ロボゲーっぽいギャルゲーに転生したが整備科になってしまった   作:なんちゃってメカニック

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まあ、正直ゲロった!

 夕日が奇麗だ。学園を赤く染めて、青い春に朱を加えた、俺達の文化祭に太陽が祝福しているようだ。

 

「オロロロロロ」

 

 手元のバケツが汚濁している。青いバケツを茶色に染めて、健気にも吐瀉物を受け止めた、俺の行動のケツを拭いているようだ。

 

 俺が戦場に出た後、こうして1時間は吐瀉っていた。

 トイレだと初速ゲロは受け止めて貰えたが、それ以上となると匂いで気分が悪くなり、風通しのいい場所で吐いていた。

 

「絶対シフトの人数増やしてもらお」

 

 そう決意を、再び俺はキラキラした物を口から出す。これがキラキラか…………。

 手元の刺激臭が、さらに嘔吐感を引き出し、既に胃液だ。

 

「よっ、やったらしいじゃん」

 

「からかうなよ流星」

 

 背後から流星に話しかけられた。悪戯っぽく笑いながら、水を手渡してきた。

 

 口を湿らす程度に水を口に運んでから、流星は再び俺に話しかけた。

 

「どうだった? 久しぶりの戦いは?」

 

「二度とやらん、旧式のシミュレーターじゃなきゃ。こうなる」

 

 結果を示すように、勝手に口からキラキラが出て来る。

 

「今回で分かったよ、やっぱり、流星より上には行けねぇ」

 

 俺はそう言った。

 SEは宇宙が主戦場。無重力状態では、液体は表面張力で球体になる、ヘルメットの中をゲロ塗れにしたら、表面張力で顔にゲロが纏わり、窒息死する。

 流石にそんな死に方は避けたいでござんす。

 

 涙や汗といった液体の排出も出来るが、1時間経った今でもゲロっている状態だ、排出パックが満タンになったと思うと、考えただけでも恐ろしい。

 

 母艦であれば大型のGアブソーバーがあるからまだ大丈夫なんだが、遠隔操縦型にSEを改造して、母艦から操縦しようとも思ったが、星破依頼(ビックレイド)で避難一歩手前まで行ったし、母艦も完璧に安全とも言い切れない。

 

 …………そういえば、あのまま避難ポッドに乗っていたら、ゲロ吐いて地獄絵図になっていたかもしれないな。

 

 それにだ、今回の戦闘は煽りを入れて、正常な判断を奪い、立て続けに奇声を発して判断力をさらに低下させたから勝ったようなものだ。

 冷静になれば、ただただ引き撃ちしていれば、時間制限的に(ゲロタイムリミットで)勝っている。

 

「そう、か」

 

 沈黙が、俺と流星の間に流れる。

 思い出していたのは、シミュレーターゲロ事件。SEに触れる為、新型のシュミレーターに乗り、はじめてSEのGを体験して、ゲロった時、俺と流星の道は、メカニックとパイロットに袂を分かつ事になったのだ。

 

「もったいないな!」

 

「炊き付けるようなことを言わないでくれよ」

 

 沈黙を振り切るように明るく、そう流星は言った。俺は苦笑しながらまた吐くしかなかった。

 様子を見に来てくれたんだろう。それだけ言って、流星は去った。

 

 

 

 

 そして、入れ替わるようにベローナの姿が見えた。2、3言流星と話して、ベローナがこちらに来る。

 ああ、そんなツラすんなよ、言いたい事なんか分かっちゃうだろ。

 

「ありがとう」

 

「どういたしオロロ」

 

「大丈夫か!?」

 

 返礼の途中でインサートするキラキラに、心配をかけたベローナが俺に駆け寄る。

 

「済まない、私のせいで」

 

 申し訳なさそうな顔をして、そう言いながら俺の背中を擦るベローナ。

 

 別に、オウムアムアの誰であれ、同じ状況になったらそうした。だから、これ以上謝らないで欲しい。

 そんな()()()な事を頼むほど、人の心が分からない訳じゃなかった。

 

 だから、うやむやにするために、俺はベローナに聞いた。

 

「…………なあ、ゲロって良い?」

 

「あ、ああ、存分に吐け」

 

 俺の逡巡の後に言ったお願いは、許可が取れた。盛大に吐いてやろう。

 

「俺、パイロットになりたかったんだ」

 

「っ!?」

 

 一度吐いた物は、自分の意思じゃ止められない。ベローナの動揺も無視して、俺は言葉を重ねる。

 

「だから、最初は流星に嫉妬したよ、なんであれじゃないんだって。小っちゃい頃から家の旧式のシミュレーターで操作自体はしていたから、同じパイロットとして活躍できると思ってたんだ。だが、これさ」

 

 今回は土星機(シャニヌス)で無茶したから、この位で済んだが。乗ってるとなったら、もう2時間はゲロってるな。

 

「実は、今でも少し羨ましいんだ。俺だったらどうする? 俺だったらなんて、妄想やロマンの産物、それを押し付けても流星は軽々と超えていく」

 

 流星は、ド外道戦法なんのその、それ以上の技術で超えていく。

 

「そんな奴見たら、夢……いや、欲望を押し付けたくもなるだろ? だからさ、今回の事、チャンスだと思ったんだ。忌避していた夢を、諦めた夢を、今なら、もしかしてってさ」

 

 吐けば吐くほど汚くなる。

 両手で抱えたバケツの表面を見つめた。

 

 さて、吐ききったようだ。ベローナからも反応がない。

 軽くなった胃のように、俺は口調のトーンを上げた。

 

「いや、そっちの吐くなんかい!!」

 

「いやいや、切り替えられない切り替えられない」

 

 ベローナはそう言った。切り替えて貰わなきゃ困る。すると、ベローナは何かを思いついたような顔をした。

 

「ああ、ヘラっちゃったんだ」

 

「あははは!! まあ、正直ゲロった!」

 

 いつの日かベローナにかけた言葉が返って来て、俺達は爆笑していた。

 

「ずいぶんと気分が良くなってきた、ありがとうな」

 

「こちらこそ」

 

 そう言って、俺はベローナを見送った。

 

 星が奇麗だ。学園に黒のベールを被せ、青い春を紺にして、俺達の文化祭に宇宙(ソラ)が祝福しているようだった。

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