何となく女装を始めたら、だんだん拘り過ぎてしまった件   作:古都礼奈

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鏡の向こうのメイド服

悠人が再び女装サロンに行こうと決意したのは、前回の体験があまりにも充実していたからだった。

 

セーラー服を着た自分の姿を鏡越しに見た瞬間、普段のストレスから解放され、まるで別の自分に出会ったような感覚に包まれた。

 

その快感が忘れられず、もっと本格的に女装を楽しみたいという気持ちは日々強まっていた。

 

次のステップとして、彼は「メイド服」に挑戦してみようと考えた。

 

ネットで見たメイド服は、その可愛らしさとエレガントさが魅力的で、セーラー服とはまた違った魅力があった。

 

「メイド服なら、もっと自分を変えられるかもしれない」と期待しつつ、悠人は早速女装サロンのサイトにアクセスし、メイド服をレンタルして写真撮影を楽しむコースを予約した。

 

サロンに再び足を運んだ日は、曇り空の少し寒い日だった。

 

前回の訪問よりも緊張は少なかったが、心のどこかでまだ「女装をする自分」に戸惑いを感じている部分もあった。

 

それでも、悠人はもう一度あの感覚を味わいたいという思いが強く、サロンのドアを開けた。

 

「おかえりなさいませ、今日はメイド服ですね!」

 

受付で笑顔で出迎えてくれたスタッフの言葉に、悠人は少し照れくさそうに頷いた。

 

「メイド服」という響きにまだ慣れない自分がいるが、その一方で期待感が胸に膨らんでいた。

 

案内された更衣室でメイド服が丁寧に用意されているのを見た瞬間、心臓が高鳴るのを感じた。

 

黒を基調としたクラシカルなメイド服に、白いフリルのエプロン。

 

控えめなレースのカチューシャと、リボンがついたシューズ。

 

すべてが女性らしさを象徴しているアイテムであり、悠人はそれを一つ一つ手に取って、そっと自分の体に身に着けていった。

 

最初の頃のぎこちなさは、もう感じられない。鏡の前でエプロンのリボンを結びながら、悠人は自然と笑顔になっていた。

 

「どうでしょうか?すごくお似合いですよ!」

 

メイクを終えた悠人がサロンのスタジオに入ると、スタッフが笑顔で迎え入れてくれた。

 

メイクは、前回のセーラー服とはまた違った、少し大人びた雰囲気を意識して仕上げられていた。

 

鏡に映る自分は、メイド服の可愛らしさに相反する大人っぽさが加わり、まるで誰かに仕える高級感のあるメイドのようだった。

 

「本当に…僕がこんなに変われるんだな」

 

鏡を見つめるたびに、現実感が薄れていく。

 

自分が普段生活している「会社員の悠人」ではなく、ここでは「メイドの悠人」として存在しているような感覚だった。

 

スタッフは続けて、小道具を使った撮影の準備を始めた。

 

まずはトレイを手に持つポーズ。

 

軽やかに微笑みながらトレイを掲げると、まるでどこかのカフェで働くメイドのような印象を与えた。

 

その次はティーポットとカップを使ったお茶を注ぐポーズ。

 

悠人はスタッフの指示に従い、丁寧にポーズを決めていくうちに、次第に自分がまるで「役」を演じているような気分になっていった。

 

「次はちょっと可愛いポーズを取ってみましょうか?」

 

スタッフの提案に少し照れながらも、悠人は言われるままにポーズを取った。

 

手を軽く胸の前でクロスさせ、可愛らしく微笑む姿は、彼自身が思っていたよりもずっと自然で、写真の出来栄えも素晴らしかった。

 

「なんか…こういう自分も悪くないな」

 

その瞬間、悠人はこれまでに感じたことのない自己肯定感を得た。

 

普段の自分とは違う、もう一人の自分がここに存在している。

 

その「もう一人の自分」を解放できる場所がこのサロンであり、ここでなら誰にも邪魔されずにその姿を楽しめるという安心感が彼の心を満たしていた。

 

撮影が一通り終わった後、悠人は他のお客さんとも少し話をする機会があった。

 

初めて会う彼らも同じように女装を楽しんでおり、皆がそれぞれのスタイルで自分自身を表現していた。

 

「初めてメイド服に挑戦されたんですね。すごく似合ってますよ!」

 

隣に座っていた若い男性が、笑顔で話しかけてきた。

 

彼はフリルの多いロリータドレスを着ていて、まるでお人形のように可愛らしかった。

 

悠人は少し戸惑いながらも、その言葉に感謝しつつ、自然に会話が始まった。

 

「ありがとうございます。まだ慣れないんですけど、楽しいですね…思ったよりも」

 

「分かります!最初は緊張しますけど、慣れてくるともっと色々やりたくなりますよ。僕も最初はセーラー服から始めて、今はロリータとか色々挑戦してます」

 

彼の話に悠人は頷きながら、共感を覚えた。

 

女装を楽しむという行為が、単なる趣味ではなく、自己表現の一つであることに気づかされた瞬間だった。

 

互いの服装やメイクの話をしていると、自然と話題が広がり、普段は決して話すことのないような内容を共有できるこの空間が、どれほど貴重な場所であるかを感じていた。

 

「女装って、こんなに開放的なものなんですね…」

 

悠人がそう呟くと、隣の男性は笑顔で頷いた。

 

「そうですよ!自分の中にあるもう一人の自分を見つける感じというか…普段の自分とは違う自分を楽しめるってすごく素敵なことですから」

 

その言葉を聞いて、悠人はふと自分の中にある「もう一人の自分」に対しての認識が少し変わった気がした。

 

これまでの生活では感じられなかった新しい感覚を、この女装という趣味が彼に与えてくれたのだ。

 

その後も悠人は、サロンでの時間を満喫し、何枚もの写真を撮影した。

 

ポーズや小道具を使った写真だけでなく、スタッフのアドバイスを受けて、表情の作り方や体の使い方も工夫しながら撮影を進めた。

 

メイド服を着た自分を様々な角度から撮影し、写真が次々と出来上がるたびに、自分の中の新しい一面を発見するような感覚を味わっていた。

 

サロンを後にする頃には、悠人はすっかりその非日常的な空間に浸りきっていた。

 

そして、またここに戻ってきたいという気持ちが強くなっている自分に気づいた。

 

普段の自分とは違う、もう一人の自分を存分に楽しめる場所。

 

ここで過ごす時間が、彼にとっての心の安らぎとなっていたのだ。

 

「また、来たいな」

 

そう思いながら、悠人はメイド服での写真を大切に抱え、現実の日常へと帰っていった。

 

 

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