善人家とマイナーキャラで逝く人外魔境新宿決戦   作:雲丹に似たナニカ

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善人家とマイナーキャラで逝く人外魔境新宿決戦 <拾>

 

 

既に宿儺に敗れ、魔境から置いていかれた者達が其処にいた。 幾度もの死線と限界を越え、もはや立ち上がる気力もないはずだった。 だが、其処には結果だけがある。両の手に明王のように呪具を持ち、全ての式神と同化したことで宿儺の体は白く変色していた。 だが、そこには神々しさが立ち込め、方陣も相まって、現世に舞い降りた天使のようであった。しかし、そんな神聖さとは程遠い、悪辣な笑みを浮かべて、宿儺は思考を始める。

 

 

(……この気配、偽物ではない。 正真正銘、本物だ。 ……だが、解せんな。 ……もはや気力だけで立ち上がれるような傷ではなかっただろうに。 ……!!、そうか、術式か。 ……それにこの禍々しい呪力。 ……奴め、人を捨てたか。)

 

 

禪院直哉の投射呪法にはデフォルトで『録画』機能が付いている。 本来、この機能は戦闘時には必要ない。 しかし、戦闘前に対象者のバックアップを取っておくことで他者にその状態を反映することができる。 五条悟に手を加えているのもこの術式によるものである。 なお、反映可能だったのは五条悟のみだったが、黄泉返りによって一時的に術式対象を拡張したのが今の状況である。

 

 

「……クハッ、良くこの場に立っているものだ。 だが、貴様らに何ができる? 今の戦いを見ていれば、加わる余地など皆無だと赤子でも分かるはずだが。」

 

 

「アホ言うなや、お前もう領域使えんやろ。 領域使いに雁首揃えるのは悪手やが、式神に近い存在になったお前に出てこない道理はないわ。 ……それに切り札ぐらい、あるに決まってるやろ。」

 

 

(……とはいえ、このまま時間をかければ、宿儺が回復してまう。 戦力も揃った状態で宿儺を倒せるチャンスはこれが最後や。 ……腹は決まった。 ……ほな、はじめよか。)

 

 

「……さて、年貢の納め時や。 千年前の老害はさっさとあの世に逝ってもらわなあかんで。 ……往くぞォ、宿儺ァ!!!! 耐えられるもんなら耐えてみろッッ!!!!」

 

 

「……不遜な餓鬼め、今日が貴様らの最後の一日となるだろう。 ……纏めて殺して見せよう!!!! 来いッッ!!!!」

 

 

全てを懸けた最後の戦いが幕を開ける。 宴もたけなわ、どんなものにも終わりは訪れる。 何であれ、万物は盛者必衰の理に属する。 果たして宿儺はこの理から逃れられるのだろうか。

 

 

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昆虫の羽には様々な機能が搭載されている。 例えば、トンボの羽である。 表面に微細な凹凸があり、これで空気の流れを操作して揚力を増加させる。 そこから生み出される飛行能力は人類には再現不可能といわれる代物であり、一つの進化の極致である。 風を切り、新宿に一匹の蟲が舞う。 それはただの蟲に非ず、一つの境界を越えた疾き蟲である。 宿儺をもってしても追いきれない、その姿は異形と化していた。 背中には四本の大きな翅が生え、加減速に耐えられるよう最適化された飛行虫のような形状。 空気の壁に耐久可能な人知を超えた甲殻、……禪院直哉は人を辞めていた。 通常、術師が呪霊と化した際、生前の自我はほぼ消え去る。 しかし、何事にも例外は付き物だ。 彼だけはアッチ側への渇望を死の間際も捨てることなく、天文学的な確率で冥途から蘇った。 ちなみに銃弾の雨の戦略をとったのにも理由がある。 一つ目は宿儺に対し、有効だといえる策が限られていたためだ。 二つ目は蘇りのためだ。 あの時、宿儺に切断されて死んだのではなく、銃弾に晒され、直哉は死んだのだ。 無論、術師の体が銃弾なぞにやられることはそうそうないが、直哉は本能から呪力を解除し、微かな希望に命を捨てた。 音の壁を容易く超え、真希に迫る速度で宿儺に接近する。 風が通りすぎたと思った瞬間、宿儺の体が穴だらけになる。 直哉に対して、適応を始めようとするがそこへ甚一と蘭太の追撃が入る。

 

 

(……ッツツ!!!! 成程、他の奴らを連れてきたのは俺の適応を逸らすためだったのか!! ……原則として魔虚羅の適応は一つずつ……。 ……だが、おかしい。 何故奴如きの攻撃が俺に通用する? ……ッツツ、そうか、直哉の拡張術式か!!)

 

 

龍が新宿を舞い、奈落に落ちる。 その中心に宿儺はいた。 甚一の攻撃はもはや今の宿儺には通用しない。 だが、投射呪法の拡張術式『映現』によって、術式速度を底上げしている。 威力は速度と重さ。 直哉の助力によって速度の定数が爆発的に増加している。 だが、宿儺はこの状況に違和感を覚える。

 

 

(拡張術式で術式威力を上げているのは理解できる。 ……だが、奴自身の加速を行いながら他者への術式付与だと? ……いくら何でも有り得ん、何か種があるはずだ。 それもこの区域内に!! ……ッツツ、この密度……!! ……身動きがッ、取れん!!!)

 

 

暗雲立ち込め、新宿に雪が降り始める。 細々と降る雪は新宿の熱量に耐えきれず、所々解けながら降り注ぐ。 その中に混じって、光輝きながら降り落ちるものがあった。 龍の嵐に飛天で応戦しながら、宿儺はその正体に辿り着く。

 

 

(……これは、粉? ……!!、そうか、鱗粉か!!)

 

 

直哉は自らの呪力の形状を一部、粉状に変換し、大気中に散布。 そして付着したものを捉えるセンサーとしての役割を備えながら、術式起動の起点としていた。 そして先程から、方陣が回らないことに対しての問いの解にもなった。 

 

 

(……この地を覆うほどの鱗粉。 鱗粉には毒があると聞く。 俺に毒は効かないと分かっているからか、針の男のように浸食型の形態を取っているのか……。 恐らくはこの鱗粉によって、適応のタイミングを散らされているのだろう……。 ……この調子だとまだ来るな。 ……では、こうしてみようか。)

 

 

方陣が回る。 しかし、甚一の術式は何とか通用している。 鱗粉が弾かれ、飛天によって辺りの鱗粉は根こそぎ吹き飛ばされる。 直哉がその違和感に気付く。

 

 

(……? ……何で方陣が回ったのに、甚一クンの術式が効くんや……? ……狙っとるな、間違いなく。 ……さっきから不気味なほど受け手に回っている。 ……あの宿儺が攻めないなんて有り得るか……?)

 

 

直哉に疑念が渦巻く。 魔虚羅の適応にはグラデーションがある。 適応が終わっても、解析は続き、更なる最適解を探し続ける。 禪院家に不足しているのは魔虚羅の適応の順番である。 択を増やし、宿儺に選択を迫るまでは良かった。 しかし、宿儺が逆に受け手に回り、何に適応しているか分からなくなってしまった以上、次の動きが分からなくなってしまった。 宿儺相手に時間経過は詰みとなる。 かといって、下手に攻めれば食い破られてそのまま、敗北してしまう。 宿儺の狙いが分からず、直哉の中に迷いが生まれる。 そんなとき、戦場に一声が上がる。

 

 

「直哉ァ!! 次は俺だァ!! ……俺ごとで構わんッ、打ち出せェ!!!!」

 

 

瞬間、上空にいた甚一がミサイルのように発射される。 甚一は亡き弟の忘れ形見に思いを馳せる。 

 

 

(……すまん、甚爾。 ……俺は結局、お前を救うことが出来なかった。 ……あの顔を見ると思い出すよ、お前がガキの頃を。 あの頃は本当に馬鹿やったよなぁ。 ……何にもしてやれなかった分際でおこがましいかもしれないが、お前の兄で入れたことを誇りに思うよ。 ……あの日の続きとして、せめて恵君だけは救ってみせるよ。 ……見ててくれ、甚爾)

 

 

命を懸けた縛りによって、生涯最高の呪力が甚一を包む。 もはや数えきれないほど繰り返した構えを取る。 大きくを息を吐き、最後の息を吸う。 瞬間、宿儺と目が合う。 宿儺には甚一の願いが分かった。 『勝負しろ』と。

 

 

「……ククッ、良いだろう。 『貫牛』+『鵺』+『大蛇』+『万象』+『脱兎』、『八岐大蛇』!!!! ……俺が手ずから屠った仮想の神だ!!!! さぁ、魅せてみろ、禪院甚一!!!! 貴様が英雄と呼ばれているのならッ!!!!」

 

 

其れは日本神話にも登場する怪物である。 もっともこの場合は厄災といったほうがいい方であり、かの大英雄『須佐之男命』をもってしても正面からの戦闘は避けた真の化物である。 宿儺が顕現した大蛇は自身が戦った時の状態を精密に再現していた。 八つの山と谷を跨るほどの大きさであり、巨大な質量が今、一人の人間に飛び交っていた。 化物は吠え掛かり、超速で甚一に迫る。 そんな状況に甚一は焦ることなく、嗤って応えた。

 

 

(……面白い、生涯最後の仕事が化物退治とはな。 ……それも歴史に名高い八岐大蛇とは……。 ……あちらが魅せてくれたのだ。 こちらも魅せねば不作法というもの……。 ……咲かせて見せよう、我が最期の大輪の華を!!!!)

 

 

深呼吸をし、拳を握る。 そして、命を懸けた縛りを結ぶ。 呪力が爆発的に高まり、体には力が満ち満ちる。 その全ての力を右手に集約し、術式を起動する。 その時、甚一は気付く。 極めていた術式に、登り切った山に更なる頂きがあったことに。 そして今、其処に辿り着いた。 恐らくこの先、彼以外にその地に足を踏み入れる者はいないだろう。

 

 

「……既にこの身は死者なれば。 ……往くぞォ、宿儺ァ!! 極ノ番・裏 『撲天緋星』!!!!」

 

赫き火の玉が一直線に空を裂き、巨大な質量同士がぶつかった。 その瞬間、上空で凄まじい爆発が起きる。 甚一が繰り返した技はもはや隕石のようになっており、直哉の加速も付いた今、八岐大蛇をあっという間に撃滅した。 たが、勢いは止まらず、宿儺に向けて星が落ちてくる。 その光景に宿儺は感動と殺意を以て応える

 

 

「……クハッ、アレでもまだ足らぬか!! この大喰らいめ!!!! ……良いだろう、扇と同じく俺自身で屠ってやるッ!!!!」

 

 

宿儺の体に呪力が纏われ、星を砕く準備が整う。 その時だった。 蘭太の瞳が宿儺を捉える。 だが、以前の蘭太では宿儺を止めきれない。 蘭太もまた限界を越えた。 術式は使えば使うほど、より深く体に刻まれる。 脳がその負荷と熱に耐えられるよう成長するからだ。 蘭太が天才といわれる理由はもう一つある。 それは術式の刻まれる速度が異常に早いことだ。 今、眼前に立つのは史上最強の術師。 強敵との邂逅に、彼が成長しないわけがない。 その才能は留まることを知らず、呪術の秘奥へと足を踏み入れる。

 

 

「……極ノ番『透刻千』!!!!」

 

 

極ノ番、『透刻千』。 その効果は疑似的な時間停止である。 厳密に言えば、対象者の一切を停止できる技である。 知覚も、思考も、呼吸も、その全てが蘭太の眼によって制御される。 発動条件は両目で相手を視認すること。 破格ともいっていい発動条件と効果である。 本来であれば、才ある術師が一生研鑽して届くかどうかの境地にある技である。 しかし、蘭太はその才能と極限の集中、そして、禪院真希の超常性によって奇跡的にその場に足を踏み入れた。 文字通り、全てを見通す蘭太に捉えられた宿儺は一切の防御をすることが出来ず、甚一の渾身をまともに食らった。 その刹那、甚一に自身の極致を褒められた声が聞こえて、意識を落とした。 一つの星がまた墜ちる。 巨大な孔が新宿に刻まれ、星の熱が周囲を満たす。だが禪院家の攻撃は止まらない。 轟音と共に後方からの一斉掃射が行われる。 今の宿儺に効果があるかは不明だが、ないよりはマシであろう。 現代では決して聞くことのない爆音が響き渡る。 古今東西、あらゆる弾丸が宿儺に向けて放たれる。 炸裂弾、榴弾、徹甲弾、おおよそ個人に向けられることのない対物砲弾が連射される。 また方陣が回る。 『円鹿』の治癒能力をフル稼働させているのか、傷はみるみるうちに治っていく。 そして、今度は直哉が攻める。

 

 

「まだやッ、領域展開!!!!」

 

 

持てる力を出し切る。 知略も体力も呪力も、命も。 生命を燃やしつくし、宿儺に休む暇を与えまいとあらゆる者が動きだす。 決着の刻は間もなく訪れるだろう。 悪鬼を討ち倒し、彼らは明日を切り開けるのか。 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

攻め手を欠かせば死ぬ。 全員がその意識を持って、宿儺に最後の攻撃を仕掛ける。 その最後の締めは現禪院家当主である禪院直哉の手に委ねられた。

 

 

「まだやッ、領域展開『時胞月宮殿』!!!!」

 

 

禍々しい呪力が新宿を深淵に誘う。 子宮のように臓腑が広がり、大きな眼が宿儺を見つめる。 何処までも続く暗闇が辺りを満たす。 伎芸天印を結び、直哉は現在の状況を整理する。

 

 

(思うたとおりや、奴は今、領域を使えない……!! ……領域の脱出も宿儺ならあり得るが、今の受け身な態度からして、それはありえへん。 となると、領域のバフ効果と術式効果に全ブッパや!! ……ここまで繋いで貰ったんや、勝ってみせるッ!!!!)

 

 

「……往くで、宿儺。」

 

 

直哉の足元から刀が出現する。 異形の体でそれを持ち、宿儺に飛び掛かる。 ミリ単位のズレもなく、一振り一振りが必殺となる太刀筋は彼を思い出させた。

 

 

「!! この剣捌き……!!、嗚呼、良いぞ……。 まさしく、禪院扇の太刀筋に違いない!!!!」

 

 

宿儺は確信する。 自身が認めた最高の剣士の剣捌きと相違ないことを。 

 

 

「ぶっちゃけ、ダサいと思ってたんや、術師が得物使うの。 全ては扇クンの二番煎じにしかならへんと思うてたからな。 ……でも、ずっと見てきた。 ……俺の、俺達の最高の剣士の太刀筋を!!!! この領域内は俺の思い描いた動きが全部出来る!! ……使わせてもらうで、『焦眉之赳』!!!!」

 

 

浄魔の焔が再び灯る。 直哉の術式で空気を圧縮し、高温の炎を生み出すことで疑似的な扇の術式を再現したのだ。 多元的な軌道を描き、宿儺に切りかかる。 宿儺は扇の太刀筋を完膚なきまでに記憶しているため、直哉の斬撃も捌けるはずだった。 しかし、それは同じ骨格から振るわれた時の場合である。 今の直哉は異形の蟲である。 そして、直哉のコマ打ちのセンスは凄まじかった。 一切経験したことのない肉体下での術式運用に即座に適応し、あまつさえ達人の剣捌きを自らの状態に合った風にアレンジしたのだ。 領域内で自身の認知能力が上がっているのもあるが、即座にその行動に踏み切れる度胸と才能は禪院家の当主に一切恥じないものだった。 二人の間で激しい火花が散り、三度の爆発が起きる。 人体にはない、有り得ない柔らかさの関節から繰り出される斬撃。 人間の処理能力を超えた、超速の反応速度。 今、直哉は宿儺を押していた。 致命傷だけは避けながら、宿儺は言葉を投げかける。

 

 

「……ククッ、月宮殿か……。 これほどの馳走を用意しているのだ、月の宮といっても過言ではないな。 ……だが、まだ終わりじゃないだろう……?」

 

 

方陣が回る。 直哉に時間はない。 適応の対象が自身の術式でないことは度重なる攻撃によって、証明された。 そして、直哉の第六感が告げている。 『次の回転をされてしまえば、終わりだ』と。 同時並行に物事を処理しながら、直哉は最後の手に打って出る。

 

 

「……これでも足りひんか、……そうか。 ……しゃあない、次で最後や。 ……かけっこしよか、宿儺。」

 

 

瞬間、直哉の姿が消える。 突然の急加速に宿儺は一切反応できなかった。 大きく吹き飛ばされながら、微かに声を聞いた。

 

 

「……って言っても、この場合は蹂躙やけどな。 ……アンタが何狙ってんのかは分からんけど、俺の術式に適応しないならそれはそれで好都合……!!!! 遠慮なく足蹴にさせてもらうわ!!!!、……この場合は虫蹴か?」

 

 

禪院直哉は止まらない。 加速を続け、ピンボールのように領域内を駆ける。 投射呪法の術式の加速限界は人間であれば亜音速、正史の呪霊状態であってもマッハ三程度が限界である。 だが、今ここにいるのは羽化を遂げた完全なる蟲。 マッハ三を超えても止まる様子は見られない。 衝撃波を撒き散らし、宿儺を蹴って蹴って蹴りまくる。 

 

 

(お前がいくら硬かろうと、どっかで限界があるはずや!! ……これでも死なへんか、ええで。 ……ならもっと上げるだけやッ!! ……俺の最高速度はこんなもんやあらへんッ、もっとッ、もっとやッ、!!!!)

 

 

直哉はまだ止まらない。 マッハ十を超えても更に加速する。 あれほど硬い甲殻にも罅が入り、血が少しずつ噴き出す。 その血が軌跡となって赫い流れ星のように領域を彩る。 それは直哉の命の色であり、決死の覚悟の表れでもあった。 脳は過熱状態で、いつ死んでもおかしくない状態にある。 しかし、それでも、……それでも止まらない、止まれない。 最後の希望の星となって、宿儺に死を届けようとする。 直哉が最高速度に到達するまで残り五秒。 暗闇の世界で伏黒は一つのメッセージを受け取った。 魂に響く打撃に宿儺は微かな失望を覚える。

 

 

(!? ……これは、……俺の魂に……? ……いや、伏黒恵の魂に響かせているのか。 ……愚かな、さっき貴様がどうやって敗れたのかを忘れたのか……? 既に奴の心を折り、浴によってトドメを刺した。 奴が起き上がることはもうないというのに……。 ……しかし、この加速……。 ……俺の適応が間に合うかは五分五分といったところだ。 ……良いだろう、悉くを喰いきってやろうッ!!!!)

 

 

既に宿儺の体の四割が消し飛んでいる。 しかし、それではまだ足りない。 直哉の速度が今、頂点に達する。 その速度は地球の重力圏すら突破する速さだった。 第二宇宙速度に達した直哉の速度は約四万三百キロ。 マッハに換算して、約三十二マッハである。 直哉の質量から換算するともはや小型の隕石クラスの威力となり、宿儺に衝突する間際、周囲の温度は極熱に達する。 空力加熱によるプラズマ化で数万度になった温度によって、宿儺の肺は焼け爛れ、腐り落ちる。 蓄えられた膨大なエネルギーが一気に熱や衝撃波に変換され、宿儺にぶつかる。 もちろん熱源である直哉も無事ではなく、体は溶け、所々身体が炭化して無くなっていた。 目も焼け落ち、自身を守るものはない。 そよ風すらも生き地獄となるような状態で直哉は吠えた。

 

 

「これが俺の最高速度やッ!!!! さっさと死ねや、ドブカスがぁ!!!!」

 

 

極熱、衝撃波、そして絶大な質量が宿儺に襲い掛かった。 この絶望的なエネルギーを直哉は必死に領域内に留めた。 直哉の努力がなければ、今頃日本地図に東京周辺はないだろう。 今の領域内は実質的な鍋である。 外殻を硬質化し、超高速の衝突によるエネルギーをぶつけた後、生じたエネルギーを余さず熱に変換し、空気を圧縮する。 質量、熱、圧力の三つの要素で宿儺を殺し切る算段を見事実現してみせた。 直哉の第二宇宙速度到達から五秒経過。 領域が崩壊する。 原初の地獄ともいえる環境を維持できるのは五秒が限界だった。 外殻が風に流され、辺りに舞い落ちる。 ……そして、上空から影が降り落ちる。 ガコンッ、ガコンッ、今ここに宿儺への勝機は潰えた。 何処までも悪辣な笑みを浮かべて、宿儺は言う。

 

 

「……嗚呼、実に良い呪い合いであった。 俺がしていたのは禪院家への『存在適応』だ。 貴様らが生み出す技、可能性、その一切が今の俺には何も通じぬ。 なりふり構わず、俺の命に手を掛けようとするお前らの存在は千年生きた中でも初めてだ。 ……特に最後の貴様の攻撃には流石に肝が冷えたな。 ほんの刹那、適応が遅れていたならば、今此処に立っているのは逆であっただろう。 ……良くぞ、良くぞ、其処まで昇り詰めたものだ。 ……誇れ、お前は強い。」

 

 

魔虚羅の適応は原則として一つ。 そして、召喚された魔虚羅の適応にはある条件があった。 それは存在適応までに段階を踏むことだ。 しかし、現在適応の選択権は宿儺に委ねられているため、彼の中に二択の選択肢が生まれた。 術式か存在か。 宿儺は後者を取った。 まさしく逆転されるはずも無い完全なる詰みの一手。 それを終えた宿儺か告げたのは自身をあの手この手で追い詰めた禪院家への賞賛。 それを受ける直哉は地面に横たわっているが、目だけは宿儺を見据えていた。 その光景を見ればどっちが優勢かは明らか。 ……勝負は決したかのように見えた。 その時だった。 直哉は言葉を紡ぐ。

 

 

「……お褒めに預かりどーも。 ……でも結局負けちゃ、意味ないか。 ……完敗やね。 ……ククッ、けど。 ……やけど、やっぱお前は偽物や!!! ……昔、甚爾クンが言ってたんや。 ……『お前みたいに隙がない奴には、緩急つけて偽のゴールをいくつか作ってやるんだ』ってな。 その適応は『禪院家』へのものやろ? ……勝負はこれからやろ。」

 

 

「……何?」

 

 

宿儺は辺りを包む違和感に即座に気付く。 領域の残滓が消えていないのだ。 領域の欠片は風によって辺りを舞い、二人を包む。

 

 

「確かに今のアンタに対して、打つ手はもうないやろな。 何をしてももう勝たれへん。 ……でも、偽のゴールには誘導できたみたいやね。 ……今の俺の体は呪霊に近い、それゆえに術式の回復も並じゃない!!!」

 

 

呪霊の体は負の感情そのもので出来ているため、体の再生も人間に比べて早い。 実際、花御などは腕の欠損をものともせず戦闘を続行していた。 術式の回復もアッチ側に至った直哉なら不可能ではない。 術式の開示によって、更に術式回復速度が上がる。 目まぐるしく変わる状況に宿儺は考察を開始する。

 

 

(……まだ何か、策があるのか……? だが、もはや貴様らの手は何も効かん。 ……それに、この欠片は……?)

 

 

宿儺は彼らの狙いが分からず、思考が渦巻く。 その時、遠方にて真希から渾身の力を込めた投擲が成される。 人知を超えた力から打ち出されたものは神を殺すための槍である。 飛来する槍に宿儺は気付けない。 直哉の領域の残滓がブラインドとなっており、脳内の思考によって微かに外側への意識が削がれていたからだ。 槍が直哉の領域残滓に接した瞬間、一気に加速する。 黒い雷を纏い、天上から槍が舞い落ちる、 

 

 

「……あの時はどぉもぉ~。 ……敗北から立ち直るのも楽じゃあねぇんだよ。 ……悪ぃが、貫かせてもらうぜぇ!!!」

 

 

それは槍に非ず。 一本の針が宿儺に牙を剝く。 冥途から戻った者に引導を渡すのは同じく地獄を見た者である。 宿儺の適応に真希と針は入っていない。 真希はその超常性から、針の方はその秘匿性から。 両者が禪院家のジョーカーであった。 間際になって、ギリギリ宿儺は反応できた。

 

 

「!? お前まで来るとはな、針千鈞よッ!!! ……だが、まだ俺のh、ッツツ!!!」

 

 

刹那、避けようとした宿儺の足が影に沈む。 その時、宿儺の脳内に伏黒の声が届く。

 

 

「……俺が、俺を一生許すことはないと思う。 ……俺が津美紀を殺した。 ……けど、直哉さんから一つ言葉を貰った。 『お前は何だ?』ってな。 ……俺は呪術師だ。 ……死んで楽になるのではなく、生きて苦しむことにするよ。 ……呪いに生きて、呪いに死ぬ。……じゃあな、宿儺。」

 

 

「伏黒恵ィ!!! どの面下げて、生きるだと!!! ふざけるな!!!」

 

 

その一歩はあまりにも大きな隙だった。 伏黒に激高するのも刹那、神殺しの槍が宿儺を貫いた。 体から力が抜け、宿儺の存在が伏黒の体から溶け出していく。 必死にそれを抑えようとするが無駄のようだった。

 

 

(領域内で魂に触れられた時だ……!! 伏黒恵の魂に問いかけるのと同時に、魂の境界線にマーキングを付けていたのか……!! そして、後は外側の存在に近い、真希と針を使うことで俺にトドメを刺したのか……!! ……まさか、最初から全部がブラフだったというわけか……? 扇も甚一も、終いには直哉自身も……?)

 

 

「その顔やと気付いたようやね。 冥途の土産に教えたる。 ……全部が全部想定してたわけじゃない。 やけど、決断したのは真希ちゃんを見てからや。 確実に当てられるタイミングを作るのと、魔虚羅の適応を空かすのが目的やったちゅーわけや。 呪術師は嘘ついてなんぼ♥ってな。」

 

 

「クソッ、まだだ。 こんなものでは……!!」

 

 

「命乞いでもしてみるか? 呪いの王サマさんよ。」

 

 

「……舐めるなよ、俺は。 ……俺は最後まで呪いだぞ!! ……決して、お前らに屈しはせん!!!!」

 

 

その言葉を最後に宿儺は消滅した。 今此処に呪いの王、両面宿儺の祓除は成された。 様々な術師の命を以て、千年を廻る、永き戦いに終止符が打たれたのだ。 そして同時刻、死滅回遊の主催者である夏油傑の討伐も確認された。 死滅回遊首謀者、『夏油傑』『伏黒恵』、両者の無力化を確認。 十二月二十四日、現時刻を以て死滅回遊平定とする。 

 

 

 




 

今回も最後までお読みいただきありがとうございます!! 羂索は宿儺が来るまで、圧倒的な戦力差を前に粘っていましたが、宿儺が敗北したことによって一瞬の隙が生まれ倒されてしまいました。 今回は普通に過去最長の文字でした。 危うく一万字までいきそうでしたが何とか入れきることが出来ました。 次回はエピローグですが、作者の書きたいことは全部描き切ったので満足です。 そして、カルナイ様、誤字報告ありがとうございます!! 毎度本当に助かっています!! 最後になりましたが、今回は沢山書いたので、良ければ感想下さるとめちゃめちゃ嬉しいです!! 是非待ってます!! また次回会いましょう!!!!
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