善人家とマイナーキャラで逝く人外魔境新宿決戦 作:雲丹に似たナニカ
禪院扇の敗北後、現場に到着したのは禪院家当主である禪院直哉であった。その後、持ち前のスピードと直哉の反転術式によって、ある程度回復した上で禪院家直属の病院に担ぎ込まれたのである。
「すまないな、直哉。 わざわざ運んでもらって。 ……こういった不測の事態に備えて私を派遣してもらったのだが期待に沿えず申し訳ない。」
「ええねん、ええねん、そうゆうの。 扇君で無理なら誰も無理や。……しっかしなぁ、扇君相手に、初見かつ切り札まで切って仕留めきれんとはなぁ。 ……にわかには信じがたいけど、まさかここまでとはな。 流石は呪いの王といわれるだけはあるな。 ま、負ける気はないけどな。 んで、実際どうだったん? やっぱり、戦った本人にしか分からないんこととかある?」
扇はゆっくりと死闘を思い出しながら語る。
「……そうだな、まず第一に感じたことは……奴は化物だということだ。 力もさることながら、何を浴びせても倒れる気がしない。 無論、全ての攻撃を私は全身全霊を込めて放っていた。 が、結果はこの通りだ。 それに恐ろしく成長が早い、……いや学習しているのか? 確実に奴は私の斬撃を学習していた。」
「普通の奴は分かっても防げんのやけどなぁ。 ま、並の相手でないってのは今更やね。 で、他には?」
「奴の本質に関わることだが、私の印象では……とんでもなく生き意地があるというのか、生存本能が生まれつき高いように感じられる。」
「ほーん、具体的には?」
「両面宿儺とは手が四本、目が四つ、口が二つの者であったと聞く。 ……察しの良いお前ならこの時点で気付くのではないか?」
「……真希ちゃん、真依ちゃん的なアレか?」
「正確には双子だな。」
「は? ……じゃあ、何やそっくりさんがもう一人いるっちゅうわけかい?」
「そうではない。 ……恐らく奴は自らの兄弟を殺している。」
「中々、暗い話やなぁ。 確か宿儺って平安やろ? やっぱり、飢餓とかそういった理由で兄弟を殺したってことか?」
「私も先程までそう考えていた。 が、それでは一つ疑問が残る。」
「なんや?」
「奴が術式を二つ持っていたことだ。 お前の言う通り、片割れを殺せば呪術的な定義から確かに大きく力をつけるだろう。 しかし、術式が増えることはまずない。 他の術式を使えるとしても、それは生得術式がそのような術式の可能性か、外付けによるものしか不可能だ。」
「確かにそうやな。 でも、それは違うって実際に戦って感じたんやろ?」
「ああ、まるで生まれたときから共に在ったというような、……そういう印象を受けたな。」
「じゃあ、このままいけば、出る選択肢は一つしかないけど……」
「……ああ、恐らく宿儺は自らが胎児の頃に自らの片割れを喰らっている。」
「信じがたいけど、あの宿儺やしなぁ。 鬼神として語り継がれるぐらいの規格外やから有り得ないとは言いきれんなぁ。」
「私の推測でしかないがな。 受肉した後の姿も伏黒君のままであったから実際にどうであるかは分からん。 そして片割れを喰い殺すその行いについては私達には何も言えん。 そうせざるを得ないほど追い込まれていたのかもしれんし、そのまま死ねというのも理不尽な話であろう。 それはいい。 問題は奴が自らの枠を越えて、不幸を振り撒く邪悪だったことだ。 ……渋谷での件、報告書で読んだだろう?」
「……あれな。 虎杖悠仁が一時的に体の主導権を宿儺に握られ、多大な被害を出したっちゅうやつよな?」
「ああ。」
「ほんま、胸糞悪いわ。 ……高校生に背負わせていい十字架ちゃうやろ。」
「そうだ。 だが、奴は悪びれず、『お前がいるから人が死ぬ』とでも言うのだろう。 ……祓わねばならぬ、かの悪鬼を。……次は斬ってみせる。 ……そうだ、あの場にいた子たちはどうなった?」
「みんな無事やね。 ……扇君が知らず知らずのうちに宿儺との戦闘で時間を稼いでくれたから、窓の子が撤退命令を伝えられたらしい。 虎杖君と来栖ちゃんって子、…あと高羽とかいう芸人?がいたみたいやな。」
「芸人? ……術師だよな?」
「そう思うよねぇ。 なんかセンターマン?ってやつらしいで。 ……それは置いといて、虎杖君と来栖ちゃんなんやけど、『私も戦う!!』って言うこと聞かんかったらしいけど、扇君の戦いを見たのと窓の子の説得でなんとか引き下がってくれたらしいわ。」
「……そうか、後で私からも彼らと話してみよう。 ……それでもう一人の津美紀さんはどうなった?」
「……言いにくいんやけど、津美紀ちゃんは覚醒タイプじゃなくて受肉タイプの術師やった。」
「!? ……つまり、もう……」
扇の顔が翳る。自らの甥が残した子の一人すら救えぬことに不甲斐なさを感じているのだ。 禪院甚爾から伏黒甚爾となったあの日。 直哉はもちろん、普段から感情を露わにしない甚壱さえ男泣きしていたほどだ。 扇もお祝い金として普通では考えられない金額を送ろうとして甚爾から慌てて止められた思い出があった。 だが、彼を救えなかった。 この後悔を彼らが忘れることはないだろう。 だからこそ、彼の忘れ形見であった伏黒恵と津美紀だけはなんとか守ろうとしていたのだ。 呪術師のような血腥い世界に関わらず、人並みの幸福を享受できるよう彼らは裏で手を回していたのだ。 だが、呪術の因果は伏黒恵を逃がさない。 どれだけ彼らが手を回したところで彼は呪いの世界から逃げられず、津美紀は呪われ、その解呪を達成するために彼は呪術師を志すのである。 その目的すら穢された今、もはや恵にとって現世は生きる意味がないと思っているのではないか。 そのように扇は考えてしまった。
「……津美紀さん、いや、そやつは何処へ?」
「目下、捜索中や。 やけど、そいつが名乗った名前は万。 尚且つ、平安出身の術師で有名なのは調べた限り、一人しか居らんかった。」
「どのような術師だ?」
「平安時代、藤原氏北家直属の征伐部隊『五虚将』をたった一人で返り討ちにしとった。 呪術全盛で、尚且つ当時トップの名家であった藤原氏の実動部隊を単身で返り討ちにしとるのは控えめに言っても化物や。 平安でも屈指の上澄みやと思うで。」
「……成程、平安とは其れほどまでの猛者が跋扈する魔境であったのか。」
「一応、万の捜索は続けていくがあまり期待せえへんでな。 ……もっと規模を大きくしたい気持ちは山々やが、家としてこれ以上の業務はキャパオーバーになってまう。」
「……うむ、苦労をかけるな、直哉。」
「気にすんなや、……まだ未来は決まっちゃおらん、こんな所で終わる俺らやないからな。」
「ああ、頼りにしている。 最後にもう一つ、躯倶留隊の仕込みはどうだ?」
「ほぼ終わりやね。 残りの部分は何とか実践までに間に合わせて見せる。 安心しいや。」
「何から何まで仕事づくしだな。 ……私もこうしては居られん。 明日には出る、遠慮なく仕事を回してくれ。」
「アホ言うなや、扇君。 病み上がりの人間使うほど緊迫してないわ。 ゆっくり休んでな、ちなみにこれ当主命令な。」
そうギャーギャー話していると、病室の扉が勢いよく開く。 随分、急いできたのだろうか。 所々、汗の雫が見えている。 そうして息を切らしながら、二人の少女が病室へと入ってきた。
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扉を勢いよく開き、入ってきたのは禪院扇の実子、禪院真希と禪院真依であった。
「親父!!」 「お父さん!!」
その声を聞いた扇の体は一瞬強張るがすぐに直って、彼女らに向きあう。
「……うむ、真希に真依か、心配かけたな。」
「ったく、負けてんじゃねえよ。」 「お姉ちゃん!! ……もう体は平気なの?」
「ああ、問題ない。 なんとか後遺症もなく、復帰できそうだ。」
「それより、直哉!! 謹慎ってどういうことだ!! 真依にはなくて、私だけにあるのは贔屓なのか?」
「アホ、それが分かっとらん時点で謹慎の意味がないやないか。 ……ほんま頭痛なるで、扇君から聞いてないんか?」
「何も言われてねえよ。」
「あんなぁ、真希ちゃん、渋谷で死にかけたやろ。 はっきり言って実力不足なんや、……扇君ですらこのレベルの怪我を負うんや。 文字通りレベルが違うんや。 分かるやろ?、自分の実力。 真希ちゃんが高専でようやっとるのは聞いとる。 体術も同世代の中で頭一つ抜きんでてるのも知っとる。 ……だけどな、もうそういう次元の戦いちゃうんや。」
「……ッツツ、じゃあ何で真依はいいんだよ!! 真依が戦うぐらいだったら私が戦う!! 真依を戦場に行かせるわけないだろ!!」
「……お姉ちゃん……」
「確かにそこは説明してなかったなぁ。 それは謝る、ごめんやね。 ……真依ちゃんは自分の身の程を弁えとる。 真依ちゃんの得意な武器は銃器やろ? だから、一回射撃テストをさせてみたら驚異的なスコアを出したんや。 中でも、トップの成績は狙撃手。 出すぎず、だけど主張もしなさすぎず、そう言った最高のサポーターになれる可能性があったんや。 ……勿論、まだ実践で使うかどうかは未決定や ……他に漏れると不味いから当主権限で機密扱いにしてたんや、黙っててごめんな……」
「真依……オマエそんなことしてたのか?」
「……うん、黙っててごめんなさい。」
「そうじゃない!! オマエは人を撃って、……殺して平気な奴じゃないだろ? 引き金一つで死んじまうんだぞ……」
「……まだ、やろうって決めたわけじゃない。 ……けど、もし私がやらないでお父さんが、直哉が、……お姉ちゃんが死んだら、私はきっとその時、引き金を引く決断をしなかった私を一生許さない。 ……私ね、高専で過ごして、本当に楽しいって思える思い出がいっぱい増えたの。 お姉ちゃんだってそうでしょ? ……でも、それと同時に自分がどれほど弱いか、どれほど呪術師が厳しいか、未熟だけど分かったの。 この世界で自分の願いを通すには何かを捨てなきゃいけないって。 それが私にとっては綺麗な自分だったってだけ。 ……人を殺して大切な人達を守れる自分のほうが、何もせず自分だけのうのうと幸せを享受していきる自分よりもよかったってだけなの。 ……お姉ちゃん、私はもう大丈夫、強い自分で生きていたいと思える自分だから。」
「……そんなに言うなら私は何も言えねえよ。 ……真依、オマエこんなに強くなってたんだな。」
「ええ、いつも前を向いて生きている人たちがいたもの。 ……本当にありがとね、お姉ちゃん。」
「私は何もしてねえよ、って私はまだ納得してねぇ!!」
「えぇ……さっき説明したやん……」
「そこじゃねえ、……真依がこんだけやってんだ、私だけこのままっていうのはダサすぎんだろうが。 ……何か私にもできることはねえのか?」
「それなんやけど……」
「ありがとう、直哉。 ここからは私が話そう…… ……二人っきりにしてもらっていいか?」
「かまへんよ、……行こか、真依ちゃん。」
「ええ、じゃあね。 ……お父さん。」
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二人が病室から出てった後、扇は静かに話を切り出す。
「……さて、今日は見舞いに来てくれてありがとな、真希。 真依にもよろしく言っておいてくれ。」
「ああ、で、話って?」
「お前にやってもらいたいことについてだ。 ……私達も努力するが、この先、宿儺との戦いは避けられまい。
その時、お前の力が必要になるやもしれん。 ……今からお前に『その時』と向かうべき『場所』を教える。
そして、私と縛りを結んでもらう。 一つ目はこの事を忘れること。 二つ目はこれを聞いて納得すること。」
「二つ質問がある。 忘れるのはいいけど必要なのか?、そして忘れた後の私は納得するのか?」
「問題ない、それも含めて縛りを結ぶ。 ……一応、言っておくが、これをすればお前はとてつもない力を手に入れるだろう。」
「そりゃあいい、何だって縛ってやる。 ……真依だけに責任は負わせたくない、……私はアイツのお姉ちゃんだからな!!」
扇はそう強く笑う真希の顔と目とじっと見つめ、瞼を閉じ、我が子らの思い出を噛み締めながら目を開け、短く息を吐いてから言葉を紡ぐ。
「……良いだろう、『親が子の足を引っ張るなどあってはならない』、そう思って、人生の先達としてお前達の前を歩いてきた。 ……だがしかし、今の話し合いを聞いて確信した。 ……お前達はもう自分の道を自分で歩いて行ける力を付けていたのだな。 ……親として、一人の人間として敬意を表する。」
「……ケッ、爺くせえこと言ってんじゃねえよ。 ……んで、条件は?」
「ああ、条件は『…………………………』だ。 ……これは譲れない、すまぬな真希……」
真希はその条件に絶句する。 今聞いた言葉が自分の聞き間違いではないか、頭の中で反芻していた。
「……それって、……それ以外の方法はないのか? だって、それじゃあ親父を……」
「……断言する、ない。 だが、これならば確実に出来る。 ……それに私はさっきのお前達の姿を見て、確信した。 ……お前達ならきっと越えて行ける、これからの未来を強く、自分らしく生きていける。」
扇はゆっくりと落ち着いて言う。 そこには我が子に向ける慈愛はもうなく、一人の大人として、人間として敬意の籠った眼差しがあった。
「……どうだ、縛れるか。」
真希は考える。 何度も何度も打開策を探すがそんなものはあるはずも無く、あるのは目の前の確かな事実だけ。 彼女に残された選択肢はたった一つ、縛りを結ぶ覚悟を決めることだけ。 この選択を未来の自分に呪いとして残さない絶対的なもののみ。 震える体を抑えるよう目を瞑り、息を吸って覚悟を決める。
「……ああ、縛る。 ……親父、私はこの選択を『呪い』にしない。 前に進むための、明日を生きていくための選択にするよ。 ……ありがとな、親父。」
「それでいい、どれだけ絶望が立ちはだかっていても進んでいかなければならない。 ……たとえ、一人であっても。 ……お前なら越えていける、励めよ真希。」
扇はそう短く言葉を吐き、瞬間、縛りが結ばれた。
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外で真希を待っていた、直哉と真依は憑き物が落ちたような顔で病院から出てきた真希を見て驚いていた。
「あっ、お姉ちゃんだ。」
直哉は真希の顔を見て、確信を得る
「ほんまやね、……なーんや、扇君も伝えたいこと、しっかり伝えられてるやん。」
「……お? 待っててくれたのか、真依、直哉。 ……ありがとな!!」
「うっさいわ、急に…… ……まぁ、そんだけ調子いいなら大丈夫そうやね。」
「んじゃ、帰るぞ。 家に!!」
その三人の後ろ姿は確かに明日を生きようとする人間の在り方そのものだった。
これは余談ですが、来週の呪術廻戦、果たして一話で終わるのでしょうか? 一番好きなバトルなので何とかうまくやってほしいです。 そして、もう一つ、久々にfateのガチャをして、モルガン陛下が欲しかったので、エレちゃんの礼装もかわいいしダメ元狙いで引いてみたら、50連でモルガン陛下、モードレット、水着武則天が来てしまいました。 私は明日死ぬのではないかとビクビクしています。 多分、恐らく次回人外魔境新宿決戦スタートです。気合入れて頑張ります。 今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。