五条悟は若人のハッピーエンドを守りたい   作:かるあるおみ

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少し遅れました。




誰が為に

 

深夜。

 

世間がヤチヨカップ優勝者にして超新星かぐや・いろPと、言わずと知れたツクヨミトップライバー月見ヤチヨのコラボライブによる余韻に浸っている中、その裏では重苦しい雰囲気の会話が織り成されていた。

 

 

「───ごめん、ログイン履歴・侵入経路。出来る限り調べてみたけど、どれも分からなかった」

 

 

「そっか、じゃあ予定通り満月に戦って勝つしかなさそうだね」

 

 

「ごめん…」

 

 

「大丈夫だって、勝てばいい話だしね」

 

 

スマホを耳に傾けながら、五条悟は目線の先にいるヤチヨに向けて、軽快な調子て会話を進めようとする。

 

 

「やっぱり、勝つんだったら私も出た方が……」

 

 

「何しおらしくなっちゃってんの?ヤチヨはトップライバーであると同時に、ツクヨミ管理人でもある。件の月人を名義上NPCとして扱うんだったら、ヤラセを疑われる可能性がある以上、勝った後が面倒だ」

 

 

ここは任せな……じゃあまた後で。五条はそう続け、電話を切った。

 

 

──────────

 

夏休みも終わりに差し掛かったコラボライブの2日後、9/1。

 

僕は自宅にて、ツクヨミにログインしようとしていた。

 

 

(やっぱり、コラボライブを観客席で見れなかったのは残念だな……)

 

 

来る9/12に備える期間の中、唯一の憩いの場としてコラボライブがあったわけなのだが、生憎観客席のチケットを取ることは出来ず、配信での視聴となってしまったことを悔やむ。

 

普段から細かいことは適当にしていたのが災いし、チケット争奪戦に参加することすら出来なかったのだ。

 

 

(それにしても、アレが月人か。かぐやがそうだったから何となく分かってはいたけど、呪力は検知なし。そこら辺の齟齬はなくて良かったかな)

 

 

コラボライブの最後に現れた異形を思い返す。

 

呪力はなく、だからといって人とも言い難い。

呪霊よりも何処か神聖な雰囲気と、それ故の不気味さを併せ持った姿。

 

前世でもあんな地球外生命体が存在していたのならば、少しくらい戦ってみたかった。そんな想像を膨らませていると……

 

 

 

 

 

ピピッピピッ

 

 

(かぐやか?)

 

あの日帰り旅行以来であるかぐやからの電話がかかって来ていた。

それと同時に、コラボライブの感想を言い忘れていたことを思い出す。

 

 

「もしもし、どうしたの?」

 

 

『あ、悟?今から彩葉と花火大会行くんだけど、悟も来るよね!』

 

 

「うーん……僕はパスかn『なんでぇ!?』」

 

 

何かと思えば、夏の醍醐味であると同時に締めくくりの象徴でもある花火大会へのお誘いだった。

 

僕に断られるとは夢にも思っていなかったのだろう。少し食い気味のリアクションが飛んでくる。

 

 

「あいにくと僕も立て込んでてねー、それに夏最後の特大イベントでしょ?二人で存分に楽しんできなよ」

 

 

『悟ってそういうとこ付き合い悪いよね〜』

 

 

僕があまり二人の活動や物事に関わらないことを見抜いていたのか、不満MAXのかぐやは追撃を入れてくる。

 

ここはさっさと話を変えて、流れと雰囲気を戻してしまおう。

 

 

「ま、そーゆ日もある!それとコラボライブ。僕こういうのには疎くてさ〜、期待半分って感じだったけど感動したy『違う、でしょ…』…?」

 

 

得意のポーカーフェイスならぬポーカーボイスで話を切り替えようとしたが、かぐやは逃がさないと言わんばかりに呼び止めてきた。

 

彼女は普段から変に勘が良かったり鋭かったりする。その指摘が、今の僕には小骨のように突き刺さって離れないものへと昇華していた。

 

 

『…最初はさ、悟はいつもやりたいことに一直線で、兄妹っていうのかな?かぐやと似てて親近感湧くな〜!って感じだったんだ』

 

 

「……」

 

いつものかぐやとは違う、並々ならぬ雰囲気に僕らしくもなく気圧されながら、話に耳を傾ける。

 

『でも、みんな抑えてもいると思ったんだよね、自分の気持ち。もっと大事なもののために……悟も、いつもそうしてると思ってさ。かぐや、悟にももっと笑ってほしいんだ』

 

 

『───もっと心の底から笑って、彩葉と色んなものを見て、感じてほしい。一人の時間も大切だけど、みんなの時間もないと、きっといつか限界になっちゃうと思うんだよね、かぐやだったら無理だなって』

 

 

「……それは、無理なお願いかな」

 

 

(俺はあの時、置いてかれ───)

 

 

柄にもなく落ち着いた声でかぐやにそう返して、アイツに置いていかれたあの日のことを思い返す。

 

傑に置いていかれたあの日、アイツは己の大義のために家族も、先生も、硝子も、俺すらもかなぐり捨てて進んだ。

 

憂太に怪物になるなと言われたあの日、傑に追いつくために、教師としての大義を果たすために、間違ったやり方だと理解しながらも上層部連中(腐ったミカン)どもをこの手で屠った。

 

 

僕はそうやって信念と大義のためにあらゆる手を使ってきたはずだ。

 

 

(────じゃあ、僕は今なんの為に?)

 

 

そこまで考えて頭の中に突如としてリフレインし始めた疑念。

 

 

 

 

 

分からない、解らない、判らない、理解(わか)らない。

 

 

 

 

出来ないことなど存在しないと豪語し続けてきた脳で、自身の中に絡まるものを紐解こうと思考をぶん回す。

 

まだ見ぬ強者と戦いたいから?

 

 

 

二人の行く末を見届けたいから?

 

 

 

第二の生を存分に謳歌したいから?

 

 

(なんだ?僕は一体何がしたい?なんの為に何を思い何を成し遂げたい?考えろ、なんだ?なん…『悟?』……ああ、ごめん、少し考え事を」

 

 

 

どれもあと一歩届かないようなそれに、更に思考をのめり込ませようとしたが、返事が来ないことを疑問に思ったかぐやの一声で現実に意識が戻った。

 

「とにかく、僕も用事があるのはほんとだからさ、花火大会は二人で言ってきな。彩葉に言っておきたいこともあるんじゃない?」

 

 

『…悟は知ってるの?月からお迎えが来るってこと』

 

 

「まあね♪」

 

 

『じゃあさ、かぐやが月に帰った後のこと頼んでいいかな?ヤチヨにも会えたら言いたいんだけど、やっぱ悟が一番安心かな〜って思ってさ』

 

 

「それは、運命だから?」

 

 

『……うん。帰らなきゃ、帰れなくなっちゃう』

 

 

調子をいつも通りに戻し、花火大会の話に戻る。

実際、予定が入ってるのは本当だ。

 

ブラックオニキスとの一件の後、ヤチヨとは毎日ツクヨミで落ち合い訓練をしていた。

タイムパラドックスがなんたらで、直接月人との戦いに介入することはリスクがあり過ぎるためナシになったが、彼女もこういうところで運命を変えようと尽力してくれている。

 

「じゃあまたね、あ、そうそう……」

 

 

『?』

 

 

仕事をサボったから月に帰る。帰らないともう戻れなくなる。これは正しいことで、月人も悪くないし、何も間違っちゃいない選択なのだろう。

 

でも、それにはいそうですかって納得するのかと言ったら話は別だ。

 

 

だから、これだけは言っておかなくちゃならない。

 

 

「言ってなかったかもだけど、僕、正論嫌いなんだよね」

 

 

『……』

 

 

「かぐやがどうしたいかは、これから彩葉と話してゆっくり決めていけばいい、でも僕は少しだけ、昔の自分を見つめ直してみることにするよ」

 

 

何も知らずに、野心と好奇心で満ちていたあの時期を、今はあえて思い出しながら、僕はかぐやとの通話を終えた。

 

 

 

────────────

 

「────かあ〜〜!かぐやちゃんが本当に月のプリンセスとは……わかるっ!」

 

 

かぐやが卒業を発表した夜、作曲の途中に抜け出した彩葉による呼び出しに、ブラックオニキスの三人・芦花・真実・ヤチヨ・五条が集まっていた。

 

場所はツクヨミ内の屋外ミーティングルーム。

 

ヤチヨの協力により確保されたスペースは、情報漏洩防止も完備されており、遠慮なく相談することができる優れものだ。

 

「築地生まれじゃなかったんだー」

 

 

「海行っても肌真っ白だったもんね」

 

 

「電柱から生まれた……分かるっ!」

 

 

真実・芦花・かぐやファン()がそれぞれリアクションを取るが、全員が腑に落ちる要素があったようで、彩葉のかぐやの秘密についてはすんなりと信用された。

 

 

「ヤチヨ、かぐやを守ることって出来ないかな?」

 

 

「調べてみたけど、どこからアクセスしてるかも分からなかったんだよね、ごめん」

 

 

「でも、相手が現実に手出しできないなら、ツクヨミで追い払えばいいんでしょ?」

 

 

「……私もやる。何が出来るか分からないけど……お願いします」

 

ヤチヨは悟に告げた結果を彩葉たちにも共有する。

正体などに関しては伏せたが、月人に勝つためという点では、出来る限りの情報は共有しておくべきだという五条の判断だった。

 

 

帝の単純明快ながら核心を着く提案と、彩葉の覚悟の垣間見える発言に全員が賛成の意を示し、月人たちにどのようにして勝つかの議題に移る。

 

 

「結論から言うけど、アイツらに勝つには僕が一人で全員……少なくとも半数は引き受けるのが必須(マスト)になってくると思う」

 

 

各々の決意も固まったと同時に現実を思い出させるような五条の発言により、和やかな場に緊張が生み出される。

 

 

「はあ?敵が何体かは知らねぇけど、俺たちを差し置いて半数はやり過ぎじゃない?」

 

 

帝も当然否定的な意見を述べる。

乃依と一対一で勝利したものの、そこまでして勝てない相手ならば、五条一人で半数を請け負わせるには荷が重すぎると判断しての発言だった。

 

「ヤチヨなら分かると思うけど、ポテンシャルだけなら僕の術式(スキル)はピカイチ。それに、足手まといなんて言う気はないけど、僕の能力の都合上、広いスペースで且つ巻き込み事故をなくせるっていう条件がないとフルパフォーマンスがまず出せないんだよね〜」

 

 

「……なら─────」

 

渋谷での失敗を二度と繰り返さぬように、自身の術式のことを少しずつ開示し、前提条件の擦り合わせを行っていく。

 

蒼とそれらの応用しか出来ないとはいえ、パフォーマンスの上下に関わってくることには変わらない。

 

ブラックオニキスの面々も、五条が自惚れた発言をしているわけでないことを悟り、その条件を崩さぬように配置を組み立てていく。

 

 

 

「じゃ、また当日にな」

 

 

「彩葉、来年もみんなで海行こうね」

 

 

「温泉も行こ〜」

 

 

「ヤッチョも参加は出来ないけど出来る限りのことはするから、頑張ろうね!」

 

 

そうして、ミーティングは終わり、彩葉と悟を除く全員が来る日に向けて備えようと帰っていく─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───それでさ、悟」

 

 

「?どうしたの、彩葉?」

 

 

───その時、彩葉はログアウトしようとする五条に対しストップをかけ、緊張した様子で言葉を紡いだ。

 

 

 

「……あのさ、花火大会の時、かぐやから聞いたんだけどさ」

 

 

「…?」

 

 

「なんで、かぐやが言う前からお迎えが来るってわかってたの?」

 

 

 

「……あ。」

 

 

『…悟は知ってるの?月からお迎えが来るってこと』

 

 

『まあね♪』

 

 

9/12。全てのターニングポイントに向けて、二人の会話は続いた。

 

 

 

 

 

 




次回月人戦ということでやっとここまで来ました!
月人戦は力入れたい中で早めに書き上げての投稿もしたいので感想・お気に入り登録での応援していただけると嬉しいです!毎話本当に励みになってます!

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