「うん、いけるね」
目の前の対戦相手をいなしながらそう呟く。
現在僕は帰宅後、軽く食事をしてからツクヨミに留まらず世界レベルにまで人気を轟かせているフルダイブ型アクションゲーム『KASSEN』の対戦モードの1つ、格闘ゲーム『SETSUNA』をプレイしていた。
1対1で戦い、相手の体力ゲージをゼロにした方が勝ちというシンプルめのルール。
僕が生きた2018年より少し先の2030年ということもあり、そのデバイスはなんとコンタクト型。
今のように家ではサングラスを外しているとはいえ、普段外で暇を潰す時はコンタクトの上にサングラスを掛けているということになるが、さすが僕、それでもナイスガイなんだから困っちゃうよね!
どこかからか『コンタクトなんだから当たり前でしょ、サングラス付けてたら見えないから尚更意味ないし』という声が聞こえてきそうだが気にしない。
もしそうなったら僕は、ナイスガイなことは否定しないんだって
「こんのぉっ!!ぼっーとして舐めプか?何であたらないんだよ!!」
そんなことを考えている間でも、オンラインで偶々マッチングした対戦相手は激しい攻撃を繰り出す。
武器である大剣を振り回し僕に命中させてくるが、僕の体力ゲージに動きはない。
「ハハッ!実際当たってないんだからしょうがなくなーい?それに───」
「ッ!?」
相手の攻撃が途切れた瞬間に間合いを一気に詰める。
武器なし徒手空拳、一見舐めプをしているようにしか思えない僕のありえない速度に焦っているようだが、もう遅い。
「───自分の攻撃くらいしっかり調節しなきゃ、足元すくわれるよ?」
大技を連続で発動し隙だらけ。
加えて相手の武器は、威力こそ高いが重く使い手の腕により実力が大きく変動する大剣。
そんなやつが少しも体力を削れていない相手に大技なんて連発しようものなら、カウンターに対応できるはずもない。
(無下限を解除して呪力を身体強化に全振りして……)
僕はそのまま呪力を帯びさせた拳をヒットさせ、すかさずインファイトを仕掛ける。
武器もないんだしこれくらい許されるよねという言い訳の元繰り出される連続攻撃に相手は全く対処出来ず、数秒前まで両者MAXだった体力ゲージの差は歴然となり、僕は勝利を収めた。
『KO!!』
(……うーん。やっぱり無下限の常時展開はまだキツイけど、前やってたマニュアル式の運用ならいけるね)
リザルト画面を閉じてツクヨミからログアウトする。
ツクヨミがリリースされてから、ここでも無下限呪術を使用出来ないかと色々試しているが、経過はぼちぼち。
現実の肉体で呪力を帯びさせ、今世も変わることなく刻まれた術式に流し込む。それを六眼に装着したスマコンに使用することで、ツクヨミ内での無下限呪術の使用を可能にしたまでは良かったが、管理人というわけでもない僕が電子の操作に手を出すというのはまあ難しい。
お金稼ぎとして行っている配信では、魔術職(近接無理とは言ってない)として通しているし、運営にバレていないから活動を続けられているんだろうけど、無下限呪術をこの程度の運用しかできない自分に満足は出来ない。
(蒼の再現まではかなり近い。あれは周りの電子を1ピクセルに収束させればいいから、後は暴発させないようにするだけ。……となると問題なのはやっぱり、反転術式のツクヨミ運用と領域かな)
蒼による強化打撃と長距離の瞬間移動に関しても、現実と違って蒼が可能なら先にできるだろう。
けど、ツクヨミにおける反転術式。これは話が全く変わってくる。
現実の僕は順転・反転・領域それらの応用含め問題なく使えるため、電子の操作で脳が焼き切れたりなんてことはないが、電子の世界において元々あったものを再び創り出すというのは難易度がレベチだ。
完璧に再現して再生。言うは易し、だがこれを自己補完の範疇で操作するというのは神業に近い。
領域も同様に、電子の世界で0から1を独自に創り出さなければならない。
「……ま、とりあえずは無下限のオート運用と蒼の再現が先だね」
先の見えない長い道のりに独り愚痴りながらも、スマコンを外し寝る準備を進めようと立ち上がった───
ピコンッ
「ん?ツクヨミのDM?珍しいな」
───その時だった。
『なんか今とんでもないことが起きてるんだけど、少し通話出来ない?』
(彩葉から?文にもあの子らしからぬ焦りが見えるし、ここはくどい絡み無しで出た方がいいかな)
それができるなら普段からそうしろというものだが、何しろこの男、受け持ちの生徒が死にかけている異常時ですら、お土産を買うという過程を通して来るような男である。
しかし、これが高専を卒業して10年と、今世十数年貫き続けた"五条悟"という生き物のため、簡単に治すことは不可能であった。
『分かった。今かけても問題ないよ』
そう送り返すと、直ぐに着信音がなり始めたので、そのまま着信ボタンを押し、通話を開始する。
『もしもし、聞こえる?』
『うん、聞こえるよ。それにしてもどうしたの?彩葉が電話かけてくるなんて珍しいね?』
『そ、そのですね…言っても意味わかんないと思うし、私が今思い返しても意味わかんないんだけど……』
『いいよ、彩葉は独りで考え過ぎるところがあるからねー。僕としては、言って貰えた方が嬉しいけど?』
(この子はイカれてるようでイカれてない。呪術師基準で語るのは酷ってもんだけど、どれだけ頭が良くて、どれだけ他人から見た彼女が出来た人間でも、その根底にあるのは多感な時期の女子高生。少しくらい慕う存在と別に寄り添う存在が必要だ……そこに気づける僕ってば、やっぱりGLG!)
───最後の一言が余計だということに彼が気づいているのかは、誰にも分からない。
『───それで、その、帰り道の電柱が七色に輝いてて、そこから赤ちゃんが出てきた…ってごめん。やっぱ意味わかんないよね』
『それマジ?とりあえず待ってて、今からそっち行くから』
『え!?いや、分かった、家空けとく』
私がそう言うと、電話は切れた。
歳の揃った異性を家に、それもこの夜にあげるのは一体どういう状況なのか、とは思うが、それ以上に摩訶不思議な
なんとかヤチヨパワーで泣き止ませたはいいものの、本当にどうすればいいのだろうか。
───助けて?そないなこと気軽に言えるのが私の娘やなんて、ほんま驚きやわ。この世で頼れるんは自分一人言うたよな?もう忘れてしもうたん?せやったら──
心の中で響くイマジナリーマザーからのそんな指摘をこの状況が上回ったため、何とか悟に連絡したが、後から思わず頼ってしまったという罪悪感が湧いてくる。
(まあとりあえず、この子に布団かけて鍵を開けよう)
そう考えを軽く纏めて立ち上がった……のだが。
「彩葉、着いたよー」
「え!早っ!?」
途中までは同じ道とはいえ、悟の家の位置的にここから15分は歩くはず。
こっちは数十秒考え込んでから立っただけで、まだ扉の鍵すら開けていないというのに。
(……やっぱ、過労による夢でも見てんのかな?)
そんなことを考えながら開けた扉の先にいるのはサングラスをかけ夜に女子高生の家を訪ねてくる不審者……ではなく、同級生の五条悟。
待ち合わせに10分程度遅れるのは当たり前、先生に怒られても二つ返事のみ。軽薄な笑みを浮かべ飄々とした態度を常に取るこの男は、学校では問題児の枠に認定されている。
そのような噂を聞いて私が自分から近づくはずもなく、芦花や真実と平穏な学校生活を送ると思っていたのも束の間。
高校生に留まらず学校ならば多数の人が待ちに待つ席替えにて、私は彼の隣の席を引いてしまったのだ。
(うぅ……噂通りなら心労が更に増えることに?)
しかしそんな不安は杞憂で、彼が声をかけてくることは思いのほか少なく、クラスメイト同士の事務的な会話をするだけ。
気づけば彼の楽観的で軽いところが私の心に残った警戒を薄め、1年以上経った今では、気楽に接することのできる友人となっていた。
だからといって、普段の失礼極まりない行動は咎めさせて貰うのだけど。
「───それで、その子が彩葉の言ってた?」
この際悟の到着速度については夢かもしれないと気にしないことにして、手早く本題に入る。
「ええ……扉の取っ手が竹模様の七色に光るゲーミング電柱から出てきた赤ちゃん」
「改めて聞くとウケる」
前言撤回。殴ったろうかコイツ。
「殴るよ?人の心労も知らないで…」
「冗談冗談!ほら!友のピンチにこうして馳せ参じたわけだし、これに免じてね?」
「って!……まあ、助かったのは事実だけどさ……」
家に来たのは悟の方からでしょ、と言いそうになったが、来てくれたことで心が軽くなったし、正直に言えば嬉しかったので、口に出すのをやめる。
「ま、とりあえず明日店にでも行って、ある程度面倒見れるようにするための物を買うしかないね。僕も手伝えることはするよ。ここは割り勘で……」
「ちょ、ちょっと待って!確かに相談したのは私だけど、そんなに迷惑かけられないよ!」
下手をすると関係さえ変えかねないお金を出費しようとする悟に、断る旨を伝える。
というかそうじゃないか。
お金まで出すかは別としても、勝手に相談しておいて後から断わろうとするだなんて、よく知った相手からしたら断りずらいに決まってる。
「ごめん、相談しといてだけど、やっぱり私は……」
「大丈夫だよ」
「でも…」
「だから大丈夫だって!自分の行動をよく振り返れるのはいいことだけど、若い内はなんでも重く捉えすぎちゃうでしょ?君みたいなのは特にそうだし、もっと気楽にした方がちょうどいいってもんよ」
「悟……」
母とは正反対のアドバイスに、私の心は揺さぶられる。上京してきた時、母の言葉が悲しくも正しいことに気づいた。
でも、それと真逆を行く悟のアドバイスも、正しいのだろうと実感出来る。
やっぱり、私の周りの人は凄い人ばかりだ。
「──それはそれとして、若い内はって、アンタ何歳よ」
「ピチピチの16歳!!」
「何なのよ……」
私は知らなかった。この数日後、
感想と複数の評価でモチベが爆上がりし書き上げてしまいました……
評価・感想いただけると凄く嬉しいです!!