ロボゲーっぽいギャルゲーに転生したが整備科になってしまった   作:なんちゃってメカニック

44 / 78
星に伸ばす手が足りない私には

 商店街に行った日の夜12時頃の事。流星、太一両家の屋上で、ベローナがベンチに座っている。

 物思いに耽っているその目は、星空に吸い込まれて、暖かい風が後ろ髪を靡かせる。

 

「ベローナか、考え事か?」

 

「流星、君こそ」

 

 ぼうっとした思考を、屋上からやって来た流星が引き戻す。両者は朗らかに挨拶をして、流星はベローナの左隣へ腰かけた。

 

「ここ、景色良いだろ? 寝れない時とか、いつもここに来るんだ」

 

「そうだな、でも流星が寝れない事あるのか?」

 

「あるよ、太一と喧嘩した時とか」

 

「喧嘩した事があるのか? 考えられないな」

 

 2人は軽口を言い合いながら、星を眺めている。既に目の前の星空は、2人だけのプラネタリウムだ。

 だが、次第に会話の楽しげな雰囲気も鳴りを潜めた。ベローナの口数が少なくなり、左手が所在なく爪を弄る。

 

「少し、いいか?」

 

「うん」

 

 2人の目は、空に向かったまま、ベローナは語り続ける。

 

「この3日、本当に楽しかった」

 

 流星は良かったとだけ呟くように言った。

 

「初めての極東は、文化も、人も、移動すらめちゃくちゃで。受けた不幸なんか思い出せもしなかった」

 

 驚きだけは絶えない極東旅行。空飛ぶワゴン車に、ロボット同士の戦いを中心とした文化、楽しみまくったメンタリオン(カードゲーム)、モヒカン頭とロボット興行、その一つ一つが脳内の不幸を押し出していた。

 

「中学校でイジメられていた事を思い出してしまったんだ」

 

 ベローナは中学時代まで義手を付けていた。

 

 火星での成績は良く、明るく快活な人間であった。それに加えて見た目もよかった為、同性からのやっかみを受けてイジメられ…………最終的に自身の義手と火星機(リーチャー)の右腕を破壊されることになる。

 

 その時の絶望は筆舌に尽くし難い物だったが、ベローナの精神は折れなかった。折れてくれなかったのだ。

 その精神は、捻じれて軋み、義手を捨て、片腕だけの強さを求め、火星機(リーチャー)の搭乗に耽溺する事になる。

 

 学園では1年間タイマン無敗を記録し、自身のランクを上げて「私に勝てる者が居る星進隊(プロトン)以外入る気はない」と言いながら、孤独に戦い続けていた。

 

 流星に敗れたが、星進隊(プロトン)に入る気はサラサラ無かった。惑星外のSEを修理出来る者が居るとは思えなかった為である。しかし、見ただけで、そして戦っただけで、自身の内面さえ暴く者が、2人も居るとは思わなかった。

 

「今本当に楽しいんだ、だからこそ、あの時の事を思い出せば…………私が居ていいのか? なんて思ってしまったんだ」

 

「いいさ」

 

 流星がその言葉を短く肯定する。しかし、底に落ちそうな気分は、それでは止まらない。

 

「アリアは6人同時のオペレーターが出来る程優秀で、メリルの水星機(ヘルメス)の操縦は一級品で、周囲がよく見えている。イルシアも操縦はもちろん、周囲を見てサブオペレーター出来る程視野が広くて…………」

 

 オウムアムア全員の良い所が、すらすらと出て来るベローナ。それは不安の裏返しでもあり、安心の確認作業でもあった。

 

「星に伸ばす手が足りない私には…………この幸福が耐えられない」

 

 ベローナの視線と言葉は星々へと震えながら吸い込まれていった。流星はその言葉を聞いて、立ち上がりベローナの正面へ立つ。

 

 2人の視線が交差する。流星は涙ぐんでいて、ベローナの目は虚ろだった。

 

「足りないなら、こうすればいい」

 

 流星はベローナの左手を強引に取って、反対の手を空へ伸ばす。

 

「これで3倍以上だ」

 

 屁理屈だ、だが、掴まれた左手の熱が、冷たくなった心を強引に常温まで引き戻す。その熱にベローナは顔が綻んでいるのを自覚した。

 

 だが、ベローナは、左手の熱を冷まそうと、口では冷やかしてしまう。

 

「ふふっ、とんちを聞きたいわけじゃないぞ? それに、片腕じゃ、背中の右側が掻けないしな」

 

「じゃあ」

 

 流星は短く返事をして、掴んだ左手を強引に引き上げ、ベローナを立ち上がらせる。

 

「こうすればいい」

 

 流星はベローナを抱きしめた。

 余計だ、余計に、体が熱くなる。感情の暴走が声を掠れさせ、左手は居場所を求めて空を彷徨う。

 

「そういう意味じゃないぞ、バカ」

 

「いいや、耐えてくれよ、そうじゃないと俺は悲しい」

 

 ああ、とベローナは言った。

 沸きあがる気持ちも、立ち尽くす足も、彷徨う視線も、抱きしめられては不自由で。でも、それは嫌いではなかった。

 

 しばらく抱き合って、体が汗ばんできた。ベローナは左腕を流星の背中に回して囁いた。

 

「流星、頼みがある」

 

「何?」

 

 優しく流星が答える。

 

「私を…………」「ここかぁ? えっ!?」

 

 2人きりのプラネタリウムに、タイミングクソ悪男である地井太一が乱入した。

 

「あ、えっ!? あ、ゴメン! もう既にそういうご関係だったのか!?」

 

「来たんだ太一、一緒に抱きしめ合おう?」

 

「まず、離れてくれ! 流星はなんでそんな堂々としてられるんだ!?」

 

 どこか甘くじっとりとした空気が、一瞬でサハラ砂漠の如きカラッとした乾燥地域に早変わり。

 

 一悶着がありながらも、流星、ベローナ、太一の順番でベンチに座る。これまでの経緯を説明すると、太一はこう言った。

 

「ああ、ヘラっちゃったんだ」

 

 ノンデリタイミングクソ悪男:地井太一は、ベローナの右腕の切断部で殴られた。なんだか背徳的である。

 思い出したかのように、流星がベローナに質問する。

 

「そういえば、あの後、何を言おうとしていたんだ?」

 

「そうだな、太一もいるし丁度いい、私を強くしてくれって言おうと思っていたんだ」

 

 その言葉を聞いて男2人は声を重ねて了承する。

 

「今日までは復讐の延長線上の努力だった。だけど、これからはみんなの為の努力をしたい、そう思えるようになった」

 

「ああ、一緒に頑張ろう!」

 

 流星は元気よく了承した。しかし、太一はその言葉を聞いてうんうんと唸っている。

 

「どうした?」

 

「あー、いや、大した、大した事では無いんだが…………こっそりこんな改造案を作っといたんだが」

 

 渋々とホログラムを投影して、改造した火星機(リーチャー)を見せる。

 

「カッコいい! 乗りてー!!」

「…………なんでこれを最初に出さなかったんだ?」

 

 2人は口々にそう言うと、太一は「完全にエクシアのパクリなんだよなぁ、無駄な足掻きでビームマントにしたけど、ちょっと、うわ、やっぱカッケぇ…………でもオリジナリティが。いや、全部御大の手垢が付いているぅ」などとブツブツ呟き、疑問符が2人の頭に浮かぶ。

 

 独り言をつぶやき終わった後、冷静になり、太一は新たな話を切り出した。

 

「えー、誰かに話をして置きたかったんだが」

 

「どうした?」

 

「一応チャットでは送っといたんだが、親父が作った水中専用GC、沈没丸の整備が急遽入って、明日ってかもう今日か、親父の手伝いで湾岸部にいく事になってな。沈没丸は釣り船をやっているから、ついでにどうだって思ってな」

 

「おー、良いなそれ!」

 

「片腕でも出来る釣り竿があるのか?」

 

「俺の作った幻想虚栄竿(げんそうきょえいそう)地球釣り、それが片手でも使えるぞ」

 

「太一の家族はネーミングセンスを何処にやったんだ!?」

 

 空に涙は似合わず、海に暗い気持ちを投げ捨てる。屋上では明るい空気が流れたまま、その場は解散し、3人はそれぞれの部屋へと戻って行った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。