善人家とマイナーキャラで逝く人外魔境新宿決戦 作:雲丹に似たナニカ
禪院扇の最大火力である虚式『龍頭荼毘』の爆発の後、新宿は静寂に包まれていた。 大半の人間が生涯で見ることのない光と轟音が過ぎ去った後、蒸気が上がる中、一つの影が揺らいでいた。 次第に蒸気は晴れ、その姿が浮かび上がってきた。 肘先から先は吹き飛び、顔には裂傷によって大きな罅が入っており、片足を引きずりながら人のような何かが出てきた。 それは宿儺であり、禪院扇の姿は何処にもなかった。 まるで朽ちた死人のような姿をした宿儺は先程の爆発の分析を始める。
(ゴハッ……、まさかこれほどとは……。 これほどの牙を隠していたとは……!! まさに心躍る死合であった、禪院扇よ……!! ……ッツツ、吐き気と頭痛が止まらん……。 単体の虚式だけならまだしも、俺の粉塵を利用されたのは痛かった……!! ……誇れ、生涯に出会った剣士の中でお前の右に出る者は居らん。 俺が断言する、……さらばだ、禪院扇、まさに炎のように鮮烈な男よ……。)
宿儺は一日にこれ程多くの猛者と戦い合えていることに感謝した。 平安の世でも少なかった血沸き肉躍る勝負、これらを全力で行えたからこそ禪院扇という存在を認めた。 宿儺が爆心地に近かったのにも関わらず、生き残れたのは何故か? 発生前に虚式の阻止が間に合わないと判断した宿儺は、脳をリセットし、術式の焼き切れを回復した後、反転術式で腕の一本を集中して再生し、次元斬を盾のように放った。反転術式によって、御厨子の焼き切れを治すリスクは極限の状況下でやるには危険度が高すぎた。 いくら、宿儺であっても五条との戦いで許容できるリセットに達していたため、最悪の選択肢として頭の片隅にあった程度だった。 同時に足で、解を使って地面を遮蔽物として掘り進めながら、簡易的な壁を作っていた。 焼け石に水ではあるが実際生き残っているので馬鹿には出来ない程度の効果があったようだ。度重なる黒閃も耐えられた理由の一つである。 そして、無理なリセットの後遺症で吐き気や頭痛が止まらなくなっており、人生で一番最悪なコンディションにされたといってもいいほどである。 黒く固まった血の塊を吐きながら、近付いてくる二人の術師を迎え打つべく、震える体に鞭を打って迎撃する。
「……クハッ、まだ来るか……。 ……いいだろう、悉くをこの手で塵殺してやろう!!」
呪いの王は健在であり、手を掲げ、指向性を定めた後、解を放つ。 鬼はいつだって強いものだ。 中でも、この悪鬼は呪術全盛平安の世を恐怖に陥れた、仮想の鬼神なれば。 扇の一撃を食らって、生きている宿儺に驚愕する甚壱と蘭太が其処にいた。
(!? ……アレを食らってまだ生きているのか!? ……化物め、だが、動きが大分鈍いな。 恐らく余程の無理をして、此処に立っているのだろう。 好機、此処で仕留めさせてもらう……!! 扇と長寿郎の命、……決して無駄にはせん!!)
(馬鹿な!? ……アレを食らって生きている生物がこの世にいるのか? ……切り替えろ、アイツに常識が通用しないのは痛いほど思い知らされた。 絶対に此処で仕留めきる……!!)
歴史上、類を見ない程、今の宿儺は弱っている。 現代最強の呪術師『五条悟』、江戸時代最強の術師『鹿紫雲一』、禪院家歴代最高剣士『禪院扇』。 この三人がかりでようやく両面宿儺の底が見え始めてきた。 二度とない好機を前にして、甚壱と蘭太は最後の力を振り絞る。
「甚壱さん!! 全開だぁ!!」
「ああ!! 此処で今度こそ仕留めきる!! 禪院で貴様を屠るッ!! オオオオオオッッ!!」
残っていた呪力を此処で使い切る勢いで二人は術式を起動する。 甚壱と蘭太、限界を越えた最後の攻撃が宿儺を襲う。 鬼気迫るその顔は確実に鬼を殺すための決意に満ちていた。
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どのような者が『英雄』と呼ばれるに足るだろうか。 人によって答えは無数にあるだろう。 だが、最も必要な要素はたった一つと決まっている。 それは諦めないことである。 どれだけ現実に打ちのめされても、どれだけ残酷な運命が待ち受けていようとそれに立ち向かうべく、自らの足で立ち上がる者を『英雄』というのである。 甚壱と蘭太は百折不撓の精神を持っている。 仲間が限界を越えたのだ、越えられないわけがない。 限界を越え、二人は舞い始める。 蘭太が術式を使い、宿儺を拘束する。 だが、まだ反動が抜け切れていないのか、顔中の穴という穴から血が滴り始め、地面を赤く染めていく。 それでも、不敵な笑みで蘭太は笑う。
(……ッツツ、不思議だな……。 ……全く痛くない、強がりじゃないんだ。 扇さんと長寿郎さんが見せたあの覚悟。 覚悟こそが恐怖に打ち勝つ唯一の方法だったのか…… ……舐めるなよ、宿儺、この身は既にお前を脅かす刃だ。 ……ガキだろうとお前を倒すことができると教えてやるッ!!)
覚悟を決めた蘭太によって、宿儺は瞬き一つ出来ない。 二十もいかないガキが呪いの王である自分を完全に抑え込んでいる現状に宿儺は焦りを感じ始める。
(クッ……この餓鬼……!! この俺が瞬き一つ出来んだと!? ……マズイ、アレがくる!! いくら俺でも扇の虚式を食らった後にアレを食らうのはさすがに負けかねん……!!)
そう考えた宿儺は全力をもって、力を入れるが一向に体は動かない。 止めている蘭太の体からはバキバキと骨が折れる音が聞こえるが、その目の力は一切鈍らない。 体からは滝のように血が流れ、服も鮮血で染まっていく。 だが、痛みで止まるならこの場に立っていない。 血を流しながら蘭太は叫ぶ。
「……俺を、俺達、禪院家を舐めるなよ!! 俺達はお前を、呪いの王を倒すぞ!! ……甚壱さんッ!! 今!! ここで!! 殺るんだ!!!」
「オオオオオオオオオオオオッッッ!!!! ここで全てを終わらせる!!! 極ノ番!!! 『撲天星・千龍』!!!」
巨星襲来。 空から千の龍が悪鬼を喰い殺すべく墜ちてきていた。平安の世を恐怖に陥れた悪鬼は今、降り注ぐ千の龍の牙と爪で引き裂かれようとしていた。 猛スピードで迫るその姿は神秘的とさえ感じられるほどだった。 この土壇場で甚壱は限界を越え、極ノ番の発展を行うという離れ業を見せた。 極ノ番、『撲天星・千龍』の能力は強力無比。 練り上げられた肉体を持つ甚壱が繰り出す『撲天星』を千へと増やし、その一つ一つが龍の如く宿儺を追尾し、喰らい尽くす。 辺りに宿儺に集中して当てるため、龍は鬼の匂いを嗅ぎ分け、獲物は牙によって無残にかみ砕かれる。 これが甚壱の生み出した業である。 肉体の才能と修練の極致に辿り着いた者だけが到達できる場所にあるものであり、甚壱は技を放った後、受け身をとる力も使い果たしたのか、勢いよく地面に激突した。 土煙が晴れた其処には、大の字に倒れこむ甚壱の姿があった。 そして、それを見届けた蘭太は瞼を閉じ、血を流しながら呟いた。
「やりましたね……。 甚壱さん……!!」
その言葉を最後に蘭太は意識を無くした。 そばに倒れている甚壱は蘭太に駆け寄ろうとするも、限界を越えた反動のため、もはや指一本すら動かせない。 それでも意識だけは飛ばすことなく、襲い来る疲労と眠気に耐えながらそれらに抗う。
(ハァ……ハァ……やったのか……? ……ッツツ、蘭太を早く、躯俱留隊のところへ連れて行かなければ…… ……せめて死体の確認だけでもできれば意識を落とすことができようものを……。)
甚壱が考えを纏めた矢先、乾いた足音が聞こえた。 スタリ、スタリと此方へ近づいてくる音は活気に満ちているようにも聞こえた。 風かと思い、耳を澄ませてみれば、それは幻聴ではなく少しずつ此方へ近づいてくる。 甚壱は迫り来る足音に悪い予感を覚え、何とか立ち上がると蘭太を庇うように拳を構える。
(まさか……、嘘だろ……。 無防備でのノーガードで千発だぞ……。 全てが会心の一撃だった、全身全霊の攻撃を叩き込んだはずだ。 ……どうs)
「……ククッ、どうしてか? ……そう聞きたげな顔だな、甚壱よ。」
脳内で思考をまとめるよりも早く、甚壱の体に赤い線が刻まれる。 瞬間、血が噴き出し、目の前の存在を見る。 其処にいたのは……
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絶望蘇る。 其処にいたのは間違えようもない邪悪の化身、呪いの王『両面宿儺』だった。 不可解だったのはその呪力は満ち溢れ、体の傷も治りかけていたことだ。 その姿に甚壱は絶望を覚えつつも、心の芯までは折れず、宿儺に拳を突き出し、獄ノ番を打とうとする。
「ッツツ……!? ……まだだ!! 極ノば……ガハッ、何故……?」
甚壱の胸に解が刻まれる。 それは先程戦っていたものよりも強く、血がカーテンのよう噴き出し、赤色に辺りを染め上げる。 それでも蘭太には一発も当たらせないという覚悟で放たれる解を己の身で受け続ける。 血にまみれたその姿はまるであの弁慶のようであった。
「……ククッ、いい技だった、それは褒めてやる。 まさかこの俺が三途の川まで見るとは夢にも思わなかったぞ。 ケヒッ、知ってるか……?、……あの世に何があるか?、……知る由もないか。 ……良い、疾く失せ、散り際で俺を興じさせてみろ!!」
宿儺は確かに死んでいた。 いや、正確には八割死んでいたというのが正しい。 黄泉の国へと誘われていたのは間違いない。 だが、その道筋の道中、普通の人では通り過ぎてしまうようなところに何の変哲もない石ころが落ちていた。 どうせ、黄泉の道筋なのだ、石の一つ、二つどうでもいい筈だった。 だが、宿儺は不意にそれが気になった。 屈んで、その石ころを拾った、ただそれだけだった。 そして、それは幸運なことに今の宿儺に一番必要なものだった。 石ころを握ったその時だった。 己の魂が告げている、『決して手放すな』と。 目が覚める、体には傷が無数に刻まれ、打撃によって腕も可笑しな方向に曲がっている。 それでも感じる、命を。 もはや痛みは過ぎ去り、頭は澄み渡っていた。 そして、気付く。 己の呪力が、体が軽いことに。
(……ククッ、やはり俺は運命に愛されているらしい。 ……冥途の旅路でつかんだあの小石は『呪力の核心』だったのか……!! 嗚呼、この世は理不尽だなぁ、伏黒恵よ!! お前の言っていた通り、『この世は不平等な現実のみが平等に与えられている』!! どれだけ俺が理不尽を与えようと、どれだけ俺が悪逆非道を尽くそうとそれが真実なのだ!! ……ハァ、これだから生はやめられない……!! ……フゥ、さて、殺しにいくか……。)
どんな者にも運命の女神は平等に微笑む。 たとえそれが善人だろうと、悪人だろうと。 この世は理不尽でできているのが理であり、強者が弱者を踏みつける。 そのように世界は回っているのだ。 今、この場で愛されたのは宿儺であり、邪悪の悪鬼は復活を遂げる。
(……こんな、このような理不尽が有り得るのか……!? ……命を燃やし、死力を尽くした戦いの果てがこれだと……? ……ふざけるな……!! 認めん、認めんぞ!!)
甚壱はこの世の理不尽に嘆きをぶつける。 仲間の命を捧げ、辿り着いた死闘の果てが理不尽極まりないものであることに激怒した。 しかし、彼にもう力は残っておらず、宿儺の解に対して切り刻まれることしか出来なかった。 最初に片目が潰され、狭くなった視界で異変に気付く。 己の腕が軽くなっていることに。 右手を見てみると、其処には肘から上はなく、耐え難い激痛が甚壱を襲った。
「ぐああああああァァァ、……ゴハッ、認めん、俺は認めんぞ!! ……まだァ、まだなんだァ!!」
切り刻まれながら叫ぶ甚壱。 だが、後ろにいる蘭太にはかすり傷一つ付けさせておらず、彼の心もまだ諦めていなかった。ゲラゲラとその覚悟を嘲笑いながら宿儺が『捌』で甚壱の首を落とそうとする。
「……ケヒッ、やはり弱者を甚振るのも強者の特権だな。 ……だが、俺はこれを好かん。 ……どれ、愉しませてもらった礼だ。 派手に逝け。」
その時だった。 一筋の風が吹き、長い甚壱の髪は揺れ、大波のような呪力の気配がした。 瞬間、宿儺の体は画面のようにフリーズし、凄まじい勢いで蹴り飛ばされた。 甚壱の背後からは憎たらしい顔と言葉で返すあの男がいた。 だが、その荒れる呪力はどう見ても……
「……非道いなぁ、人の心とかないんか?」
甚壱はその声を聞いた時、体の力が抜け、我らが大将の到着に安心し、言葉を告げた。
「……全く、遅過ぎるぞ。 ……死ぬところであったであろうが、馬鹿者が。 ……あとは任せたぞ、直哉。」
そういった甚壱は満足そうに目を閉じた。 まるで真の希望を感じたようにゆっくりと体が地面に横たわった。
「ごめんちゃい♥ ……さて、死ぬ準備は出来てんのやろなァ?、宿儺ァ!!!!」
直毘人の最速を受け継ぎし、現禪院家当主『禪院直哉』現着!!
「最高速度で何もかもブチ抜いたるッ!! 止めれるもんなら止めてみろやァ、トロいお前に出来るもんならなァ!!」
「ケヒッ、嗚呼、そうだ、そうだとも……!! 呪い合いこそが至高のものだとも!!!! 我ら術師だけに許された真の!! 生の感動なのだ!!!!」
禪院直哉、初速からトップスピードで舞う!!
今回も最後まで読んで頂きありがとうございます。 投稿予約を使ったのですが、保存し忘れていたようで未完成のままのものを出してしまいました。 今後はこのようなことがないよう気を付けます。 本当に申し訳ありません。