長かった、そう、めちゃくちゃ待った。しかし、ついにその時が来たのだ!それは…ようやく俺の店となる屋敷の改築と改装が終わったのだ!今は試験運用していた建物から新しい店舗となる屋敷へ引越しをしている最中だ。
「ふんふん♪長いことこの建物には世話になったし、キッチリ綺麗に掃除して、感謝しないとなー。」
この建物にも愛着はある。そこそこ長く使わせてもらったし、綺麗に掃除くらいしておかないと、俺の気が済まない。そして、ある程度、掃除して綺麗になったので、縁側で一服する。
「ふぅ…。しかし、この店とはおさらばかー…少し寂しいな…」
後ろを振り向いて、何も無くなった部屋を見ると、賑わっていたあの頃の光景を思い出す。
あの頃は、俺の取り扱う品物が売れるか不安だらけだったな…。今ではすっかりこの地に定着してしまったタバコやコーヒー、ジュースやクッキー…。色々売ったが、これから新しい店にはもっと色々な商品が並ぶことだろう。さて、コッチでの最後の仕事である掃除は終わったし、新しい店舗に向かうか…もう新しい店舗には荷物が運び込まれてるだろう。そう考え、建物の外に出ると…人が倒れていた。え?事件?何があった!まずは安否の確認だ!
「おい、大丈夫か!」
「うう…」
「お、息はあるな、おい大丈夫か。しっかりしろ!」
「うぅ…お腹空いた…」ぐぅ〜。
と、大きな腹の音が鳴る。なるほど空腹で行き倒れてたのか…仕方ない…。とりあえずウチと言って良いのか、元は俺の店舗だ、そこに運ぼう。
そして…
「ガツガツ…!モグモグ…!ング!」
「ほらぁ…そんなにがっつくからー。ほら水。」
「ゴクゴク!ぷは!いやぁ、助かりました。」
「ったく…もう少し大人しく食え。メシは逃げたりしねぇよ…。」
「はい…。」
案外、正直だな…。しかし、
「しかし、なんで行き倒れてたんだ?」
「実は…路銀が尽きまして…3日なにも食べて無かったのです…」
「なるほどねぇ…。しかし、なんで建業に?」
「はい!それは、天の御使い様の商売のお話しを噂で聞きまして。それで、もし良ければ雇って頂こうと思いまして…」
「なるほど…。それでウチの前で倒れてたのか…。しかし、路銀が尽きるほどギリギリだったのか?」
「路銀は充分に揃えていたはずだったのですが…街のご飯が美味しすぎまして…。使い過ぎました…」
「いやいや、いくらメシが美味いからって、路銀を使い果たす程食ったのか?」
「お恥ずかしながら…」
路銀を使い果たすほど食った?どんだけ大食いなんだ…。しかし、仕方なかったとは言え、メシを食わせて、部屋に上げる…ふむ…。それに雇ってもらいたいとも言っていたな。店も広くなるし、元々人を雇いたいと思っていたところだ、面接して見るか。
「それで?おたくの名前は?どちらさん?」
「おお、これは失礼を、私は名を朱治、字を君理と申します。」
朱治?うーん…どこかで聞いた名前だが…いかん思い出せん…。
「では、朱治さん。天の御使いの店で働きたい、という理由は?」
「それは…天の国のモノを取り扱っているお店です!珍しいものばかりなのでしょう、そんな品物に囲まれて生活したい。と言うのが1つ…」
「ん?まだあるのか?」
「はい。個人的に、天の御使い様に興味があるからです。噂では御使い様は心優しく、民や孫呉の重鎮の皆様からの信頼も厚い人物だと聞いています。その様なお方とご一緒にお仕事が出来るのであればこの朱治、必ずやお役に立ってみせようと…」
「なるほどねぇ…。」
ふむ…ヤル気はあるようだ…。身なりもそこそこ、見た目はボーイッシュな感じで、声も女性にしては低音ボイス…。ん?なぜ女性だと分かったかって?そりゃ、目の前で服の上からでも分かる大きな双丘が揺れてれば分かる。
「分かった。なら、朱治。お前をウチの店で雇おう。」
「雇う?私は御使い様のお店で雇って頂きたいと申したはずですが…」
「いや、だから俺が天の御使い。あ、名前は三船玄助。よろしく」
「は?えぇ!?貴方様が天の御使い!?」
「おう、そうだぞ?」
「そ、それは御無礼を致しました!」
そう言って土下座してくる朱治。
「いやいや、顔上げて…。そんなに畏まらないでよ。」
「し、しかし…。」
「コレも何かの縁だ。それに俺に雇って欲しいんだろ?」
「それはそうですが…」
「なら、俺が雇うと決めた。俺が雇用主となるけど、そんなに畏まられたら一緒に仕事なんて出来ないからね。」
「よろしいのですか?」
「もちろん。これから一緒に働く仲間だ。対等とはいかないが…仲良くはしていきたい。」
「御使い様がそう仰るなら…」
「あ、御使い様って呼ぶのはナシね?名前で呼んでくれ。」
「お名前をお呼びしてもよろしいのですか!?」
「そりゃそうだ。せっかく自己紹介もしたのに名前で呼ばれないのは少し寂しい。」
「で、では…三船様…」
「おう。」
「これからは不肖、朱 君理、三船様のお店にて精一杯働かせて頂きます!」
「うむ。これからよろしくな。しかし、今俺の店は新装開店に向けて準備中でな…店で働いてもらうのはもう少し先になりそうなんだ。」
「なるほど、そうでしたか。」
「しかし、雇うと決めてしまったからには俺が朱治の面倒を見ないといけないし…それに無一文のままで放り出すワケにもいかんな…。よし、ほれ。」
そう言って、いくらか金の入った袋を渡す
「は、これは?」
「金だ。メシを食うにも寝るにも金はかかるだろう?支度金としてその金をやろう」
「いえいえ!頂くわけには参りません!お食事も頂き、雇って頂くのに…」
「なら、金の宛はあるのか?」
「う、そ、それは…」
「なら貰っとけ。それで当分は持つだろう。またメシを食いすぎて、散財するなよ?」
「は、はい…」
しかし、まさかこんなところで従業員が手に入るとは思わなかった…。店を開いてから募集をしようと思っていたが…まあコレも縁だ。ヤル気のある奴は大歓迎だ。
「み、三船様?」
「ん?なんだ?」
「三船様は私の主となります、これからは面倒を見て頂くことになりますので、私の真名を預かって頂きたく。」
「良いのか?俺には真名は無いぞ?」
「構いません!何卒!」
「分かった分かった。預かろう。」
「はっ、では私の真名は、月詠と申します。」
「月詠…月詠か…良い名だな。よし、その真名、しっかりと預からせて貰う!」
「はっ、これから宜しくお願い致します。」
「では、月詠。早速だが…月詠の雇用形態についての話をしよう。」
「雇用形態ですか?」
「そうだ。まず、月詠には店舗兼俺の屋敷に住み込みで働いてもらう。まぁ俺の屋敷と言っても俺は城に戻るが…。そして給金だが…そうだな…10日に1回、5000銭渡そう」
「そんなに!よろしいのですか!?」
「ああ、しかし、これだけの給金を渡すんだ。それなりに仕事はしてもらう。そして、メシだが、朝と夜は自炊なりしてもらうとして、昼間は賄いとしてこちらでメシを出そう。どうだ?」
「これ程までの好条件で断る方がおかしいです!それに住み込みでただの給仕にしては給金は高すぎます。もう少し減らして頂けませんか?」
「ふむ?そうか?なら…3000でどうだ?」
「それでも充分高いと思いますが…分かりました。それで家賃は…」
「ん?家賃?タダに決まってるだろ。しかし、その分住むために必要な日用品や雑貨は、そっちで用意してくれ。」
「家賃もタダで、安くはないお給金…。まさか、普通の給仕とは違ったり…」
「いや、そんなことは無いぞ?ただ仕事量が多いだけだな。ただ給仕をすれば良いだけじゃない。接客は人相手の商売だ。手を抜けばお客さんは離れてしまうからな…ヤル気を出して貰うためにその給金なんだよ。」
「なるほど合点がいきました。では、三船様から預かったこの支度金で、色々揃えます!」
「おう。しっかり食ってしっかり休んで、来るべき日に備えろ。ああ、あと、店の準備も手伝ってもらうからな?」
「かしこまりました!」
さて、これで契約は成った。早めに店の準備をして新装開店しよう。そのためには…ふむ…色々考えてみるか。そうして新たに朱治を加え、着々と店の運営に向けて行動するのであった