電海魔境ツクヨミ決戦 -衝突-
「……あ。」
(…ッ、しまったな。これじゃ秘密がありますよって言ってるようなもんだ)
思わず声まで漏らしてしまってから、遅れて気づく。
今の反応で、おそらく疑念に留まっていたであろうそれに絶対的な確信を与えてしまったことに。
ヤチヨからの情報筋だと誤魔化すか?いや、ヤチヨはさっきアクセス先も判明しなかったと彩葉に告げている。
ここで士気が下がるのは団体戦的にも……
「やっぱり、あるのね……」
しかし、そのようにしながら内心焦りつつ映した彩葉の顔は、怒りを持ったような表情ではなく、どこか納得したような、それでいて悲しいような、置いてかれた子供のような、そんな笑みを浮かべていた。
「……別に私は、悟が何を隠していようと、それを掘り返すようなことはしたくないし、しようとも思わない」
「……」
「お母さんのことも、かぐやと話してやり方はともかく、今思えば私にとって必要なことだったと思うし、お父さんがいた時のあの思い出が、お母さんのことを嫌いにさせてくれなかった。だから、過去の大切さは人並みには分かってるつもり。でもさ…………」
彩葉の顔が悲しんだような顔から、泣きそうで、縋るような表情に変わった。
「……でも今、私はかぐやと一緒に居たい…かぐやともっと色んなところに行って、色んなものを見て、色んなことをしてみたい……!!」
「…彩葉」
あの日あの教室で見た、周りに人はいるのに独りぼっちで、強いようで脆く、儚く、ふっと消えてしまいそうな彩葉は、もういないのだと知って、何処か安心した。
だったら、元から完璧超人とも囁かれる彩葉にとって、心配するところは何も無い。かぐやがいれば、かぐやさえいれば一件落着なはずだ。
「だから手伝って……言えないことがあったっていいから、一緒に戦ってほしい…助けてほしい……!お願いします……」
彩葉はそう言って泣きながらも頭を下げた。
そうだ、迷うことなんてない。まだ高二の、僕がまだ青臭くも良い夢にいた頃と寸分変わらない年齢のこの子が、こんなにも強い意志を見せているのだ。
戦う理由はあとから幾らでも付け足せばいい。
『力に理由とか責任を乗っけんのはさ、それこそ弱者のやること』
かつてそう
これが弱者?確かに、現実では少し優秀なだけの普通の女子高生。ツクヨミでもその実力は僕の足元にも及ばない。
でも、自らのプライドをへし折ってでも仲間を頼り大切なものを守るために戦う。
どこが弱者だ。ちょっと前まで何もかも抱え込んで見栄を張り続けた女の子が、ここまで成長したんだぞ。
それが生物としての成長ではなくとも、どれだけ困難で乗り越えるのが大変な壁なのか、
可愛い教え子たちにどれだけ言われても、テキトーに誤魔化し続けてきた僕とは違う。
「────こうなったのも、かぐやのおかげなのかな」
「…?」
彩葉の成長にそう呟くと、当の本人は泣き腫らした顔で不思議そうに顔を上げる。
おおかた、必死のあまり聞こえていなかったのだろう。
でも、
「いいよ、むしろこっちが考えさせられたし。それに、僕を選ぶとはお目が高い!さあ!我らがかぐや姫を守りに行こうか!」
「ふふっ、アンタ自分で最強って言ってたじゃない…あ、それとなんだけど」
「ん?どうかしたかい?」
いつものテンションに戻せば、彩葉はまだ少し目に涙を溜めつつも頷いた。
「悟も私と変わんないから!アンタがどんな生き方を選んだって、私がどれだけ弱くたって、少なくとも私は
「……了解」
その言葉の意味は分からなかったが、並々ならぬ覚悟を汲み取り、僕はその日を終えたのだった。
「何という急展開!突如ツクヨミに現れたフリーダム、超新星のかぐやの卒業ライブ!泣いてる場合じゃないぞ、最後のファンサだ!目に焼き付けろー!』
そんな忠犬オタ公の声とともに告げられる卒業ライブ開演の声。
全ツクヨミユーザーと言っても過言では無いほどの人数が、この配信を見届けようとこぞって集まった。
そしてそのライブの主役は当然─────
「みんな、ありがとー!」
───かぐや姫こと、超新星ライバーかぐや。
「今日でお別れみたいなんだけど、悲しくはしたくないんだ!みんなでお見送りしてハッピーに卒業させて!」
本来KASSENで使われるフィールド。その天守閣と呼ばれる位置に立つかぐやが、ここまで応援してきたファンに対してそう告げる。
そこに現れるは─────
ドォォォォン………
7人のライバー。
プロゲーマーユニット、ブラックオニキスの面々。
美容系ライバーROKA。
グルメライバーまみまみ。
かぐや・いろPのプロデューサー、いろP。
そして、現代最強の無下限呪術使い、五条悟。
「ライブの余興!私たちは私たちで、精一杯やるから!万が一勝っちゃったら、ドンキで買い出しして、パンケーキ作ろ!」
いろPこと、彩葉がはるか先のかぐやに向けてそう宣言する。
「そっか…そっか……みんな、自由だ〜!」
かぐやはその問いにも捉えることの出来る発言に対して、向日葵のような笑顔でそう応えた。
それと同時に、空が歪み、件の月人たちが現れ、KASSENのルールを理解したかのように、空に残機が表示された。
七福神のような主力は7体。こちらはかぐやを入れて8人だが、かぐやが戦わないことと、中央のボサツ型がコラボライブにも襲来した
「……全員、作戦変更だ。彩葉は天守閣に行ってかぐやのフォロー、残りはそれぞれ相性の良いパートナーかトリオを作ってトップとボトムに散って。僕はミドルに最速で抜けて、7体中少なくとも3体を請け負う」
「は!?正気か!!アンタの能力上ミドルに行くのは分かるが、いくらなんでも…」
「頼む。それが唯一の勝ち筋だ」
「……分かった。トップは雷と乃依に任せる。俺は真実と芦花との三人でボトムをやるから」
五条悟の作戦変更に帝が苦言を呈す。しかし、普段の五条からは感じられない真剣さと、帝自身のプロゲーマーとしての経験による判断力が、それを受け入れた。
「悟……大丈夫なの?」
思わず、彩葉にそう聞かれる五条。
それに対して今の五条が持ち合わせる答えは一つだった。
「大丈夫、僕最強だから」
「大丈夫、僕最強だから」
いつかの自身が放った最強としての自負が、僕の頭の中を走馬灯のように駆け巡る。
その言葉に宿儺というイレギュラーを除いて嘘はない。
もっとも、そのイレギュラーの存在が言葉の信憑性を持ち去ってしまったが。
あの日あの空港で捨て去ったはずの戦いへの密かなる渇望は、あの時とは同じようで違う、、はずの意味を持ち、僕の中で再燃していた。
(彩葉は天守閣に向かえているはず、こっちは、、)
視線を移した五条悟の視界に広がるは電子の支配者とも言える月の使者たち。
その巨体に秘められた力は、僕が親友を殺めた日に軽く屠ったあの呪霊とは訳が違う。
加えて───
(蒼が出来たとはいえ、やっぱ本題は赫か……)
流石は何百年ぶりの無下限呪術と六眼の抱き合わせというべきか。その天性の才能は転生して尚、五条悟の肉体に術式を刻み込んだ。
魂と肉体の関係、術式は世界……
どこかの世界で五条悟たちを阻んだ男たちの対話。
そして魂の通り道。それらは誰も解き明かすことの出来なかった術式ならぬ世界のブラックボックス。
その奇跡に等しい道を通り抜けても、この
(現実の身体からの呪力、そしてそれを流し込んだ術式を利用した電子の操作……原子レベルで呪力を操作する無下限呪術でも、物質関係なし電子世界のツクヨミじゃあままならない)
そんなことを考えている間に、大型の月人が家来と思われる月人たちを召喚していく。
召喚された月人による圧倒的なまでの"物量"
本来彩葉たち全員に向けられるはずだった矛先を一手に引き受ける五条悟。
帝やSETSUNAでの戦いを通し、
『下手な呪術よりも、こういう基礎でゴリ押しされた方が僕はキツイよ〜?』
「───こういう意味じゃないんだけど…ね!!──蒼!」
接近してきた月人をパンチで吹き飛ばしつつ、迫り来る後続を吸い込む反応、術式順転蒼で一掃する。
それと同時に、術式を通して電子世界に強制的に反応を創り出した影響で、六眼により最小限に収められた呪力消費が現実の僕に生じる。
でも慣れた"蒼"なら問題はない。
「8対7なのに3体も僕に割いちゃって大丈夫なの〜?」
五条の前に対峙するは敵の大将であるボサツ型・マスコットのようにも見えるズイジュウ型・不気味な海洋生物のような姿をしているホテイ型の3体。
煽りと探りを入れつつ、月人の大軍、倒しても倒しても湧いてくるそれらの猛攻を再び無下限で受け止める。
蒼と同様に、慣れた無下限オートも処理落ちはしない。
『出しっぱじゃ脳が焼き切れるよ〜』
かつての学友の声が嫌に思い起こされる。
即座に反転術式でオーバーヒートしそうな現実の脳を癒す。
如何に電子世界での術式の操作が難しいといえど、それらを処理する脳は現実のもの。かつて現代最強と謳われ畏れられた五条悟が領域以外で焼き切れを起こすはずもない。
───焼き切れ、且つ現実ならば
「───ッ!?」
「ХЩШФЫЯ」
ゴリゴリという領域展延を想起させる音とともに、電子の肉体を守る無下限が削れていく。
前世の経験か余裕の笑みを崩すことこそしないが、五条悟の脳内はこのイレギュラーについての原因究明と対策を立てるために、今一度高速で回転し始める。
(向こうが電子の流れを弄った?僕の六眼はあくまでも呪力の流れを視て、呪力消費を減らすことに特化したもの。それに気づけないというのも有り得なくは無い)
しかし、その思考を直ぐに切り捨てる。
そんなことを家来レベルのこの月人たち一体一体が微弱であろうと可能ならば、KASSEN形式の勝負を受け入れた初手で、物量による押し切りという選択を取ろうとするはずだからだ。
(となると、やっぱりこの電子世界そのものの仕組みによる影響の可能性が高いかな。本当の意味で空間が切れ目なく繋がっている
現実とは違い、この電子世界では1フレームごとに相手の攻撃がどの
このツクヨミに初ログインしてから色んな経験を通し辿り着いた術式発動法とこの現象の辻褄を合わせようと思考した答えは……その再計算の同時進行数だった。
(脳を何度リフレッシュ出来たとしても、一体につき何千もの再計算をこれだけの人数で詰められちゃ、全面に展開しなきゃいけない無下限の処理が追いつかないのも自然か)
「呪力特化の六眼じゃ無理な話だねっ!!!」
何年も鍛え上げ続けた体術で月人を圧倒し、自分のスペースを取る。
きっと、現実の僕の脳は凄いことになってるんだろう。
反転を回して。最悪を避けて。そのままなんとかベストパフォーマンスを保ってはいるものの、ツクヨミに痛覚があったら情報処理で脳がとんでもないことになっているはずだ。
そんな中、月人を捌く僕の前に一見マスコットのような見た目をしてる月人が立ち塞がる。
「ЫШЩЯХФ」
相変わらず人間の身体では何を言ってるのかはさっぱりな言語。だがその雰囲気が、長年呪術師として第1線を張ってきた現代最強の勘に警鐘を鳴らした。
(この感じ、やっぱりただの従者的なやつじゃないよな)
その予想は的中し、その月人はまさに大将と言わんばかりの巨体と2本の大剣を携えた風貌へと変化した。
───仮に月人が現実に干渉してきたのであれば負けないのに。などというのは、強者からすれば言い訳にしかならない。
五条悟は違った。
電子で構成された世界、仮想空間ツクヨミという現実では敵がほとんどいない彼にとっては不利にしか働かない場。
実際状況は良くない。
召喚された月人の軍勢、無下限を破るその物量に加え、大将格が前線に出てきた。
しかし、彼は余裕の笑みを未だに崩さない。
「仕事だっけ?連れ戻しに来たところ悪いけど、僕も仕事はラクしたい派だし………何より若人にかっこ悪いところを見せる訳にはいかないんでね」
(きっと彩葉が居たら『あんた同い年でしょ、?』とか言うんだろうけど)
次回から本格的な戦闘に入ります。
追記:ちなみに月人戦の五条は初っ端から目隠し外してのフルスロットルです
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