何となく女装を始めたら、だんだん拘り過ぎてしまった件   作:古都礼奈

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素顔の彼女たち、素顔の自分

閉店後の女装サロンは、いつもと違う雰囲気に包まれていた。

 

普段は女装姿で会話を楽しんでいる仲間たちが、今日は「素の姿」に戻っているのだ。

 

スタッフのリーダー格であるアヤコが「飲みに行こうよ!」と声をかけたのがきっかけで、サロンのお客さん数人と一緒に近くの居酒屋へ繰り出すことになった。

 

「なんか新鮮だな…」

 

悠人は心の中でそう呟きながら、自分自身もスーツ姿に着替え、店を出た。

 

普段は華やかなドレスや可愛らしい服装で見慣れている仲間たちが、今日はみんな男性の姿だ。

 

何となく落ち着かない気持ちになりつつも、これはこれで新しい一面が見られる機会だと思い、少し楽しみでもあった。

 

居酒屋に到着すると、いつものように気軽な会話が始まった。

 

お酒を少しずつ飲み進めながら、仕事や趣味の話、そしてもちろん女装についての話題も尽きることがない。

 

「でもさ、たまにはこうして素の姿で会うのも悪くないよね」

 

隣に座ったサロンの常連、カズキがそう言って、ビールのジョッキを片手に笑った。

 

「確かに、毎回女装してると、こういう普通の飲み会も新鮮だよな」

 

悠人も同意しながら、ジョッキを持ち上げる。

 

こうした場では、普段は話せない話題も出てくるし、お互いの本当の姿を知ることができるのも面白いと感じた。

 

しばらくして、アヤコの友人の美咲という女性が店にやってきた。

 

彼女は少し遅れての参加で、見た目はとてもオシャレで華やかな女性だった。

 

年齢も悠人たちと同じくらいのようで、どこか緊張感を感じさせない、柔らかい雰囲気を持っていた。

 

「こんばんは!遅れてごめんね!」

 

美咲は明るい声で挨拶し、テーブルに座った。

 

しかし、彼女が目にしたのは、スーツやカジュアルな男性の姿ばかり。

 

アヤコだけは女性のままではあったが、他は全員「素」に戻っていた。

 

「え、みんな男の格好なんだ…」

 

少しがっかりした様子の彼女の表情が、悠人の目に留まった。

彼女はきっと、華やかなドレスや可愛い服を着た姿を見られると思っていたのだろう。

 

その気持ちは痛いほど分かる。自分も最初、女装サロンに初めて足を踏み入れたときは、その非日常感に胸が高鳴ったものだ。

 

「ごめんね、今日は閉店後だから、みんな普段の姿で飲んでるんだ」

 

アヤコが軽く謝りつつも、彼女を和ませるように話しかけた。

 

「まあ、仕方ないよね。普段の姿も大事だしね!」

 

美咲はすぐに笑顔を取り戻し、気を取り直して場の雰囲気に溶け込んでいった。

 

しかし、悠人は心の中で少し気になっていた。このままでは彼女に自分たちの本当の楽しさを伝えきれないのではないか、と。

 

「そうだ、せっかくだし、これ見てみる?」

 

悠人は思い切って、タブレットを取り出し、そこに保存してある女装写真を彼女に見せてみることにした。

 

「え?見せてくれるの?」

 

美咲は興味津々にタブレットを手に取り、写真を覗き込んだ。

 

そこには、普段サロンで撮影した、悠人がさまざまな服を着てポーズを決めた写真がずらりと並んでいた。

 

「わあ、すごい!こんなにちゃんと女の子みたいに見えるんだ!」

 

彼女の反応は想像以上に良かった。

 

最初は少し戸惑っていた彼女だったが、次第に興味を持ち、写真を一枚一枚じっくりと見てくれた。

 

「この服、すごく似合ってる!でも、もう少し明るい色でもいいかもね。あと、髪型も少し変えてみたらもっといいかも!」

 

悠人は少し驚いた。

 

まさかここまで具体的なアドバイスをもらえるとは思っていなかった。

 

彼女の指摘は的確で、しかも優しさを感じるものだった。

 

「本当?ありがとう、参考になるよ」

 

悠人は自然と笑顔になった。

 

これまでは、サロンのスタッフや仲間たちとしか女装について話すことがなかったが、こうして外の人と意見を交わすことで、新たな視点が得られることに気づいた。

 

「それにしても、本当に楽しそうに見えるよね。女装って、ただ服を着るだけじゃなくて、やっぱり内面からの楽しさが表れてる感じがする」

 

彼女はそう言いながら、再び写真を眺めた。

 

美咲の言葉に悠人は少し胸が熱くなった。

 

確かに、女装はただ外見を変えるだけではない。

 

その中にある「自分らしさ」や「楽しさ」が、自然と表に出てくるものだ。

 

「そうだね、なんか、ただ着飾るだけじゃなくて、もっと自分を表現してる感じがするんだよね」

 

悠人はそう答えながら、心の中で今まで感じていた漠然とした思いが形になっていくのを感じた。

 

飲み会はその後も和やかに続き、美咲と悠人はさらにいくつかの写真を見ながら会話を楽しんだ。

 

彼女が帰るころには、最初の落胆はすっかり消え去り、むしろ楽しんでもらえたことがわかり、悠人はほっとした。

 

悠人は美咲と連絡先を交換しながら伝えた。「また今度、サロンにも遊びに来てね!今度はみんな女装してる姿を見られるから!」

 

アヤコが笑顔でそう誘うと、彼女も「ぜひ!」と明るく答えていた。

 

帰り道、悠人は心の中でふと考えた。

 

「やっぱり、誰かに見てもらうって、楽しいな」

 

女装サロンだけでは得られなかった新しい体験。

 

それは、自分の姿を他の人に見せることで、新たな楽しみが広がっていく感覚だった。

 

そして、それがただの「自己満足」ではなく、他人と共有できるものになる瞬間だった。

 

今までの自分は、女装を自分だけの楽しみとして閉じ込めていた部分があった。

 

しかし、今回の出来事で、その楽しみをもっと広げていきたいという新たな欲求が芽生えてきた。

 

「もっと、自分の姿をいろんな人に見てもらいたいな」

 

そう心に決めた悠人は、翌日、自分のブログに新しい記事をアップロードし、写真をさらに公開することにした。

 

それは、これまでの自分を超えて、新しい世界へと一歩踏み出す瞬間だった。

 

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