「───って、やっぱり10分遅れるんじゃない!」
「いやー、ごめんごめん。行きつけのカフェで新作が出るって聞いてさ。これは見逃せないなと。ほら、ちゃーんとテイクアウトしたから時間も大して……」
「まず遅れてるのがダ・メ・な・の!!」
いつも通りの帰り道。
学生たちが次々と駄弁りつつ帰るなか、一際騒がしい
「アンタのその癖いつ治るのよ……今日も、この後直ぐバイトあるからあんまり待てないって言ったでしょ?」
そう言って僕に呆れたような眼差しを向ける同級生、酒寄彩葉。
前世で教鞭を取っていた僕からしても驚くべき頭脳を持つこの子は、少し心配になるほどの頑張り屋でもある。
「そうはいっても結局は待ってくれるのが、彩葉のいいとこだよね〜」
「まあ、10分以上遅れることがないのは今までの流れから察してたし……念の為予定より5分早く集合にしたし」
「だ、騙したのね!!」
「うっさい、それでも5分は遅れてんの」
少しおどけた声を出してみれば、降りかかるのは容赦ない
普段学校で才色兼備文武両道、品行方正でみんなが憧れる優等生の彩葉は何処へ。
しかも僕が遅れてくるのを見抜いて集合時間を少しずらして伝えてくるって、それ僕が楽巌寺学長(腐ってた頃の)にやったやつよ?酷くない?
(───ま、それで彩葉が自然体で会話出来てるんなら、儲けもんかな)
先程も言ったが、彩葉は常に気を張っているようで、学校では怖いくらいにミスなし。僕は行ってないから噂程度だけど、バイト先でも後輩のミスをフォローしつつこれまた自身はミスなしの完璧っぷり。
だからこそ少しでも気を抜ける場を作ろうと、こうして途中までの帰り道をお供することで話の機会を設けたり、集合時間は彩葉に支障がない程度に遅れたりしている訳だ。決して遅刻の言い訳ではない。
自分がこのくらいの頃はなにをしていただろうか。
任務?勉強?学友たちとの悪ふざけ?
どれも大切な思い出で、それを否定はしないしできるはずもない。
それでも尚、彩葉の強さは手放しにいいとは思わないものの、それが少し羨ましい。同時に───
(───いやそれは兎も角、次はちゃんと時間合わせるか……)
「あっ、そういえば前から気になってたんだけど」
自分の高専生時代と比較してしまいなんとも言えない気持ちになりつつ、喋りかけてきた彩葉の方に視線を戻す。
「何が?」
「いや、悟のその髪って地毛なのかなって。染めてるようには見えないけど、かといって日本人で白っていうのも珍しいし………ってごめん!何か事情があるのかもしれないのに…忘れて!!」
僕への配慮が欠けていたと思ったのか、即座に発言を撤回する彩葉に「別に気にしてないから大丈夫だよ」と返しつつ、自分の白い髪を見上げる。
事情がない、というわけではない。
おそらく"五条悟"だからこその白い髪と、僕以外に呪力がないとはいえ、無下限呪術の制御において何かと都合が良いため付けているサングラスに隠された青い目……六眼。
その機能はこの世界に来ても尚、問題なく力を発揮していた。
呪力・術式ともに前世出来たことは可能。
呪力の核心は感覚的なものだから記憶がある以上引き継ぎ。
だからこそ反転術式と領域も使えるんだろう。
(まあ、使う機会なんてそうそうないんだけどね)
初めてこの世界で術式を知覚……この場合はしたというよりし直したという方が正しいが、その時からしばらくして気づいてしまった。
この世界に呪霊、ひいては呪力そのものが自身を除いて存在しないことに
はじめは呪力からの脱却かとも思った。
しかし、年代の確認が偶然出来たと思えば時は2013年。
その時点で呪力が完全に存在しないなんてことがあるはずはなく、警戒しつつも2017年12月24日の新宿や2018年10月31日の渋谷に
そもそも夏油傑の呪術テロや五条悟を封印するための襲撃が、当の本人がいないのに行われるのかという話ではあるが、世界の仕組みなど誰にも予想がつかないもの。封印など関係なく敢行されてしまえば、あのレベルの呪霊、取り返しのつかないことになる。
だが結果はご存知の通り。
『──ははっ、なるほどね…』
5歳の肉体。つい最近術式を再び得て反転術式諸々試運転中のこの身体で特級と殺り合うと思うと微かな緊張が走ったが、そんなことは杞憂だった。
それと同時にかつての生徒たちが、あの日空港でようやく痛みを分かち合えた仲間たちがいる可能性が消えたことに、少しの寂しさも覚えたが。
結論を言えば、この世界はあそことは違う全く別の世界だったのだ。
それも、呪霊という敵や呪力を扱う術師がいない。
宿儺との戦い。あの戦いで、自分の奥底に眠る対等な相手との戦いという渇望は満たされた。
しかし結果としてはどうだ?敗北という結末を迎えた僕に待っていたのは、守るべき仲間も、分かち合う者も、向かってくる
あれほど仲間を散らすに至った呪霊がいないというのに、そこに仲間がいないというのも、もはや皮肉にしか聞こえない。
そこから意味もなく力を取り戻し洗練させ、高専卒業後からずっと持たせてきた笑みを崩さぬまま経過した十数年の後、せめて金だけは稼げるようにと入学した高校で───
「あ、五条君、さっきの問題助かった!ありがとう」
───
最初はお互いに真の意味での身の丈をひけらかす様な性格ではなかったからか接点は少なかったが、隣の席でたまに話すを繰り返す内に、彼女が一人暮らしをして学費を一人で稼いで生活しているということを知った。
馬鹿みたいに真面目で、揺るぎない信念を持ってて、でもふっと消えてしまいそうで。
アイツとこいつは違うはずなのに、退屈でつまらない第二の生を、何も考えずただ本のページをめくるように過ごしていた僕の時を動かしたのは、そんな愚かな重ね合わせだった。
(……前世で果たせなかった若人の青春くらい守んなきゃ、夜蛾センに指導されちゃうよね)
───そんな記憶をうっすらと固め直して、少し気まずそうな彩葉への言葉を紡ぐ。
「───この髪は生まれつきだけど、ほんと不思議なもんで、僕は純日本人なのよこれが」
「そうなんだ……それでそのいつも付けてるサングラスは?かなり話してるはずの私ですら外してるの見たことないけど」
「うーん、これに関しては僕の目が特殊でね。環境的に
「そっか……悟はサングラス付けたままの方がいいの?その、ファッション的な問題で」
「ん?難しい質問だけど、まあ仕方がないから付けてるだけで、外せるんだったら外したいかな」
実際、呪力のないこの世界だったら今にだって外せはする。けど無下限オートの制御的にも外すとコントロールがむずい……ってよりかは、もう目を隠してきた期間数十年。
こっちの方が周りの呪力
そんな会話を繰り返す内に、彩葉の住むアパートが見えて来たため、会話を切り上げ別れた。
(彩葉はこれからバイトとか言ってたし、僕も帰ってSETSUNAでもしようかな)
前世の僕なら金銭面の支援なんてお手の物だったけど、1年前まで最低限生きればいいや程度しか考えていなかった僕にそんなお金があるはずもなく、ライバーとして活動して学費と生活費を稼いでいる。
悲しいことに、家族も転生してすぐの頃は別として今はいない+呪術師と教師(成人しないとなれない)としての生き方しか知らない僕にとって、ひとりで生きることはかなりハード。
生計の元であるツクヨミに密かな感謝を告げながら、僕は帰路に着いた。
五条悟が、彩葉からゲーミング電柱についての報告を受け呪霊の存在を疑い始めるまで、あと数時間。
確認はしましたが、睡魔と戦いながらそれも小説1日目の素人が書いたので誤字脱字などありましたらご報告していただけると嬉しいです…
重ねて、評価・感想頂けると嬉しいです!(ストックはないのでモチベが上がれば早く投稿できると思います{早ければ明日})