善人家とマイナーキャラで逝く人外魔境新宿決戦 作:雲丹に似たナニカ
2018年 11月16日
この日までに、高専術師たちは羂索によって開かれた、未曾有の呪術テロである死滅回遊をほぼ平定しかけていた。 ポイントも十分集まり、伏黒恵の義理の姉である津美紀を死滅回遊から離脱させることが可能となったのだ。 そして、諸事情で来れない真希の代わりに扇がこの場に来ていた。
「久々に目覚めたばかりでしょう。転ばないようにですよ。」
「ありがとうございます。 あの……扇さんですよね、今日は私のためにここへ?」
「それもありますが、恵くんの顔を見るためでもあります。 何せ私たちの長となるのですから。」
「ええっ、そんな話初めて聞きました。 何で言ってくれないの! あの子ったら、もう。」
「フッ、そう怒らないでください。 近いうちに今の当主から話をする予定だったので。」
「分かりました。 ……あの、こちらには来ないのですか。」
その瞬間、笑ったような気がしたがすぐにその気配は消えた。
「ええ、久々の再会で話したいこともたくさんあるでしょう。 私の用事なぞ後でいいでしょう。 何かあればすぐに行くので安心してください。」
扇は思案する。
(もっとも今の子たちは強い。 ……虎杖だったか? 渋谷での宿儺がしでかした大量虐殺。その罪の意識を背負いつつ、呪術師としての役割を果たしているのだろう。 できれば、そのことも含めて、見ておきたいものだが。)
「ありがとうございます。 ……それでは。」
扇が去った後、津美紀は少女が浮かべるはずのない凄惨な笑顔をして、これから会う思い人のことを考えるのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
16日 15:00
久々に見る姉の姿に伏黒恵は安心を抱きつつ、思考を止めない。
(……これでいい。 点数も十分稼ぎ、この辺に危険な呪詛師もいない。 護衛として、扇さんにも来てもらった。 ……さっさと終わらせて、ここから出よう。)
「おっ? とっと?」
「この人が姉ちゃん? ドンピシャ転送!?」
「あ 恵。 よかった。 すごい、ビックリ……」
「……おう。 扇さんに送ってもらったのか?」
「うん、とても礼儀正しい人だったよ。」
「そうか。(あとで礼を言っておかないとな。) ……さっさと済ませよう、コガネ。 今、津美紀に渡した100点、それを使って死滅回遊から抜けられる。 身代わりの話は……扇さんから聞いてるな。」
「ええ。 コガネ、ルール追加。 結界を自由に出入りできるようにしてちょうだい。」
虎杖は理解が追いつかない表情で呟く。
「は? ……今なんつって?」
元の姉がするはずのない笑みをみて、伏黒は戦慄しながら問う。
「……オマエ…… 誰だ!?」
「誰だ……ですって? あなたのお姉さんよ!! 伏黒恵!! ……私は万。 昔の連中にならまだ通じるかもね。」
「なんで……! 今まで!!」
「あなたたちが勝手に説明したじゃない。 それにタダで100点が貰えるんだもの。 この状況を使わないわけないでしょう。」
心底愉快そうに、思い人のことで胸をいっぱいにしながら、万は語る。
「やっぱり、初めては宿儺がいい。 フフッ、じゃあね、待ってるわよ。」
そこからの動きは早く、万を追おうとするも宿儺の契闊によって、虎杖は体の主導権を取られ、来栖を無力化し、魔虚羅を出そうとする伏黒の抵抗も空しく、遂に史上最強の術師が現代に復活してしまうのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
虎杖をビルまで吹き飛ばした後、宿儺は久々に感じる現世の空気を大きく吸って、呪いを紡ぐ。
「……まったく、いつの時代もどこからともなく虫は湧く。」
その瞬間、伏黒のものとは比べ物にならない鵺を召喚し、絶死の雷を術師に見舞う。 それをものともせず、空を駆け、雷を切り落としながら一人の術師が現着する。 禪院家歴代最高剣士である禪院扇のその顔は怒りで満ちており、まさに修羅であった。
「…ほう、俺の雷をこうも容易く弾き落とすとはな。」
「……その顔、宿儺だな、この目で見て確信した。 ……それは貴様のものではない…… オマエは人に不幸を振り撒かなければ、気の済まない者であるらしい。 ……その体、返してもらうぞ!!」
「ケヒッ、やれるものならやってみろ!!」
宿儺が扇に向かって斬撃を放つ。 まるでお前はどこまでやれるとでも言いたげな顔で。 瞬間、扇は迷わず抜刀し事も無げに斬撃を弾き落とす。
「ほう、試すつもりだったとはいえ、俺の斬撃をこうも簡単に落とすとはな。」
「フッ、こちらこそ驚いたぞ。 まさか、今のが本気では勢い余って殺してしまうところだったからな。」
その時、宿儺は初めて自らの頬に傷が刻まれていることに気づいた。宿儺は思考を巡らせる。
(……術式か? いや、違う、呪力の起こりは無かった。 いくら奴の術式の起動が早かったとしても、俺が一切見えないというのは有り得ない。 ……とすれば、まさか純粋な剣技で俺に傷を? それも今の俺に見えない速度でか?)
「……良い、良いぞ、禪院扇。 その名を覚えてやる。 特に剣技に関しては俺が生きた平安でも見なかったほどだ。 まさかこの現代にこれほどの者がいるとはな。 ククッ、嗚呼、本当に愉快だ。」
禪院扇の剣技について、直哉はこう語る。
「内緒やで。ぶっちゃけ、ダサいと思とんねん、術師が得物使うの。 どれだけ鍛練したところで扇君には並べないからな。 ……マジで何なんやろな、あの技術。 野菜が切られたことに気づかないとか、時間差で切れるとか、今現代で戦国の世でもないのに、何であんなことできるんやろか。 ホンマ不思議やわ。」
時を戻し、宿儺は興が乗ったのか、さらに呪力を高め、扇に肉薄する。手に細かい斬撃を纏わせ、チェーンソーの刃のようにしながら殴り掛かる。 扇も真正面から向かい、剣撃をぶつける。 宿儺は縦横無尽に獣のように飛び掛かり、扇はそれをいなし続ける。 お互いに隙をつこうと動きを頭に入れつつ、そうして並の術師では十度は死んでいるであろう打ち合いを経て、お互いに考える。
(……やはり、力では宿儺の方が上か。 馬鹿力というレベルなどではない。 力任せに打ち合えば、敗北も見える。 援軍も来られると今の私では傷を付けずの無力化はかなり厳しい…… ……伏黒くんには申し訳ないが、打ち合ってみた感じ、こいつは一度死んでも大丈夫な奴だ。 伏黒くんは一度、殺した後に蘇生するしかない。 となると、……初見の技にて一撃で屠る。これしかあるまい)
(……ふむ、間合いの管理が異常に巧い。 術師と戦っているというよりは、極限まで練り上げられた剣士が術師として在るようなものだな。 この俺をもってしても、初見に加えて、短時間で屠るのは不可能だ。 それに……伏黒恵め、ここにきて抵抗を強めてきている…… 呪力出力はおろか、身体の同調率まで下げてきている。 並の相手なら問題ないがコヤツ相手には些か支障が出るやもしれん。 ……ククッ、全くもって愚かだな、伏黒恵よ。 貴様がどれだけ足掻こうと俺が受肉した時点で、貴様らには絶望しか残っていない。 何、少し縛りがあった方が楽しめる。 精々、俺のために足掻く愚者であってくれ。)
拮抗した状況の中、時間がない扇が新しいカードを切る。
「……簡易領域、展開。」
静かに一言、そう告げる。 何故、禪院扇が禪院家歴代最高剣士なのか? 理由は多岐にわたるが主な理由は二つ。 一つ目は前述したとおり、他を圧倒する絶対的な剣技。 絶技とも称される彼の技は神域にすら達していると言われ、現在、世に伝わっているほぼ全ての剣術を修め、その場に応じて最適な型を出力できるのが理由の一つである。 本人曰く、細胞を破壊せずに切ることができるなどの絶技はあらゆる剣術を吸収する過程で自然に出来るようになっていたそうである。 二つ目は簡易領域の多重展開である。 本来、簡易領域は領域に対抗するためだけのものである。 だが、禪院家の先代の術師達は独自に改良を進め、秘伝「落下の情」を開発した。 それを攻撃に転用したまでがちょうど扇の世代であった。 扇はここからさらに改良を行い、シン・影流の簡易領域を独学で習得した後、落下の情との同時展開に目を付けたのだ。 本来、この工程に意味はない。 単純に戦闘中に二つの結界の維持にリソースを食うため、命取りになりかねない。 もう一つは本来の用途から逸脱しすぎているからだ。「領域対策として簡易領域は一つでいい」、これが大半の術師の見解だった。 しかし、禪院扇に限っては否である。 シンプルにどの攻撃にも確実に反応できるため、隙が無くなるのと、扇の術式「焦眉之赳」と剣技との相性が抜群に良かったからである。 射程が事実上、無限になり意味の分からない斬撃が絶え間なく襲ってくることになる。 防御も速すぎてほぼ不可能であり、よしんば防いだところで次の斬撃が無数にくるだけである。なお、体の誤作動を防ぐため、体から薄皮一枚の落下の情を発動している。
宿儺に先ほどとは比べ物にならない斬撃が迫る。 もはや、空気が揺らめいたようにしか見えず先程までの余裕はそこにはなかった。 しかし、その悪辣な笑みは消えるどころかさらに増していた。
「まさか、まさか、まさかこれ程とは!! 良いィ、本当に良いィ…… 禪院扇ィ!! もっとだ、もっと魅せてみろォ!!」
「……ォォオオオオオオオオオオッッ!!」
声を上げ、あらゆる斬撃を浴びせる、扇。 それに対して、傷は増え、血を垂れ流しながら心底愉快そうに嗤う宿儺。 よく見ると、深い傷もあるが致命傷だけは避けているようだ。 そして、一歩、また一歩斬撃に慣れ始めたのか、「解」で斬撃をいなしつつ、扇に近付いていく。
(……ッッッツツッ……!? なんだこいつは!? 初見の私の斬撃をいなすどころか、あまつさえ私に近付いてくるだとッ!? ……少し、ほんの少しずつだが、此奴は私の斬撃に適応し始めている…… 術師として、剣士として私は自分が強いと驕ったことはない…… ……だが、しかし、これほどの化物がこの世にいたとは……)
そして、扇はゆっくりと、だが命を懸ける覚悟を決めた。 此奴は、宿儺は全身全霊をもって立ち向かわなければいけない悪鬼だと。
「……いいだろう!! 宿儺ァ、この手で骨の髄まで焼き尽くしてくれる!! 術式解放ッ、焦眉之赳!!」
禪院扇にはもう一つ秘密がある。 術式「焦眉之赳」である。 普段は刀身を長くして、簡易領域の多重展開で運用するのが常であるが、実はもう一つ使用法がある。 それは呪力を熱へと変換し、相手を焼き払う運用法だ。 この運用法のメリットは莫大な火力である。 瞬間的、局地的に見れば特級クラスの出力を誇る上に、その範囲も絶大であるためである。 その火力はあの五条悟も太鼓判を押すほどである。
「扇さんの火力、すごいよねー。 無限があっても怖いし、術式が焼き切れててまともに当たったら僕でもヤバいかも。」
しかし、その強大な火力のためデメリットも大きい。 高温度、高圧力のため、出力源である扇には身体的に絶大な負荷がかかることである。 痛みもさることながら、鍛え抜かれた扇の体ももってもその負荷は大きい。 痛みに関しても、その精神ゆえ、耐えることはできるが、精神はそれなりに疲弊してしまう。 術師としてトップクラスの肉体と精神を持つ扇であっても、これは避けられない。 それほどの技である。
「何もかも一切合切、焼き尽くしてくれる!! 往くぞォ、宿儺ァ、禪院扇、推して参る!!」
扇が鬼気迫る勢いで呪力を練り上げる。 高まる呪力と闘気にあてられて、宿儺の気分は最高潮に達する。
「ケヒッ、ククッ、ゲラゲラゲラッ……!! ああ、来いィ、来いィ、禪院扇ィ!! 興が乗った、遊んでやるッ! ……『竈』…… …『開』!!」
それは本来、開くはずのない宿儺の奥義、『開』であった。 宿儺によって普段は閉じられている地獄の業火が開いているのにはいくつか理由がある。 一つ目に発動に必要な粉塵が先程の戦いによって、大量に生み出されていたことだ。 これにより宿儺は一つ目の条件を満たす。 次に二つ目、『竈』の炎は火力に対して、速度がなく効果範囲が狭い。 そのため、普段は様々な縛りを結んで、宿儺はようやく実用化に至っている。 だが、今回に限っては話が異なる。 扇が大技を放つ都合上、ある程度の溜めがいるため、『竈』の欠点であった速度の欠点が消える。 そして、『竈』の炎は裏を返せば、火力としては申し分ないため発動までの条件が整うのである。
扇は限られた時間の中で思考を加速させる。
(!? ……あれは炎か? ……確かに渋谷で巨大な炎が上がっていたとあったが、成程、漸く合点がいった。 その炎は宿儺が出したものであったのか。 ……良いだろう、火力勝負というわけか……)
扇が声を張り上げる。
「来ォい!!!! 出来損ない!!!!」
宿儺は嗤って答える。
「うっかり死ぬなよ!!!! 禪院扇ィ!!!!」
そうして、東京に大きな火柱が二つ立った。其れはまるで火山が噴火したと見間違うほどの熱量と規模であった。
現世に地獄が降臨した。そういっても差し支えない光景が其処には広がっていた。建物はなくなり、見渡す限りが更地。まるで最初から何もなかったような景色が広がっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その光景をみる二人の術師がいた。一人は白髪で性別不明の者、裏梅。 もう一人は未曾有の呪術テロ「死滅回遊」の開発者にして史上最悪の呪詛師、羂索であった。
「急げ。」
「何その言い草、遠回りしてまで拾ってあげたんだから勘弁してよ。」
羂索は薄ら笑いを浮かべて言う。
「っていうか、速い方でしょ、何焦ってんの?」
裏梅はかなりイラつきながら短く答える。
「……黙れ。」
「えぇ~、つれないな~。 せっかく、一緒にいるんだからもうちょっと喋ってくれてもいいんじゃない?」
「……チッ、少し黙っていろ。」
「ひぇ~、怖い怖い。 昔っからそうだよね~」
我慢の限界に達した裏梅が本気になろうとしたその時だった。二人の前方に巨大な呪力が集まっていったと思った次の瞬間、二つの火柱が現れたのだ。瞬間、裏梅は顔を曇らせ、羂索は子どものように顔を輝かせる。
「ッッツツ……この熱量……息を吸うと肺が焼けそうだ…… 羂索、急げ!!」
「はいはい~」
羂索は呪霊に加速する命令を与えながら、今起きた火柱について考えをまとめる。
(それにしても面白くなってきたなぁ。 この呪力反応からして一つは宿儺、もう一つは…… どっかで見たことあるんだよなー…… 確か……禪院扇か!! この出力も彼なら納得だ。 御三家といってもぱっとしない子は割と多いけど、彼の世代は豊作だったなぁ。 特に今の禪院家は歴代でも屈指の珠玉揃いと聞くしこれもありうるのかな? しばらく見てなかったけど、ここまでとはね……。 うん!! 最高に面白い!!)
そして、爆発の中心地で二人の術師が戦いを続けていた。宿儺は片腕を吹き飛ばされ、傷と火傷で体はボロボロだが、動きは鈍っていなかった。 一方の扇は五体満足ではあるものの、宿儺と同じく体は焼け爛れており、何とか宿儺とやりあっているが彼を動かしているのはもはや気力だけであった。
「……ククッ、随分と辛そうだなぁ。 ほら、頑張れ、頑張れ。」
呪いの王は何処までも高らかに嗤いながら、容赦ない斬撃を浴びせ続ける。先程までとはまるで逆であった。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ…… フッ、まだまだァ!!」
(……ッツ、甘かった、此奴は何処までも呪いだ。 腕を吹き飛ばしたにもかかわらず、それをものともせず、逆に殴り掛かってくる始末だ。 ……だが、弱音を吐くことはできん。 ここが私の死地だというのならば、命を燃やしてみせよう…… 人間の底力見せてくれようぞ!!)
そのように扇が覚悟を決めたときだった。
「ここまでだな。」
「……? 何を言って……? まさかッ!?」
「出力最大!! 霜凪!!」
その瞬間、扇の体は氷に包まれた。 辺り一帯を覆いつくす範囲の攻撃に今の扇が避けられるはずも無かった。
(……遅かった、やはりいるとは思っていたが援軍か…… それも水のないところでこれほどの規模の攻撃が可能な術師とはな…… ……体も動かん、詰みか…… ……すまない、真希、真依。)
「お迎えに上がりました。 宿儺様。」
「うむ、丁度良い時にきたな、裏梅。」
「(超、嬉しくなっている) ……はっ。 宿儺様、一応、奴の凍結は弱めておきました。 いかがいたしましょうか?」
「生かしておく。 これ程の者だ、今食らうのは少々勿体ないのでな。」
「はっ、御意に。」
「……私を生かすのだな、宿儺よ。」
「フッ、死にたくなる程の屈辱か?」
「自ら命を捨てるなど、馬鹿な真似はしないわ。 ……此の屈辱、貴様の命で贖ってもらうぞ、宿儺。」
そう言って、宿儺を鋭く睨め付ける扇に宿儺は……
「……良い、次、会ったときは喰らう。 ……仕上げておけよ、禪院扇。」
その言葉を最後に、印を結んで鵺を召喚し、高らかに嗤いながら従者である裏梅と一緒に彼方へ飛び去ってしまった。そして、肉体の限界が近かった扇は迫りくる、眠気に抗えず意識を落とすのであった。
こんなに文章を書いたのは人生で初めてです。 もしよければ感想いただけるとと僕は鳥のように喜びます。 最後までお読みいただきありがとうございました。