【超かぐや姫短編】デスノートを拾った彩葉(夢オチ)/かぐやを拾った夜神月   作:生徒会副長

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①デスノートを拾う夢

 

 

「いろPはねぇ! 夜神月並みに賢いんだよ!」

 

 ある日の配信で、ツクヨミライバーのかぐやはそんなことを言った。

 きっかけはまぁなんてことはない。劇場版DEATH_NOTEの実況配信が終わった後の、雑談の一幕である。

 

「なんかの模試? とかテストでぇ、百点とか1位とか取りまくってる! ちょー天才! でもライトと違って彩葉の方がかぐやのプロデュースとか作曲とか出来る分上かも! 上とか下とか関係なく、私はいろPのこと大好きだけどね!!」

 

 チャット欄には、

 

 『いろPまじ神なんだよなぁ』

 『かぐやといろP末永く幸せに過ごして欲しい』

 『いろPの笑顔が見たくてヤチヨカップでこのチャンネル推した!』

 『かぐやちゃんといろPがヤチヨとコラボする日がマジで楽しみだわ』

 

 などのコメントが並ぶ。

 

「……夜神月、ねぇ」

 

 そんな朗らかな雑談動画を、布団に包まり、就寝前に見ていた彩葉はふと思った。

 

「……まさかデスノートも実在するワケ……ないよね」

 

 彩葉とかぐやの出会いは、ゲーミング電柱の中から彩葉が赤ん坊を見つけたあの夜だ。

 科学では説明がつきそうもない超常と出会って物語が始まる──という凄まじく大雑把な枠組みでは、かぐや姫もDEATH_NOTEも共通点がある。

 凄まじい勉学の才能を持つ才色兼備の高校生という意味では、酒寄彩葉と夜神月には共通点がある。

 

「もし私がかぐやじゃなく、デスノートを拾っていたら……」

 

 なんてくだらないことを考えようとして、彩葉はやめた。

 今日も素晴らしい、充実し過ぎた一日だった。受験勉強やら、ヤチヨとのコラボライブに向けた演奏や振り付けの準備や練習やら、かぐや向けに送られるメッセージや企業メールのチェックやら。

 空想上にしか存在しない殺人ノートについて考えるリソースなど正直無い。

 

「寝るか……」

 

 そこはかとなく不気味な三日月が、彩葉とかぐやが暮らすマンションを照らす夜、彩葉は心地よい疲労感に誘われ、夢の世界に落ちていく──。

 

 

──※──

 

 あぁ、これは夢だな……と分かる夢だった。

 夢を見ているのは彩葉だが、夢のあらすじには干渉できないし、夢の登場人物『酒寄彩葉』を操作することもできない。まるで映画を観ているような夢だった。

 

「つ、疲れた……」

 

 その夢の彩葉は限界いっぱいいっぱいだった。学校の授業を済ませた後、バイトをして、その帰り道。更に酷いのは──。

 

「あのおっさんめ……。さっさと注文してさっさと帰ってよ……」

 

 今日に限ってラストオーダー直前に入店してきた客がのんびり店内で寛いで、帰りが遅くなってしまったことだ。彩葉が勤めているカフェはいい店なのだが、サービス残業という概念は一応ある。飲食店の宿命のようなものだ。つまり今日の彩葉はいつもより15分タダ働きをさせられたということだ。

 

「しかもこんな日に限って……」

 

 彩葉は一縷の希望を託してスマートフォンの電源ボタンを押すが……反応しない。

 バイト前に電源を切り忘れていた為、充電が切れたのである。生きる希望にして神にして推しにして日々の潤いたるヤチヨの歌声が……響かない……。

 

「うぅ……。やだよぉ……。こんな世の中……こんな人生……」

 

 そんな愚痴を半泣きになりながら零していると、彩葉が住むボロアパートの近くの道路に、何かを見つけた。

 電柱の明かりが照らし出すそれは、真っ黒なノートだった。

 つい気になって、彩葉はそのノートを手に取った。

 

「……DEATH_NOTE。直訳で死のノート、ねぇ……。はっ……」

 

 嘲笑が洩れる。私がこんなに忙しい日々を送る中、暇な遊びをする人がいるものだと、彩葉は思った。

 表紙をめくると──。

 

「How to use……。全部英語? 凝ってるなぁ。私じゃなかったら翻訳するだけでそこそこ時間使かかりそう」

 

 一通り勉強の息抜きに読んだら捨てよう……というぐらいの気持ちで、彩葉はそのノートを持ってアパートの自室へ向かって歩き出した──。

 

──※──

 

 夢の場面が切り替わる。

 

 一通り今日の勉学のスケジュールを終えた後、彩葉はデスノートの使い方に関する説明に目を通していた。英語のちょっとした勉強にもなるかも……なんてことも視野に入れている。BGM代わりに、ニュース番組を聞き流している。

 やがて彩葉はデスノートの使い方を完全に読破した。二ヶ所だけ英文法の再確認をするきっかけになったという意味では、有意義な息抜きだった。

 無論、内容を本気になどしていない。

 

「顔と名前さえ知っていれば人を殺せるノート、ねぇ……」

 

 すると見計らったように、ニュース番組が速報を流し始めた。

 

『いま入った速報です。昨日、新宿の繁華街で男性2名を刺殺した通り魔が、現在、この歌舞伎町にある漫画喫茶に立てこもっているようです。人質となっているのは女性店員2名と男性店員1名。警視庁は犯人を音原田九郎、無職、42歳と断定。音原田は一昨日……』

 

 彩葉が考えたことは3つ。自分の母親が弁護士であること。自分が弁護士を目指していること。いま手元に殺人ノートがあること。

 

「……こんな奴、弁護する価値ある?」

 

 自分が必死に働きながら勉強しているのに、あの通り魔は無職で人に迷惑をかけている。

 あんな人生(ものがたり)に何の意味があるんだろう。

 あんな奴、どうせ死刑という結末が決まっているんだから、裁判や弁護なんて過程は要らないんじゃないか?

 そして魔が差した彩葉は、ついペンを走らせてしまう……。

 

 ──音原田九郎

 ──10分後、バカヤローと叫びながら、血を吐いて死亡。

 

「……10分あれば、2ページぐらいは進められるか」

 

 無論、本気で書いた訳ではない。

 今日の勉強を、あと10分頑張る口実代わりに使っただけだ。

 ニュース番組を流していたタブレットをスリープモードにし、彩葉は数学の問題集に手を伸ばした。

 

 ──そして10分と少しが過ぎた後。

 数学の問題を解き終わった彩葉が、再びニュース番組を観ると……。

 

「いま情報が入りました!  犯人死亡! 立て籠もり犯の音原田が死亡しました! 『バカヤロー!』と叫んだ直後、致死量の血を吐いて突如倒れたとのことで……」

「えっ……。は……?」

 

 背筋が凍る思いがする。心臓を爆発させそうになりながら、ニュースの内容とデスノートに書いた内容を見比べ、聞き比べる。

 

「私が……いま……。ころ……殺し……」

 

 えずきが込み上げるのを感じた彩葉は、台所へ駆け出す。夕食に食べたミートパスタを吐き散らし、ガクガクと凍えるように震えた。

 

「どう……しよう……。どうしようどうしようどうしよう……!」

 

 頭の処理が追いつかない。

 少しでも頭に入ってくる情報を削りたくて、彩葉は布団の中の闇に引き篭もる。

 

「私が……殺した? これって殺人になる? あのノートって本物? どうしようどうしようどうしよう……」

 

 必死に頭の中で考えた。善と悪。法と秩序。人生と人命。母のこと、兄のこと、推しである月見ヤチヨのこと、自分のこと……。

 考えた結果、彩葉は最悪の結論に至ってしまった……。

 

「……弁護士なんてクソだ。この社会は腐ってる……」

 

 娘の気持ち一つに寄り添うことも出来ないクセに、犯罪者を庇ってお金を稼ぐなんて馬鹿馬鹿しい。

 私が必死に勉強や労働に励む一方で、腐った人間が世界には多すぎる。怠け、盗み、奪い、傷つけ、足を引っ張る……。そんな連中の命や人生に価値などない。

 どうせ自分がどれだけ勉強したって社会は良くなんてならないし、ゲームでは兄に勝てないし、ヤチヨのように誰かを感動させる音楽を作ることもできやしない。

 なら、デスノートを使えばいいんだ。

 母にも、兄にも、ヤチヨにも出来ないことを、自分がデスノートでやってやる。

 

「悪人を殺して殺して殺しまくって……そして私は……」

 

 彩葉は神棚に飾ってある、月見ヤチヨのアクスタに目をやる。

 月見ヤチヨの歌が優しく表から世界を照らし、酒寄彩葉のデスノートが厳しく裏から世界を正す。

 そうすることで……。

 

「酒寄彩葉は……新世界の神になる!」

 

 彩葉がそんな昏い夢を抱いた瞬間……。

 ピピピッ……と、現実世界から音が鳴り響いた……。

 

──※──

 

 滝のような汗を流しながら、彩葉は起床した。独りぼっちのボロアパートではなく、マンションの寝室で。

 

「はぁっ……はぁっ……。ゆ、夢……?」

 

 どこまでが夢で、どこまでが現実だったのか。

 その答えとなる光が、彩葉の部屋に飛び込んできた。

 

「おはよー! 彩葉! 朝ごはんバッチリ出来てるよー!」

 

 一緒に暮らすかぐやが、金色の髪をサラサラに揺らしながら顔を覗かせる。

 夢だったのは、自分がデスノートを拾い、人を殺してしまった世界。

 現実だったのは、自分がかぐやを拾い育て、かぐやと共に人々を熱狂させた世界。

 そう再認識すると、彩葉の目には涙が溢れてきた……。

 

「か、ぐ、やぁぁぁぁ……」

 

 すかさずバッと、かぐやは彩葉の胸に飛び込んだ。

 

「彩葉! どうしたの!? 具合悪い!? 病院行く!?」

「そう、じゃ、なくて……。嫌な夢を、見て……うぅ……!」

 

 彩葉は涙ながらに語った。デスノートを拾い、人を殺してしまった夢を。

 

「夢で良かったよぉぉ……! 拾ったのがデスノートじゃなくてかぐやで良かったよぉぉぉぉ……!」

 

 彩葉は子供のように泣きじゃくって、かぐやの胸で泣いた。かぐやの服を涙で濡らすこともお構いなし。それほど彩葉が他人に弱みを見せるのは珍しいことだった。

 

「……彩葉」

 

 かぐやは彩葉の黒髪を撫でながら、優しく語りかけた。

 

「約束したじゃん。一緒にハッピーエンドにするって」

「……うん」

「彩葉がデスノートを拾った世界の一番バッドエンドなところは、彩葉が独りぼっちになっちゃいそうなところかなぁ。帝のお兄さんとも、お母さんとも二度と仲直りできなさそう……」

「……それは」

 

 一理あるかも……と、彩葉は思う。

 犯罪者を弁護する母親と、犯罪者をデスノートで殺す娘。

 裁判という法に基づく過程の上を歩む母親と、法律と過程を無視して誅殺を行う娘。

 元が血の繋がった親子だとしても、それはもう不倶戴天の敵同士、憎しみ合う仲だ。

 

「帝のお兄さんとは、仲直りできたじゃん? デスノートじゃなくてかぐやを拾った彩葉には、お母さんと仲直りしてハッピーエンドに……なって欲しい気もするんだけどなぁ……?」

「……そんなこと言われたって、ねぇ……」

 

 首を傾げて微笑むかぐやから、彩葉は目を逸らしてしまう。

 ゲーミング電柱からかぐやを拾って育てた話などしようものなら、かぐやを取られた上で精神病院送りにされそうだ。それは絶対嫌だと、彩葉は思う。

 かぐやが来てから色々あったが、勉学や進路の“方向性”自体は何も変わっていない。まだ母と何か話すには早い気がする。

 

「まー、ヤチヨとのコラボライブも近いし? 私には勉強とか進路とのことよく分かんないし? 気が向いたら、色々落ち着いたら、考えといて欲しいなぁ……?」

「かぐやのせいで落ち着く暇なんて無いのに?」

「おぉっと! それはそうかも? まぁともかくさ、まずは嫌な夢のことなんか忘れちゃうぐらい素敵な今日を始めようよ! 今日の朝ごはんも自信作だよ〜!」

 

 痛いところを突かれたのを誤魔化すように、かぐやはクルクル踊りながら話す。

 ひまわりのように明るく咲くかぐやの光は、彩葉の心を確かに照らした。

 

「うん、そうだね。嫌な夢のことなんかより、今かぐやがいる現実を見なくっちゃ!」

 

 笑顔を作った彩葉は、布団から起き上がる。

 朝陽の輝きを受けながら、彩葉はかぐやと過ごす新しい今日に思いを馳せるのだった──。

 

 

 




ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

需要や評判次第では、キラとして本格的に活動する彩葉の様子も書いてもいいかもしれない、と思っています。

もちろん今回のように夢オチという前提ですが……。

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