ロボゲーっぽいギャルゲーに転生したが整備科になってしまった 作:なんちゃってメカニック
商店街に行った日の夜12時頃の事。流星、太一両家の屋上で、ベローナがベンチに座っている。
物思いに耽っているその目は、星空に吸い込まれて、暖かい風が後ろ髪を靡かせる。
「ベローナか、考え事か?」
「流星、君こそ」
ぼうっとした思考を、屋上からやって来た流星が引き戻す。両者は朗らかに挨拶をして、流星はベローナの左隣へ腰かけた。
「ここ、景色良いだろ? 寝れない時とか、いつもここに来るんだ」
「そうだな、でも流星が寝れない事あるのか?」
「あるよ、太一と喧嘩した時とか」
「喧嘩した事があるのか? 考えられないな」
2人は軽口を言い合いながら、星を眺めている。既に目の前の星空は、2人だけのプラネタリウムだ。
だが、次第に会話の楽しげな雰囲気も鳴りを潜めた。ベローナの口数が少なくなり、左手が所在なく爪を弄る。
「少し、いいか?」
「うん」
2人の目は、空に向かったまま、ベローナは語り続ける。
「この3日、本当に楽しかった」
流星は良かったとだけ呟くように言った。
「初めての極東は、文化も、人も、移動すらめちゃくちゃで。受けた不幸なんか思い出せもしなかった」
驚きだけは絶えない極東旅行。空飛ぶワゴン車に、ロボット同士の戦いを中心とした文化、楽しみまくった
「中学校でイジメられていた事を思い出してしまったんだ」
ベローナは中学時代まで義手を付けていた。
火星での成績は良く、明るく快活な人間であった。それに加えて見た目もよかった為、同性からのやっかみを受けてイジメられ…………最終的に自身の義手と
その時の絶望は筆舌に尽くし難い物だったが、ベローナの精神は折れなかった。折れてくれなかったのだ。
その精神は、捻じれて軋み、義手を捨て、片腕だけの強さを求め、
学園では1年間タイマン無敗を記録し、自身のランクを上げて「私に勝てる者が居る
流星に敗れたが、
「今本当に楽しいんだ、だからこそ、あの時の事を思い出せば…………私が居ていいのか? なんて思ってしまったんだ」
「いいさ」
流星がその言葉を短く肯定する。しかし、底に落ちそうな気分は、それでは止まらない。
「アリアは6人同時のオペレーターが出来る程優秀で、メリルの
オウムアムア全員の良い所が、すらすらと出て来るベローナ。それは不安の裏返しでもあり、安心の確認作業でもあった。
「星に伸ばす手が足りない私には…………この幸福が耐えられない」
ベローナの視線と言葉は星々へと震えながら吸い込まれていった。流星はその言葉を聞いて、立ち上がりベローナの正面へ立つ。
2人の視線が交差する。流星は涙ぐんでいて、ベローナの目は虚ろだった。
「足りないなら、こうすればいい」
流星はベローナの左手を強引に取って、反対の手を空へ伸ばす。
「これで3倍以上だ」
屁理屈だ、だが、掴まれた左手の熱が、冷たくなった心を強引に常温まで引き戻す。その熱にベローナは顔が綻んでいるのを自覚した。
だが、ベローナは、左手の熱を冷まそうと、口では冷やかしてしまう。
「ふふっ、とんちを聞きたいわけじゃないぞ? それに、片腕じゃ、背中の右側が掻けないしな」
「じゃあ」
流星は短く返事をして、掴んだ左手を強引に引き上げ、ベローナを立ち上がらせる。
「こうすればいい」
流星はベローナを抱きしめた。
余計だ、余計に、体が熱くなる。感情の暴走が声を掠れさせ、左手は居場所を求めて空を彷徨う。
「そういう意味じゃないぞ、バカ」
「いいや、耐えてくれよ、そうじゃないと俺は悲しい」
ああ、とベローナは言った。
沸きあがる気持ちも、立ち尽くす足も、彷徨う視線も、抱きしめられては不自由で。でも、それは嫌いではなかった。
しばらく抱き合って、体が汗ばんできた。ベローナは左腕を流星の背中に回して囁いた。
「流星、頼みがある」
「何?」
優しく流星が答える。
「私を…………」「ここかぁ? えっ!?」
2人きりのプラネタリウムに、タイミングクソ悪男である地井太一が乱入した。
「あ、えっ!? あ、ゴメン! もう既にそういうご関係だったのか!?」
「来たんだ太一、一緒に抱きしめ合おう?」
「まず、離れてくれ! 流星はなんでそんな堂々としてられるんだ!?」
どこか甘くじっとりとした空気が、一瞬でサハラ砂漠の如きカラッとした乾燥地域に早変わり。
一悶着がありながらも、流星、ベローナ、太一の順番でベンチに座る。これまでの経緯を説明すると、太一はこう言った。
「ああ、ヘラっちゃったんだ」
ノンデリタイミングクソ悪男:地井太一は、ベローナの右腕の切断部で殴られた。なんだか背徳的である。
思い出したかのように、流星がベローナに質問する。
「そういえば、あの後、何を言おうとしていたんだ?」
「そうだな、太一もいるし丁度いい、私を強くしてくれって言おうと思っていたんだ」
その言葉を聞いて男2人は声を重ねて了承する。
「今日までは復讐の延長線上の努力だった。だけど、これからはみんなの為の努力をしたい、そう思えるようになった」
「ああ、一緒に頑張ろう!」
流星は元気よく了承した。しかし、太一はその言葉を聞いてうんうんと唸っている。
「どうした?」
「あー、いや、大した、大した事では無いんだが…………こっそりこんな改造案を作っといたんだが」
渋々とホログラムを投影して、改造した
「カッコいい! 乗りてー!!」
「…………なんでこれを最初に出さなかったんだ?」
2人は口々にそう言うと、太一は「完全にエクシアのパクリなんだよなぁ、無駄な足掻きでビームマントにしたけど、ちょっと、うわ、やっぱカッケぇ…………でもオリジナリティが。いや、全部御大の手垢が付いているぅ」などとブツブツ呟き、疑問符が2人の頭に浮かぶ。
独り言をつぶやき終わった後、冷静になり、太一は新たな話を切り出した。
「えー、誰かに話をして置きたかったんだが」
「どうした?」
「一応チャットでは送っといたんだが、親父が作った水中専用GC、沈没丸の整備が急遽入って、明日ってかもう今日か、親父の手伝いで湾岸部にいく事になってな。沈没丸は釣り船をやっているから、ついでにどうだって思ってな」
「おー、良いなそれ!」
「片腕でも出来る釣り竿があるのか?」
「俺の作った
「太一の家族はネーミングセンスを何処にやったんだ!?」
空に涙は似合わず、海に暗い気持ちを投げ捨てる。屋上では明るい空気が流れたまま、その場は解散し、3人はそれぞれの部屋へと戻って行った。