善人家とマイナーキャラで逝く人外魔境新宿決戦 作:メバチマクド
新宿での人外魔境は禪院家によって、終止符が打たれた。 死滅回遊の首謀者である羂索も高専術師を中心とした、波状攻撃による一瞬の隙をついた攻撃によって、無力化に成功した。 ただし、失ったものも多かった。 長き歴史の中でも最強の世代といわれた、禪院扇、禪院甚壱の死亡。 並びにこれまで長きに渡って禪院を支え続けた屋台骨、禪院長寿郎をも戦死している。 彼らの活躍もあり、何とか伏黒恵の救出に成功したが、その傷は大きかった。 それでも禪院家は止まらない。 荒廃した日本を復興するために、高専と協力し、文字通り過労死寸前まで働いた。 こうならないよう禪院直哉主導のもと、ある程度の仕事を終わらせていたはずだった。 しかし、羂索が仕掛けた諸外国からの日本人への拉致問題、甚大な被害が出た東京の復興など一介の組織では太刀打ちできない難題がそこにはあった。 苦労が水の泡となった状況に項垂れつつ、無言で処理していく。 現代の闇が感じられる光景が広がっていた。 そして、何とか仕事もひと段落付いた夏、二人は墓参りに行っていた。
「思いのほか長かったな。 今日も暑ちぃし、……何度あんだ?」
「三十二度だって、お姉ちゃん。 ……それにしても私達は仕事しなくてよかったのかしら?」
「私達が見ても分かんねぇもん。 それに『若者から青春を奪うのは何人も許されない』って、あの馬鹿目隠しも言ってただろ。 濃密な時間だったけど、私らまだ高校生だからな。」
「確かにそうね。 余りに世間の高校生と違うから感覚が麻痺してたみたい。 ……普通、ライフル持ってるJKなんていないわよね。」
「ハハッ、違いねぇ。 ……っと、そろそろか。」
長い山道を歩き、開けてきた其処には禪院の英傑達が並ぶ墓標があった。 昔から受け継がれてきた墓石の数は膨大であり、苔に覆われたものもあった。 その中に、最近建てられたと思われる墓があった。 その内の一つに二人は近付いた。
「……ようやく、来れたよお父さん。」
真衣が告げるその先には禪院扇と刻まれた墓石が建っていた。 さっき誰かが来たのか花が供えられており、線香の煙も燻っていた。 黙々と墓参りの準備をし、墓前に線香を手向ける。 水をかけ、刻まれた文字をじっと見つめた後、手を合わせ祈りを捧げる。 しばらく経った後、真希が言葉を紡ぎ始める。
「……勝ったよ、宿儺に。 あの呪いの王に私達は勝ったんだ。 ……誰か一人欠けてれば、負けていた。 そういう戦いだった。 ……まぁ、私も一回負けちゃったんだけど、しっかり借りは返したよ。 ……一回、諦めたんだ。 ……これだけしてもらって、何にもできない自分に出来ることなんて何もないって。 でも、何とか立ち直って、宿儺に勝てた。 ……もう私達は大丈夫だ、安心して逝ってくれ、父さん。」
「……私から言うことはあんまりないかな。 最後にお父さんに良い所見せれたし。 あれがなかったら、最後の技も当たらなかったと思うからね。 ……でもやっぱ寂しいな。」
それは娘から父へ向けられる等身大の気持ちであった。 それでも死者は戻らない。 死は誰に対しても平等であり、絶対的な終わりだからこそ生が輝く。 最後にもう一度祈りを捧げ、戻ろうとしたその時だった。 照らされた日の光が映し出した幻影だったのかもしれない。 しかし、二人の目にぼんやりと像を結び、声を届けた。
「何度でもいうぞ、私が戦えたのはお前達がいてくれたからこそだ。 ……その姿を見て、確信した。 ……明日を往けるお前達ならば、どんな困難があろうとも乗り越えていける。 ……さらば、我が人生の誇りよ。」
暑さで脳がやられたかもしれない。 熱の蜃気楼が像を形作ったのかもしれない。 それでも二人は確かに見たのだ。 自分らの、禪院家最高の男の姿を。 思いのほか早口に聞こえた声に笑いつつ、踵を返して帰路につく。 其処にはもう前を見据える二人の若者がいた。 その足取りに迷いはなく、自信に満ちた姿だけがあった。
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ふと目が覚めた。 あの後はどうなったのだろうか。 確か、体を取り返して……。 そこからの記憶がない。 包帯でグルグル巻きになった自分の体を見て、ギョッとした目をした。 その時、病室によく知った顔が入ってきた。
「!! 伏黒、目が覚めたんだな!! とりあえず、先生呼んでくるね!!」
持ち前の運動能力で一目散に飛んで行ったのは、同じ一年生でもある虎杖悠二であった。 そして、医師から軽い診察を受けた後、虎杖と言葉を交わす。
「……伏黒、ごm」
「お前のせいじゃねえ、宿儺のせいだ。 ……まぁお前は納得しないかもしれねぇが、あの惨状を招いたのは俺のせいだ。 ……本当は逃げてしまいたかったんだろうな。 でも、そんなのは俺には許されない。 生きて苦しむ罰がある。 ……多くの人を殺して、虫のいい話かもしれないが、生き方は決めたつもりだ。」
「……そっか。 ……ありがとな、伏黒。」
「……ああ。 ……あの後、どうなったか聞かせてもらえるか?」
「……宿儺は禪院家の人たちに倒されたって。 本当は俺がケジメを付けなきゃいけないことだったんだけど、扇さんって人が言ってくれたんだ。 『誰がどう言おうと君の責任ではない。 これは長きに渡って放置してきた呪術界の問題でもある。』ってな。 そして、俺らに背中を任せてくれたんだ。」
「背中? ……!、羂索か……。」
「あっちに羂索まで行ったら流石に禪院家の人たちでもキツイらしいから、絶対に逃がさないよう皆で戦った。 ……それでも、強かったよ。 乙骨先輩に、東堂、日下部さんもいたけどそれでもギリギリだった。 閉じない領域の情報が欠けてたら負けてかもしれない……。」
「………………」
虎杖は更に言葉を続ける。
「でも、何はどうあれ俺らは勝ったんだ。 ……今はゆっくり休んでくれ、伏黒。 …………あんだけ殴って、斬られて、本当に大丈夫なの?」
「頭は少しボーっとするが問題はない。 いつまでもこんな調子じゃ居られない。 すぐにでも直してみせる。 ……この呪力、……まさか……?」
其処には自身が見知った気配と呪力があった。 隠す気があるのか、ないのか、はっきりとしないその出で立ちは何よりも雄弁にその男を語っていた。
「はい!! オッパッピー!! ……ってバレバレじゃん、つまんないの~。 そう思わない?、野薔薇。」
「全部お前のせいだよ!! ……せっかく紅一点の復活だっていうのに、全然釈然としないじゃない!!」
相変わらずのその姿に虎杖は笑い、伏黒は俯く。 もう二度と会えないと思っていた人が目の前にいるのだから無理もないだろう。 伏黒は話す。
「……五条先生、その……。」
「あー、いいからそういうの。 僕最強だし、全く気にしてないから。 恵のお父さんを殺したの僕だし、お相子ってことで。」
「いえ、そうではないです。」
「「「そうじゃないのかよ!!!!」」」
全員が息を合わせたかのように突っ込む。 伏黒は止まらず、話す。
「まぁ正確に言えば、それもあるのですが、……ん?、俺の親父を?。 ……あぁ、そういうことですか。 ……フフッ、アハハハ。」
彼らしくもなく、顔を緩め笑い始める伏黒。 そんな彼の姿に二人はドン引きする。
(……え、怖……。 何でその話で爆笑に繋がるのよ。 やっぱり呪術師ってどっかでイカレてんのね。 南無阿、南無阿。)
(……やっぱり、ちょっとおかしくなちゃったんだなぁ。 こりゃ、復帰は伸ばした方がいいのかも。)
二人が好き勝手に考える中、ようやく笑いが収まった伏黒は五条に言葉を投げかける。
「五条先生にも、そんな気遣いがあったんですね。 ……さっきから、全然喋らないですけどもしかして……。」
「……………………」
そんな五条の様子に閃いたように野薔薇は叫ぶ。
「伏黒!!!! これ照れてるわよ!!!! 目隠し剝ぎ取るわよ!!!!」
五条は微笑みながら、言葉を紡ぐ。
「……仮に僕が照れてても、君たちには何にもできないでしょ。 残念でした、無限バリアでぇす~。」
「ハッ、やっぱ馬鹿目隠しね。 今の私達には、虎杖『さん』がいるのよ!!!! お願いします、兄貴!!!!」
そんな釘崎の悪ノリに乗っかって、虎杖が腰を上げる。
「勿論だとも!!!! 領域展開!!!!」
「はいはい、領域展開……。 ……って、マジで出来てるじゃん!!!!」
呪術の極致を遊びで出してくる虎杖に五条は仰天し、とっさに逃げようとする。 勿論、逃がすまいと彼を追いかける三人達。 異例の成長を遂げた生徒たちから、五条は逃げ切れるのか。 必死に逃げながらも、自分の背中を押してくれた親友に言葉を贈る。
(……ずっと、……ずっと南に行きたかった。 全部が壊れたあの日、……あの頃の青には絶対に戻れないと分かっていても、心の何処かで願ってたんだ。 ……傑、お前に会えないのは寂しいよ。 ……でも、案外北も悪くないな。 見たことのない景色を見るのは、趣があるってもんだよ。 ……とはいっても、戻りたい気持ちが無くなったかと言われればそんなことはない。 ……ただ、もう少し歩いてみようと思うよ。 ……待っててくれ、傑。)
今でも青は澄んでいる。 それは愛でもあり、呪いでもある五条悟の本質であった。 されど、彼は未来に一歩踏み出した。 賑やかな喧騒の中、日常は進んでいく。 それは道理だろう。 何故なら彼らは呪術師である前に、一人の人間なのだから。
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「終わったなー、ホンマ疲れたわー。 ……やっぱ労働はアカンわ、全部アカン。」
「何も終わってませんよ、見えますかこの書類の山。 ……もしかして、本当に見えてない? ……目が焼け落ちたから……?」
すらっとした背丈に、髪を後ろに結った少年が話しかける。 少し背が伸びたのか、逞しくなった彼の名前は禪院蘭太。 禪院家が誇る天才にして、次世代を担う人材の一人であった。 宿儺戦の後、自分の殻を何個も破った彼の出で立ちは別人であった。 一人の人間として、呪術師として周りとは一線を画す彼は、その後の事務処理においても力を発揮した。 猫の手も借りたい状況で、事務処理が出来る彼を逃がしておくわけがなかった。 幾度の書類の山を片付け、ひたすら業務を遂行し続ける。 その姿はまさに社会の歯車であった。 しかし、そんな日々を繰り返しても仕事は終わらない。 当主のふざけた言葉に半ば混乱しながら言葉を投げかける。
「本当に勘弁してくださいよ……。 いくら術師が頑丈だからって、睡眠は必要ですよ……。」
「その割には反転でうまくやっとるな。 ……悟クンのアレを真似したんか。 効率は兎も角、よくもまあそないなことができるなぁ。」
「脳だけに対象を絞れば、案外呪力消費も安く済みますからね。 ……って言っても、あの人みたいにずっとは無理ですけどね。 精々、三日ってとこですかね。」
「十分や、ホンマえらい強ぉなったなぁ。 ……にしても、これどないしよか? ……皆、グロッキーやし。」
「僕らが最後の砦ってわけですね……。 ……そういえばその体、本当に大丈夫なんですか?」
「そんなこと言われてもなぁ、……前例がない以上、何ともいえへんよ。 まっ、異常はあらへん。 それに恵クンもいるし、問題はないやろ。 今の俺の立場はもう当主でもあらへんがな。」
「確かに恵さんは優秀ですが、直哉さんがいなくなった時の抜け穴は大きいですよ。 ……まだまだ元気でいてもらわないと困りますからね!!!!」
そういって、明るく笑う蘭太。 地獄の作業はまだ終わっていないにも関わらず、花が咲いたような笑みを見せる。 直哉は困ったような顔で言葉を返す。
「……左様でっか。 ……よし!!、もう今日の仕事は終わりや!! 何日この部屋から出てないと思とんねん!! 考えたら段々腹立ってきたな……。 蘭太クン、皆に号令かけや。」
「え? 号令ですか? ……差し迫った任務は無い筈ですが、一体何用で?」
「祝勝会や。 ……思えば忙しすぎて、わいわいやる暇なかったやろ?」
「確かにあの殺人的な業務量を考えると、休める時間なんて無かったですね。 ……宿儺は作戦があったから何とか朧気ながら先が見えていましたが、こっちは文字通り無限ですからね。」
「せや。 まぁ、一段落付いたとこではあるし、一回パーッとガス抜きする必要もあるやろ。 ……扇クンや甚一クン、長寿朗クンの弔いも込めてな。」
「……はい、本当に、本当にお世話になりましたから。 もっともっと強くなって、アッチで会った時に褒めてもらえるよう頑張ります!!」
「……そうやね、情けない姿は見せたくないもんな。」
そんな蘭太の姿に直哉は自らの姿を重ねる。 脳内によぎるのは、いつも酔っぱらっていた父の姿だった。 目を瞑り、言の葉を紡ぐ。
(……親父、しっかりケジメは付けたさかい。 ……俺の、親父の変革は無駄じゃなかったで。 何せあの宿儺を倒したんだからな。 ……ホンマに強かったで、流石史上最強って感じや。 俺なんて一回死んだからな、……そう考えると、俺結構エグイな。 ……これから先、どないなるかなぁ。 ……なんか、もう一回ぐらい厄介事が起きそうな感じもするけど……。 これにて、一件落着ってことでええかな?)
本来、一話で死んでしまう者達は何の因果か異なる道を辿った。 人外魔境へと足を踏み入れ、呪いの王にその可能性の全てを示して見せた。 ある者は誰よりも鮮烈にその生き様を刻み、ある者は涙と血を拭いながら立ち上がった。 禪院家の皆が命と気力を尽くして、見事宿儺を撃滅してみせた。 騒がしい音ともに禪院の屋敷に一人、また一人と人が増えていく。 死闘の後は宴と相場が決まっている。 卓に豪華絢爛な料理が並び、各地の秘蔵の酒が並ぶ。 一族全員が揃い、和気藹々と空腹を満たしていく。 失ったものは決して小さくはない。 彼らの笑みの裏には涙もあったのだろう。 それでも、人は前を向く。 どんなに無様でも、どんなに悔しくとも前に進み続ける。 それこそ、人の在り方だろう。
(……案外、戦う理由なんて単純なものなのかもしれんな。 ……この光景を守るために俺は、禪院家は必死だったのかもしれへん。 ……フフッ、呪術師らしくもないかもしれないけど、一人では絶対に宿儺には勝てへんかった。 常識なんて俺達には関係あらへんがな。 ……まぁ、まずは前の料理に舌鼓をうつことにするで!!!! 疾風迅雷や!!!!)
そういって術式を起動し、最高速度で食べ始める直哉。 残像すらできている姿に真衣はドン引きし、真希は爆笑する。 笑い声が屋敷内を満たし、彼らの饗宴は続く。 ……彼らの道はこれからも続く。 多くの困難も試練も彼らなら、禪院家なら乗り越えていけるのだろう。 何故なら彼らは善人家なのだから。
今回も最後までお読みいただきありがとうございます!!!! まずはこの作品を読んでくれた貴方に心からの感謝を送りたいです!! 完結までこんなにかかるとは正直、思っていなかったです。四月中に終わる筈でしたが、新生活での苦労や課題で伸びてしまいました。 そしてカルナイ様、最後まで誤字報告ありがとうございました!!!! こんな自分の小説を細かく見てくれる人がいるというのが、本当に暖かかったです!! ±0様にも大変助けられました、ありがとうございます!! 私はスレッタのようにやりたいことリストのようなものがあり、その中の一つに小説を書くというものがありました。 呪術廻戦は私の人生で一番好きなジャンプ作品であり、かけがえのないものです。 折角書くのだから、自分の本気を以て書こうと思い、何とか此処まで走り抜けました。 一つの作品を描き切るって本当に大変でした。 改めて、作家や漫画家の人の凄まじさを感じます。 私は受験生だったのですが、国語は大いにハーメルンで培った力に支えられ、何とか無事に受験期を終えることが出来ました。 お世話になった恩返しも込めて、作品を描いたのですが、こんなにも多くの人が見てくれるとは思ってませんでした。 本当に有難い限りです。 最後になりましたが、皆さんが少しでも面白いって思ってもらえる時間を作れたのは本当に得難い経験でした!! 大変って言っておきながら、また書きたいと思ってる自分が居るのにも驚きです!! 次回はエヴァを書くと思います!! 改めて、この作品を読んで頂きありがとうございました!! 感想お待ちしております!! もしご縁があれば、また会いましょう!!!!