善人家とマイナーキャラで逝く人外魔境新宿決戦 作:メバチマクド
今回長いので、時間があるとき是非!!!!
ある日のこと、二人の男が部屋にいた。 長身で白髪の男から発された言葉に彼の思考は一瞬止まる。
「リハビリ?、随分急な話やな。 ……気持ちは有難いけど、正直荷が重いなぁ。 新しい世代の芽吹きを待つってゆうてなかったっけ?」
「それはそれ、これはこれだよ。 体の調子を確かめたくてさ、少ーしお願いできない?」
体を伸ばしながら、話す五条に直哉はその裏の本音を見抜く。
「本音は?」
「思いっきり暴れたい!!」
「嘘やろ、これが成人を迎えた大人の姿なんか……? ……大体、自分の強さを理解して来とるんか? 俺なんてちっこい虫やで。」
「僕が最強なのは自覚済み!!!! ……その上で、直哉にお願いしてるんだよ。 ……それに見る感じ、一方的には終わらなさそうだけど。」
蒼き眼を直哉に向け、静かに返答を待つ。 絶対強者から向けられる眼差しに竦むことなく、嫌そうにしながら答えを返す。
「……ハァ、まぁ俺も戦ってみたいと思ってたしな。 ……ええで、但し縛りは結んでもらうで。」
その返答に五条は顔を輝かせる。
「フフッ、助かるよ。 縛りは命を取らないことでいいかな?」
「それで頼むわ。 ……本当に悟クンと戦うのか。」
「ビビってんの?」
「……ここは敢えて、『勝つさ』とでも言っとくで。」
「ふーん。 ……楽しみにしてるよ、直哉。」
かくして、二人の決戦は結ばれた。 リハビリ戦と銘をうっているが、双方にそんなつもりは一切ない。 やるからには本気で。 直哉は獰猛な笑みを浮かべながら、その日に向けて策を考える。 一方の五条は対照的に、飄々とした笑みで嬉しそうに歩く。 頭にあるのは宿儺と戦った時の高揚感。 自分は斬られて負けてしまったが、あそこまで追い詰めることができるのは歴代の術師を含めても自分しかいない。 言い訳になるかもしれないが、お互いの手札が分からなかったら、勝っていたかもしれない。 全身全霊を出し切った筈だった。 満たされた筈だった。 ……その渇きは無くなるはずだった。 死から黄泉がえった彼の体は活力に溢れ、動きのキレは増すばかり。 何度か大技を出すことでその衝動を抑えてきたが、流石に限界がきた。 例えるならば、最高の技術を持つ音楽家が多くの観客を前にしながら、演奏ができないことに近いだろう。 空港を経て、ほんの少しながら丸くなった五条は直哉に感謝の念を抱く。
(無茶を言ってるのは百も承知。 ……発散のために生徒を殴るのは流石の僕でも躊躇われるしね。 ……ほんと、よくできた後輩だよ。 何だかんだ受けてくれるのは優しいな。 ……全力で行かせてもらうよ、直哉。)
部屋を去った五条に続いて入ってきたのは、禪院きっての好青年である蘭太だった。 直哉は冷や汗を流しつつ、約定を話す。
「……は? ……今、なんて言いました?」
「……えっと、そのやな。 ……その、五条クンと決闘を……。」
「馬鹿なんですか……? 人類史最強の術師に何でそんな戦い挑むんですか……? 宿儺倒したからって調子に乗ってませんか?」
静かに詰める蘭太に直哉はタジタジになりつつも何とか答える。
「……まぁ、その、はい。 ……それに関してはその通りです……。 ……でも勝算はちゃーんとあるで、安心してや!!!!」
「……駄目だ、本物の馬鹿だ。 ……まぁ、どうせ言っても聞かないでしょうから好きにやってください。 ……次、無断でやったらシバキますからね、真希さんも呼びます。」
「……返す言葉もないで。」
持ちうる手札でかの白き龍を喰らう方法を互いに考える。 意外とノリがいい所もあるのが蘭太なのだ。 あーでもないこーでもないと策を捏ねくり回しながら、夜は更ける。 無理難題に頭を抱えながらも、その勝算について考えを巡らせる。
「色々考えたけど、これがベストやなぁ。 正直、これ以外勝ち筋がないと思うで。」
「五条さんって、足切り性能高いですよね。 もし五条さんを倒すってなったら、単純に有効打が存在しませんね。 ……クソボスすぎません?」
「近距離が強い代わりに遠距離が強いみたいなもんやからなぁ。 ……ま、初見ならワンチャンあるやろ。 流石に手札割れてたら、誰も勝てへんわ。 ……一発決めてくるか。」
「……勝てますよ、きっと。」
思いもよらない蘭太の言葉に直哉は驚愕する。
「……何や、今日は優しいな。 ……任せとき、絶対勝つで。」
その言葉を最後に作業を切り上げる。 来たる日までひたすら試行を続け、練り上げる。 無限を穿つのに必要なのは究極の一。 己の過分を削ぎ落し、叩きに叩いて築き上げる。 さぁ始めよう、至高の呪術を。 これは宿儺を喰らい終えた、彼らのデザートだ。 互いに甘味を啜り、灰色の日々に色彩を与える。 現代最強と迅き蟲が激突する。
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某月某日 東北のある地方に二人の男が集まっていた。 互いに笑みを浮かべているが、片方は既に冷や汗をかいていた。 宿儺以来となる呪い合いに互いのボルテージは最高潮に達していた。
「まずはお礼をいうよ。 わざわざ時間を割いてくれて、ホントに感謝だよ。 ……で、僕を倒すための準備は整えてきた?」
「できる限りやらせてもろうたよ。 ……んじゃ、戦ろか。」
瞬間、直哉の姿が搔き消える。 術式を起動し、最高速に達するまでおよそ十秒。 展延を発動しながら、五条に殴り掛かる。
「!! ……へぇ、使えるんだ。」
加速し続ける直哉の一挙手一投を完璧に見切りながら、その体術の強さに驚く五条。 右のハイキックを皮切りに左右のフックを繰り出す直哉。 それらを完璧に防ぎきり、五条は無下限を解く。
(!?、このタイミングで切ってくるんか!! ……上等や、返り討ちにしたるッ!!)
「舐めてるわけじゃないよ、……ただ少し、じゃれたくなっただけ!!!!」
脳のリソースを全て格闘戦に回し、直哉に仕掛ける。 先程とは次元の異なる動きに直哉は防戦一方だった。 一発一発が対物ライフル以上に匹敵する五条の攻撃は、直哉に現代最強たる所以を見せつけた。 永遠にも感じる時間の中、直哉が最高速に達する。 音の壁を容易く越え、乱打戦を仕掛ける。 空気は弾け、轟音を立てる。 最高速に緩急をつけながら、戦闘を繰り広げる直哉に五条は舌を巻いていた。
(……いいね、可変式の体術は見たことがない。 ただの殴り合いなら、僕や宿儺みたいに完成系がいる。 だからこそ、術式の特性を活かした体術を独自に組み立てたって訳ね。 ……ただ、こんなものじゃないだろう?)
五条もギアを上げ、直哉に拳を繰り出す。 未知の戦術に対して、気分が上がった五条に直哉は防戦一方になる。 蒼を分割し、多次元的な動きを引き出しながら人外の軌道を実現する。 およそ三十個ほどに分割し、辺りに散らばった蒼はそれぞれが独自の軌道を描きつつ、直哉の思考を狭める。 即死になりかねない攻撃をいなしつつ、直哉は加速を止めない。
(ホンマやってられんわ。 強すぎるやろ、この人。 ぶっちゃけ、他の術式でも最強になってたと思うぐらいの完成度……!! 術師が持つべき才能を全て凝縮したのが、『五条悟』という訳か……!! ……ま、どんな奴にも弱点はある。 最強であっても、無敵じゃないことは宿儺が証明したからな。 ……弱点がないなら、作ればええ。)
遠隔の術式起動によって、五条の元へあるものが飛ぶ。 即座に反応した五条は反射的に破壊し、その策に嵌る。 其処にあったのは、直哉の情報の凝縮体。 血、肉、骨、臓器など呪術的にあらゆる情報をもつものをこの期間の間にありったけ集め、凝縮した。 反転術式でいくらでも直せるとはいえ、その方法はイカレている。 しかし、直哉には問題に成り得ない。 その程度で隙を作れるのだったら、いくらでもやってやろう。 腹を捌き、あらゆる臓腑を捧げよう。 狂気に満ちた策は即座に五条の視覚を奪った。
(!!、これは……。 ッツツ、六眼の性質を利用したのか……!! 情報過多で僕の視覚を封じ、後手に回させるため……? ……そんなんじゃ、止まらねえよ!!!!)
並の術師の臓腑で作られたものでは、ここまで機能しない。 しかし、今の直哉は呪霊に近い、特級の呪物である。 そこに書かれる情報は少なくなく、五条の眼前にはあらゆる情報が羅列されている。 術式はマニュアルでオフにできても、六眼は不可能である。 だが、この程度では最強は揺るがない。 蒼を起動し、即座にその不利を無くそうとした。 瞬間、直哉が言の葉を紡ぐ。
「領域展開『時胞月宮殿』」
既にかの龍は獰猛な蟲の巣に囚われているのである。 牙を覗かせ、致命の一撃を叩き込む。 全てが罠であり、全てが毒である。 さぁ、下剋上を始めよう。
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直哉には拡張術式として『映現』と『保存』がある。 前者は対象者の行動をプログラムのように再生する。 後者は結果の保存。 直哉は五条を倒すためにこれらの効果を組み合わせた。 保存されたデータを映現で完璧に再生する。 一度指定してしまえば、そこにロスタイムは無く、投射呪法で加速させてさらに底上げすることができる。 ……領域展開に関しても不可能ではない。 事前に領域展開した時の動きを『保存』しておけば、『映現』を使うことでその展開速度を爆発的に高めることができる。 そして、今の五条は無意識ではあるが、情報過多に置かれており、コンマ数秒ではあるが対応が遅れる。
(!? ここで領域……!! ここまでの動きが早すぎる……!! ……ハハッ、思いを巡らせる余裕がないのは宿儺ぶりだよ。)
領域に対する最も有効な手段は、領域を展開すること。 呪術師の常識であり、最も理に叶った方法ではある。 それゆえに、手が読みやすい。
(そんなことは百も承知や。 十中八九、ここで領域を展開してくることは確信してた。 ……でも、ここまでくれば、俺の方が一手早い。)
五条が領域を展開しようと思考した時には既に直哉の領域が展開しきっていた。 勿論、ここで五条が展開すればあっけなく塗り替えされるだろう。 ……展開できればの話だが。
「遅いで、悟クン♥」
瞬間、領域内で爆発的に加速し、マッハ三十二に到達する。 映現による、ノータイムの加速は一切合切を吹き飛ばす。 この領域は必殺ではないが、必中ではある。 五条の無下限が通用する訳もなく、結界内は極熱に包まれる。 プラズマによる雷、肺を焼く焔、骨肉を砕く塵粉。 宿儺に繰り出した原初の炎が五条を容赦なく襲った。 関東圏を吹き飛ばす威力に相当するその技は確かに通用した。 が、それが維持できた時間は刹那もない。 紫色の光が辺りに立ち込め、外殻を粉砕する。 その不可解な状況に直哉は疑問を隠し切れない。
(ッツツ、何で領域が……!! あの場で悟クンができる事なんて何も無かったはず……。 思考の一歩先を行ってたのは俺や!!!! なのに何故……? ……!!、そうか、置き玉か!!!!)
分割した蒼は消えていない。 五条が仕掛けた保険として、周りに置いておいたのだ。 そして常軌を逸した呪力操作によって、元々あった蒼を赫に変換するという神業を繰り出す。 六眼による原子レベルの呪力操作と、冥途から拾った副産物がこの技を可能にした。 直哉にとって、理不尽なことはこれらが無意識で行われたことだ。 五条の戦闘本能が最適解を即座に導き出す。 この技は致命の一撃とならなかった。 ……次の手を打とうとするも時は既に遅く、先程よりも大きな茈の極光が直哉の体を包みこんでいた。 万物を無に帰す無限の一撃は直哉にとっては余りあるもので……。
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長き呪術の歴史の中で、最強の威力を誇る茈が蟲にぶつけられた。 外殻を壊すことが主目的だったとはいえ、その衝撃は辺りを無に帰した。 土煙が上がる中で一つの影が揺らめく。
「……ッツツ、流石にキツかったって、あれ? もしかして直哉死んじゃった?」
五条は段々と焦りを抱き始める。
(ただの決闘で御三家の人間を殺しちゃったら、呪詛師認定決定じゃん……。 確かに僕も楽しくなって、ついムキになっちゃったとこもあったけどさぁ……。 ……ハァ、期待してたんだけどなぁ。 ……おかしいな、縛りを破った罰が来ない。 ……ッツツ、まさか!?)
「どこ行くの♥」
五条の肩に手がかかり、無防備の肉体に強烈な一撃が入る。 先程とは比べ物にならない力に、血を吐きながら吹き飛ばされる。 何とか姿勢を整えた五条は目の前の異形を蒼き眼で捉える。
「……良かったよ、本当に殺しちゃったと思ったからさ。 ……でもおかしいね、ダミーって訳でもない。 術式でそんなこともできるのかな?」
「……さて、どないですかねぇ。 ……ま、一回死んだってのは嘘やないで。 ……あんなもんをポンポン撃てるようになってたのは流石に驚きやね。」
(……『どっちか』ねぇ。 目の前にいるのは確かに直哉なんだけど、違和感が残るな。 ……恐らく、これが切り札に繋がってる可能性が高いな。 六眼による予測の範囲外にあるし、さて何が出てくるかな……?)
思考を纏め上げ、蟲に飛び掛かる。 煙が晴れた其処には、あらゆる昆虫を混ぜた存在がいた。 トンボのような翅が生え、著しく発達した四肢。 空気を感知する触覚、超高速の衝撃に耐えられる甲殻などデカくて速そうな蟲がいた。 その大きさは五条を超えており、二メートル程あるだろう。 再び肉弾戦を仕掛ける五条に対抗するように、蟲も足を踏み出す。 それだけで地面が陥没し、地響きが起こる。 蒼による加速がされた打撃を繰り出すがびくともしない。
「……これがアッチ側か。 ……やっと、やっとや。 ……往くで、悟クン。」
瞬間、直哉の姿が消え、五条の体は吹き飛ばされていた。 すぐさま体勢を整え、迎撃に回るが其処に姿はない。 虚空を抉り、重工戦車のような一撃を叩き込む。 ボールのように吹き飛ばされる五条はこの異常事態を分析する。
(……カハッ、幾ら何でも強すぎないか……? 体術というかもうそんなレベルじゃない、一体何を……?)
「上から目線でスマンけど、宿儺や悟クンは人としての中では一番強い肉体を持ってると思うで。 恵まれた体格、絶大な負荷に耐える脳、術式に必要な狂気……。 どれもこれもが、天下を取るに相応しい才能や。 ……才能ちゅうより、異能やな。 ……生憎、今の俺は虫さんなんでな。 蟻さんは力持ちっていうやろ?、もし人間サイズになったなら、車を持ち上げることも可能なんや。 ……人の域を超えた肉体を更に呪力で強化すれば、分かるやろ?」
「確かに馬鹿げた力だね。 ……でも、そこまでの力があるなら何で今まで使わなかったんだい?」
「……時間稼ぎか、まぁええわ。 虫の体になるのは色々面倒でな、余りやりたくないねん。 まぁ、そうしないと勝てないから使わなかっただけなんだけやねんけど……。 ……傷も治ったみたいやし、もうええか?」
体を伸ばしながら、話を聞き終えた五条。 自分の為にそこまでしてくれた事に、感謝を覚えつつ、本気を出す。
「ご丁寧な解説をどうもありがとね。 ……単為生殖だっけ?、お、その顔を見ると当たりっぽいな。 ……成程、アッチから持って帰ったのは『虫の特性』っていったとこかな。 ……どんどん行こうか!!!!」
無限が逆巻き、緋色に変わる。 花火のように弾け、辺りの一切を吹き飛ばす。 だが、尋常ならざる速さをもつ直哉にはかすりもしない。 それを見た、五条は趣向を変える。
「じゃあ、これはどうかな? ……術式反転『赫』!!!!」
先程と変わったのは、その速度だ。 威力は少し弱まっているが、その攻撃速度が比べ物にならないものとなっていた。 瓦礫が直哉の体を掠めながら、拡張術式について検討をつける。
(……蒼と赫のグラデーションを変えたのか。 茈にならない寸前で、双方の性質だけを上手く切り取るそのセンスはやっぱピカ一やね。 幕引きは近いかな……?)
「土壇場でそれをやるとは立派やね。 ……でも、それだけじゃ今の俺には勝てへんで。 ……今はそっちが挑戦者だから。」
「『クソガキ』だね、直哉。」
現代最強の術師は理解の範囲を超えた、異形の蟲と激突する。 其処に弱者の入る余地は無く、強者だけが存在を許される空間が在った。 互いにギアは上がり切っている。 壊れた歯車を無理やり回し、この世の真理を現世に縫い付ける。 既に此処は死地なのだ。
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虫の性質というのは多岐にわたる。 今の直哉は直哉であって、直哉でない。 黒沐死という呪霊はその強さもさることながら、ある特徴を持っていた。 単為生殖である。 雌が単独で子を作る行動様式を指すものだ。 ……今の彼の性別は兎も角、自己の同一性の保持において、彼は異常な精神構造を持っている。 幾ら自分で自己を生み出せるとして、それは果たして元の自分といえるのだろうか。
「気にしないで、俺は。」
短く言葉を吐き、五条に飛び掛かる。 全身の気門から常時大量の酸素を取り込み、運動能力を底上げ。 最後に全身を余すことなく呪力で強化すれば、術師をぶっちぎりで超越した化物の完成だ。 複眼であらゆる角度から五条の動きを観察し、一挙手一投足を見逃すことなく動きを潰していく。 先程とは真逆の戦況が展開される中、五条は更なる可能性を模索する。
(……このままじゃフィジカルの差で押し負ける。 かといって領域を展開させてくれる隙もない。 仮に展開できたとしても今の直哉なら、領域で閉じ込める前に範囲外に抜け出されかねない。 ……ならばどうするか。)
(……勝てる、勝てるで。 ……確かに術式が当たれば、幾ら硬くても無意味や。 ただ単為生殖による別の自分によって隙を作り、速さで動きを潰し続ける今であれば話は別や。 ……父ちゃんの言う通り、『速度』は正義やね。 ……さて王手や。)
五条に致命の一手が再び突きつけられる。 置き玉の茈のような保険は今度こそない。 鍛え抜かれた肉体と体術は直哉の人の域を超えた暴力によって、無力化される。 ならば、もう彼に打つ手はないのだろうか。 ……現代最強はそんなことでは終わらない。 皆が背中を追う最強という看板は残念ながら、そう安くはないのだ。 再び蒼き双眼に煌きが宿る。 天上を統べるその眼は新たな境界を越えようとしていた。 常軌を逸した呪力操作により、蒼を極限まで圧縮していく。 そこに蒼は無く、黑く渦巻いた混沌だけがあった。 それは空港で会った最高の親友からの最後の贈り物。
「……極ノ番『うずまき』ってね。」
無下限で再現された疑似的なものとはいえ、その効果は本来のものと遜色ないものだった。 高密度の呪力の塊をぶつけるという技において、これ程優れたものはない。 最もそれだけでは直哉の隙を作れないだろう。 五条はそこに少しアレンジを加えた。
(!? この玉……!!、ただの呪力の塊じゃない……!! 空間を無理矢理捻じって、丸められている……!! 一手遅れる……!!)
捻じ曲げられた空間は元の状態に戻ろうとし続ける。 発散されたエネルギーの収縮という二段構えによって、刹那の猶予が五条に与えられる。 彼は迷わず手印を組む。 が、その効果は誰も想像しえないものだった。
「領域反転『無量空所』」
本来、領域展開とは必中必殺のものである。 己の切り札を最高の状態で必ず相手に当てるという理に叶ったものだ。 またそれぞれの術式においては、領域内においてのみ固有の効果を発生させる術式も存在する。 その筆頭が無下限呪術である。 領域内においてのみ、相手に無限の情報を流し込むという特異的な効果が発生するのである。 この状況で五条がやったのはシンプル。 『領域外で領域内の術式効果を再現すること』 領域の循環系や空間座標を即興でアレンジし、自らの脳に無限の情報を流し込むという荒業を可能にした。 これは自殺行為になりかねない行為だった。 あの宿儺ですらほんの刹那の時間に無限を経験しただけで、その後に致命的なダメージを負っている。 だが、五条に会って宿儺にないものが一つだけある。 それは六眼だ。 複雑な情報処理を可能にし、本人の脳を守る安全装置の役割を果たす。 本人の術式による効果も大きいが、概ねこれらの条件によってその効果を実現していた。 宿儺とは別ベクトルの神業に直哉は驚愕を隠し切れない。
(嘘やろ……、まだ隠し玉があったんかいな。 ……領域反転とかいう意味分からんことをゆうてたけど、もし俺の考えてることが正しいなら……。)
無限が逆巻き、辺りは赫の極光に満たされる。 術式のフリーズ機能を利用して、周囲の空間を停止するも数が多すぎた。 絶大なる衝撃が襲う中、五条は言う。
「天上天下唯我独尊」
「舐めんなッ!!!! こちとらまだ元気ピンピンやぞッ!!!! ……神も仏も全部ぶち殺したるッ!!!!」
ノーモーションの術式発動に直哉は吠える。 今の五条は辺りの無限を余すことなく扱うことができる。 今までは術式によって、それらを操っていた。 しかし、今の領域反転の場合には『無限そのものの無制限使用』が解禁されている。 直哉は触覚による感知によって空気の揺らぎを察知し、最短距離で五条を殴りつける。 しかし、その手ごたえはまるで山。 ひょっとしたら、山ではなくもっと大きなもの……?
(ざけんなや、何で此処まで来て急に強くなるねん……!!! まだ何か手がある筈や……。)
無限の加速を受ける五条と直哉がぶつかり続ける。 蒼い星と黒い星が互いに線を描き、空に幾何学模様を彩る。 遠方からでも観測可能なそれは、超常現象として記録されただろう。 空気が金切り声を上げ、轟音が響き渡る。 ……人の域を越えた蟲であってもそれは有限の存在である。 無限という理の外に座すそれには残念ながら、格が違い過ぎた。 純粋な性能差により、直哉が殴り飛ばされる。 後ろに待ち受けていたのは蒼と赫のフルコース。 無限の檻が蟲を待ち構え、茈が直哉を撃ち抜く。
「ッツツ、まだやッ!!!!」
術式のフリーズ機能と空気を何層にも纏った外付けの外殻によって、なんとか茈を防いだ。 しかし、その体は既に傷だらけであり勝負は決したかのように思えた。 直哉は最後の策に出る。
「……一時的に悟クンの茈は『保存』させてもらってるんや。 容量ギリギリだったけど、何とか体がはち切れずに済んだわ」
「術式の開示か……。 それで、最後は何?」
「この茈の膨大な呪力の『編集権』は今の俺にある……!!! 今の悟クンは大方、攻撃が効かへんのやろ?」
「お、当たり。」
「自身に無限を付与することで、文字通り耐久力が無限になっとる。 ……術式の指定が何個できるかは知らんけど、今の俺には関係ないで。」
直哉の体に茈の呪力が宿る。 途轍もない力の奔流は段々と渦巻き、世界を欺瞞する。
「少ーしだけやけど、今の俺は悟クンと呪術的に同一になっとるちゅーわけや。 ……どういうことか分かる?」
「……まだ遊べるってことね。 いいね、最後だ。 ……全部受け止めてあげる、来なよ、直哉。」
「勝負はこれからやッ!!!」
人知を超えた加速、再度二つの星が激突する。 理の外にいる五条を傷付けることは何者も出来ない。 しかし、今の直哉は世界すら一時的に騙して見せた。 ……勝ちの目はまだ消えていない。 万力の力を込めて、拳を繰り出す。 片方は無限を、片方は加速を互いに重ね続ける。 退屈が続くはずだった日々に、何よりも尊い充実を。 笑みを浮かべながら、呪い合う。 直哉は秘策を出す。
「来いやッ!!!!」
四方八方から直哉の生み出した、別の直哉が襲来する。 ゴキブリのようにいるそれらは群れを成して、飛び掛かる。
「やっと会えたね、悟クン♥」」 「別に俺が倒してもかまへんのやろ?」 「バァ♥」 「疾風迅雷やね。」
「流石に多すぎて、胸焼けしてくるね。」
羽虫の如く殺し続ける五条だったが、本物の直哉の警戒だけは怠っていなかった。 底が見えたと思ったら、まだ隠し玉があったのだ。 油断なぞ出来る訳がない。 しかし、限界を越え続けた直哉にはもう力が残っていなかった。
「ホンマにやりたかないねんけどなぁ。 ……ごめんちゃい♥、俺。」
その瞬間、隣にいた直哉の頭に噛り付き、ボリボリという音を立てて呑み込んでしまった。
「うげ、共食いまで……。」
「ラストや、ぶち殺したるッ!!!!」
なけなしの体力と呪力を使って、体を変態させる。 より速く、より鋭く、相手を殺すのに特化した形へ作り替える。 ただ速く飛ぶための大きな羽、より強靭な肉体。 赫で追撃を仕掛ける五条に構うことなく、両手の親指と人差し指で四角をつくり、画角に彼を収める。
「これはまだ食らったことがなかったはずや!!!」
投射呪法による一秒間のフリーズ。 指定の動きを出来なければ、思考すら停止してしまうという万能の拘束技である。 本来であれば相手に触らなければならないという条件が付くが、『今後五条悟に対し使用不可になること』、『画角内に彼を収めること』という二つの縛りによって一回限りのフリーズが可能になった。 一秒の罠が直哉の最後の攻撃となる。
(!?、……術式?、ッツツ、来る……!!!)
息つく暇もなく直哉の最後の攻勢が始める。 一秒空けた後の世界はまるで違っていて、視界を満たすのは圧倒的な物量。 津波のようなそれの一切を拒絶しつつ、その情報量に目が眩む。 そんな五条の様子に直哉は想定通りの顔をする。
(……やっぱりな、あんなもんを平気で扱えるわけなかったんや。 幾ら六眼があるってゆうても、悟クンは人間や。 このままパンクしてもらいたいけど、もう一押し足りんなぁ。)
無制限の茈によって、波に穴が開く。 残りの直哉の数も少なくなってきているが、五条の顔は明らかに青ざめていた。 限界は近い。 なみなみに注がれた器から、零れるかの如く均衡は崩れる。 五条の領域反転が一瞬、弱まる。 それを見た直哉は間髪入れず叫ぶ。
「弾けろ!!!」
周りの直哉たちが一斉に爆発し、その臓腑が空間に満ちる。 それぞれが特級の毒を持ち、致命的な一撃を与えうる。 五条は無下限を解くことができない。 全方位から感じる敵意をいなしつつ、その時を待つ。
「これが最後や、遠慮せず食らってな。」
映現による茈の保存は既に完了している。 その弾け方から、使い方まで。 全てが敬愛する最強のものだからだ。 最後は華やかに呪術の宴を締め括ろう。 それは理の外に座す存在を地に堕とす御業。 今まで繰り出された五条自身の無限を手ずから編み直し、概念として確立したもの。 身から出た無限は本人の縁を辿ろうと収縮し、相反し合う。 空間が悲鳴を上げ、罅が入る。 過剰な力が一転に集中し、画面上のエラーを作り出すかの如くひび割れた。
「極ノ番『天津穿』!!! 」
茈の膨大な呪力を利用して、空に孔を開ける。 自身の定義した範囲に意図的にエラーを作り出し、世界にバグを作るのがこの技の正体である。 その複眼によって、あらゆる角度から思考されるその定義範囲はほぼ無限である。 ゆえに必中である。 何度目か分からない爆発と光が辺りを覆い、唸りと極光の下、二人は包まれた。
(……あーしんど。 やれることは全部やったし、限界も越えた。 どうなったか分からんけど、手ごたえはありやね。 ……クソが、もう意識が……)
直哉の意識も限界に達し、地に墜ちる。 上空では様々な色の光が煌いている。 朝の日差しよりも眩しく、夜の月光よりも妖艶なそれは辺り一帯を包み、花火のように弾けて散った。 その横で影は揺らめき、言の葉を紡いだ。
「……どんなものよりも甘い、最高のデザートだったよ。 胸焼けするくらい濃くて、最高の時間だった。 文句なしの百点満点だよ。 ……僕が認めてあげる。 ……ようこそ、コッチ側へ。 」
足元にいる蟲に向かって、万感の思いを込めた言葉を送った。 自分だけでは持ちえないものを与えてくれた相手への最大限の賞賛である。 夜闇が二人を照らす中、静かに最強は宣言した。
「この勝負、引き分けで!!!」
その瞬間、彼の体は地面に崩れ落ちた。
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「え、直哉さんの負けじゃないんですか?」
「……あっちが『引き分け』って言ってんのやで、誰が何と言おうと引き分けや。」
「それはそうですが、まさか本当にやるとは……。 ……しかし、改めて五条さんは規格外ですね。 こちらは初見殺しの連発で対応を迫った筈なのに、全部受け切った上で引き分けにまで持ち込むなんて……。」
「フィジカル勝負までは良かったんやけど、その後なんか急に強くなってな。 俺も手札を全部切って仕掛けたけど、全部アドリブで乗り切られたわ。 なんやねん、領域反転って。 マジで強すぎやろ……。」
「それとやり合えたあなたも大概ですけどね。」
「やっぱ咄嗟の判断とか応用力は悟クンがずば抜けてるわ。 イカレてなきゃ、自分の脳味噌に廃人レベルの情報を入れようとせんもん。 無限の知覚とかいう意味分からんことやって、意味分からん規模の攻撃がノータイムで来るんや。 ……手札割れた今はもう、何もできひんやろな。」
「ま、当分は決闘なんて許しませんけどね。」
「その節はホンマにすみませんでした……。」
そんな時、禪院家の廊下に足音が雄弁に響き、ものすごい勢いで襲来する。 襖が子気味良い音を立てて、開かれる。
「元気してたーって何この空気。 体の様子を見に来たんだけど。」
傲岸不遜の最強が其処にいた。 相も変わらず軽薄な笑みを浮かべ、こちらの様子を伺っている。 ただ少しとげが取れたのか、今日は少し気分がいいようだ。
「問題あらへんよ、わざわざ来てくれておおきにやで。」
「それは結構。 ……直哉の最後の技、あれ何?」
「まだ何か手札あったんですか?、直哉さん。」
「これだけは蘭太クンにもゆうてなかったからな。 アレはまぁ意図的に画面に罅を入れるって考えてもらえればええ。 投射で区切ったコマ割りをぶち壊すってヤツなんだけどそんなにやった?」
「極ノ番として申し分ない威力だったよ。 ……あの時、世界に孔が開いちゃってね、危うく僕帰れなくなっちゃうとこだったよ。」
「……………」
「どうやって対処したんです?」
興味津々に蘭太が尋ねる。
「茈撃ちまくってたら、何とかなった。 ……僕の呪力だったことも大きいけどね。」
「な、蘭太クン分かったやろ? ……ホンマにやってられないのやって。」
「……ですね。」
ドン引きした様子で五条を見る二人。 心外といった表情で応える五条。
「何だよ、折角褒めてあげたのに。 ……ま、今回は本当にありがとね。 ……隅々まで僕を倒そうとする気概が伝わって嬉しかったよ。」
「引き分けとは言ってたけど、……正直なところ、完敗って思ってるんや。 悟クン、敢えて俺の技受けてたやろ?」
悔しそうな表情で直哉は五条に語り掛ける。 そんな彼の眼差しに静かに五条は語る。
「……それも含めてだよ。 ……僕は受けたかったんだ、君の心血の注いだ技をね。 それに勘違いしてるみたいだから言っとくけど、後半は避ける余裕なんて無かったんだよ。 ……技を出し合い、互いに倒れた。 そこに優劣はないよ。 ……頼もしい後輩になったと思うよ、直哉。」
「……ですって、直哉さん。 引き分けは引き分けですよ。 ……負けてないんです、この最強に。 胸を張らずにどうするんですか。」
まるで自分事のように喜ぶ蘭太。 心に溜まった澱が無くなるように直哉は感じた。 皆の先達として胸を張れる偉業を自分は成し遂げたのだ。 扇や甚壱も驚くだろう。 我らが禪院は最高なのだから。
「……すまんね、わざわざ蒸し返すようなことして。 有難く『引き分け』ってことにさせてもらうわ。 ……ありがとな、悟クン。」
「事実を言ったまでだよ、礼を言われるようなことじゃない。」
その時、また人が入ってくる。
「おーい、直哉って、馬鹿目隠しじゃん……。 何でウチに居んだよ?」
数少ない理の外に座す存在である禪院真希が入ってきた。 その不可解な状況を尋ねる。
「ああ、実は「ストッ―――――――プやで、悟クン!!!!」
(……アカン、真希ちゃんにバレたら比喩でも何でもなく死ぬ。 このゴリラ、自分の力を分かっとらんのか、マジでヤバい……。 ……何とか穏便にこの場をやり過ごすしかないで!!!)
「少ーし大人の話をな。 ご、ご飯でも行こか、折角やし。」
「ダウト。」
「あ””” 」
「蘭太、実際は?」
「蘭太クン、頼むで……。」
子犬のような目で蘭太を見る直哉。 蘭太は即答する。
「五条さんと決闘しました。」
「よし殺す。」
「このドブカスがぁ!!!! ……ッツツ、殺気!? ……じょ、冗談ですやん、真希ちゃん。」
「遺言はそれでいいか?」
「……フッ、やれるもんならやってみろ!!! 今の俺は無敵やで!!!」
瞬間、最高速度で飛び出す直哉。 彼の無駄のない無駄な動きに勝てる者はいないだろう。 迅雷の如き速度で飛び出した。 深いため息をつき、全身に力を込める。 去った直哉の影を追い、真希は掻き消える。
「……いつもこんな感じなの?」
「……お恥ずかしながら。」
そう答えたのも束の間、甲高い悲鳴が聞こえ、二人は哀れな男の運命を悟ったのである。 何か五七五のようなものも聞こえてくる中、二人は声を出して笑う。 暖かい日差しが皆を照らす中、その日常を彼らは過ごすのである。 ここに最強の未練はない。 鮮やかな色が世界を彩り、風向きは北へと変わる。 背中に感じるその風は何処か懐かしいもので、あの頃の日々を思い出させる。
(……北ね。 ……生きるってのも悪くないな。 あの頃の日々は呪いじゃない。 ……これからどうなるかは分からないけど、案外何とかなりそうだよ。 ……だって、僕は『最強』だからね。)
最強は呪いではなくなった。 今度こそ、自分で道を歩いて行ける。 長い道のりに息を呑みつつ、のらりくらりと歩み出す。 現実を見るというのは苦しいものだ。 それでも自分の道は自分で決めて歩かなければならない。 どれだけ辛くても、どれだけ苦しくても、進まなければならない。 それは何よりも尊く、何よりも格好いいものだ。 ……最強は今、歩むべき道を見つけたのだ。 何度も聞いた親友の声がふと聞こえ、彼は足を止める。
『ーーーーーーーーーーー』
それを聞いた五条の足取りは普段より、ちょっぴり軽快だった。
「大丈夫だよ、傑。」
もう彼は一人じゃない。 何処までも笑って、彼は歩いて行けるのだ。
今回も読んでいただきありがとうございます!!!! 自分の手で五条先生を書くのが目的だったんですけど、強すぎてどうするか悩んでいたひと月でした。 ちなみに直哉の極ノ番の読み方は『あまつばき』です。 ルビの振り方が分からなくて申し訳ないです。 そろそろ新しいのも書いていきたいので、リハビリに書いてみました!!!! もしよければ感想頂けると幸いです。 鳥のように喜びます。 夏も暑いですが、頑張って乗り切りましょう!!!!