる。 その技は今から六十八年後、ある少女が使っていたものである。

 

 

「『狗顎爪』!!!!」

 

 

その爪は真希に一筋の傷を付けた。 それを見た宿儺は嗤う。

 

 

「……いい技だ。 ……これでお前の命にも手が届きそうだ!!!!」

 

 

そう言って、真希に肉薄する宿儺。 出力が上がった宿儺だったが、真希も負けてはいない。 ゾーンの効果は継続中であり、釈魂刀を盾のように構える。 宿儺の連撃を防ぎながら、一瞬緩んだ隙を突き、腕を切り落とす。 両者、その場から飛び退き戦術を決定する。

 

 

(……奴を殺す牙は手に入れた。 ……後は奴の成長次第だが、これを喰らえば奴らに切り札はもうない。 ……嗚呼、この世はこんなにも鮮やかだったのだな。 ……いい加減、奴ら禪院との決着を付けよう。)

 

 

(あの爪……、恵の玉犬のヤツだな。 さっき取り込んだ式神の能力を自身に反映できるって訳か……。 そして、残りの適応についても検討がついた。 ……恐らく、私の存在についての適応だ。 宿儺にとって即死になりかねない不意打ちを防ぐこともできるし、私の防御を抜いてきたのもそれが理由だな……。 生半可な攻撃では取り込んだ『円鹿』で再生されちまう……。 ……成程、我慢比べってか。 ……お互いに成長できなくなったときが最後っていう、最低のレースだ。 ……やるしかないか。)

 

 

「さぁ、始めよう!! 禪院真希よ!! お前らとの因縁は此処で終わりだ!!!!」

 

 

愉悦に満ちた宿儺に真希は笑って、短く答える。

 

 

「私が勝つ。」

 

 

たったそれだけだったが、両者にそれ以上の言葉は不要だった。 瞬間、局所的な地震が発生した。 巨大な力がぶつかり合い、新宿からは極大の黒い稲妻が観測された。 宿儺が飛天を振るい、その地は嵐に包まれる。 遠雷が鳴り響き、重い雨が降り注ぐ。 激変する環境に目もくれず、二人は互いに力を引き絞る。 次に仕掛けたのは真希だった。 上段からの釈魂刀の振り下ろしを宿儺は右手の退魔の剣でいなす。 そして、空いた手の神武解を大きく振り、空から絶雷を振り落とす。 だが、真希は雷を片手で払いのけ、空をかけて宿儺に立体的に接近する。 再び方陣が回り、宿儺の目が増える。 様々な角度から真希を感知し、間一髪、一撃を防ぎきる。 防戦一方の宿儺は更にカードを切る。

 

 

「……ハハッ、これでもまだ力負けするか!! この俺が!! ……ククッ、使わせてもらうぞ『鵺』!!!!」

 

 

その瞬間、あの男を思わせるように宿儺の体が紫電に包まれる。 かつて、仮想の鬼神とまで恐れられた術師は今や古の再臨儀式によって、真の鬼神となった。 先程までとは次元の違う熱量と呪力に真希が少しだが押され始める。 拳を互いに交わし、相手の体に叩き込む。 だが、アジリティが段違いに上がった宿儺を相手に、真希の被弾が増え始める。 だが、パワーは未だ真希の方が上だ。 防御の腕ごとへし折る勢いで殴りこむ。 その鬼気迫る表情に宿儺は嬉しそうに、更にギアをあげる。

 

 

「ッツツ、良い、良いぞォ!!!! 次だァ、『貫牛』+『万象』、『獄天錘』!!!!」

 

 

凄まじい速度で宿儺が真希に着弾する。爆発的な直線の加速と巨大な質量に受け止める彼女の地面が大きく陥没する。 彼女の腕からメキッという音が聞こえ、吹き飛ばされる。 少しでも回復の時間を稼ぐため、空中をジクザクにかけて的を絞らせまいとする真希だったが宿儺は逃さない。 

 

 

「これは避けられるか? 『脱兎』+『貫牛』、『月貫針』!!!!」 

 

 

宿儺が肉体を切り分け、その一つ一つに『貫牛』の性能を付加させる。 差し詰め、即席のショットガンであり、真希でも完全には避けられず、腹に一発重いものがめり込む。 貫通はしなかったようだが、鈍い音を立てて更に吹き飛ばされる。 だが、怪物殺しの顔は死なず。 空を掴み、体勢を整えると一度に十度ほど虚空を踏みしめ、宿儺に突進する。 分かっていても防げるものではなく、飛天と神武解で作られた疑似的な轟雷の嵐を突破し、宿儺の半身をえぐり抜いた。

 

 

「クハッ、嗚呼、それでいいィ!!!! ……だが、足りん、禪院真希よ。 その程度の皿では俺の腹は満たされん。 『円鹿』!! ……ふぅ、それもう一度だ。」

 

 

白い煙を立てて、何も無かったかのように宿儺の体が再生した。 まるで映像を逆再生しているかのようであった。 対して、真希は衣服が血に染まり始めていた。 傷はふさがり始めているが、息が切れ始めている。 優勢なのはどちらか、決まりつつあった。 その時である。

 

 

「……お前、やっぱり強ぇな。 ……殺したと思っても平然と起き上がってくる、ホント参っちまうわ。 ……でも、生意気な後輩の為に皆が命を懸けたんだ。 ……今なら分かるよ、宿儺。 ……あんたもう手がねぇだろ。 ……正真正銘、それがお前の最後の切り札だ。 ……何も思い残すことはねぇ、返してもらうぞ、その体!!!!」

 

 

天与呪縛で強化されるのは身体能力だけではない。 呪術的に重要な第六感、その中でも曖昧な『直観』。 それにまでブーストがかかる。 その真希の直観が言っている。 これが宿儺の最後の姿だと。 だからこそ、真希は最後のリミッターを外す。 体から蒸気が立ち上る。 体温の急上昇によって、汗が蒸発したのだろう。 だが、その光景は異常であった。 宿儺も笑って返す。

 

 

「……ほう、其処まで分かるのだな。 ……認めよう、これが最後の姿にして、理想の姿だ。 魔虚羅と一体化し、再臨によって神性を帯びたこの肉体は心地良い。 貴様を喰らい、その全てを蹂躙してみせよう。」

 

 

「ようやく腹が決まったよ。 ……どっちが先に潰れるかなぁ、宿儺!!」

 

 

それが二人で交わす、最後の言葉になった。 パンという小気味良い音を立てて、宿儺が合掌を真希に向ける。

 

 

「『穿血』!!!!」

 

 

加茂家の秘蔵の技を皮切りに最後の戦いの狼煙が上がる。 身を軽く動かし、最小限の動きで躱した後、万力の踏み込みで宿儺に接近する。 宿儺の飛天と釈魂刀がぶつかり合う。 その音は龍の悲鳴のようであり、耳をふさぐような甲高い音を立てて、激突し合う。 どちらも特級に分類される呪具であるが、その性質上有利なのは釈魂刀であった。 魂を観測する真希から放たれる斬撃は、飛天を少しずつ削りながら宿儺を追い込む。 互いの目の網膜すら見えそうな距離で、火花が散る。 限界を越えた真希に負けまいと宿儺も更に極限に踏み込む。

 

 

(もはや此奴に雷は効かん!! ……ならば、神武解を外付けの燃料とするまでよ!!!! ……ククッ、感謝するぞ、迅雷の如き男よ。 ……お前の技、余すことなく使わせてもらおうッッ!!!!)

 

 

「『鵺』よ!!」

 

 

神武解を外付けのバッテリーとして、鹿紫雲一のように紫電を纏う。 だが、その効率と出力は彼を超えており、迅雷を身に纏った宿儺は必死に真希に追いつこうとする。 狗顎爪で彼女の肉を裂き、纏う紫電で打ち抜く。 それでも、彼女は倒れない。 それどころか更に加速する。

 

 

「アアアアアアアアアッッッッ!!!!」

 

 

絶叫し、刀と拳を繰り出し続ける。 超至近距離でのインファイトが無限のように続く。 肉を潰し合い、骨を砕きながら、互いに止まらない。 そんな中、宿儺が回復の限界に達しようとしたため一度引こうとした。 だが天与の暴君は狂気の笑みを浮かべ相手を逃がさない。 一切の迷いもなく、宿儺の足を踏み砕くと其処に釈魂刀を突き刺した。 鮮血が大地を朱く染め、辺りに死の匂いが立ち込める。

 

 

(!? この女、正気か!? ノータイムで己の足に突き刺し、俺を逃がさない判断……。 何としても此処で俺を殺す気だな……。 だがッ、これで貴様の得物は無くなった!! 俺の前に屍を晒すが良いッ!!)

 

 

彼女の狂気に呑まれず、宿儺は飛天と退魔の剣を真希に突き出す。 飛天が腹部に刺さり、夥しい黒血が流れだす。 しかし、彼女の覚悟はここからだった。 とどめを刺そうとする退魔の剣を口で受け止め、歯で噛み砕く。 嗤いながら、大きく呼吸をし、飛天が抜けないよう筋肉を引き締める。 そして、思いっきり腕を宿儺の心臓に入れる。 ブチブチと肉が千切れる音がした。 

 

 

「……ガッ、貴様ァ!!」

 

 

「ここで死ねッ、宿儺ァ!!!!」

 

 

口から大量の血を吐き出し、真希は宿儺の肉をえぐり続ける。 自らの血を啜り続け、重い体を動かし続けた。 だが、音は鳴る。 その音を聞いても真希は諦めなかった。 しかし再び己を槍が貫いた時、まるで糸が切れた人形のように地面に崩れ落ちた。

 

 

「……本当に、本当に至福の一時だった。 ……禪院真希よ、この体に生まれなおして最初に貴様と戦えたことを誇りに思う。 ……人間の可能性を内包した貴様の在り方は決して忘れぬ。 ……さらばだ。」

 

 

「ホンマやね、真希ちゃん、よう強くなったわ。 これでもう三歩後ろ歩いてもらわなくて済みそうや。 ……んで、君は何で勝った気になってるんや?」

 

 

瞬間、クレーターができるほどの力で宿儺が叩きつけられる。 ……自らの手で殺したはずの男が其処にいた。

 

 

「禪院家の家訓、教えてやるわ。 たった一つ、『諦めんな』。 ……悪いな宿儺、俺らは諦めが悪いんや。」

 

 

「……俺ら? ……ッツツ、まさk」

 

 

「トロいわ、宿儺ァ!!!!」

 

 

男によって上空に打ち上げられ、空を満たすは拳の龍。 風を切るその音は龍の鳴き声のようであった。 無数の龍が宿儺を撃ち付け、辺りが土煙に包まれる。

 

 

「ガハッ、……ククッ、クハハハハハッ!!!! ……もしろい、最高に面白いッ!!!! ここにきてフルコースか!!!! 

食べがいがあるというものよッッ!!!!」

 

 

「『禪院集合!!!!』ってな、……ちょいやかましいか?」

 

 

「……ちょいどころではないぞ、直哉。 ……我らは一度負けているのだ、気を引き締めろ。」

 

 

「堅いなぁ、遊び心とかないんか?」

 

 

「あの……直哉さん、この場で遊び心は不要では?」

 

 

「……あのな蘭太クン、正論は時に人を傷つけるんやで。」

 

 

その声に真希は混乱する。 

 

 

「……何でお前らが? ……此処に、ガハッ……。 ……それにこの気配、直哉、お前……。」

 

 

歪な気配を真希は即座に感じ取る。 それはもはや人間のものでは……。

 

 

「……イメチェンやね。 ……ごめんな、一人で戦わせて。 ……俺らが不甲斐ないばかりに。」

 

 

「謝んな、私はもうガキじゃねえ。 ……仲間だろ。」

 

 

「……直哉、真希はもう一人の術師だ。 ……認めるべきだろう、なぁ蘭太。」

 

 

「えっ、……まぁ、そうですね。 真希さんはもう立派な一人の術師です!!!」

 

 

「……フフッ、そうか、術師か。 ……さて、戦るか宿儺。」

 

 

笑いながら三人は呪力を練り上げる。 今、此処に鬼神を討つ術師は集まった。 さぁ始めよう、現世で行われる千年越しの最強の鬼退治を。 そこにいるのはただの鬼に非ず、禪院の歴史を乗っ取り、己を神将と同質化した真の鬼神なれば。 呪いの歴史を断つことは出来るのか、禪院家が歴史に決着を付ける時、ついに来たれり。

 

 

 




 


今回もお読みいただきありがとうございました!!! 何気に過去最長でした。 ……多分。 若干、長くなってしまいましたが完全体の魔虚羅を自分なりに書いてみたかったのが今回のメインでした。 プロットを使い果たしたので、次回がどうなるかは私も分かりませんが、自分が面白いと思えるものを書いていこうと思いました。 多くの人が読んでくれて、感謝感激です!!! このような形で読んでもらっているあなたと繋がっていることがとても幸福に感じます。 何だかんだ後書きも長くなってしまいましたが、また次回会いましょう!!!
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