光源がひとつも無い真っ暗闇の空間。
だが、その空間を歩き続けている人物の姿は、まるでテクスチャバグの様にくっきりと見えていた。
その人物は足を止め、周りを見渡す。
「夢か?ここは」
(だが夢にしては、どうにも掴めない)
不思議な感触に包まれている男は、身体を軽く動かしながら、想像を行う。
(……駄目だな。夢なら想像で物が出てくるものなんだがな)
顎に手を当て、頭を傾げていると、真っ暗闇の空間が真っ白な空間に変わる。
男の前には、画面が砂嵐のブラウン管テレビが置かれていた。
「何なんだ、ここは」
「神聖な領域と言いましょうか」
「ッ!?誰だ!」
周りを見渡すが、誰も居ない。
その白い空間には、未だ砂嵐のブラウン管テレビのみ。
だが、そのブラウン管テレビから出ているザーと言う音は、少しづつ大きくなっている。
ある程度大きくなると、急に音が消え、画面が砂嵐から切り替わる。
画面に映し出されたのは、ひとつの瞳に6対の白色の翼が生えた何かだった。
「どうも、
「……何者だ、どうして俺の名前を知っている」
「あなた達の言うヤハウェ様の1部から産まれた、神です」
「……神だから何でも知っていると」
「何でもではありませんよ。ただ、貴方についての書類を拝見させていただいただけですから」
「神でも書類なんだな」
「ええ、便利なものですからね」
「とりあえず、後ろにある席に座ってください」
男が後ろへと振り向けば、先程はなかったパイプ椅子が置かれていた。
疑問は残るが、とりあえずパイプ椅子に座る。
「……それで、神様が何の用だ」
「えぇっとですね、貴方はいつも通り就寝していた訳じゃないですか」
「まぁ、そうだ」
「貴方が寝ている間に災害が起きまして、色々あったんですけどね」
「ぶっちゃけて言うと災害に巻き込まれて貴方は死にました」
「はぁ……はぁ!?」
「ってなる筈だったんです」
「なる筈って……どういう事だ」
「貴方はまだまだ若いです」
「それなのに先程の大災害の唯一の犠牲者となってしまう」
「それを偶然見ていた私が転移という形で救い出しました」
「ですが、転移という形を使ってしまった事で貴方を
「帰すことは出来ない……だろう」
ええ、死に至ることは無くなりましたが、その代償として別の世界に転移するしかありません」
「まぁ……帰ることが出来ないのならば俺の安息の時間が生まれる」
「……別の世界に転移しても1年経てば元の世界に帰ることが出来ますが」
「いいさ、別に。元々1人みたいなものだからな」
「元の世界には帰らず、別の世界に永住するということで大丈夫でしょうか」
「嗚呼、それで頼む」
「では、こちらにサインを」
男の目の前にポンッと、安っぽい効果音と共に机とその上に紙とペンが置かれていた。
「これは?」
「転移の契約書です」
「……毎度思うがこっちと変わらない感じで契約結ぶんだな」
「ええ、それが楽ですから」
男が書類に目を通し、落ち着いた調子でさらさらとサインを書く。
サインが書かれた紙は、浮かび上がって神が映るブラウン管テレビへと吸い込まれていった。
「……確認しました」
「では、別の世界での貴方の旅路に幸せがある事を、祈ります」
神がそう言えば、男の意識は闇の奥底へと沈んで行く。