神権剥奪   作:蒼天美茶

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広場に集められた村人たちの間に、凍りつくような沈黙が広がった。

 『母なる森』で指衛士一個小隊が壊滅した。その事実は、30年森を歩いてきたガイゼンにとってもそうあるものではない。

「……あ、あの、使徒様。我らのような辺境の民に、一個小隊を屠るような魔物を探せと仰るのですか?」

 村長の声は震えていた。

 指衛士と呼ばれた騎士の一人が、冷ややかな視線で村長を見下ろす。その銀の胸当てには、満月を背負った一頭の鹿の紋章――『狩りと月の神』の象徴が刻まれている。

「問答は無用だ。お主らには森の地理を知る『案内人』の役目がある。……特に、そこのおいぼれ。お主だ」

 騎士が指差したのは、ジンの傍らに立つガイゼンだった。

 ガイゼンは無言のまま、手にしていたナイフを鞘に収め、一歩前に出た。その背中は、ジンが見てきたどの数ヶ月よりも、険しく、そして老いて見えた。

「儂一人で行けば済む話だな」

「ほう。老いぼれ一人で見つけることができるのか? 最低でも五人。……それと、後ろにいるその黒髪の。そ奴も連れて行け。見慣れぬツラだが、その魔力……何処ぞの由来なのかわからんが神の恩恵を無駄に貯め込んでいるようではないか」

 騎士の視線が、ジンに突き刺さる。

 ジンの拳の震えが、一段と激しくなった。

(……やめろ。こっちを見るな)

 得体のしれない衝動と怖気が身体を支配する。一瞬でも気を抜けば何かが溢れ出そうな感覚がした。

 

 

「待て。小僧は関係ない。これは、この地の案内人の儂だけで――」

「黙れ、老いぼれ。選別するのは我々だ。1日以内に捜索隊を結成し、森に派遣せよ。魔物を見つけ次第、我々が誅伐する。貴様らの命の散らしどころだ、精々気張るがいい」

 指衛士が馬から翻し、隠す気もない魔力で周りを威圧しながら去っていくのをジンはただ見るしかできなかった。

 

その夜、村長の家では男たちが集められ、捜索隊に誰を派遣するかの話し合いが行われている。

 

狩人であるガイゼンは当然のこと、その他の人員を決めるための集会である。

 

「当然、歳が上の男たちがいくべきであろう。今はガイゼンしか現役はいないが、狩人をやっていた者たちは挙手してくれ」

 

村長が周りを見渡す。ジンが男たちを見渡してみるとガイゼンに近い年齢の者たちと比較的自分に近いか、下の年齢の者が多いことに気づいた。

 

「すまないが村長、以前から思っていたがなぜここはこんなにも俺たちの親父のような世代がいないんだ」

村長はその質問に答えを渋るように顔を顰めた。

「ジン、お主には言えていなかったが私たちが見捨てられた者どもと言われたことは覚えているな。

働き盛りの年齢の男どもがいないのはそれに繋がるのだ。私たちは魔力が限りなく薄いか、ほぼない者が大半となっている。それゆえに魔物に見つかりづらく狩人の役目を担う男集を作ることを義務付けられておる。だがお主も分かる通り、魔力のない人間があの森の魔獣と遭遇した時の生存率などたかが知れておる。私たちの村が限界であるというのはあらゆる意味を含むのだよ」

 ガイゼンを含む周りの男たちも暗い顔をしている。ジンは想像以上にこの村は瀬戸際に立っていることに衝撃を覚えていた。

「なら余所者の俺が参加すべきだろう。少なくとも他の皆んなよりは生き残るだろうし力もある」

 その瞬間、ダンっ!と床を叩く音が響いた。

「森を甘く見ている者の末路は変わらず、死があるのみだ!貴様のような半端者が!」

ガイゼンの激昂に村長が手を挙げて静止する。

「ジン、お主を余所者だと思う村人は今、ここにはおらん。数ヶ月であろうとお主は私らと同じ飯を食べ、語らいをしたのだ。たとえ力があろうとなかろうと村の若い者を率先して参加させるようなことはしたくない」

 

だがそこで1人から声が上がる。

「だとしてもジンを村に置いたままだとあの指衛士たちに咎められる。下手したら命令に背いたとして戻っても殺される可能性が高いぜ。

そこで提案なのだが、奴らは浅層と言っていた。なら元狩人の俺ら5人を3人と2人に分けて、ガイゼンさんとジンを組ませるってのはどうだ。ガイゼンさんなら引き際も探し方も指導しながらでも捜索は可能だろう」

村長は苦々しい顔しながら用意していた白湯を飲み干し、重々しく頷いた。

 

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