女神のミスで転生してきた勇者を天界へ送り返したい 作:北河ゆん
チリリーンと寝室に備え付けてある電話のベルが鳴る。吾輩の眠りを妨げる不届きものはどこのどいつだ? 許さないぞ。
吾輩は布団の中に潜り込む。冷たい顔が布団の暖かさに触れ、心地いい。吾輩はまだ眠りたい。
まだ電話は鳴り続けている。ここまで待ち続ける理由は何だ。吾輩――魔王の安眠を邪魔するほどの重要なものか?
吾輩は仕方なく受話器を手に取った。
「はい……もしもし」
「ごめん。起こしちゃった?」
この声はサタルージ王……吾輩の友達だ。こいつが朝に連絡してくるのは、自分の生誕祭の打ち合わせがあるときだけだ。もうそんな時期か……。
「サタルージよ、今回はどんな生誕祭にする? 今回は巷で流行っているフラッシュモブというのをやってみるのは
どうだろう? 意外性もあって面白いと思うんだが……」
「今回はそのことじゃないんだ、魔王ヴァルアンよ」
食い気味に否定するサタルージ。ここまで焦りながら話す彼の声を初めて聞いた。何かとんでもないことがあったとしか思えない。
吾輩はサタルージに尋ねる。
「サタルージ、何かあったか?」
「ああ、君にとって重要なことがね……」
「吾輩に重要なこと……? それは魔界の存亡に関わることか?」
吾輩は冗談をサタルージに飛ばす。もし冗談だったら、この辺りで開示してほしい。しかし、吾輩が思っていた反応は来なかった。サタルージは重苦しく口を開けた。
「――これは、魔界の存亡……いや、この世界が崩壊するきっかけになり得る……」
吾輩のことで世界が崩壊するきっかけって何?
例えば、偽魔王が現れたとか、吾輩を殺しに来るとか……?
いやいや、ありえない。現実性に欠けるね。それにしても、ここまでもったいぶるって相当なことだ。ここは言ってもらえるような要求をするしかない。
「サタルージ、教えてくれ。どんなことでも受け止める覚悟はある」
「ヴァルアンがそう言うなら……」
サタルージは電話越しでもわかるぐらい、大きく深呼吸した。そこまでしないと話せないことって、よっぽどのことだぞ。
「勇者という名の人物が君――魔王ヴァルアンを殺したがっているんだ」
「……へぇ?」
一番ありえないと思ったものがきた。まさか現実性に欠ける内容だったとは。これは、確かに魔界の存亡に関わることだ。
「それで……その勇者が俺の目の前にいて……」
おいおい、そんなヤバい奴が近くにいるってことはサタルージも殺される可能性がある。なぜなら吾輩と電話をしているからだ。言葉遣い的に友達関係と知られているかもしれない。ここからの長電話はそのリスクが高くなりそうだ。そろそろ電話を切る流れにしないと。
「あっ、ちょっと……」
サタルージの声が遠くなる。耳を澄ませると、勇者が受話器を奪い取ったみたいだ。息を吸う音が聞こえた後、勇者が吾輩に言い放った。
「俺は魔王を殺すために女神に転生してもらった勇者だ。おまえを絶対に……絶対に許さない。魔王ヴァルアン、そこで待っとけよ。殺してやるからな」
勇者が思い切り受話器を叩きつける音が聞こえた。電話はツー、ツー、ツーっと同じ音が繰り返し流れている。どうやら勇者が電話を切ったようだ。
サタルージ王の生誕祭の打ち合わせだと思ったのに、こんな結末になるとは思わなかった。勇者が言い放ったあの言葉は冗談ではない、本気の奴だ。このままでは勇者とやらに殺されてしまう。何か対処法を考えなければ。
吾輩はベッドを飛び出し、寝衣のまま玉座に向かった。
玉座に行けば、秘書のアタリウスに会える。彼女は朝早くから玉座での仕事があるからと、昨日言っていたからだ。アタリウスに相談をすれば、何かしらの対処法を出してくれるに違いない。
玉座の扉を開けると、土下座をしている銀髪の少女が見えた。
――誰、この少女?
吾輩に土下座をするってどんな失態を犯したのだろう。吾輩は玉座に入り、そっと扉を閉めた。すると、少女はわめきに近い声で吾輩に謝る。
「本当に申し訳ございまじぇん。勇者を間違えてあなたの世界に転生させてしまいました」
発言を聞くに女神だろう。
『おまえのせいでな、殺されるかもしれないんだぞ。わかってます? 女神であろうと、吾輩は許さない』
と言いたいところだが、ここまで誠意のある謝りをされたら何も怒りが湧いてこない。むしろ天界から降りてきて直々に謝罪してくれた事実が嬉しい。許したくなってしまう。
「魔王様、この少女……もとい女神様と面識があるのですか?」
「――ないとは言えないし、あるとも言いづらい」
「なんですか? その煮え切らない言い方は!」
アタリウスに注意されてしまった。あの言い方では不満も出るか……。
よし、せっかくだ。単刀直入に言ってみよう。
「実はこの女神が送り込んだ勇者に殺害予告をされていてね……」
「魔王様を殺したい者がいる……?」
アタリウスの表情は暗くなる。
「今からその勇者を殺しに行きます。それが終わった後、女神も同じ運命になってもらいます」
アタリウスは扉の方に向かった。まずい、まずい。吾輩が単刀直入に言ったせいで極端な行動を取るようになっちゃった。まだ事情も知らない勇者を殺すのは平和主義の吾輩としてはとても心苦しい。
「ちょっと待ってくれ」
「魔王様、これは早く対処しないといけない事案です」
「一回落ち着いてくれ」
「落ち着いていられますか!」
アタリウスは非常に興奮している。こうなると止めるのも厳しい。
「あんたが行ったところで塵になるのがオチよ。だってあたしの特別製だからね」
女神は立ち上がり、話を切り込んできた。
「あたしの名はルイナ。今から経緯を説明するから聞いて」
「わかった」
「わかりました」
ルイナは少しうなずき話し始めた。
「あたし達女神は、滅びゆく世界を救うために『勇者』を送り込んでいるの。ここに来た勇者の本来送り込むところは世界の九割が蹂躙された、まさにバッドエンド目前の世界。あたしが転生先の座標に意識を向けているとき事件が起きた。転生先の座標を意識するタイミングで盛大なくしゃみをしてしまったの。そしたら座標がずれ、勇者はあなたの世界に転生してしまった。そんなミスに気付かず、のんきにティータイムしていたら大女神様が現れ、そこでミスをしたことが発覚。女神の称号は剥奪され天使にランクダウン。女神に再び戻るには、間違えて送り込んでしまった勇者を天界に帰し、本来あるべき世界へ転生させる必要があるってこと」
「なるほど。ポンコツ天使がやらかしたことで魔王様が巻き込まれているということですね」
「ポンコツって呼び名は気に食わないけど、そういうこと」
ルイナは咳払いをし、続ける。
「こほん。あんた達とあたしのミッションは一つ。勇者をこの世界から追い出す。ひいては、天界に帰すこと。方法は二つあるわ。一つは勇者を気絶、もしくは殺す。これは女神が直接接触できる点と勇者は魔界にいるやつらを全員殺す気でいるから、積極的に試してほしい方法ね。二つ目は、魔王城にある転生エリアに勇者をおびき出し、あたしが天界へ行く魔法を唱えて、帰す方法。これは『超』が付いてしまうほどの高難易度で、あまりお勧めはできない方法ね」
「魔王様、前者のほうを試してはいかがでしょうか? 後者のほうは、再現性がないように思えます。魔王城に転生エリアがあるっていうのは初めて聞きましたし、私たちが最後にポンコツ天使に頼らなければならない状況に苛立ちを隠せません」
「悪かったわね、ポンコツで!」
ルイナは地団駄を踏む。
アタリウスの意見に賛同だ。このやりかたは平和主義の吾輩からして心苦しいものではあるが、勇者一人に魔界の平和が侵されるのは見ていられない。
「前者の勇者を倒す方法で当面はいこう。もし無理とわかったら、後者のほうに移る。それでいいルイナ様?」
「
ルイナは受話器を手に取った。
「ルイナ様、何をされるのですか?」
困惑した表情でアタリウスは尋ねる。
「サタルージにも協力を仰ごうと思ってね。この問題は世界の半分の魔界だけでは解決できないの」
「――なるほど。魔王様の友人の手を借りれば、解決できる可能性はぐんと高くなる……」
確かに、サタルージと吾輩は世界を半分ずつ統治している。魔界だけでは半分の世界しか協力を仰げないが、サタルージに協力してもらえれば全世界から協力を得られる。そして何より、サタルージは吾輩のことを気にかけていた。
「もしもしサタルージ君。女神のルイナだよ。驚いた?」
吾輩の友達を、まるで子供扱いするような口ぶりだな。
「随分冷静だね。友人の殺害予告を直接受け取ったのに。焦っていないなんて。この問題は全部あたしのせいで起きたんだけどね。――今、舌打ちしたよね? 天使に向かって舌打ちっておかしくない?」
ルイナはまた地団駄を踏んでいる。これは仕方ない。誰だって舌打ちしたくなる。
「これから、勇者をこの世界に追い出す方法を教えるね」
ルイナはそう言って、さっき言ったことを繰り返した。
「じゃあね」
終わり方もずいぶん軽いな。
「サタルージ王も快く協力してもらうことになりました」
「ああ、それはよかった……」
これで全世界から勇者を追い出すための行動ができる。待ってろ、勇者。
「さて、勇者を倒す方法を考えようかアタリウス、ヴァルアン」
「剣で一突き」
「勇者に遠距離魔法を使われて塵になるね」
「サキュバスの誘惑で心臓を一刺し」
「逆にサキュバスが誘惑されてパーティの一員になるかも」
「「……」」
「――嘘だよね? こんな陳腐な倒し方しか思いつかないの?」
まるで魔王とその側近なら狡猾なことを思いつくはずだと言いたげな反応だ。平和ボケしている吾輩らに聞くのは間違いだろ。
「もっとさ、心が躍ってしまうような倒し方はないわけ?」
「そう言われても思いつかないんだよ……」
「魔王様、ゴブ郎に頼ってもよろしいのではないでしょうか?」
「ゴブ郎……?」
ルイナは不思議そうに尋ねる。
「ゴブ郎さんは魔王の友達でゴブリン隊の戦術長官でもあり、魔術の先生でもある。優秀なゴブリンなんです」
「ゴブリン? 雑魚じゃん……」
ルイナは静かに吐き捨てた。
「聞き捨てならないですね、天使さん……」
アタリウスはルイナに近づく。
「はにゅ⁉」
アタリウスはルイナの頬を片手で鷲掴みにする。
「……ダメダメ天使さん。ゴブ郎さんはね、いろいろな危機に適切な助言をくれる者ですよ。雑魚ではありません……」
「――ちゅ、ちゅいません。あたしが見てきた世界では序盤にやられる敵だったんでしゅ」
「わかってくれて、よろしい」
あんなアタリウスの表情は初めて見た。あの姿で詰められたら、吾輩でもビビってしまう。それだけ吾輩の友達を大切に想っているんだな。ありがとう、アタリウス。
「魔王様、ゴブ郎を呼んでもよろしいですか?」
「ああ、呼んでくれ」
アタリウスは右手を広げ、魔法を唱える。
「空間よ。大地よ。我が欲する者をここに呼び寄せたまえ『テレポーション』」
床に魔法陣が現れ、光の粒子が集まっている。これは、物体をこちらに持ってきたり、指定した場所に移動ができる。光の粒子に一回変換してから自分の送りたい場所に戻すことをしているのがこの魔法だ。
「おばちゃん、これ以上もらえない……よ?」
ゴブ郎はパンパンに入っているせんべいの袋を抱えたまま、周りを見ている。悪いことしちゃったな。
「――魔王様、どうしてパジャマ姿なんですか……?」
「それは――」
今まで自分がパジャマ姿であることを忘れていた。勇者に殺害予告をされ、混乱の中、玉座に向かい、女神に謝られ、あれよあれよという間に、ここまで来てしまった。その事情を知らない者からしたら、普段公爵服を着ている人がパジャマ姿に疑問が湧くよな。
「それを含めて、あたしが説明しよう」
ルイナは胸を張って言う。
「――あなたは誰ですか?」
「あたしの名は、ルイナ。天使よ」
「てっ……ててて天使⁉」
ゴブ郎は激しく動揺している。この反応になるのも当然だ。誰だって天使が目の前にいたら驚く。
「そうなの、天使なの――」
ルイナは袋の方をじっと見ている。せんべいが食べたいのだろう。天界には似たような食べ物がないとかで興味を持っているのだろうと思う。
「天使様……?」
「ああ……説明ね。説明していいかな……? ゴブ郎くん」
「はい! よろしくお願いします」
先ほどのゴブ郎とは打って変わって、今度は目をキラキラさせて正座で待っている。ここまで変わると、夢を見ているんじゃないかって錯覚を覚える。
「じゃ、始めるね」
三度目の説明が始まった。今回は、なぜ勇者が魔王を殺したいのかを本来転生するはずだった世界の映像を見せながら説明してくれた。その映像があるなら、一度目の時にも使ってくれたら勇者の気持ちがわかったというのに。
「……なるほど。まだ頭がこんがらがっていますが、大体はわかりました。勇者ってどんな名前なのですか?」
「……名前ね。そういえば言ってなかったね」
あっ、勇者って名前じゃなかったのか。話の流れで勇者は名前だと思ってた。なんか違和感あるとは思っていたけれど。
「
「……タケルかあ。いい名前だね」
「魔界のあんた達はタケル呼びはやめたほうがいいわ。この名を知っているのは、あたしとサタルージだけで、もし魔界の人が知っているとなったら、真っ先にあたしが狙われるからね」
「タケルって呼びたかったけど仕方ない……あと二つ聞いてもいいですか?」
「いいわよ」
「勇者に何の能力を授けたのですか?」
それは気になる。勇者を倒す算段をつけるためにも、聞いておきたい。
「あたしが施したのは二つ。一つは、魔物を塵にする魔法。勇者の手で殺した魔界に居る奴らを死体にせず塵にさせるもの。もう一つは絶対に諦めない心。この最後の諦めない心は、勇者にとって何より大事なもので、敵からしたらもっともやっかいなものね」
「塵にする魔法……」
「そこまで気を落とさなくていいわ。あたしが魔王城にある転生エリアに帰す魔法を施してあげるから」
「ありがとうございます。天使……女神様」
「気分いいわー。もう一つの質問は何かな? 答えてあげるわ」
「本来転生させる所ってどうなったんですか? あの状態なら世界はもう滅んでいるとしか……」
「そこは安心して。大女神様がその世界の時間を止めたから」
「はあ……良かった」
ゴブ郎は安堵した。吾輩もそれを聞いて同じ気持ちだ。女神のミスで本来の世界を助けられなかったら辛いことこの上ない。
「あたしも聞いてもいいかしら」
「いいですよ……?」
「確実に勇者を倒す方法ってなんかあるかしら?」
「確実ですか……?」
ゴブ郎は少し考えて、ルイナに言った。
「スライムで勇者を溺死はどうでしょう?」
「何それ? 面白そう。どうやってやるの?」
はしゃぐルイナを見て、吾輩は頭を抱える。そこは自重すべき場面だろう。勇者討伐の策を聞いて目を輝かせるなんて、どっちが悪役かわかったもんじゃない。一応、彼女は味方のポジションのはずだろ。
「まずスライム三体ぐらいを使役して勇者をスライムの体内に入れます。勇者は出ようともがくが溺れてしまい溺死してしまう感じです」
「最高の倒し方ね、ゴブ郎」
「ありがとうございます」
「そんなに上手くいくかな?」
「私も魔王様と同じ意見です。スライムを使役するって見たことがありませんし、魔法もありません」
「無理ってこと?」
「僕に策はあります」
「その策に乗ってもいいのか? ゴブ郎」
「うーん……」
ゴブ郎は黙り込む。少々言い過ぎてしまったか。
「やってみましょう? ヴァルアン。ねえ、いいでしょう?」
ルイナが吾輩に詰め寄ってくる。……よし、この策に乗ろう。単なる危険生物として片付けられ、誰も有効な価値を見出していなかったスライムを、「勇者を倒す兵器」へと転換する。その発想は見事だ。
「……やってみる価値はある」
「じゃ、実行ってことでいいの?」
「ああ、『スライムで勇者を溺死』を実行だ!」
吾輩は高らかに宣言した。
「そうこなくっちゃね。……さあ、ゴブ郎。魔法をかけてあげるわ」
『リテンション』
玉座を包む光がゴブ郎の体に入っていった。
「これで、塵に還らず、魔界城にある転生エリアに飛ぶから」
「吾輩も魔法をかけよう」
『アイズ・プロジェクション』
この魔法は、掛けた相手の視点を投影できる。管理者にとって、一番重要と言っても過言ではないものだ。勇者がスライムに対してどんな動きを見せるのか見ものだな。
「では、勇者を倒しに行ってきます」
「その前に」
ルイナはせんべいの袋に指をさした。
「これがどうかしましたか?」
「その腕に抱えた袋、勇者を倒すときに邪魔でしょ? 預かってあげる」
「それもそうですね」
ゴブ郎はルイナに袋を渡した。
「もしかしたら、胃袋の中に預かり先が変わってしまうかもしれない」
「ルイナ様、そんなに食べたいんですか?」
「うん!」
ルイナはとびきりの笑顔で言う。そんなに食べたかったんだ……。
「だったら、全部あげますよ」
「いいの?」
ルイナは目をキラキラさせながらゴブ郎に尋ねた。
「是非食べてください、ルイナ様」
「じゃ、お言葉に甘えて」
ルイナは思いっきりせんべいの袋を開ける。それと同時に醤油の香りが玉座を包み込む。なんていい香りなんだ。吾輩も食べたくなってしまうじゃないか。
「では、行ってきます」
ゴブ郎は魔法を唱える。
『テレポーション』
ゴブ郎は、光の粒子になって消えていった。ルイナは袋から割れていない大きなせんべいを選び、口に運ぼうとしていた。
「ルイナ様、魔王様にも今の魔法をかけられますか?」
アタリウスの問いに、ルイナは首を振る。
「――無理。あたしと魔王はこの魔法にかけても無効化されるのよ」
「一度試してみませんか?」
「いや……」
ルイナはせんべいを口に入れようとするが、アタリウスが睨んだことで、そっと袋に戻した。
「わっ……わかったわよ『リテンション!』」
ルイナは右手を広げて吾輩に向け、左手は自身の胸に当てて同じ魔法を唱えた。しかし、まばゆい光は現れなかった。
「……やっぱり出なかったね」
「……では、私にかけてみていただけますか?」
アタリウスが促すと、ルイナは再び魔法を唱える。
『リテンション』
ルイナは不機嫌そうに魔法を唱えた。彼女の手からまばゆい光が放たれ、アタリウスの体に入っていった。
「……私には加護が付与されるんですね。なんか不服です」
アタリウスはむっと、不満げに頬を膨らませた。
これは嫉妬だろうか……?
いいじゃないか。女神の加護を受けられて。
なぜ不満な表情……?
吾輩のほうがよっぽど危うい状況だというのに。
頼むぞ、ゴブ郎。なんとしてでも勇者を倒してくれ。吾輩は、塵になりたくないんだ。
第2話「スライムで勇者を倒せ!」は4月8日の水曜日20:00投稿予定。