善人家とマイナーキャラで逝く人外魔境新宿決戦   作:雲丹に似たナニカ

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善人家とマイナーキャラで逝く人外魔境新宿決戦 <伍>

 

 

禪院家が死力を尽くして戦った宿儺との死闘。 様々な術師の活躍があり、宿儺を倒したはずだった。 だが、かの悪鬼は死なず、黄泉の国から再び舞い戻った。 そして、絶体絶命の中、現れたのは禪院直哉であった。 その顔は笑いつつも、荒れ狂う思いは隠し切れていなかった。

 

 

(……皆、すまん。ホンマにようやってくれた……。 ……後は俺が決着着けたるさかい、安心して任しときや!! ……扇君と長寿郎君は死亡、蘭太君と甚壱君、信明君も限界……。 ここまで削られてんのや……見れば分かる!!)

 

 

「随分と辛そうやなぁ、宿儺!! ……ガワだけはいっちょまえに取り繕ってるけど、限界なのがバレバレや!! ……いい加減、死に晒せやァ!!」

 

 

術式によって、三次元的な動きを展開しながら直哉は宿儺を圧倒する。 直哉の考察は当たっている。 いくら宿儺でもノーリスクで冥途から戻れる方法は存在しない。 呪力の核心というプラあるものもあるが、どちらかというとそれは復活するための後押しの役割が大きい。 宿儺は『魂の残量』を消費してこの場に立っている。 『魂』とはその人がその人であるための材料の一つであり、下手をすれば自我が無くなってしまうものでもあった。 それを消費したというぐらいなので、どれだけ宿儺がなりふり構わずにいたか分かるだろう。 そして、直哉が遅れた理由はたった一つ。 『五条悟の復元』である。 術式を拡張することによって、対象者のある一時点を切り取り、『保存』することによって復活の余地を残すというものである。 もっとも実用化には様々な縛りや保存中の脳のリソースの占拠があるため、多数の者を保存しておくことはできない。 そして、直哉の場合、さらに厳格な条件がある。 それは『アッチ側』であること。 これは直哉の主観によって決まるため、さらに条件を難しくしている。 そして、肝心の五条を復元できたかといえば半分成功で、半分失敗というのが答えであった。 体は完全に復元できた。 だが、その人をその人たらしめる『魂』が戻ってこないのだ。 彼は今、青き夏の真ん中にいる。 自らの最も満ち足りた、空間から五条が戻ってくるかは未知である。 

 

 

(……悟君がこっちに戻ってくるかは五分や……。 だけど、高専の子達が今必死に呼び続けとる……!! 悟君は戻ってくる!! 宿儺なんて認めへん!!!! ……あの子達を戦地へなんか行かせられるかいな、ボコボコに殴って殺したるッ!!)

 

 

「どうしたぁ!! 動きが追えてへんやないの!! ……俺らに手ぇ出して生きて帰れると思うなよッ!!」

 

 

(……成程、これが奴らの長か……。 確かに速い、……十中八九、術式によるものだろう。 ……このまま、加速を続けられれば、斬撃はまず当たらん。 が、どのような奴にも型がある。 こいつも例外ではない。 ……幸い、一撃の重さは甚壱ほどではない。 のらりと受け流し、完全に読み切ったところで殺す!! ……今は好きなだけ動き回るといい、お前の型が無くなったときが死ぬときであろうよ!!)

 

 

冷静に方針を固め、宿儺は動き出す。 もはや残像しか見えない直哉の動きを四つの目で一つ一つ記憶し、斬撃を置いていく。 それに対抗して、直哉は速度を更に上げ、宿儺を殴り続ける。 

 

 

(……狙っとるな。 ……やけど、カウンター狙いなんてもう何度もされとる!! ……だけど、バケモンの此奴には喰われかねへんッ……!! ……我慢比べや、宿儺。 こっからはギア上げてくで……!!)

 

 

直哉が宿儺への警戒を最大級に上げ、仕込みを起動させるために手をあげる。 瞬間、宿儺の全方位から凄まじい轟音が響き、鉛玉の雨が宿儺を容赦なく貫く。

 

 

(!? ……これは弾丸?、だがそれ程度で俺の肉体を抜くことは出来ないはず……。何故、俺に効いている……!? そして、この密度……!! 味方ごと巻き込むつもりか……? 一体何を企んでいる……?、この男は……!!)

 

 

「やっぱりおじいちゃんやね、……現代の戦争を知らんやろ、君。 こっからは我慢比べや、宿儺ァ!!」

 

 

弾丸が雨あられと降り注ぐ、地獄絵図。 今、究極のチキンレースが新宿で始まる!!

 

 

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今、ここにて行われるのは究極のチキンレース。 宿儺は目の前の異常事態に混乱していた。 何故、自分に弾丸なぞが効くのか? 何故、味方ごと巻き込んでいるのか? まるで嵐に巻き込まれたような衝撃が宿儺を襲う中、ある事実に気づく。 直哉には一発も当たっていない。 その事実に宿儺は瞬時に思考を巡らす。

 

 

(!? ……よく見ると、奴には一発も当たっておらん。 ……まさか、そのように撃っているというのか?、いや不可能だ……。 ……そうか!! ……恐らくは奴の術式によるものだな。 ……信じがたいことだが、奴は術式を使って、全てを避けきっているのだ……!! ……そんな芸当は俺がやっても出来るかどうか……。 此奴の空間認識能力は常軌を逸している……。 ……そして、この弾丸にも秘密があるようだな。 俺の肉を僅かではあるが削っている……。 ……ケヒッ、良いだろう、乗ってやるッ!!)

 

 

そこに作られたのは弾丸の檻。 宿儺を閉じ込めるためだけに作られたものであった。 それは直哉がこの日のために大量の資金をつぎ込み、たった一人の少年を救い出すために作られた現代流の弾幕であった。 それは細部まで細かく作りこまれており、禪院家が監修した史上初の対呪詛師用戦術である。 具体的に作りこまれているのは何よりもその弾丸。 西洋の銀の弾丸に着目し、作られたのがこの弾丸である。 一つ一つに呪術的な儀式が施され、弾丸の機能を損なわないように手入れされたものであった。 これを作るために、文字通り禪院家の皆は死ぬ気で働いた。 ブラック企業も顔を真っ青にする勢いで働いたこともあってか、僅かではあるが宿儺に痛手を与えていた。 そして、一発一発の効果は薄くても、塵も積もれば山となるように、余裕のない宿儺には無視できないものとなっていた。 無論、宿儺一人だけだったならば抜け出せるだろう。 だが、此処には直哉がいる。 弾丸の檻から出ようとする宿儺を無慈悲に蹴りつつ、『再生』が可能になるまで全力で殴り続ける。

 

 

(……ッツツ、やっぱキツイな。 弾丸に当たらずに動きを作るのは流石の俺でも、神経を使う……。 ……やけど、皆が命を懸けてんねや。 俺が躊躇うわけないやろッ!!)

 

 

この策は直哉にとっても諸刃の剣になり得る策である。 大前提として、弾幕の中で一切当たらずに動きを刻むというのは直哉以外は不可能な芸当であり、その直哉でも大量の集中力を必要とする。 もし、一瞬でもパニックになり動きを乱すと自らの術式によってフリーズし、大量の弾丸が直哉を貫いた後、宿儺によって切断されるだろう。 これは宿儺の限界が先にくるか、直哉の限界が先にくるかの我慢勝負。 そして、『再生』とは伏黒恵の記憶に干渉する直哉の最後の秘策である。 しかし、これは宿儺が相応に弱らないと使えない技であり、そのレベルに達するまで残り一分!!

 

 

(……何か、何かを狙っているな……? ククッ、俺が奴の動きを読み切るのが先か、それが発動するのが先か。 ……試してみろ、奴を必ず断ってみせよう。 さぁ、決着だ、貴様らの血でこの地を染め上げ、悉く全てを塵殺してやろうッ!!)

 

 

(上等じゃ!! 何が何でも此処でぶち殺したるッ!! もう牙や爪が出てきても驚かへんッ!! ……確かにオマエはバケモンや。 ……けど、最後に勝つのは俺らやッ!! 最高速度でブチ抜いたるッ!!!!)

 

 

その思考を皮切りに直哉が更に亜音速を越えようとする速度まで加速する。 鍛えられた直哉の体に少しずつ血が滲んでいく。 外界の状況を大量に処理する必要もあり、直哉の脳にはち切れんばかりの激痛が襲う。 しかし、それらを上回る宿儺への怒りと大量に分泌されるアドレナリンによって、もはや直哉のギアはぶっ壊れていた。限界を越えた直哉の秘策が宿儺に炸裂する!!

 

 

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宿儺に再び襲い来る死の予感。 自身の第六感が明確に目の前の敵を最大級の危険として認めていた。 迫り来る弾丸と直哉の打撃に徐々に押されながら、読み切れない直哉の動きに宿儺は焦りを感じ始める。 

 

 

(……ッツツ、まずいな。 此奴どれだけ動きの引き出しがあるんだ……!? それにこの弾丸……!! 呪術の儀式だけでなく洗礼も受けているな……!! ……これだけの期間で俺を閉じ込める檻を作ったことは褒めてやろう。 ……間に合うかは五分だな。)

 

 

(……あともうちょい……!! ……このまま畳みかけさせてもろうで!!)

 

 

そして、宿儺に一発の銃弾が突き刺さる。 再び禪院真依の狙撃によって、心臓のど真ん中に『銀の弾丸』が突き刺さる。 それは魔物を殺すために作られた神秘の魔弾。 直哉がわざわざイギリスまで出向き、慣れない英語を駆使して高名な神父に特別な祈りを捧げてもらった祈りの弾丸。 たった一発の切り札を惜しげもなく、真依へと与えた。 其処にあったのは信頼。 背中を預けられる仲間としての絆があった。

 

 

(……此処で決めなきゃ、皆の犠牲が無駄になる。 ……集中しろ、お父さんの仇とか関係ない。 ……今、此処に必要なのは『透徹な覚悟』。 ……私がやるんだッ!!)

 

 

憎しみも緊張も、全てを脱却した『透徹な覚悟』から放たれる銀の弾丸は寸分の狂いもなく宿儺の心臓を貫いた。 最適の援護射撃に直哉はニヤリと笑い、次々と放たれる斬撃を最短距離で駆け抜けながら避け、宿儺の胸にそっと手を置く。 そして、息を切らしながら宣言する。

 

 

「……ッツツ、俺らの勝ちやッ!! ……起きろッ、恵君ッ!!!!」

 

 

その瞬間、宿儺の体、いや伏黒恵の体に今までの記憶が甦る。 微かに残る自らの父親。 津美紀と過ごした貧しくも楽しかったアパート生活。 胡散臭い自らの恩師が押し掛けてきた日。 中学時代に説教を受けたこと。 津美紀が呪われ、呪術師を目指した日。 面白おかしい先輩とかけがえのない仲間と過ごした青い夏。 ……俺が、俺の手で津美紀を殺した日。 それは禪院直哉の知らない弱さ。 恵君なら折れないと想定した彼の人の心への信頼。 其処だけが想定外だった。 人の心は量れない。 伏黒恵にとっての急所がそこだったというだけ。 たったそれだけのことが命取りとなった。

 

 

「……もういい、……もういいんだ……。」

 

 

伏黒恵の意志はもう死んでいる。 『再生』によって自らの記憶を回帰したからこそ、出た結論であった。 勝負は一瞬だった。 戻らない恵に不信感を覚えた直哉の思考が一瞬フリーズする。 度重なる術式使用と緊張、極限かに晒され続けた反動で直哉の動きが止まる。 それは宿儺からしてみればあまりに大きな隙で、命を奪うことなど容易いことだった。

 

 

「『龍鱗』、『反発』、『番いの流星』、……『解』!!!!」

 

 

弾丸の雨に晒されながらも、致命的な隙を逃すほど宿儺は甘くない。 愉悦に興じ、世界を断つ斬撃を直哉に放つ。 それは直哉の体にまるで吸い込まれるが如く、命中しその体を真っ二つに断った。 絶死の刃が己を切り裂く中、直哉は思考を巡らせる。

 

 

(!? ……何で戻って来やんのや……!! ……そうか!!、すでに恵君の心を宿儺が完膚なきまでにへし折ってたちゅうわけか……!! ……この斬撃、悟君にやったやつか。 ……皆、すまん。 ……アッチ側に行くのは無理なんやろか……? ……ッツツ、もう……意識が……。)

 

 

銃声と爆音が響き渡る中、直哉は倒れた。 呪いを知り尽くすがゆえに、宿儺は人の心をいとも容易く折ることができる。 人を信じる禪院家だからこそできてしまった、唯一の急所を宿儺は突いたのだ。 呪いとは愛の裏返し。 皮肉なことに愛ゆえに直哉は敗北した。

 

 

「!? ……嘘だろ、直哉様がやられた……? これ、どうすんだよ……?」

 

 

躯倶留隊の一人が絶望したように呟く。 今まで準備してきた策は全て宿儺に喰い尽くされ、最後の希望であった直哉ももういない。 自分たちが尊敬する人達がやられていく姿に禪院家の皆は戦慄を禁じ得ない。 宿儺は満足していた。 五条に続いて、さまざまな術師が自分を倒すために全身全霊を尽くしてきた。 雷神の如き熱き男、炎のように鮮烈な扇。 練り上げられた肉体と技を持つ甚壱、絶対的な覚悟を決めた蘭太。 ……そして、持ちうる全ての手を使って自身を追い詰めた直哉。 宿儺は確信する。

 

 

(……俺が念入りに伏黒恵の魂を折っておかなければ、倒れていたのは俺だっただろう……。 弾丸の檻もよくぞ、よくぞここまで練り上げた……!! 生半可なものでは術師に通用しない……、何度も何度も試行を重ねた珠玉のものだったのだろう……。 ……本当に、本当に楽しかった!! ……ここまでの品をよくここまで準備したものだ。)

 

 

それは宿儺からの心からの賞賛。 持てるものを全て使って、あの手この手で自身を倒そうとした禪院家の敬意があった。 至高の呪い合いから、工夫を凝らした現代戦までより取り見取りの戦いができたことに満足していた。

一しきり満足した後、相手への敬意も込めて一人も逃がさないという思いで後方支援の方へ向かう。 そう決断した時だった。 グサリと心臓をえぐる嫌な音がした。 それは勝利を確信した者への強襲。 現代の鬼人『禪院真希』による致命の一撃だった。

 

 

(!? ……この俺が気配を感じられなかっただと……!? ……もしや、此奴、完全なる天与呪縛の……?)

 

 

瞬時に思考を巡らし、これ以上刃を引かせないように対処しようとするが既に遅い。 禪院真希の尋常ならざる力によって、滅多切りにされた後、斬撃をまき散らし嗤いながら真希に向き合う。

 

 

「……そうだ、そうだなァ!! ……デザートがまだだったんだ!! 遠慮なく喰らおうッ!!」

 

 

「意味わかんねーこと言ってんじゃねえよ。 ……こっちは滅茶苦茶にされて切れてんだ、老害はさっさとあの世に送ってやるよ!!!!」

 

 

史上最強の術師と天与の暴君での最後の戦いが今、始まる!! これを制した者が真の勝者となることは間違いないだろう……。

 

 

 

 

 

 









今回も最後まで読んで頂きありがとうございます!! 一昨日の仙台コロニー編めっちゃ面白かったです!! 作者がジャンプで一番好きなバトルだったので感動しすぎて変な声を上げてました。 乙骨君がかっこよすぎて、惚れ直してしまいました!! やはり彼は女たらしですね。 性別関係なく人を引き付けられるキャラを生み出せる芥見先生は本当にすごいと思います。 来期の呪術も期待して待ちたいですね!!!! そして、カルナイ様、±0様、誤字報告本当にありがとうございます!! もしよければ感想お待ちしております!!
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