善人家とマイナーキャラで逝く人外魔境新宿決戦 作:雲丹に似たナニカ
前回の宿儺戦で扇が感じたことはたった一つ。 火力不足であった。 弱っていた宿儺相手に『竈』で逸らされたとはいえ、自身の最高火力をぶつけても倒し切れないというのは看過できない問題だった。どう頑張っても、今の扇では宿儺には勝てない。 これが扇の出した結論であった。 しかし、今回は話が異なる。 鹿紫雲一という最高の手本、そして命をかけた縛りの二つを以て宿儺を殺し切る算段を立てたのである。 前者に関しては自身の肉体を炎に近付け、体温を上げることで常識を超えた身体能力を獲得する。 後者に関しては自らの命を薪として業火に焚べ、瞬間的な火力は歴代の術師のなかでも五本の指に入るものであった。
「……それがお前の覚悟の姿か、禪院扇よ。」
体から燃え盛る焔を纏う扇へ感動したとでも言わんげな顔で語り掛ける。 それはこの世には二つと存在しない退魔の焔。 魔へと近づいた悪しき者を滅するただ一つの焔であった。
「……この世のあらゆるものは盛者必衰の理の下に生きる。 貴様が平安の世で悪逆の限りを尽くしたのは問題ではない。 どのような世であれ、貴様が生きる確かな時代だからな。 だが、受肉という手段で現世に黄泉返り、今を生きる生者に仇なすというのなら全身全霊で貴様を焼き尽くそう。 ……何、一人の黄泉路は少々心細くてな、付き合ってもらうぞ、宿儺!!」
「フッ、やれるものならやってみろォ!! 禪院扇ィ!!」
獄炎に包まれた扇が目にも止まらない速さで宿儺に急接近する。 よく見ると移動の際に、足からジェット噴射のように熱を吹き出し、尋常ではない加速を実現しているようだ。 赫色の焔が宿儺を焼き焦がし、そこから魔の者に大きく効く退魔の力による痛みが宿儺を襲う。
(……ッツツ、やはりな。 この炎、俺にはよく効くようだな。 それに反転術式の効きも体感で二割程度、遅い。 ……このまま、食らい続ければ反転術式はおろか、通常の呪力強化でさえままならなくなるやもしれん。 ……魅せてくれたな、禪院扇!!)
扇が宿儺と渡り合えているのは二つ。 一つ目は命を懸けた縛りによって、絶大な火力を得ていることだ。 一撃、一撃がもはや爆撃のようになっており、相手が宿儺でなければすぐに消し炭となっていたことであろう。 二つ目は退魔の焔である。 伏黒恵の魂を沈めるため、『浴』によって肉体を魔へと近づけている。 この魔に特攻を持つのが、扇の焔である。 これによる効果は凄まじいものとなっており、あらゆる面で宿儺にデバフとなって働いている。 具体的に例を挙げるとすると、回復阻害、出力低下、激痛による脳のリソースの占拠など。 痛みに関しても、宿儺は圧倒的に耐性を持つが何しろ今彼を焼いているのは退魔の焔である。 我慢とかそういう次元ではなく、激痛に負けて叫び回るのが普通なのである。 しかし、呪いの王は止まらない。 迫り来る嵐のような斬撃と焔を冷静にいなしつつ戦術を組み立てる。
(クッ、クッ、成程、想定以上だ。 ……認めよう、お前は強い。 生涯でも、これほど胸躍る勝負が五条悟の他にもあるとはな。 だが、甘い、甘いぞ、禪院扇よ。 貴様の太刀筋はもう完全に見切った。 やはり、前回、俺に手の内を晒しすぎたようだな。 焦眉之赳も凄まじい威力となっているだろうが、アレには溜めがいる。 だからお前はさっきあの餓鬼を使ったのだろう? その餓鬼も反動で暫くは動けんだろう。 ……十分、いや、八分あたりといった所か。 それにそろそろ肩も温まってきた。 ……お前にはまだ呪術の極致を味わわせたことがなかったな、遠慮するな、じっくりと魅せてやろう!!)
扇も宿儺も長引く戦闘と緊張で大量のアドレナリンが分泌されており、起死回生の一発を互いに出し合う。 扇は恐ろしく滑らかな納刀から繰り出される居合で、宿儺は万力の右ストレートで、そして、尋常ならざる力がぶつかり合い、黒い火花が散る。 その名を黒閃。 打撃との誤差0.000001秒以内に呪力がぶつかることで生まれる現象。 呪術の奇跡ともいえる現象が二人の交差によって四度起こった。 重なり合って咲くその花はまるで黒い薔薇のようだった。 そこから生まれる全能感。 互いに呪術の深奥に辿り着いた、真の呪い合いが今、始まる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
先程とは打って変わって静かな空間が形成されていた。 何の音もない静寂が場を満たしていたが、そこから感じられる二人の様子は互いに命を狙い合う獣のようであった。 下手に動けば、首が飛ぶ。 そのように互いの実力を認め合う二人だったので隙を狙いあう光景は西部劇のガンマンのようであった。 先に動いたのは宿儺。 戦術を決定したのか、解を放ち、扇の初動を潰そうとする。 簡易領域を展開し続けていた扇は最低限の動きで躱しつつ、神速の斬撃を繰り出す。 しかし、扇の剣技に慣れた宿儺には通じず、腕や頬を掠めるだけだった。 この読み合いは宿儺に軍配が上がったと見るべきだろう。 空間に邪悪の呪力が満たされる。 それは見た者を冥途に導く絶死の領域。 今、絶望の御堂が開かれる。
「領域展開 伏魔御厨子!!」
宿儺が閻魔天印を結んだ瞬間、万を超える解と捌が領域を満たす。 扇は簡易領域と剣術をフル稼働させて弾き続けるがどちらが優勢かは明白だった。 現在、扇は多重の簡易領域によって必中の効果を無効化している。 よって、入った瞬間から細切れにされることはない。 だが、必殺の効果は継続している。 簡易領域はある程度、術式を弱めることができるが、この領域内では焼け石に水と等しい。 『捌』で削り、『解』で刻む。 甚壱と扇が宿儺にやった、『崩して削る』という技を一人で行う。 その御業はもはや神業であり、扇に苦悶の表情が現れていく。
(ッツツ……!! これが宿儺の領域か……!! 一撃一撃がまるで違う、達人の斬撃を全方位から受けているようなものだ……!! このままでは私の時間切れの方が早い……!! どうする、どうする……!?)
(……ほう、俺の領域内の斬撃も防ぎきるか。 流石だな、……だが、お得意の簡易領域にも罅が入り始めているな。 このままいけば、俺の勝ちは揺るぎないが、……さてどう出る?、禪院扇よ!!)
簡易領域で宿儺の領域を防ぎ切った者はいない。 この時点で扇は史上初の快挙を成し遂げている。 だが、倒すには至らない。 黒閃によってギアが上がった扇をもってさえも宿儺の領域には荷が重かった。 この間、約三十秒。 扇の肉体が炎に包まれ、炭と化そうとしたその時、宿儺は異変を察知する。
(……!?、何だ、この感触は? 俺の領域の上部に何か接している。 いや、落ちてきているのか……? とにかく何だ……? 巨大すぎる……!! ……まさか、あの爺か? 成程、面白い……!!)
それは長寿郎が命を懸けて作った最高傑作。 彼の術式は『錬金』。 錬金によって新宿のビル群を自身の術式対象にするべく命を懸けた縛りによって、術式対象範囲を拡大し、それらを一つの巨大な塊にした。 そして、甚壱の馬鹿力と蘭太の術式の補助によって、上空にまで打ち上げ、宿儺の領域にぶつけていた。 それはかの渋谷の再現。 特級呪霊、漏瑚の極ノ番『隕』によって齎されたものと酷似していた。 もっとも、今回作り上げたのは命を懸けた縛りによってブーストされた長寿郎が、全身全霊で作ったものであるため、規模も比較にならないものだった。 それはまさに質量の暴力。 この異常事態にも関わらず、宿儺は冷静に対処を講じる。
(成程、隕石か……!! この規模のものを作り上げるとは魅せてくれたものだ…… ……まともに当たれば、俺でもただでは済まん。 ……前の俺なら、此処で詰んでいたかもな。 だが、今の俺にはアレがある……!!)
「……ククッ、『龍鱗』、『反発』、『番の流星』……、『解』!!」
領域内でゲラゲラと高らかに嗤いながら、決死の覚悟を嘲笑うように絶望の斬撃を放つ。 鹿紫雲戦の時と同じく賽子の目のように放たれた世界を断つ斬撃はいとも容易く、その隕石を砕いた。 領域内で放ったこともあってか、その威力は凄まじいものとなっていた。 が、隕石はあまりにデカかった。 質量の暴力ともいえるものであり、生半可なものではない。 しかし、二発目の次元斬を放った時には粉々になっていた。
「ケヒッ、ああ、本当に愉快だ!! 何せ退屈する暇がないのだからな……!! まるでビックリ箱だ!! ……さて、お前はどうだ?、禪院扇よ……」
御厨子の上に優雅に座り、視線を向けるその先には片腕が無くなり、簡易領域に罅が入りつつある扇の姿が其処にあった。 だが、その表情は明るく、禪院の皆の援護に笑顔を浮かべていた。
(……そうだ、そうだろうとも!! それこそ、我が禪院!!、我が同胞!! ……限界を越えているのだ、此処で私が限界を越えられなくてどうするのだ!! 私、いや俺が!! ……俺が斬る!!)
若き日の自分に立ち返り、修羅へと一人の男が舞い戻る。 業火を身にまとった一人の男は悪鬼羅刹を滅ぼすべく退魔の焔を持って、撃滅へ向かう。 扇と宿儺の決着まで残り一分間。 たった一分、されど一分。 この一分が互いにとって、最も鮮烈な一分間の一つとなることは間違いないだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
場所は変わって、宿儺の領域の外。 甚壱、蘭太、長寿郎の三人が集まって術式をフル稼働しながら、準備を進めていた。
「……長寿郎、お前もか。 死に場所を見つけたようだな。」
「ホッホ、最期は最強の術師に全力を出して逝く……・。 ……これほど、味のある最期はあるまいよ。 先に逝ったあいつらにも、自慢できるわ。 ……それ、もう一発頼むぞ、甚壱よ。」
「……ああ。 いくぞ!!、蘭太、もう一発だ!!」
「はい!! 先輩方の最後の雄姿を汚しはしません、絶対に成功させます!!」
限界を越えた三人が宿儺にもう一度、決死の援護を試みる。 その姿は強く、宿儺に一矢報いようとする覚悟に満ちていた。 戦況は宿儺のほうに変わり、再び領域の上部に隕石を感知する。
「……ほう、我慢比べというわけか!!。 良いだろう、この俺とお前らどちらが生き残るか決着を付けよう!!」
宿儺が次元斬を打った直後だった。 扇の技が炸裂する。 それは純粋なる剣技であり黒閃は剣技においても飛躍的なバフを扇に与えていた。 剣技を見切られているのを扇は理解している。 己の練り上げた剣技が宿儺にはもはや決定打にならないのは痛いほど身に染みた。 だが、まだ見せていない絶技がある。 それは時間差で切れる斬撃と切られていることに気づかない程、細やかな絶技である。 最初に宿儺を掠めた斬撃はこの時の為の布石。 確実に殺し切る為、扇は更にギアを上げる。 そして、宿儺は異変に気付く。 自らの手が不意に落ち始めたのだ。 比喩ではなく、物理的に切り落ちた自らの手を見て、宿儺は思考を止めることなくすぐさま確信に至る。
(!? ……これは扇か!! まだ隠し玉があったとはな、……いいだろう、真っ向勝負だ!!)
領域が崩壊する。 手印を結んでいた腕が切り落とされ、退魔の焔の後押しによって、限界を迎える。 それでも、宿儺は笑みを崩さない。 己にはまだ絶対の切り札が残っているからだ。
(忘れたのか?、禪院扇よ。 俺にはまだ切り札がある。 この状態で『竈』の火力勝負をすれば、どちらが勝つかは明白であろう。 ……お前らが出してきた隕石を切り刻み、粉塵を生み出し俺の呪力にマーキング済みだ。 『領域展開中を除く多対一のでの竈の実行禁止』の縛りも満たしている。 ……此処を墓場にするのはお前のほうだ!!)
宿儺は前回からの戦闘で扇の手札を正しく理解している。 剣術、多重の簡易領域、術式『焦眉之赳』。 これらが扇の生涯をかけて鍛え抜いてきた技であることは正しい。 いくら扇が縛りで火力を強化しても、出力が戻りつつある宿儺を倒せるかどうかは五分あればよいほうだろう。 だが、宿儺に切り札があるように扇にもまだ見せていない切り札がある。 扇はニヤリと笑って言う。
「……見事だ、宿儺。 敵ながらよくぞ此処まで昇りつめたものだ。 ……剣士として、術師として敬意を示そう。 だが、些か軽率ではないか?、……勝負はこれからだろう?」
「ああ、そうだ!! さぁ、最期の命の輝きを俺に魅せてみろ!! 禪院扇ィ!!」
緊迫した場にどこか清らかなものが流れる。 それは互いへの敬意であり、此処まで死力を尽くした者同士の誇りがそこにはあった。 そして、扇は静かに流れる呪力を逆さまに廻し始める。 悪鬼を滅ぼす奥義が遂に炸裂する。
「術式反転!! 冷原之情!!」
その瞬間、辺りが絶対零度に包まれ、大量の氷が現れる。 順天の二倍の出力から放たれる絶氷は、先程まで業火で包まれていた一帯を完全に変えていた。 術式反転、正の呪力で術式を扱うこの技は普段の扇には使えなかった。 しかし、度重なる黒閃と死に近づくにつれて研ぎ澄まされる感覚によって、扇はぶっつけ本番にも関わらず、実践レベルで術式を運用することを可能にしていた。 参考にしたのはもう一人の最強、五条悟であった。 扇は心の中で五条に礼を言う。
(礼を言うぞ、五条。 ……お前のおかげで宿儺を倒す最後のピースが揃った。 ……さて、では戦るか。)
(これは……術式反転か!! だが、何の意味が? 氷で俺を殺そうと? ……いや、違う。 この男が単発で終わるわけない!! ……そうか!! 俺の『竈』を封じるのが目的か!!)
前回の戦闘で確かに扇は手札を晒したが、宿儺もまた扇に手札を晒している。 宿儺の手札はあの時点では斬撃と謎の炎。 そして、炎のほうは通常攻撃では使ってこなかった点から、常用できるものではなく縛りありきの運用を行っていると、ざっとだが扇は結論付けた。 何度も何度もあの日の考察を進め、着目したのは大量の粉塵だった。 宿儺ほどの術師が粉塵爆発という小手先を使うか?という疑念にも駆られたが、実際に戦って感じた生き汚さから有り得なくはないと答えを出した。 扇には粉塵を無効化する手札が必要だった。 そして、膨大な経験とセンスから術式反転を会得し、粉塵ごと辺りを凍らせていた。 度重なる試行によって、宿儺よりも扇のほうが一手早い。 間髪入れず、次の手を打つ。
(ッツツ!! まずい!! 今ので俺の粉塵を無力化し、俺は扇の技とぶつける燃料が無くなった。 ……だが、奴も限界が近い……!! 大技を打たれる前に仕留める!!)
宿儺の行動は早かった。 迎え撃つ手段が無いなら技を出す前に殺す。 ダメージレースでは宿儺が優勢な上に、肉体の限界を越え続けている扇では対処が難しいと判断したのだろう。 想定外の出来事が起きてもノータイムで最適解を見つけられる宿儺は流石というほかないだろう。 だが、領域は崩壊し、宿儺は御厨子が焼き切れている。 彼の敵は炳だけではない。 それは意識の外側から放たれた一撃。 禪院真依による最適のタイミングによる狙撃。 これによって宿儺の思考に一瞬の空白が生まれる。
(!? ……これは、超遠距離からの狙撃? ……そうか!! 俺の意識から他の雑魚どもが消える最適のタイミングで!! ッツツ、マズイ!! 奴の攻撃が……!!)
「今のは!! ……そうか、真依か。 ……終わりだ、宿儺。 一緒に黄泉路へと赴こうではないか!!」
扇は今の狙撃が真依であることを確信し、刀を高く構え、必殺の一撃を放つ。
「一切合切、吹き飛ばしてくれよう!! 虚式 龍頭荼毘!!」
虚式、『龍頭荼毘』。 その効果は絶対零度まで凍らせた周囲を焦眉之赳によって、一気に加熱し蒸発させ、体積を1240倍まで膨張させてから爆発させる扇の最後の切り札だった。 そして、宿儺が斬撃で加工し、サーモバリック爆薬と化した粉塵をも利用することで最大規模の爆発を引き起こした。 それは五条悟の虚式『茈』を参考にし、己の術式でアレンジしたものであった。 ガラスは溶け、途轍もない熱気と耳を劈くような爆音を響かせながら、新宿は地獄の業火に包まれた。 その炎に焼かれながら、扇は最期の時を噛み締める。
(……全て、全てを出し切った。 私は幸せだった。 最期に得難い強敵と出会い、全てをぶつけられたのだから。 ……真希、真依、私は先に逝く。 お前達とかけがえのない時間を過ごせたのは最高の幸福だった。 私がいなくなってもお前たちは明日へ往ける。 ……さらば、我が人生の誇りよ。)
禪院家歴代最高の剣士の一撃、新宿に刻む!!
今回も最後までお読みいただきありがとうございます!! これを書いていて、新宿の復興なんて無理だなと思いました。 作者は新宿に行ったことがなくデカいビルがいっぱいあるっていうイメージしかないですがいつか行ってみたいと思っています。 そして、カルナイ様、毎回の誤字報告ありがとうございます!! 気を付けてはいるのですが出てしまい、申し訳ないです。 本当に毎回助かっているので重なってしまいますが、本当にありがとうございます!!