神権剥奪   作:蒼天美茶

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 翌朝、森の入り口に立つガイゼンとジンの間には、数ヶ月の修行期間でも味わったことのない、刺すような沈黙が流れていた。

 ガイゼンは一言も発さず、入念に自らの得物を点検している。使い込まれた弓の弦を張り、手斧の刃を指先で確かめるその動きには、一分の無駄も、そして一分の慈悲もなかった。

「……じいさん」

 耐えかねてジンが声をかけると、ガイゼンは顔を上げることなく、冷徹な声で遮った。

「森に入れば、お前は俺の弟子でも、村の男手でもない。ただの『荷物』か、運が良ければ『囮』だ。……それ以外の期待は捨てろ」

 その言葉は、昨夜の激昂よりも深くジンの胸に突き刺さった。ガイゼンがこれほどまでに自分を突き放すのは、この「捜索」という名の行軍が、どれほど生存率の低いものかを誰よりも理解しているからだ。魔力のない村人たちが、神の使徒たちの「盾」として使い潰される未来を、彼は幾度も見てきたのだろう。

 それでもジンは、ガイゼンを一人で行かせるわけにはいかないと思っていた。一歩踏み込めば死に至るという予感が、森林の空気に色濃く蔓延っている。

 入り口に入ってから、ジンはガイゼンの後ろを必死について行っていた。ガイゼンは慎重に、何一つ見逃すことなどあり得ないというように気を張り詰めている。

 そしてそれは、捜索が始まって数刻が過ぎた頃に起きた。

 異変に気づいたのは、やはりガイゼンであった。

「血の臭いが濃い。しかもこれは……人間のものだ」

 緊張でジンの身体が強張る。その様子を見たガイゼンが、変わらぬ声色で声をかけた。

「鼓動を落ち着かせろ、ジン。今回の獲物は、もしかすると僅かな乱れも見落とさない獣かもしれん。だが、深追いはせん。儂たちは被害を確認し、標的の情報をあの馬鹿どもに伝えにいくのが仕事じゃ」

 その励ましとも警告とも取れる言葉に頷きながら、足音を極力抑えてついて行く。

 そして――そこに、血だまりがあった。

 腕が、臓物が散らばっていた。顔の判別など、もうつくはずもなかった。

 ただ厳然とした事実として、そこには間違いなく村の捜索隊の一つが壊滅している凄惨な光景が広がっていた。

 ガイゼンは暫く目を瞑り、すぐに身体を翻した。

「小僧、すぐに戻るぞ。血が新鮮すぎる。まだ近くにおる。場所の特定はほぼ可能じゃ、儂だけでも追える。だが、このままだと……っ!」

 その瞬間、ジンは身体を巡る強烈な悪寒に突き動かされた。思考よりも先に動いた肉体がガイゼンを抱え上げ、その場所から全力で飛び退く。

 直後、先ほどまで二人がいた場所が爆散した。巨大な岩が衝突し、土煙が舞い上がる。

 ジンは着地し、土煙の向こう側にいる「それ」を凝視した。

 目が合う。奴もまた、俺を見た。

 遠目で見ても三メートルに届かんとする巨漢。巌(いわお)のような筋肉。そして全身から蒸気のように立ち上らせている禍々しい魔力。その全てが、この惨状を為したのが目の前の存在であると確信させた。

 何よりも、額から生えている二本の角。

「……オーガ」

 ガイゼンからの教えと共に、その名が脳裏を過り、ジンの全身を戦慄が駆け抜けた。

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