何となく女装を始めたら、だんだん拘り過ぎてしまった件 作:古都礼奈
今日は特に特別なイベントもなく、サロンでのんびりと過ごすことにしていた。
女装することに慣れてきた悠人は、いつもの控えめなワンピースに軽いメイクという、代わり映えのないスタイルを選んでいた。
とはいえ、奈々さんや他の友人たちと談笑しながらお酒を楽しむこの時間は、日常の中でのささやかな楽しみでもある。
賑やかさと温かさがサロンに満ち、リラックスしながらお喋りする瞬間が、心地よい安らぎをもたらしていた。
「今日は落ち着いた感じだね。あんまり派手にしてないのも、たまにはいいかもね」と奈々さんが笑顔で話しかけてきた。
「うん、たまにはシンプルに過ごすのも悪くないよね。特に今日は、のんびりしたくて」と、悠人も柔らかく返す。
そんな平和なひとときが続く中、突然奈々さんが思いついたように声をあげた。「そうだ、最近サロンの友達がネイルアートにハマってるんだけど、悠人くんも試してみない?せっかくだし、実験台になってよ!」
悠人は驚きながらも、どこか興味を惹かれた。「ネイルアート?今までやったことないけど、ちょっと楽しそうだね。やってみてもいいかも。」
奈々さんは嬉しそうに笑いながら、他の友人を呼び寄せた。「ちょうどいい!アキちゃんが最近ネイルアートの練習をしてるんだよ。悠人くん、ちょっと手を貸してあげて!」
友人がニコニコしながらネイルセットを取り出し、悠人の手を取り始める。「じゃあ、さっそく始めるね!どんなデザインがいい?今回は少し派手めにしてみようかな。」
悠人は少し戸惑いながらも、「うん、お任せするよ。どんな風になるか楽しみだな」と期待を込めて答えた。
ネイルアートが進むにつれ、悠人はどんどん緊張していったが、友人が真剣に作業をしている様子を見て少し安心感も覚えた。
手元に塗られていく色とデザインが目に入ると、思わず「わあ、綺麗だね」と小さく呟いた。
「でしょ?完成まであと少しだから、楽しみにしててね!」と友人は笑顔で返事をしてくれた。
そしてついに完成したネイルアートが悠人の前に差し出された。「はい、完成!どう?」
悠人は自分の手をじっと見つめた。
普段は意識したこともなかった自分の爪先が、鮮やかなデザインで彩られているのを見て、驚きと興奮が入り混じった感情が湧き上がった。「すごい…こんな風になるんだ。ちょっと気分が変わるね。」
「やっぱりお洒落って大事だよ。細かいところにも気を使うと、全体的に違って見えるから」と奈々さんが微笑んで言った。
「でも、これでスマホとかちゃんと使えるのかな?」悠人はふと不安になり、試しにポケットからスマホを取り出してみた。
ところが、ネイルアートが思いのほか邪魔になって、スムーズに操作できないことに気がついた。「あれ…意外と不便だな。これ、慣れるまで大変そう。」
友人たちはその様子を見て笑いながら、「そうなの、ネイルやってると意外と不便なこと多いんだよ。でも、その分お洒落が楽しくなるんだから!」と教えてくれた。
「なるほど、確かに見た目はすごくいいんだけどね…やっぱりお洒落って大変だなあ。」悠人は苦笑いしながら答えたが、爪を眺める自分にどこか満足感を感じていた。
その後もみんなでお酒を飲みながら楽しい時間は続いた。
談笑しながらお互いの近況を語り合い、笑い声が絶えなかった。
時間はあっという間に過ぎていき、気がつくと夜もかなり更けていた。
「そろそろ帰るか」と、悠人は酔いが回った頭を軽く振りながら席を立った。
「気をつけて帰ってね。また今度も一緒にお酒飲もう!」と奈々さんが手を振って見送ってくれた。
「うん、ありがとう!また来るね!」悠人は手を振り返しながら、サロンを後にした。
外に出ると、冷たい夜風が心地よく酔いを少し覚ましてくれた。
サロンを出る前に元の服に着替え、いつもの自分に戻っていたが、手元に光るネイルアートだけが女装時の余韻を残していた。
電車に乗り込むと、つり革に手を伸ばした瞬間、悠人ははっと気がついた。「あっ、ネイルしたままだ!」慌てて手を引っ込め、周りに気づかれないように手を隠した。
「やばい、これめっちゃ目立つじゃん…どうしよう。」
心の中で焦りながら、悠人はつり革に掴まることを諦め、手を使わずにバランスを取りながら駅に着くまで耐えることにした。
酔いも相まって、うまく立っていられず、足元が少しふらついた。
降りる駅が近づくにつれて、「どうにかしないと…」と悠人は思いつき、美咲にメッセージを送ることにした。「ネイルの落とし方ってどうするんだっけ?やばい、家までこれ持って帰れない…。」
数分後、スマホに美咲からの返信が届いた。「除光液使えばすぐ落ちるよ!コンビニで売ってるから、帰りに寄ってみなよ。」
「助かった…ありがとう!」悠人は胸を撫で下ろし、駅に着いたらすぐにコンビニに向かうことに決めた。
駅に到着すると、悠人は急いで近くのコンビニに駆け込み、除光液を手に取った。
帰宅する前にネイルを落とすため、店のトイレで急いで作業を始めた。
「ふぅ…やっと元通りだ。」爪が元の状態に戻ると、悠人は安心し、家路を急いだ。
ネイルアートがなくなった自分の手を見て、少しホッとしながらも、どこか少し物足りない気持ちが残っていた。
「お洒落って本当に奥が深いんだな…」悠人はネイルアートに挑戦した一日を振り返りながら、また次のサロンでの時間を楽しみに思い描いていた。