「───これにより、この助動詞が補助活用ということが分かるので……」
いつもとなんら変わりない授業の時間。
正直、座学の出来る子も多い呪術高専で教鞭を取っていた僕からすれば、学ぶことなど無いに等しいため、ほぼ聞き流しながらここ数日間の出来事を振り返る。
彩葉が拾った、七色に光るゲーミング電柱から生まれた(と推測される)赤ちゃん。
僕もその瞬間に同行していたわけではないため真偽は定かではないが、あの彩葉がそんな荒唐無稽な話を持ちかけてくるとも思えないので信じることにする。
(とはいえ、あの日あの時間帯に呪力の反応は無かった。念の為直接見に行ったけど、あの赤ん坊から呪力は感じられないし、呪術絡みの可能性は低く見て良さそうだね)
この世界に来てから自身を除いて一切観測できていない呪力。
生まれた時から呪術に触れてきた僕からすると、呪霊の存在を疑いたくもなる。
16年も自分以外の呪力を観測しなければ腕が鈍るとも思ったが、これでもかつては日本各地をひとりで飛び回り、現代最強と畏れられた特級呪術師。
(実際のところ力は衰えていないし、この程度の距離感で呪力の探知を怠るなんて考えにくい…何より、僕らしくもないしね。)
あの日宿儺に負けた以上、史上最強だなんて名乗る気もなければ名乗る機会もない。が、だからといってその辺の有象無象に負けるつもりも、下に見られる筋合いもないのだ。
(そんなプライド、この世界じゃ要らないか)
賞金首になり命を常に狙われる───なんて機会はないため、僕も甘くなったもんだなと考えつつも、その思考を捨てる。
この世界で僕を打ち倒せるなんてやつは、ツクヨミユーザーくらいだろう。
事実、『SETSUNA』や『KASSEN』は無敗ではあるものの、名義上アマチュアの僕が『SETSUNA』でプロプレイヤーとして名を馳せているような相手と当たるなんてこともなければ、地味めの徒手空拳のような戦闘スタイルでトップライバーのような人気を取れるはずもないので、本当のレベルで強い相手とは無縁。
『KASSEN』に関しては、蒼を使って注目を集めてしまった場合後が面倒なことこの上ないし、チームプレイが苦手な僕の性に合ってない。
「ま、相手が誰にしろ、負けるつもりもないけど」
「五条!聞いているのか?」
「はい!もちろん聞いてます!」
「…なら、ここの活用は?」
「そこは打消の助動詞「ず」の連体形で、その前は打消によって未然形になったラ行四段でーす」
「…正解だ」
「さっすが僕!聞いてないのに正解出来るなんて困っちゃうよ〜」
何故か疲れたような顔をしている彩葉含めた、周りからのまたやってるよこの人。という顔で見つめられている気がするが、気のせいだろう。決して先生の反応が面白くて煽るような口調で返答しているわけではない。
その後たまに起こる放課後職員室イベ、先生による説教(もとい呆れ)が発生したため、僕の帰りはいつもより少しズレた時間となるのだった。
(今日の指導は短めで助かった…さて、今日も家に帰ったらSETSUNAの通常マッチを───)
ピコンッ
先生からの指導を乗り越え帰路に着こうとした時、ポケットのスマホから通知音が響く。
(あー、最近出来たあそこの新作通知か)
そこに記載されていたのは、最近新しく出来たカフェ、そこでの新作が出来たという情報。
別に全ての通知をONにしているわけではないので、数日前の通知がおすすめとして出てきたのであろうが……
甘党ですら驚くこの僕がそんな情報を手に入れたとなれば。
「そんなの、行くしかない!!」
学校から飛び出した僕は周囲に人がおらず障害物も少ないことを確認し、そのまま瞬間移動。
僕の瞬間移動はこの場から消えてワープ。というわけではなく、物理的には移動しているため、東京では障害物を避けるのに苦労するのだが、それもはるか上空なら解決だ。
それにここはあらゆる物の激戦区東京。最近出来たということもあり、売り切れてしまう可能性もゼロではない。
それに、せっかくのひと時はゆっくり過ごしたい───
(───って、今はそんなに忙しくないんだけどね)
16年という長ーい休暇を貰ってなお、10年間の任務・教師の2段構え業務が相当効いたのか、休憩も大事という感覚がなかなか抜けない。
どれだけ反転術式で体をリセット出来ても、精神的なところまでは回らないからだろう。
その道を後悔したことはないし、あの程度でこの僕が倒れるわけないけど、少し考えさせられることはある。
学生時代、2年半という
(いや、考えるのはよそう。それより目を向けるべきなのは……)
一瞬自身の手で殺めた親友が頭をよぎったが、即座に思考を断ち切る。
一流のGLGは臨機応変に立ち回れるのだ。
視線を移した五条悟とかなり距離のある位置にいるのは、同級生の
(見たことないけど大体彩葉と同じくらいの身長だし、3人の内誰かの友達かな?彩葉じゃないだろうけど)
口に出せば割と失礼なことを最後に付け足しつつ様子を見ると、その少女は3人のところに進み、彩葉の物と思われるパンケーキを口に放り込んだのち、「うんまぁ〜!!」と声高らかに喜ぶ。
その後いくつかのやり取りをしていたが、五条悟の脳内は1つのことで埋め尽くされていた。
(あの子、いい顔してパンケーキを食べるじゃないの!!)
ふざけた口調で少女を褒め称える。
五条悟は甘党。
普段コーヒーに数えきれない量の角砂糖を入れるこの男は、少女に同志の片鱗を見た。
彼に着いていけるほどの甘党など、味覚を疑わざるを得ないほどの物好きなのだが。
「君!もしかして甘いの好き?」
「?」
「悟!?」
「あれ、五条君?」
「五条君お疲れ〜」
席から立ち上がり少女に話しかける五条。
女子高生の集まりにも気負わず、突然現れたこの基本的にはノンデリの権化ともいえる男に、4人は様々な反応を見せる。
「うーん、今日初めて食べたからわかんないけど……って、サトル!!久しぶりに見た!」
「ちょっ!かぐや!!」
「ん?僕のこと知ってるの?」
初対面だと思っていたため記憶を探るが、そんな記憶五条にあるはずもなく、思考を切り替え焦った様子を見せる彩葉に目を移す。
(かぐや?僕は会った記憶ないし、彩葉から聞いたのかな?それにしても、彩葉に真実と芦花以外の友達が出来たなんて……)
またしても最後に余計な一言をつける五条に、これ以上ボロを出さないようにと考え近づいてきた彩葉によるフォローが入る。
「この子、信じられないかもしれないけどあの赤ちゃんなの、あの後直ぐに大きくなっちゃって……従姉妹ってことにしてるから、なんとか話合わせて!」
「……マジか」
「2人ともどうかした?」
「「いや、何でも(ないよ)」」
呪術的な痕跡を感じられない赤ん坊が、数日で女子高生ほどに成長し、生後数分にも関わらず自分のことすら覚えているという不思議な状況に、五条悟は退屈が薄れる高揚感を感じながら、彩葉とともに話を進めるのであった。
ひとまず3000文字程度に収めることにしました。
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