ロボゲーっぽいギャルゲーに転生したが整備科になってしまった   作:なんちゃってメカニック

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空が分かたれた夜で、今日は枕に雨が降る。

 文化祭10日目。

 ミーシャが倒れながらも営業終了時間を迎え、女子寮長室にオウムアムアの全員が集まっていた。

 

 ミーシャが横で寝ているからか、重苦しい空気によって口が回らないのか、それともそのどちらもか。

 最初にアリアが絞り出すように、声を上げる。

 

「すみません…………まさか、こんな事になるなんて」

 

 俺は、無言で首を横に振った。

 そもそも、忙しさにかまけてバックアップ要員を取れないのがおかしい。整備科()卸売科(コルデー)経営科(ミーシャ)管制科(アリア)の4人は1人で回している。

 

 今後、同じような状況になれば活動停止とまではいかずとも、アリアが落ちれば、他星進隊(プロトン)に依頼を出して、代わりのオペを雇って余計な金を使う事になるし、コルデーが落ちればオウムアムアの物流に値上げと言うデバフが掛かる。

 

 今回、ミーシャが落ちて考える事は、計上と依頼範囲の減少。2,3日で治るとは言え、将来的に絶対にミーシャが居るとは言い切れない。

 

 そして、俺の個人的考えになるのだが、別に、今増やさなくても良いとすら考えていた。

 星進隊(プロトン)の活動期間は、大学に進学しなければ後3年間はある、そうなれば現1年生が2年生になり星進隊(プロトン)へ入る枠が増える事だろう。

 

 ゼリアとピールみたいに、成績優秀者を星進隊(プロトン)に入れても良い訳だし。

 そもそも、俺達はベンチャー企業のような物だ。もう1年で地盤を固めれば良いし、それに、設立1年目の星進隊(プロトン)にしては、Cランクへの到達、星進闘争(アンティバトル)や依頼の成績良好、生徒会へのコネ、とかなりの実績を残している。

 

 現2年生から引き抜いて、運営しようとするからおかしなことが起こる。

 

 俺はアリアに声をかけた。こういうのは俺の役回りだと思ったから。

 

「とりあえず、ミーシャはまだ起きて来ないだろうし、他に経理を頼むにも、引継ぎの情報が必要だろ? ほら、ミーシャのデバイスだ、ロック掛かってて見れないんだが、アリア、頼めるか?」

 

「太一さん、今はそれどころじゃ無いって、分からないっスか?」

 

 アリアは俺が差し出したデバイスを受け取り、ハッキングを開始する。

 その光景を見たコルデーは怒りを抑えたように俺へ抗議する。

 

「分からないね、俺達は俺達に出来る事やるしかない。…………お前が、ライブを提案したからっていう、後ろめたさは、この際ここに置いていけ」

 

「ッ!?」

 

 俺は欠片も怒っていないし、ミーシャもたぶんそう。

 ライブによってミーシャの負担が増えたのは、事実だが、それを了承して実行し、そしてミスったのはミーシャ自身の落ち度。

 

 っていうのは言い過ぎだが、そこらへんを見据えて行動していたはずだ。自責の念はあれど、他人に当たったりするような奴ではないと確信している。

 しかし、その言葉にベローナが注意した。

 

「太一、言い方ってものが」

 

「それはすまん、だが事実として、コルデーがライブを提案したから助かった部分が大いにある」

 

「それで友達倒れさせて、私が喜ぶと思ってるっスか?」

 

「思わない、だけど、何もしないでただ黙って見ているだけで、ミーシャが喜ぶかよ」

 

 そんな言葉が口をついて出る。

 ああ、これは意地悪で堕落した正論だ。気持ちを抑え込んで次に行け、と言うのは簡単だが実行する方はそうはいかない。そんな事、分かってはいるのに口に出てしまう。

 

 俺の言葉で、場に重い沈黙がのしかかる。

 

 5分ぐらいの沈黙を、破ったのはアリアだった。

 ハッキングが完了したのか、これまでミーシャが行っていた仕事の全てを見たようで、息を飲みながら鳥肌を立たせている。

 

「あの、皆さん、これを見てください」

 

 俺が渡したデバイスの画面を見せるアリア、そこには数字の羅列、その数字の羅列はオウムアムアの経営そのものを指していた。

 それを見た、イルシアが労う様に口を開く。

 

「こんなに仕事していたんだね、これじゃ、倒れるのも無理は無いよ」

 

「いえ、星進隊(プロトン)の仕事量も問題なのですが…………問題はこっちです」

 

 そう言ってデバイスを再度操作するアリア、映し出された経理関係の量に、次第に俺達の顔が曇る。

 

 先ほど、イルシアが星進隊(プロトン)の仕事の痕跡を見て「倒れるのも無理ない」と形容していたが、それ以上の物がもう一つ経理関係の仕事が出て来た。

 その仕事の痕跡を見て、イルシアは呟いた。

 

「これって、金星の会計監査だよね…………」

 

「ええ、そうなります、にわかには信じ難いですが、星進隊(プロトン)の仕事をしながら、地球に居ながら会計監査の仕事をしていた事になります」

 

 アリアの言葉を、脳内で必死に咀嚼する。

 結果は化物過ぎて、理解が出来ないの一言に尽きる。単純に仕事量がおかしい。

 

 何故、相談してくれなかったのか。何故、それを隠し続けていたのか。責めるような正論が喉を刺し、優しさがそれを止めた。

 そんな物、何も解決しないと分かっているのに。

 

 そうして、黙ったままこの部屋に縛られたのを、打破したのはその張本人だった。

 

「私が悪い」

 

「ミーシャ! 大丈夫か!?」

 

 ミーシャが目を覚ました。

 俺と流星以外が、ミーシャに駆け寄った。

 

「行けると思っていた、この位のタスクは金星(むこう)じゃ日常茶飯事だったからな。それがこのざまだ、悪かった」

 

「そんな事ない、経営科(ビジネス)の事は分からないが、凄い事をしているというのは、分かった」

 

 ベローナがそう言ったのを、全員が肯定する。

 首だけを回して、ミーシャが俺達を見渡す。

 

「ははっ、全員揃ってありがとう…………悪い、ライブには間に合わす」

 

 そう言って起き上がろうとするミーシャを止めた。

 

「療養は必要ですわ! 起き上がらないでくださいまし!」

 

 メリルが慌てて、ミーシャをベッドへ押し戻す。

 すると、窓を見ながら心配そうに見つめていた俺達に、ぽつりぽつりと話始めた。

 

「私は、ヴェニリアの会計監査をしている両親の元に生まれたんだ、初めは、両親の手伝いだった」

 

 俺は金星の仕事をしているというのは聞いていたが、それが大企業の物だとは知らなかった。忙しい、そんな物は理由にならないけど。

 

「初めは仕事以外じゃ誉めて貰えなかったから褒められたい一心だった、幸いな事に、幼い頃から数字には強かった。仕事して、仕事して、どんな仕事も苦じゃなかった」

 

 まあ、好きだったり得意な事やっている最中は、なんか変なアドレナリンが出る。俺も整備中に覚えがあるしそう言う物なんだろう。

 

「だからかな、私が暴走して、中学の頃から本格的にやり始めるようになってから、仕事を奪われたように感じた両親と不仲になったんだ」

 

 らしい、と言えばらしい。夏休み初めで連絡なく俺にネル修理させようとしてたし、心の機微が分からなくなっていたんだろう。

 

「それに、私が倒れれば、両親に迷惑が行く。ざまあみろ、って思ったよ、実際もう私無しじゃ回らないようになっていたんだから。それで、両親の嫌がらせで地球に留学したんだ、遠隔でやれば仕事の効率は落ちる、ま、そんな事で私の仕事に支障はなかったけどね」

 

「ここを適当に卒業して、適当に金星に戻って、嫌がらせのように働きながら死ぬ…………君たちに会うまでは、本気で思っていたよ」

 

 ミーシャの成績に関して、女子寮長を兼任しているから単位の免除、そして授業に参加していないから成績は低くく、経営科(ビジネス)として星進隊(プロトン)に声はかからない。そんな状態だったから、前から知り合っていた俺は、オウムアムアへ入らないかと声をかけたのだ。

 

 少女に見えるネルに優しく接していたのは、幼少期から親との関係が上手く行っていなかった為、こうしたかった、こうして欲しかった。そんな物の裏返しなのだろう、そんな事を勝手に思っていた。

 

「今、私、悔しいんだ。生徒会の1件とは比べ物にならないほど、自分の得意な事が出来ないって、こんなに悔しいんだな」

 

 ミーシャの声は平坦だ。だが、その双眸から涙は止まらない。

 

 この中で、()()()を言えるのは俺位しかいないだろう。俺は言葉に詰まりながらも、ネルを呼んだ。

 

「ネル」

 

「なあに?」

 

「仕事だ、ミーシャと抱き締めて添い寝してくれないか? ネルを振りほどいてベッドから立ち上がるまで」

 

「よゆう」

 

 そう言うと、すんなりベッドに入り込んで、ミーシャを抱き締めながら眠りにつくネル。俺はそれに安心して、扉を開けて退室しようとする。

 しかし、ミーシャが枯らした声を荒げて俺に抗議する。

 

「ちょっ!? なんで、この話を聞いてよし、任せようかなとかならないんだ!?」

 

「なるわけねえだろうが!?」

 

「なるわけないっしょ!」

「休むと良いよ~罰だね~」

 

「ゼリアとピールまで!?」

 

 本当に、コイツは俺達をなんだと思っているんだ? そんな事聞いたら、余計に休めとしか言えんだろうが。

 

「太一は人の心が分からないのか!?」

 

「お前よりか分かってるわ! …………もう、お前は俺達にとって居なきゃいけない存在なんだよ、そんな奴を、より酷使させようとか思う奴はココには居ねえよ」

 

 本当になんと恥ずかしい言葉を言わせるのだろうか? ミーシャはそう言う所で人の心が無いな、と独り言ちながら、俺は部屋を出た。

 

 俺はまた決意を固め直して、また、熱意をたぎらせる。残暑は夜に溶け残っていた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ミーシャはいまだ、ベッドに横たわっている。

 風邪に侵された体では、ネルを振りほどけず首だけを回して、窓を見る。

 

「…………私は変われなかったのか?」

 

 星の輝きが目に刺さり、弱音が口から漏れ出ていた。

 誰にも言わなかったはずの弱音に、返事が一つ。

 

「そんな事無い」

 

 流星の声だった。

 窓の向こうから聞こえてくるそれに、驚きながらも口を(つぐ)む。

 

「俺も、太一も、そんなに変わっていないんだ。変わったのは環境だよ、変わった環境に手を伸ばしてくれた、それだけで今は良いんじゃないかな」

 

 ミーシャはその言葉が、頭の中反響した。

 思い出していたのは、流星と初めて出会い、その後の事。毎日毎日窓の前に来ては、イルシアをどうすればいいかの1点張り、根負けして今日まで至るが、それに特別な感情は無かった。

 

 今の今までは。

 

 流星は、おやすみとだけ言って、立ち去って窓の外から気配を消した。

 

 首しか動かない視界では、窓のフレームで空が分かたれた夜で、今日は枕に雨が降る。

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