何となく女装を始めたら、だんだん拘り過ぎてしまった件   作:古都礼奈

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優雅な姿勢に包まれて

サロンに足を運んだある日、悠人はいつもと違うスタイルを試してみようという気分になっていた。

 

普段は洋服を選ぶことが多かったが、今日は少し冒険してみたかった。

 

サロン内を見渡しながら、何か特別なものはないかと探していると、スタッフがそっと声をかけてきた。

 

「今日はいつもと違う感じにしてみませんか?女性用の着物なんかどうでしょう?」

 

着物という提案に、悠人は少し驚いた。

 

今まで和服を選んだことはなかったし、日常的には全く無縁のものだ。

 

しかし、その言葉に少し心が動かされる。

 

「着物か…確かに普段着る機会はないし、やってみるのも面白いかもな」

 

そう思いながら、彼はスタッフの勧めに従い、女性物の着物をレンタルすることにした。

 

まずは着物を選ぶ段階から始まった。

 

色とりどりの美しい着物がずらりと並び、どれも華やかで目を引く。

 

艶やかな紅色や深い藍色、落ち着いた藤色など、さまざまな柄や色があり、悠人はどれを選べばいいのか迷ってしまった。

 

「どれがいいかな…あまり派手すぎるのも恥ずかしいし、でもせっかくだから綺麗なものを選びたいな」

 

スタッフがいくつかの選択肢を見せてくれたが、最終的に悠人は少し落ち着いた薄い紫色の着物を選んだ。

 

柄は繊細な花模様が施されていて、どこか優雅な雰囲気を醸し出している。

 

「これ、いいですね。上品で、派手すぎず…」

 

「とてもお似合いですよ。それでは早速、着付けをしましょう」

 

着物の着付けは、想像以上に複雑だった。

 

スタッフの手際よい動きで次々と布が巻かれていく。

 

まず、肌着のような薄い下着を身につけ、それから長襦袢を重ねる。

 

昔は下着をつけずに着物を着ることもあったとスタッフが説明してくれたが、レンタル品ということもあり、今では必須だと言う。

 

「なるほど、昔はそんな風に着てたんですね…」

 

悠人は少し驚きながらも、丁寧に着物が仕上げられていく様子を見守った。

 

次に帯を巻き、独特な結び方でアレンジが施される。

 

帯は単なるベルトではなく、装飾の一部であり、全体の印象を左右する重要な要素だった。

 

スタッフが工夫を凝らし、シンプルでありながら優美な帯の結び目を作り上げてくれた。

 

「帯のアレンジ、すごいですね…こんなに綺麗に結べるものなんだ」

 

「そうなんです。着物は帯で全体の印象が変わりますから、ここも楽しんでくださいね」

 

最後に、足袋を履き、草履を合わせると、着付けが完成した。

 

鏡に映る自分を見て、悠人は思わず息を飲んだ。

 

今まで見たことのない姿がそこにあった。

 

洋装とは全く違う、どこか凛とした佇まい。

 

色の組み合わせや帯の結び目が一体となり、悠人を別人のように見せていた。

 

「これが…僕?」

 

和装の自分に見慣れていないこともあって、少し違和感を覚える。

 

しかし、その違和感が次第に新鮮さに変わっていくのを感じた。

 

自然と背筋が伸び、姿勢が正されるような感覚があった。

 

「なんだか、背中がピンとする感じですね。これが着物の力なのか…」

 

スタッフが笑顔で頷いた。「そうですね、着物を着ると自然と姿勢が良くなります。帯で支えられているので、普段よりも背筋が伸びやすいんです」

 

歩こうとすると、草履での歩行がいつもの靴とは全く異なることに気づく。

 

足袋と草履の間に微妙な違和感があり、足の運び方に気を遣わなければならなかった。

 

「歩くのが、ちょっと難しいですね…」

 

「慣れるまでは少し大変かもしれません。でも、その分ゆっくりと優雅に歩くことができますよ」

 

悠人は慎重に一歩ずつ足を進める。

 

確かに、無理に早歩きはできず、自然と歩調がゆったりとなる。

 

それに合わせて、全体の動作も落ち着き、上品さが漂うようになった。

 

着物に包まれた自分の姿に、どこか特別な気分が芽生えていた。

 

洋服の時とはまた違う感覚だ。

 

着物がまとわりつく感触と、草履の下で少しだけ床を感じる足の感覚が新鮮で、悠人はゆっくりとその体験を味わいながら歩いた。

 

「これも悪くないな…いつもと違う自分に出会えるのが、女装の魅力かもしれない」

 

悠人はそう感じながら、慣れないながらも少しずつ歩みを進めていった。この日、彼はまた一つ新しい自分を発見したのだった。

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