「──それで、君があの電柱から出てきた?」
「うん!月からきたかぐやだよ!!」
「………」
あのカフェを乗り切った後、状況説明も兼ねて彩葉の家に招かれたが、当の家主は魂がぬけたようにフリーズしてしまっている。
「私のじゅうにまん……死ぬ気で貯めた12万……」
どうも彼女…改めかぐやが、スマコンを手に入れるために彩葉のノートパソコンを無断で使用、後に購入したらしく、ギリギリの生活をしている彩葉からすれば、そうなっても仕方のないことだった。
「月から?それまたどうして?」
「うーん、なんかあんまりよく覚えてないんだけど、とにかく毎日超つまんなくて〜、楽しいところに逃げたーいって思った気がする」
「うんうん、たまには息抜きも大事だしね〜」
「お、サトルは分かる?やりたくなったらやって、やりたくなかったらやらないのが1番!!」
「「ね〜」」
「ちょいそこ!何通じあっちゃってんのよ!!」
おっと、僕としたことが、危うく話が逸れるところだった。
でも、相手は宇宙人。この世界のように、認識出来ないだけで呪力がないとも限らない。呪術の心得があるかもしれないし、仮にそうであった場合に、今までの呪術における常識が通用するとは限らない。
まあ、高専側において僕の仕事スタイルに賛成する子は全然いなかっため、彼女の反応に少し嬉しくなってしまったのは許してほしい。
「まあだからといって、彩葉も毎日頑張ってるんだから、あんまり困らせちゃダメだよ?」
「ん?うん!分かった!」
彩葉から「アンタがそれを言うな」と言わんばかりの視線が注がれる。おかしいな、名誉挽回のつもりで言ったんだけど。
「あ、それで、この料理どう?かぐやちゃん初めての自信作!生のとうもろこしから作ったポタージュに、新ゴボウとアスパラのカリカリサラダ温玉付き、そしてメインのトマト煮込みハンバーグ、ズッキーニのソテーを添えてだよ!もう、悟も来るって言ってくれれば作ったのに!!」
「いやー、それは惜しいことをしたね〜!」
「あ……そうだった、これ…これも私のウォレットで…?」
「そだよ〜、ほら、食べて!」
疲れきった彩葉が、せっかく目を逸らしていた現実を突きつけられたかのように、先ほどから並べられている料理に目を向ける。
三連休の買い物では僕が割り勘にしたものの、今日の出費はそれとは比にならなかった(主にスマコン)ようで、彩葉の絶望顔は治らない。が、それもかぐやが料理を食べさせたことで崩れる。
「お金がないのよ、貧乏なのよ…こちとら必死に学費稼いでんのよ………なんなのよ、旨いじゃないのよ……なんなのよ、あんた……久しぶりの美味しいご飯で、身体が喜びに満ちていくじゃないのよ……」
余程美味かったのか、口調まで変になって塞ぎ込む。
「…悪魔」
「悪魔じゃないよ!かぐやだよ〜♪」
「そうだよ彩葉、せっかく付けた名前なんだから、もっと大事にしてあげないと、名付け親に顔向け出来ないよ?五条君、彩葉をそんな子に育てた覚えはありません!」
「あぁ、そうだ…私の周りに悪魔はもういたんだった……ツッコむ気も起きん……あぁ、くそぉ…美味しい……」
(もう一人の悪魔?誰のことを言ってるのかな?もしそんな奴がいるなら僕が倒すっていうのに!)
心の中までふざける僕・純粋?な心で致命傷を入れる宇宙人・キャパオーバーしかける天才女子高生という謎すぎる組み合わせの食事は進むのだった。
「それじゃ、行くよ」
彩葉の掛け声により、二人はスマコンを使いツクヨミに入る。
ちなみにあの後、ツクヨミに行く予定がある彩葉を見た五条悟はすんなり家へと帰り、面白そうだから着いていこうとツクヨミログインへの準備を始めた。
寝る準備を先にしたかった彩葉としてはありがたい。
先ほどまでかぐやと悪ふざけをしていた姿など欠片も感じられない、常識的な立ち回り。文字通り変なところで気が利く、というのが五条悟なのである。
「おぉ〜!!!」
かぐやが目を開けるとそこには大きな赤い鳥居・真っ赤な夕焼け・終わりなく続く浅い湖。
そして───
───前に佇む、儚くも美しい電子の歌姫、月見ヤチヨ。
「───太陽が沈んで、夜がやって来ます」
厳かな雰囲気で彼女が呟くと、真っ赤に染まっていた夕焼けはたちまち幻想的な星空へと変化する。
「…ふふっ」
すると、月見ヤチヨはその厳かな雰囲気を崩し満面の笑みを浮かべ、かぐやのもとに駆ける。
「仮想空間ツクヨミへようこそ!!管理人の、月見ヤチヨで〜す!このもふもふは、FUSHI!」
「ヤチヨがツクヨミと僕を創ったんだ!」
ヤチヨは流れるように自身とその相棒であるFUSHIの紹介を済ませていく。
「ヤチヨ!やっぱ、悟の髪色そっくり!」
「………!フッフッフ、ヤッチョの自慢の髪は
そう言って神秘的なまでに白く美しい髪をたなびかせるヤチヨ。
「綺麗だと思う!彩葉と悟の次にだけど!!」
「オヨヨ〜、そう言って貰えるなんてヤッチョは光栄なのです……!」
「ヤチヨ!!」
話が盛り上がりそうなところで、FUSHIがヤチヨに声を掛ける。
「……コホン!さて、立ち話もこれくらいにして…出かける前に、その格好じゃあつまらない!」
話を切り上げたヤチヨが指を鳴らすと、ゲーム好きならば誰もがお楽しみに位置されるイベントが始まる……キャラメイクだ。
「うわぁ…!じゃあこれと、これと────」
新しい物を見つけた子供のように次々とパーツを選び、アバターを完成に近づけていく。
そうして出来たのは、赤色と若草色のコーデに金キラの月の髪飾り、そして背中に巨大な水引を付けた金髪コーデだった。
「これで準備は整ったね!それじゃ、行ってらっしゃ〜い!!」
「え!?」
キャラメイクが終わったかと思えば、いきなり背中を押して入り口と思われるゲートに叩き込まれるかぐや。
その際かぐやの視界に少しだけ映った電子の歌姫は、ワクワクするような、嬉しいような、そして何処か悲しいような。そんな儚い笑みを浮かべていた。
「ヴェェ!!」
そんな乙女の欠片も感じさせない叫び声を上げてズッコケたのは、月のからやってきた……と思われるかぐやだった。
どうやら、初ログイン後の第一歩はコケがち、という噂は本当だったらしい。
前々からリスナーや彩葉から聞いてはいたが、こうして直に見るのは初めてだ。
ちなみに、僕はと言うと─────
『────行ってらっしゃい……』
ヤチヨに押されてワープする。視界が開けた目の前に広がるは、幻想的な風景……ではなく、衝突間近の地面。
『おっ………と』
しかし、これでも僕は基礎的な呪力操作と体術だけでも特級呪霊を追い詰められる現代最強五条悟君。
そんなことは当然と言わんばかりに、余裕の笑みを浮かべながら華麗に着地。
完璧に決まった……さすがは僕!
『………』
しかしこんな外れに反応してくれる誰かがいる訳もなく、ただ何処か虚しい気分を味わっただけだった────
「─────って、何なら2人より酷いね」
「ん?どうかした?」
「いや、何でもないよ」
会話に一区切りがついた二人により現実に引き戻される。まあ、VRなんだけど。
「そうだ。彩葉はこの後ライブ行くんだったよね?」
「え、うん、そうだけど」
「だったらかぐやの案内は僕に任せて、早めに行っといたら?」
「え!?でも、悪いよ!まだ時間あるし──」
「任せて任せて〜、土地勘はいい方だし、これでもライバーだからねー。ツクヨミの案内くらい出来なきゃ、名が廃れるってもんよ」
「ん?ライブ?」
そのままの勢いで押し切り、なんの事か分かっていないかぐやを連れてツクヨミの案内をする。
彩葉はツクヨミの管理人にしてトップライバー、月見ヤチヨの大ファン。
せっかくミニライブのチケットを当てたのに、満足に楽しめないのは可哀想だし、彩葉はヤチヨのこととなると人が変わるので、その間だけでもかぐやを引き受けるという僕の
困惑しているかぐやに案内をしつつも遠回しな説明をして、時間を潰していく。
「───という、彩葉のことを想っての五条君による深〜い気遣いってワケ」
「なるほど……悟、でもその画面のってさ───」
「気づいたかい?……フッ、もちろん僕もただ指を咥えて彩葉の帰りを待つわけじゃない……」
そう言った僕のメニューに開かれているのは、彩葉のと同じくヤチヨミニライブのチケット。彩葉ほどの大ファンではないため握手券こそないが、僕も彼女の歌は気に入っているのだ。
「行くでしょ、ヤチヨミニライブ」
「!かぐやも聞きたい!」
「同伴は可だし抜かりはないよ……それじゃあ早速、ライブ会場にしゅっぱーつ!!」
「おー!!」
こうして結局、僕たちもライブ会場へ足を運ぶことになるのであった。
かぐやが五条の呼び方をサトルから悟に変えた(というより変わった)のは、悟と打ち解けたからです。
どう見ても相性良いですからねあの二人。
ちなみに、呪力ない世界なのになんでサングラス・目隠しありで見えるのか問題については後々判明します