これは、みんなでツクる御伽噺。
真に諦めなかった者たちの、廻る
「「────ッッ!!??」」
言葉が出ない。
意識が浮上し、再び大空の下、地平線まで広がる水面の上に戻ってきた時には、私たちは全員、失っていたのかと錯覚する程の息をすることで精一杯な状態になっていた。
ヤチヨも、かぐやも、私も。
8000年の記憶を追った後だというのに、44年と少しの記憶でここまで削れるだなんて。
ヤチヨの過去にも戦乱や出会いと別れ。様々な苦難があった。
だからおそらく、悟の過去というより、人知を超えた
記憶を見ている以上、六眼がある状態での感覚だったのだろうが、それを差し引いても凄まじい。
あの力をものにするために、どれだけの苦労をしたのかを知り、どれだけの期待と畏怖を背負って戦い、どれだけの呪いに浸されてきたのかを体感して、無事で済むはずがなかった。
「ヤチヨ、かぐや、大丈夫?」
「も、もちろんかぐやは大丈夫!」
「うん、でも彩葉は……」
「私は何とか……」
かぐやが少々ダメそうな笑顔で、ヤチヨがこちらを慮って返事をする。
実際のところ、私と違って二人は情報処理能力に長けた存在ということもあって、戦闘の速度や呪力の感覚には耐え切れるのだろう。どちらかというと、過去の重みに滅入ってしまっている様子。
三人で抱きしめ合い、現実を受け入れるために、心を落ち着かせるために、互いの存在を確かめていく。
大丈夫。ここで目を背けてしまえば、それこそ悟に対する冒涜となる。
そう思った瞬間、自分への怒りにも似た感情が沸いてきた。
悟のことを半分も、いや、一ミリ程度しか知らなかったくせに、何が隣を歩くだ。
悔しい。貴方の傍にいてあげられなかったことが。
悔しい。傍にいなかったとしても、悟の信頼を、悟にとって悩みを打ち明けられる存在になれなかったことが。
部外者のくせに、その心の奥底を無理やり照らそうとするのは、傲慢だろうか。
そんな思考がぐるぐると頭の中を駆け巡る。
「ごめん、ごめんっ、悟……!」
ふと、隣のかぐやがそう呟く。堪えきれずに、涙を流しながら。
「ごめんっ、ハッピーエンドとか、そんなこと、簡単にっ……!」
「……大丈夫」
そう言って泣き崩れるかぐやを抱きしめる。
かぐやは、自分が軽々しくハッピーエンドに行けると悟に言い続けたことを後悔しているのだろう。
私が言ったところで、かぐやは何も救われない。
でも、悟の記憶を見たから分かる。
「きっと悟は、かぐやのその明るくてまっすぐなところに救われてたはず」
幾ら記憶を見たからと言って悟本人からの言葉ではないこれが、かぐやにとってどう受け取られるかは分からない。
でも少なくとも私は───
「────私は、かぐや。貴女にも貰いすぎなくらい、救われたんだよ?」
「……!」
「ヤチヨもそう。あの曲で、私は生き残れた。貰いすぎなくらい、救われてる」
「……!」
「私はかぐやも、ヤチヨも、悟も、みんな大好きだからっ…!かぐやともっと色んなものを見たい!ヤチヨと8000年分を取り戻したい!悟の隣に立ちたい!」
「彩葉……」
自分の願望を吐露しているだけなのに、いつの間にか涙が溢れていた。
ヤチヨが思わずと言った様子で、こちらを見て呟く。
でも、これが本心だ。
生まれて初めての、心の底からの願望。
生まれて初めての、自分の本当の気持ち。
かぐやはヤチヨだし、ヤチヨはかぐや。それに間違いはなくても、8000年過ごした時間は、全部本物。
悟の過去も同じ。全部紛れもない本物。
だから、それを蔑ろになんてしない。
「かぐやも、ヤチヨも、悟も。誰一人欠けない最高のハッピーエンド。全部受け止めて、連れてって魅せるから!!二人とも、付き合ってよね!!」
宣言すると、二人がハッとしたように、こちらを見上げる。
全員ハッピーエンドまで連れていく。その方法は、悟の記憶が教えてくれた。
『祈本里香ほどの大きな呪いを祓うのはほぼ不可能。だが、"解く"となれば話は別だ。何千何万もの呪力の結び目を読み、
『呪いをかけた側が主従制約を破棄したんだ。かけられた側が
「私、やりたいことが出来た!だから!」
未だ呆けている2人に、手を差し伸べる。
こんなところで、立ち止まってられない。
二人がいれば、きっと、なんだって出来る。そんなありきたりで単純で、でも一番大切なこと。
貴方と、貴女たちから教わったこと。
『これは持論だけどね、愛ほど歪んだ呪いはないよ』
かぐや姫に並ぶ
五条悟が結んだ縛りは大きく分けて二つ。
1:六眼による術式の使用を可能にするためのもの(対価:五条悟の寿命)
2:かぐや及びヤチヨの存在を地球に固定し、月人の干渉を封じる。五条の遺体を当時のまま固定するというもの(対価:残された寿命を捧げるものと、勝利のみメリットが発動し、勝敗に関わらず五条悟の寿命は無くなるというもの)
1の縛りは、五条悟が死亡した(対価を払い切った)ため既に完遂されている。
六眼は正常に作動し続け、五条悟の死後も呪力が周囲に散布され、散布した呪力は一定時間が経過した後消去されている。
2の縛りは、未だ健在だ。
存在固定と干渉封じに関しては、対価を支払い切ったため別だが、最後の項目。遺体の固定。これは五条の六眼により最適化された呪力効率が影響し、未だに作用し続けている。
酒寄彩葉はこれをチャンスと捉えた。
「────つまり、遺体固定は悟にとって本来メリットにならないはずなの」
「「…?」」
タブレット越しのヤチヨをはじめとし、かぐや・芦花・真実、ブラックオニキスの面々や酒寄紅葉を交えた会議室にて、酒寄彩葉が説明を始める。
経緯については現在省略させて頂くとして、酒寄紅葉は呪術などわけのわからない話を信じようとはしなかったものの、今は呆れながらも協力の姿勢を見せている。
「分からん話でもあらへん。縛りは対価が釣り合わんと成立せんのやろ?デメリットを増やしてでも勝利に繋がる要素を捨てるんは、得策とは言えへん」
「お母さんの言う通り。それに、悟は卒業ライブの後始末までしっかり考えたような消え方をした。家が綺麗に片付けられていたのが良い例……絶対悟の遺体は何処かにあって、そうしたい理由があるはず」
「「……」」
彩葉と紅葉の高次元な話し合いに、他のメンバーは黙るしか無かった。
理解こそできているが、そこに二人の思い付いていないような核心を突くアイデアを打ち込める気がしないのだ。
何より、呪術について記憶を辿らずに学習し、その仕組みの応用案すら提示し始める紅葉に、面々は酒寄の恐ろしさを垣間見た。
「悟の遺体を確保したとして、次にしなくちゃいけないのは2の解呪。これには悟の呪力を一回でも0にする必要があります」
「でも、五条くんには六眼?があるんだよね?」
せめて話には着いて行けるように、芦花が確認の意味を込めた質問をする。
「うん。呪力が自然回復する速度を上回る。それを前提条件として、呪いを解呪できるのは本人だけってことも念頭に入れるとなると、悟の呪力が必須になる。私たちには呪力なんてないし」
「それで、人間の感情を読み取るふじゅ〜のシステムを活用するんやな。あれは、人の感情をスマートコンタクトで読み取るんやろ?」
「そういうこと。ヤチヨ、ツクヨミに悟がふじゅ〜を使った履歴が残ってるよね?」
「うん、残ってるよ〜」
唯一話に入ることの出来るヤチヨがタブレットの中で頷く。
「そこから無理やりにでも悟本人の負の感情……呪力を抽出して、それを制御する機構を作る」
『祈本里香ほどの大きな呪いを祓うのはほぼ不可能。だが、"解く"となれば話は別だ。何千何万もの呪力の結び目を読み、
彩葉の頭の中に、再び浮かび上がる五条悟の記憶。
「遺体の固定は本来、本人である悟にしか解呪出来ないけど、ツクヨミの履歴から抽出する悟本人の
「悟の呪力を0にするっていうのは?人間から呪力を完全に無くすのは不可能なんじゃ……」
「そう。呪力は術師本人をよく巡る。人間の肉体の中に巣食う呪力を吸収する何かがあれば楽なんだけど、そんな都合のいいものがあったら、悟の世界で呪霊は生まれてないはずだし」
五条悟の遺体固定を解除するには、五条悟の呪力を一瞬でも0にすればいい。
ただ、データとして残っている、ツクヨミにおける五条悟の
六眼持ちの五条悟ならば尚のことだ。
───だがそれも、本来ならばの話。
「でも今の悟は、呪力が術師本人の中でよく巡るはずなのに、1の縛りで呪力が悟以外の周囲に散布してる、言わば
大雑把に言ってしまえば、2の縛りを解くために、1の縛りを利用してしまおうという案だった。
何処かの世界の特級呪術師、九十九由基の話にもあったように、術師の呪力は本人の中をよく巡る。
だから本来、術師から呪力を脱却する技術があったとしても、それを使用することは脳に影響が出ることもあるというリスクを背負うことになる。
『使用禁止ではなく"剥奪"だから"縛り"でもない。となると脳に無理矢理何かしら作用するわけだからルール的にも剥奪されたら死ぬと思うよ』
術式が剥奪された際を想定した、家入硝子の仮説がここで活きた。
『ん〜そうだね…呪力を電気、術式を家電に例えようか。電気だけじゃ、ちょっと使い勝手悪いでしょ?だから家電に電気を通して、様々な効果を得るわけ』
家入硝子の仮説はあくまでも死滅回游による術式剥奪の場合を想定したものだが、呪力を電気のように利用し術式を行使するならば、呪力の暴走が術式に影響する可能性も高い。
酒寄彩葉はそう判断し、五条悟の体内から強引に呪力を脱却させる手段を捨てた。
『でも今の悟は、呪力が術師本人の中でよく巡るはずなのに、1の縛りで呪力が悟以外の周囲に散布してる、言わば
────しかし今回の五条悟は、1の縛りによって自らの呪力が周囲に散布され、呪霊が生まれぬようにそれを時間経過で消滅させる仕組みを確立していた。
縛りという呪術において唯一例外を赦す力と、五条悟にのみ許された特異体質"六眼"があったからこその
この二つが揃っている今、周囲の呪力をイレギュラーな速度で消費させることが出来れば、縛りの影響により五条悟の肉体からは自動で呪力が散布され、相対的に五条悟の呪力を意図的に削ることが出来る。
呪いの解呪が本人でしか出来ないという点も、ツクヨミ内に残された呪力の
目的の為の過程に、幾つもの偉業達成が求められるという高すぎる難易度。机上の空論だと一蹴されるようなことを、酒寄彩葉は、成そうとしていた。
日本の首都にしては珍しい、森が茂る山のような都内某所にて。
「───────やっと、見つけた……」
きっと。ここにいるんじゃないかって、思ってた。
私が弱いから、どうしてもあと一歩が踏み出せなかった。
でも、やっと貴方の顔が見れた。
たった5年。されど5年。
随分遠回りしてしまったけれど。
「……ッ………………………………」
ポチャンっ………
少女……今は所長となった者の涙が、無限に膨張する銀河の星の粒のように、指の隙間を零れた。
「……う、んっ……?」
長い眠りについていたような気がする。
いや、というより、さっきまでここではない
何故俺は……僕は生きている?
「久しぶり、悟」
目の前には、黒髪ショートの女性。
恐らく成人している何処かの研究者といったところ────
「──────ッ!?」
そこまで思考を整理して、ようやく気づいた。
「……今は何年?」
「随分冷静なことで。私からしたら10年越しの再会なんですけど?問題児サン?」
「それを言われると何とも……」
その言葉で、研究者……彩葉の怒りを察する。
周りを見てみれば、懐かし……くはないが、かぐやにヤチヨもいた。
かぐやは兎も角、ヤチヨが何故現実にいるのかはこの際置いておく。
肉体は……ちゃんとあの頃から変わらない僕自身のものだし、術式もこの感じだと問題ない。
「でも、そうか……どうやったか知らないけど、かぐやは助かったのか」
「……うん。でも、それで終わりにするほど、アンタが置いてこうとした
「ハハッ、これは手厳しいことd「でも」……?」
「良かった……!」
「………」
その言葉だけで、何故か負けたような気がした。
負けを認めるなんて性にあわない。
そんな僕が、あっさりと。
( 若人のハッピーエンドを守り
ヤチヨがいなかったら、僕は本来の力を発揮出来なかった。
かぐやがいなかったら、僕はあの時負けていたかもしれない。
彩葉がいなかったら、あの戦いも、この今もなかった。
「ふふっ、私もう同い年だし、悟に追いついちゃったかもよ?」
「なーに言っちゃってんの〜?僕の方が16年上だしぃ?」
「そんなこと言ったら、ヤッチョは8000年分の知識と経験が〜」
「つまりこのか・ぐ・やちゃんが一番若々しいということで♪」
「「ん??」」
昔のような、いや、昔でも描けなかったような茶番を終える。
ケタケタと笑い合う声が、研究室に満ち満ちた装置の騒動音に混ざった。
「じゃあさ、悟」
「?」
気を取り直して。と言わんばかりに咳払いをした後に、彩葉が話しかけてきた。
「忘れたとは言わせないから」
「ん?」
起き上がり研究室の扉を開くと、そこにはいつの間にか移動していたかぐやとヤチヨが大きめの机を囲むように待機しており、その上には……
「あー、なるほどね」
「フッフッフ、天才歌姫かぐやの力作をご覧あれ!!」
「ヤッチョだって負けてないよ〜?」
「全員揃ったということで。じゃあ、悟──────
──────パンケーキ食べよ!!」
何故だろう。一歩踏み出したその時の背中が、やけにヒリついてあたたかかった。
めでたしめでたし
ついにここまで書ききりました〜!!!
最後何故背中があたたかく感じたのか?さあ、なんででしょう?最強の片割れとその間に挟まれる
設定が複雑すぎましたが、何とか着いて来れましたでしょうか?
一応最後目覚めた悟は機械のではなく人間の肉体です。
研究室が必要だったのは呪力関連の機構とヤチヨのボディー製作のためですね。
ここからは蛇足〜!を書こうとは思っているのですが、IF的なやつと後日談(蛇足〜!)はどっちの方が先に書いてほしいのでしょうか?アンケート置いたので是非!
感想いただけると嬉しいです!!ここまで読んで下さりありがとうございました!!
今後の蛇足〜!の優先順位希望
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IF√的なもの
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後日談的なもの