ロボゲーっぽいギャルゲーに転生したが整備科になってしまった 作:なんちゃってメカニック
午前2時、関東自治区、旧埼玉県領、某山中。星は一層と輝き、山々すら眠る時間に、スポーツカーが鎮座している。
森の静かな匂いが充満する、厳かな場所に似つかわしくなく、スポーツカーの車内は騒がしかった。
「セェンパ~イ、もうやめましょうよ~。もう、ナイトメアなんて出ないっすよ~」
「黙ってろぃ、奴は来るさ」
小柄なパンチパーマの男が、細身かつ筋肉質で、立派なリーゼントを持った男に愚痴る。
「そう言って去年は来なかったじゃないですかぁ? きっと引退したんすよぉ~」
「奴は来る、俺の勘がそう言っているんだ」
男たちはナイトメアと呼ばれる何かを待っているらしい。
「もういいじゃないっすかぁ! ナイトメアに1回負けたくらいで、もう埼玉はセンパイのモンなんっすから!」
「奴に勝たなきゃ意味がねえんだ!」
リーゼント先輩は、ハンドルを叩きながらパンチパーマ後輩に恫喝する。
「大体眉唾モンっスよ? スポーツカーに勝つワゴン車なんて、全員俺を担ぎ上げてるに違いないっす!」
「見れば分かるさ…………来るぞ、通信を開け」
「えー? そんな訳…………うわ、本当に来た!!」
勘でワゴン車の到来を察知したリーゼント先輩。公道レース用に改造された、監視カメラの映像から、物凄い速さのワゴン車が映る。
リーゼント先輩は、開かれた通信に向かって吼える。
「来いよ、ナイトメア! 前の俺とは違うぞ!!」
しかし、応答は無く、何故か流れてくるユーロビート。
「うわわわわ!」
「しっかり掴まってろぃ! 漢の時間だ!!」
スポーツカーのアクセルを踏み込み、速度を上げる。徐々に追いつくワゴン車に同じ速度で並走し
、ユーロビートのイントロが終わった瞬間が、スタートの合図だった。
「デジャブにはさせねえぞ」
夏の熱さが和らぐ深夜に、熱き戦いが幕を上げた!!
俺は水中専用GC、沈没丸が停泊している港まで着いた。
夜の3時の港は誰も居ない。海の音だけが聞こえている。
そんな光景を見て、俺が一番に思った事と言えば…………。
「負けたわ…………え、悔しい」
僅差だったが負けた…………確かに豆腐屋的に早く行きたかっただけなんだけどさ? 後ろに整備用の大荷物積んでいるんだけどさ? 負けたら悔しいじゃん?
ブランクはあるとは言え、夏休み中親父の手伝いの為に、かっ飛ばしていた時はほぼ負けなしだった…………いやいや、別に勝とうが負けようが。
「うわ、くやしー。あのリーゼントうまくなってたし、車体の改造完璧だったし、俺もうかうかしてられな…………あー! もう! 良いんだよあんな勝敗は!!」
今日の海模様とは正反対に、俺はもやもやしていた。
極東の進歩は目覚ましい、そう思うようにしよう。気分を切り替えて、遠くの方に居る漁師さんに声をかける。
「すみませーん! 地井製作所の者なんですけどー!」
人影が手を振る。俺は車から降りて、漁師さんに駆け寄った。
「遠くまでお疲れ様、もうマリーナに入れてるから、どうかよろしくね」
「分かりました! こちらの準備が整いしだい、取りかからせていただきますんで!」
漁師さんから鍵を預かりマリーナ、船舶の修理場へと車を付ける。
そこに見えるのは、頭が釣り船の形をしている、兵器ブリオンもびっくりなGC。センスが爆発している。
キワモノというだけではなく、様々な匠の技が詰め込まれている。
まず細く長い手は、フジツボの除去に優れ、細い逆関節の足は、航行時には折り畳んで水の抵抗を少なくします。船の浮力を生み出す部分は…………なんという事でしょう! 急な嵐にも耐える避難シェルターになっており、安心安全な航行をお約束します。
と、まあ、無駄な事は良いか。ひとまず沈没丸を起動、腕を動かして、車の荷物を取り出させる。
積んでた荷物は小型マニピュレーター。組み立て式の2メーター超の物を4本だ。
組み立てが終わり、親父に連絡する。
「こっち用意できた、そっちは?」
「おっけー。出来てる」
「分かった、右足関節部に海水侵食、股関節部にクラック、左手は要整備だな、塩害が激しい、多分なんかぶつけてる」
「はいはい」
チートで機体を解析して、その内容を親父に伝える。すると、マニピュレータを同時並行で動かし、全ての部位を整備し始める。
これが通常運転なのだから、空恐ろしい物だ。
「いやぁ、こっちに太一連れて行った方が良かったか?」
「止めてくれ、そっちは5機もあるんだろ?」
「だからじゃん?」
「お前を殺して俺も死ぬ(過労死)」
向こう側の映像を見ると、同じように同時並行で整備し始める親父。
「そっちに母さん行くんだろ?」
「ああ、
「それなら、商談ついでに母さんにお土産買ってきてもらってくれ。小遣いが足りないんだ」
「…………情けない」
何だと!? と通信越しに怒られた。それでも修理の手は止まらない。
親父は俺がチートで行っている事を、技術と経験だけでやっている。てか、俺雑談しながら整備なんか出来ないし…………さっき負けたし…………。
「あれ? 俺ヘラってね?」
「ベラ? エサ取りムカつくよな」
「言ってねえよ」
メンタルが沈みながらも突っ込みを入れた。
そもそもGCは、SEのように整備箇所へのアプローチが違う、というより1つじゃない。
大戦時中のごたごたによって共通規格はあるにはあるが、戦場で即応性を持たせるよう、整備士側が順応したまま戦後になった。
そしてその結果、伝統という名の枷と技術力の矜持、そして建国以来根付いたどことない変態性が…………こういう言い方はあまり良くないが、GCに固執させてしまった。
とはいっても、地球で使う分にはSEと大差ない、蓄積した知識が極東の地を
しばらくして整備が終了し、漁師さんに声をかける。
「こっち終わりました。しばらくは大丈夫だと思います」
「お疲れ様。太一君、聞いてるよ、学園の方から友達連れて釣りするんだよね?」
何度か顔を合わせた人だからか、雑談を振って来た。どうやら、話しは通ってあるらしい。
「試運転のついでみたいになっちゃいますが、甘えちゃってすみません」
「いいよいいよ、釣り好きな人増えてくれればこっちも助かるしね」
そんな事を言い合いながら、雑談もほどほどにして車で寝る事にした。思い出すのは、つい3時間前の、重い過去を思い出して眠れなかった、ベローナの事。
夏休み前にベローナ以外にも、重い過去があると知った。それなら、ベローナみたいに眠れなくなってしまう日も、そう遠くないのかもしれない。
なら、それ以上のハッピーで押し流してしまえばいい。そう思いながら眠りにつくのだった。
おまけ
沈没丸。何故頭部のみ船舶にしてまでも、そういうGCを作る事になったのか?
「釣れない物だと聞き及んではいましたが、結構釣れますわね!!」
「竿に伝わる振動、広大な海、これは…………ハマりそうだな」
「フィーッシュ!! コレ根絶やしにしちゃうんじゃない!?」
どうやら大いに楽しんでくれているようだ。親父、気が利くじゃないか。
俺の座っている反対側では、大漁で、こっち側ではぼちぼちと釣れている。
沈没丸は釣り初心者でも絶対釣れる、という噂がある。
それもそのはず、沈没丸は光学迷彩を用いて、投げた釣り針に生きた魚を掛けているからだ。
ぬか喜びな訳じゃない、生け簀でも釣れない事だってあるし、とにかく釣れる、という体験があれば集客もしやすい。噂は噂、犯罪ではないが…………別に、あの喜んでいる所に、無駄に水を差す事も無いと思ったのである。
「おい、あっちの嬢ちゃんめっちゃ釣ってるぞ?」
「…………仕込みじゃないんすか?」
とまあ、挑戦しなければ意外な才能すら見つからない、という言い訳でここは一つ。