長かった…ようやく建業に帰ってきた。ああ、久しぶりの建業だ…また店が開ける。こんなに嬉しいことはない。しかし、遠征から帰ってきた俺がすぐさま店を開こうとすると月詠からしっかり休んでから店を開くようにと叱られてしまった。確かに休息は必要だが…待ってくれているお客さんがいるのだ。せめて午前中だけでも、と頼み込んで午前中だけ店を開くと言う約束の元、店を開いている。
「いらっしゃい。いつものタバコだろう?」
「ははは!御使い様は覚えていて下さったのですね。」
「そりゃ当然だ!常連さんの顔を忘れるワケがない」
「そりゃちげぇねぇや!」
そんなやり取りを常連さんとする。なんて平和な日々なんだろう…このままこの日常が続けば良いのに…。もちろん常連さんだけじゃない、様々なお客さんが来てくれる、もちろん豪族関係も…例外無く全員がお客さんであることには変わりない。お客さんが居るからこそ、ウチの店は成り立っているのだから…。
「三船様、接客は私がやりますので、三船様は商品の補充をお願いします。」
「おう!」
月詠もすっかり慣れたモンだ。常連さんの顔も覚え、その常連さんの買っていくものまで覚えている。頼もしいウチの給仕さんだ。こりゃボーナス出ても良いかもしれんな…。等と考えながら店を開いているが、午前中だけだとやはり売り上げは少なくなる。儲けようとして店を開いてるワケでは無いが、売り上げが少ないのは少し寂しい…。
「うーん…やっぱり午前中だけだと売り上げはいつもの半分程度か…」
「それでもそこそこの売り上げがあるのが凄いと思いますが…」
確かに…いくら売り上げが減ったと言えど数万銭は稼いでいる。しかし、いくら天の国のモノを扱っていると言っても少々取りすぎではなかろうか…
「なあ、月詠?」
「なんでしょう?」
「もう少し値段を下げようと思うんだが…」
「ダメですよ?そうなったら他店との軋轢が出ます。」
「やっぱりダメか…」
「当然です。手を止めてないで、早く売り上げの計算をしてください。」
「はいよー。」
ううむ、やはり値段を下げるのは反対されるか…。
「しかし、いくらなんでも料金を取りすぎな気がするんだが…」
「より良いモノは相応の値段がするのは当たり前です。」
「しかしだな、ウチで取り扱ってるのは嗜好品やら、食い物が主な商品だぞ?それを高値で売るのは…」
「それでも客足は途絶えて居ません。と、言うことはそれだけ需要がある。と言うことです」
「むぅ…」
確かに、月詠の言っていることは正しい…しかし、消耗品に高値を払って生活するなど…庶民には苦しいだろう…。よし、決めた、せめてタバコとマッチはセットにして売ろう。少しでも店に払う金が減ればいくらかマシにはなるだろうし…。ソレに充分に稼いでいる。今じゃ大陸中からこの店にお客さんがやってくる。建業まで来るには俺が住んでいた日本より時間はかかるし、危険もある。だからこそコチラとしてはサービスしたいワケで…。うぅむ商売とは難しい…。
「なぁ月詠?」
「ひぃ、ふぅ…なんですか?割引きの話なら聞きませんよ?」
「いや、そろそろ酒を扱おうと思ってな。どうだろう?」
「お酒ですか…。頃合いとしては良いかもしれませんが…、天の国のお酒ならばそれ相応の値段を取らないといけませんよ?」
「あー…やっぱり?安く提供しようと思ってたんだけど…」
「ダメに決まってるじゃないですか。三船様、我々は商売をしているんですよ?しかもこの大陸ではこの店でしか手に入らないモノばかりを売っているのですから、それなりの値段でなければ売れません。それに天の国の酒が他の酒家とほとんど変わらない値段で買えるならコチラにお客さんが流れてしまいます。様々な要因から取り扱う品は高値でないといけないのです。」
「そっかー…。しかし、売れるかな?」
「値段に差があれば良いのです。高くしようと思えばいくらでも高く出来ますが、三船様は庶人にも流通させようとお考えているのでしょう?ならば庶人にも買えて他の酒家よりも高い値段で売れば良いのです。」
「なるほどなぁ…。」
確かに月詠の言う通りだ。天の国のモノが安値で手に入るのならばソレに越したことはない。しかし、そうなると今までお店をやってきた人達からお客さんを取ることになってしまう…そうなると、今までお店の運営で生活費を稼いでいた人達から恨まれる可能性すらある。そんなことは避けたい、だからこそバランスを取って商売をしていくのが良いのだろう。月詠の方が俺よりも商売に向いてそうだ。特にこの時代は質の良いモノはより高く売るのが定石、安価で売ってしまったら、何か良からぬことをしているのでは、と疑われても仕方ない…。そうなってしまえばウチの価値は下がっていく…、ウチの店がより良い店であることの証明として、それなりの値段で堂々と商売した方が良いのだろう。なにかやましい事をしているワケでも、ぼったくりなワケでもないし…。うん、胸を張って商売しよう。そんな考えをしながら売り上げの計算をするのであった。