話の都合上挟み込めなかったのですが、展開を組み立てる上で重要すぎる要素があるので、今回は後書きまで読んでくださると非常に分かりやすくなると思います。
リアルの方が忙しいため、次の投稿まで数日空きます。
そこからは、地獄だった。
どんな精神状態かも分からぬ彩葉からの歌、在りし日の『Reply』そのものだったそれのフルコーラスを聞き、かぐやは五条悟の救助と彩葉との再会という一縷の希望を持って、時間遡行に挑戦する。
しかし、結果は変わらない。
8000年前の地球に不時着したかぐやは、肉体を失い、ウミウシの状態で、人間の美しさと醜さ、そして無限とも思わしきほどの孤独を味わうこととなった。
『
『逢い見ての、のちの心にくらぶれば』
『会いたいものがいるのだろう?』
『ムカつくからさ、辛くても、笑うんだよ』
『君の活躍する時代を、俺も見てみたかった』
『私には、ここなの』
『極上のワインは、時間が経つほど深まる。悪いことばかりじゃないさ』
毎日のように戦が渦巻き、その影響を受けずとも、せいぜい五十年かそこらで亡くなっていく知人たち。
『彩葉っ……』
『彩葉っ……!!』
『彩葉、悟、芦花・真実・帝……彩葉、悟、芦花、真実……あれ?彩葉、悟、ろ…おっかしいな、えっと……えっと……』
それでも、心の中に残る最高のパーティーの記憶だけは忘れまいと、大切な歌を歌い続け、嘆き、足掻き続ける。
───そんな、苦しい記憶だった。
そして、時代は現代。2030年、あの日の会話へと移る。
『そっか、悟も元々ここにいた訳じゃないんだ』
『転生ってやつ?貴重な体験だけど、積極的に受けるもんじゃないね』
『それであのサングラスつけてても見えてたの?』
ヤチヨの頭に過ぎったのは、かぐやの時に五条悟に貸してもらったあのサングラス。真っ黒で何も見えず、『なにこれつまんな〜い』と言った記憶が想起される。
『そ。僕の目はさっき話した呪術師においても特異な"六眼"ってやつでね〜。通常の目と同じ、光とかの反射で視界を認識する働きに加えて、負の感情…それが捻出されたエネルギーである呪力を視覚化出来んの。でもこれがマジで不便。普通に映る視界に加えて呪力まで視覚化されるんだから、こっちからしたら景色が二重に見えんの』
人間は外界から得る情報を視覚から8割、聴覚が1割というような配分で処理している。
視界が二倍になるだけで、どれほどの負担が増えるか、想像することが難儀でも、納得するのは容易だった。
『でも、この世界には呪力はないんでしょ?』
だからこそ思い浮かんだ疑問をヤチヨはぶつけた。
呪力がない世界であれば、視界が二重にならない。そのため、サングラスを着ける意味がないのではないかと。
『うん。だからここには呪霊も呪詛師もいない。僕は呪術師だから、呪霊が生まれる心配もない。僕が死後呪いに転ずることを除いてだけど、そっちは対策済みだから問題ないかな』
『対策って?』
『簡単。僕が死ぬ要因が呪力関連によるものなら、呪霊は生まれない。だから──『やめてよ?』』
『もう、いなくならないでよ……』
ヤチヨの脳裏に俯いて動かない悟が甦る。
『……ごめん、これは最初から決まってることなんだ』
『なんで……あれは?反転術式は!?』
さっきまで諦めるなと言っていた男から発せられる言葉とは思えないほど、はっきりと断定されたその事実を、五条悟は告げる。
ヤチヨは先ほど教授してもらった知識の中から使えそうな情報を捻り出すが、五条悟の反応は芳しいものではなかった。
『あれでも無理。これは僕がこの世界で六眼・術式を使うために結んだ縛り……言わば利害による誓約ってとこかな。今回のは僕が得られる利点が多いだけあって、対価もまた大きくなった』
五条悟による説明が行われる。
呪力のない世界で六眼を使えるようにするために、自身の周囲に呪力を薄く広げることで効力を持たせていること。
散布した呪力から離れ、自己補完の外で本来この世界に生まれないはずだった呪霊が生まれてしまうというリスクを無くすため、広げた呪力の効果を一般人が受けないようにし、一定の範囲外(五条悟の場合自己補完が可能な東京都相当の範囲)より外に出た呪力は自動消滅するようにしていること。
その対価として、年月を重ねるにつれ身体に見えない負債が溜まるということ。
術式の知覚と違い呪力単体での問題だったため、五歳より前の時期に縛りを結んだことを。
『見えない負債って、まさか……』
『……ま、有り体に言えば寿命かな』
普段おちゃらけている五条悟も、この時ばかりは真剣な様子でやり取りを進めた。
境遇が似ているからか、罪悪感か、はたまたその両方か。
『……どのくらい、削れてるの?』
本当ならば大声で泣き叫びたかったヤチヨは、8000年の影響からか、涙を流すことはせず、努めて冷静に言葉を紡いだ。
『こればっかりは感覚の話だけど、あと一年持つかどうか、ってとこだと思う。再三言っとくけど、多分ね』
『……16歳なんでしょ、まだ?』
『だから言ったでしょ……って別に言ってはなかったけど、16年の休暇みたいなもんなんだよね〜。それで……』
『……』
『……前兆は現れてる。この前も、オートの無下限を展開してるだけで鼻血が出たし』
ただでさえ閑散としたヤチヨの私室に、珍しくも空回りした悟によって、更に重苦しさが加えられる。
普段空気を晴らす役回りを担っているはずの二人が、今だけは曇っていた。
『……でもさ、要はそいつらにかぐやが連れ去られるから、前の僕は戦ったんだよね?』
『……うん』
『なら、この縛りはあった方が好都合だ。前の僕がどうしたか知らないけど、前回負けたんなら、今回この縛りなしでそいつらに勝つのは難しいでしょ?』
『……本当に、勝てるの?』
その言葉には、様々な想いが詰め込まれている。
ヤチヨがかぐやであった以上、前回の五条悟がこの縛りを課していたのかは分からない。
大きすぎる不安要素。把握している敵軍の規模。
本来ならばそれを知っていて尚挑もうとすること自体、愚行としか言いようがない。
それでも、先程までとは打って変わり、自信に満ち溢れた表情を浮かべる五条悟は、迷わずこう返した。
『───勝つさ』
「「彩葉、彩……」」
頭の外から声が聞こえた。
誰だろう、この感じ、私と……
「「彩葉!!」」
「……!」
違う、この声は私じゃない。
瞼を開くと、そこにはかぐやとヤチヨがいた。
「ヤチヨ、かぐや……」
「「よ、良かった〜」」
元は同じかぐや、息がピッタリだ。
それにしても、さすがは元月の住人。この様子だと、かぐやは平気らしい。私も無事だったのは、ヤチヨのサポートがあったからだろうか。
「かぐや……」
二人を抱き締める。抱きしめられずにはいられなかった。
かぐやが居てくれるから、気持ちを落ち着かせることが出来る。
ヤチヨが居てくれるから、私は私でいられた。
「ヤチヨ、ごめんね、ずっと気づいてあげられなくて」
「彩葉……」
「かぐや、ありがとう…かぐやが居たから、私は変われた」
「彩葉……」
─────だからこそ、だ。
「ヤチヨ、かぐや……私、まだこのお話を、終わりにしたくない」
「「……」」
これからすること、できることは、ヤチヨが教えてくれた。
ごめん、悟。ハッピーエンドにするために、我儘にならせてもらうから。
「ヤチヨ、悟の記憶を解析することって、できる?」
「FUSHIならできる、けど……」
分かってる。許可なしで人の記憶を盗み見るだなんて、誰だって嫌なことだ。
でも、この先もしも、もしも悟が戻ってきたとして、悟はきっと、私たちと距離を置いて過ごそうとする。
それに───
『そうなんだ……それでそのいつも付けてるサングラスは?かなり話してるはずの私ですら外してるの見たことないけど』
『うーん、これに関しては僕の目が特殊でね。環境的に
『そっか……悟はサングラス付けたままの方がいいの?その、ファッション的な問題で』
『ん?難しい質問だけど、まあ仕方がないから付けてるだけで、外せるんだったら外したいかな』
あの時の、貼り付けたような笑みが一瞬だけ外れた、悟の思い詰めたような顔。私はそれを見てしまったから。
嫌。ただそれだけの単純な想い。
でも────
「勝手にいなくなって、ハッピーエンドになれだなんて。そんな我儘には、こっちも我儘で返させてもらう」
だから───
「ヤチヨ、お願い」
「ヤチヨ!みんなでハッピーエンド行くんでしょ?お願い!」
ヤチヨなら、ツクヨミにログインした形跡のある人の記憶を解析することが出来る。
ハッピーエンドを掴み取るため、かぐやと一緒に、ヤチヨに頼み込んだ。
「……分かった。悟が帰ってきたら、みんなで怒られよっ…!」
「今回だけだ!」
「ヤチヨ、FUSHI……ありがとう」
そのヤチヨに、少しだけ、かぐやの面影を見た気がした。
そうして私たち全員の頭に流れ込んできた、悟の記憶。
始まりは、古風と豪華が重なったような、不思議な屋敷だった。
ヤチヨの記憶にも話で出てきた、悟の前世なのだろう。
『いいかい、悟。呪術師は、非術師を守るためにある』
『それ正論?俺正論嫌いなんだよね』
(この人は、悟の友達?)
私の知っている悟とまるで違う口調に驚きつつも、それを諭す男に目が行く。
『
『外で話そうか、悟』
どことなく、今の悟の言いそうなことを、夏油?さんの方から感じる。
普段の彼からは考えられない喧嘩腰のスタンスは、今と真逆のように思えた。
『君になら出来るだろ、悟』
『君は五条悟だから最強なのか、最強だから五条悟なのか』
呪いのような言葉が、
一瞬自認が持っていかれそうになったのは、それだけ悟の中で強い出来事だったからだろう。
この三年間を追うように体験したことで、悟の苦しみが直に伝わる。
『悟、一人称俺、はやめた方がいい。私…最低でも僕にしな。年下にも怖がられにくい』
『───強くなってよ、僕に置いていかれないくらい』
そうか、きっと………
『信用か……まだ私に、そんなものを残していたのか……』
『ただこの世界では、私は心の底から笑えなかった』
『■■■■■■■■』
『最期くらい、呪いの言葉を吐けよ……』
だから悟は……
『だから僕は、教育を選んだんだ。強く聡い仲間を、育てることを……』
『俺の魂がそれを否定してんだよ!!さっさと答えろ、お前は誰だ!!』
『俺はあの時、置いていかれたんだから』
『これが僕の妄想じゃないことを祈るよ』
いつもあんなに楽しそうに……
『どうでもいい、誰もいないこんな世界、もう、どうでもいいんだ……』
「悟っ………!!!」
『彩葉とかぐや、二人で最強でしょ?』
『ありがとう、みんな……』
─────笑ってたんだ。
彩葉から悟に対する想いを溢れさせる今回の為に取っておいたタイトル(1話の要素を半分回収出来て嬉しい)
1:何故前回は六眼無しなのか。そして今回は五条に六眼があったのか
→六眼・天元・星漿体の因果は破壊されているので前回(五条悟介入初回)では六眼無しでした。
しかし、呪力・六眼無しの不完全無下限はあったので、月人戦敗北直前に、前回の五条悟(以後前五条)本人が縛りで天元・星漿体・六眼の因果を手本として、六眼・彩葉の因果を創りました。(対価は呪力全て。縛りを確実に結ぶために、ヤチヨやかぐやを省き、彩葉との二者間(パッと見だと、全員で逢えないかもしれないリスクを背負ったように見える)に指定しています。彩葉と逢えれば輪廻の力によってかぐやとも逢えますからその穴は突いてますが)
ヤチヨからの情報で輪廻があることを前五条は知っていたので、次回に賭けたのですが、世界の修正力と創った因果が混ざり合い、前五条の記憶は失われて今の五条になっています。
2:悟が月人戦後倒れた理由
五条は月人戦前に、自身が月人に勝った場合に限り、残り三ヶ月の寿命を捧げる代わりに、今後一切かぐやの存在を地球に固定及び月人の干渉を封じ、彼の呪力がなくなるまで、遺体を当時のまま固定するという縛りを結んでいます。
←決着前という不確定な状況・勝った場合のみでしかメリットが働かない・結果がどうなろうと残った数ヶ月の寿命は絶対捧げる(五条悟が死亡判定にならなければならない)という"デメリット"を負うことで月人側の了承を取らずに縛りを結ぶことに成功しています。
前回は敗北してしまったので寿命が吸われただけに終わってしまいました。
他者との縛りは自分が自身に課す縛りとは訳が違うと原作で明言されており、更に今回は相手方の了承無視で縛りを結ばせるので、なるべく五条からの対価を大きくし、色んな言葉の綾を利用させました。宿儺の契闊戦法があったり、万が死と引き換えに特急呪具を生み出していたので五条ならこれくらいなら行けるでしょう精神です。(文言上はかぐやだけですが、かぐや=ヤチヨなので、対価を増やさずヤチヨも固定することに成功しているなど)
3:寿命を削られることを天秤にかけた上で、縛りを結んでいた理由(術式行使のための縛り)
彩葉と出会うまでの悟は、誰もいないこの人生マジでどうでもいいんだよね〜のスタンスだったことと、その時点の悟なら、宿儺でもない有象無象に殺されるくらいならテキトーに死ぬ方がマシだとか思ってそうだなーということから行けるでしょ。となりました。
結構ゴリ押し設定多めですがご了承ください。
ヤチヨとのやり取りで悟らしからぬ空回りをわざわざさせたのは、シンプルにヤチヨとか悟と地味に似た境遇の相手に対して、悟って焦りそうという作者の個人的見解です。