(またしても)原作を知らないオリ主inキヴォトス 作:朧月夜(二次)/漆間鰯太郎(一次)
「ひ、酷い目に遭いましたわ……」
「お疲れ」
「ううう……シンタロウ様は酷い人ですっ」
「はいこれフラペチーノ。美味いぞ」
「存じませんっ……あら、これ美味しいですねっ」
掌くるっくるである。いやほんと現金なやつだな、と苦笑いしながらストローをくわえた。渋谷、道玄坂のスタバ。雑踏を眺めつつコーヒーで時間を潰していた俺の前に、両手いっぱいの紙袋を抱えた狐坂ワカモが戻ってきたところだ。元・和装少女。今はどう見てもギャルである。時代が追いついたのか、世界が間違っているのかは知らん。
というか疲れ切ってるな。そりゃそうだ、あの数のギャルに囲まれて「ワカちゃん可愛すぎ!」とか言われながら試着室に連行されてたら精神力ゴリゴリ削れるだろう。俺? 俺は安全圏から見守ってただけだ。うん、判断は正しい。
現在のワカモは黒のワイドなスウェットパンツに白のチューブトップ。中のショーツのウエストやらブラ紐やらがチラ見えしてる、いわゆる“わかってる”コーデだ。いや誰が教えたんだよ。ギャルの教育力どうなってんだ。本人はまだ落ち着かない様子で裾をいじっているが、まあ似合ってる。悔しいが似合ってる。
「可愛くなったろ。お前綺麗系だしこういう系統似合うと思ったがバッチリだったな」
「どうしてここまでしてくださったんですか?」
「いや普通に死にかけてたし。命の恩人にお礼としちゃ安くね?」
「左様でございますか……ですが、その、こういう恰好は破廉恥では……」
「お前さっきまで囲んでたギャル達見て同じ事言えんの?」
「ぎゃるさん達はその、うふっ」
誤魔化しやがった。いやまあいいけど。
実際、ワカモにはガチで助けられた。水も食料も持ってたし、あの干しフルーツみたいなのが地味に効いた。おかげで転移魔法のクールタイム明けまで持ちこたえたわけで。あのまま砂漠で干からびてたら笑えん。いや笑うけど。あとで。
本来ならそのままアビドスに戻るのが筋なんだが、ケンジからトラックが届くタイミングもあったし、そのまま地球に戻った。ついでに、前にシロコで検証済みの「一人まで同行可能」ルールを思い出してな。だったら恩人を放置するのも違うだろってんで、ワカモを連れてきたってわけだ。
ただまあ、昨晩はちょっと面倒だった。
こいつ、百鬼夜行連合学院を無期停学食らってるらしく、いわば無所属の放浪者だ。事情はぼかされたが、踏み込む気もない。人には触れてほしくない部分がある。俺だってある。なのでそこはスルー。
問題は、見た目に反して妙に初心なところだ。男の家に泊まるのが一大イベントらしくて、風呂入るのにも一騒動、寝る前にも一騒動。俺はというと、疲れてたから普通に布団に転がって寝ただけなんだが。
……なんで横に来るんだお前は。
抱き枕にして寝たら固まってたけど、知らん。寝た。以上。翌朝ちょっと距離取られたけど、知らん。俺は寝る。
そんなこんなで現在。ケンジの納品は明後日。それまで時間を潰す必要がある。俺は投資のチェックやら何やらでやることはあるが、ワカモはそうもいかん。元の格好で外出したら即通報コースだ。ミニ丈和装に狐面とか、どう見てもコスプレか不審者である。
だからギャルにした。以上。
ギャル達もワカモのビジュアルにノリノリだったし。
結果オーライ。
「つかさ、ワカモ」
「なんですか? シンタロウ様」
「元々のお前の服装の方が破廉恥だと思うが」
「!?」
「なんで!?って顔してるけど、ミニの和装でガーターベルトとかドスケベじゃん。ストッキングもダメージ入っててそこはかとなくエロいし」
「はう!? ど、どすけべとか言わないでくださいまし……あ、あれは伝統的な装いと申しますか……」
嘘つけ。いや知らんけど。百鬼夜行ってそういう文化なのか? だとしたら深く考えない方がいいやつだな。露出狂の集まる自治区とか……とりあえず、俺の視点だと今の方がまだ健全寄りだ。
ワカモはフラペチーノを大事そうに両手で持って、ちびちび飲んでいる。目を細めてるあたり気に入ったらしい。よし、スタバは正義。覚えた。
「それにしてもシンタロウ様は不思議な方ですわね」
「そう?」
「このにほん、でしたか? どこか故郷にも似た景色もございますが、ヘイローのある方はいらっしゃらないですし」
「まあな。鎌倉とか京都行くともっと実感するぞ」
「カマクラ、キョウト?」
「昔の都だな。古い町並みが残ってる。お前の故郷に似てるなら、多分そっちは今でも“昔”なんだろうな」
タブレットを取り出して、適当に地図アプリで寺を表示してやる。ストリートビューを開くと、ワカモは食い入るように画面を覗き込んだ。操作を教えると、指で画面をなぞりながらあちこち見て回っている。こういう反応は素直に可愛い。
「確かに似ておりますわね……それでシンタロウ様だけがキヴォトスに?」
「まあ変な話だけどな。俺、一回死んでるし」
「は!?」
あ、言っちゃった。
なんとなく流れで話してしまった。事故のこと。よくわからん存在と出会ったこと。その結果、妙に頑丈になったことと、キヴォトスと地球を行き来できるようになったこと。自分でも意味わからん話を、やけに真剣に聞いてるワカモに向けて、ぽつぽつと。
キヴォトスの連中って、死が遠いからかこの手の話には敏感なんだよな。ワカモも例に漏れず、目を見開いて固まっていた。
「まあ家族もいないしな。キヴォトス拠点にするのは結果オーライだった」
「こちらにお友達や恋人は?」
「恋人はいねえな。昔はあったけど。友達もまあ……金絡みで面倒になって切った」
「……」
あんま話すつもりなかったんだが、口が軽くなってるな。疲れてんのかね。
俺の親は転勤族で、物心ついた頃からあちこち転校を繰り返してきた。関西だの東海だの北海道だの、気づけば東京にいて、そこで親が死んで全部終わっただけ。だからどこにも根っこがない。帰る場所ってやつがない。
親の遺産を原資に投資を回して跳ねた事で金はできたけど、それで寄ってくるやつらが増えて、全部面倒くさくなった。結局、誰かと深く関わるのもやめた。楽だしな、その方が。
両親の死に折り合いが付いてない時に、善意のフリした優しい言葉に何かが透けて見えるとな、精神がゴリゴリ削られるんだよ。
……なんて話を、なんでワカモにしてるんだ俺は。
相手はガキだぞ。
顔が熱い。やめろ、今更恥ずかしいわ。
「なんて愛らしいお方……」
「ん? なんて?」
「な、なんでもございませんっ! あの、シンタロウ様?」
「うん?」
「私、シンタロウ様についていきますわ」
「どういうことだよ」
「行く場所がございませんので、秘書としてお支えします!」
「ええ……俺アビドスだぞ」
「大丈夫ですわ! 寝る所など天井裏でも!」
「やだよ天井裏とか。普通に部屋用意するわ」
「まあ! お優しい……!」
なんかテンション爆上がりしてて怖いんだが。目がキラッキラしてる。いやまあ、戦闘力あるって話だし、秘書って言うなら仕事も振れるか。学籍も用意してやれば一応筋は通る。
……うん、後で考えよう。今は考えない。
問題を棚にぶん投げたまま、翌日は鎌倉に連れ出した。江ノ島で野良猫に囲まれてるワカモ見て笑ったり、適当に観光して時間を潰し、ケンジからトラックを回収。そのままキヴォトスへ帰還。
いやあ、なんか妙に疲れたな。
とりあえずだ。
白石ウタハ、テメェだけは許さん。
ぱんぱかぱーん! 狐坂ワカモが仲間になりました!