思い出の海
あのライブから時は経ち、現在は絶賛夏休み。
ジャンル問わずインフルエンサーなら誰もが力を入れるのは、夏休みにそれだけ競争率が高くてもなおメリットが勝つということに他ならない。
そんな環境で新規ファンの獲得数で優勝が決まるヤチヨカップとなれば、新しくライバーになる人も増え、いろんなライバーを見るようなユーザーも多い、時期・イベントの概要からもこのイベントにはツクヨミを盛り上げる的な理由はあるのだろう。
(いや、純粋にヤチヨ自身がコラボしてみたいからっていう可能性も0じゃあないけど───)
というか、僕個人としてはそっちの狙いの方が大きいと思ってる。
月見ヤチヨがコラボライブをする機会を作らないのは僕のようなライト層のファンでも有名な話だし。これは彩葉から聞いた情報だが、ヤチヨはこういうサプライズ的なのを好むらしい。
それすら表向きの理由という可能性もゼロではないが。
(───ま、それはともかく第一関門は突破。1位を目指すなら及第点かな)
もともとかなりの人気を博しているブラックオニキスのようなライバーと違い、こちらは完全新規。ツクヨミでは全員が表現者と謳っていることもあり、そのライバルは星の数ほどいる。
大混戦の中初速をしっかり出し、初動を早めに抜けられたというのはかなり大きい。
現在の順位は280位。まずまずではあるけど───
「──まだまだ足りない!どうすればいいのだ〜!」
野望に向かって突き進み、その心に"1位"という文字以外が見えていないかぐやは、砂浜に広げたレジャーシートの上でゴロゴロと転がり回ってその不満を訴える。
「ゆ゛ゔじょゔじだい゛い゛ー!!」
もうお察しかもしれないが、僕たち4人は現在海に来ていた。
「かぐや、暴れない」
「まぁまぁ、せっかく海に来たんだから、テンション上げて!もっと盛り上がろう!みんなァ!」
「おー!「………」」
「上げてよ……」
かぐやが僕のノリに「おー!」と声を返してくれるが、それ以外の女子3人はだんまりしている。悲しい、五条君泣いちゃいそう。
「かぐや、君だけだよ、僕に着いてきてくれるのは……ぐすん」
「いや〜なんというか、五条君たまにおじさんみたいな感じのノリするから、イマイチノりづらいというか…ね」
「「うんうん」」
「ガーン!!」
「「ガーンって言った」」
「かぐやは悟のそういう感じ好きだよ!」
唯一かぐやだけはフォロー…というか、素直な気持ちがいい方向なだけだと思うけど、そう言ってくれる。
だが、芦花の言うことも間違いだとは言いづらい現実が、僕の心を更に
「ま、この話は一旦置いといて……」
「悟が始めたんじゃない……」
彩葉の呆れが容赦なく突き刺さる。せっかく忘れられそうだったのに!
「やっぱ僕は来ない方が良かったんじゃない?」
「「あ〜……」」
花の女子高生が3人と見た目が17歳くらいの宇宙人。そこに身体は16歳、頭脳は44歳の僕が入り込む、それも海に来ている中でだ。
そんな僕が混じるのはと、我ながら珍しく遠慮していた。
「珍しいじゃない。悟がそんなこと言うなんて」
「たしかに〜」
「こら2人とも。…でも正直、五条君がそれ言うのはちょっと意外〜って感じ」
「ん、そうなの?」
彩葉から順に真実・芦花・かぐやと、各々反応を示す。
「こういうのは元気な子が若い内にやるもんだからねー。僕みたいなのが入るのは野暮ってもんなのよ」
「アンタ、時々自分の年齢忘れたようなこと言うわよね……」
「ハハッ……でも、誘ってくれたのは感謝してるよ……ありがとね」
「「……」」
しまった。完全にしんみりとした空気を作ってしまった。
これはいけないと判断し、話題を流れるように切り替えていく。
「そういえばだけど、かぐやは最近オリジナル曲にも手を出したんだっけ?いや〜、僕なんてあんななりしてるせいで全然ファン増えなくてさ、もう抜かされちゃいそうで怖いよー」
「わかるー。あれ彩葉が作ったやつなの?」
「彩葉、可愛い上に天才すぎ〜」
二人の称賛が彩葉の方に向く。
「あ、あれは昔に作ったやつだから……」と照れる彩葉に僕が逆襲を考えないはずもなく、「でもオリジナル曲がはじめたてのライバー活動で刺さってるのは珍しいし、さすがは彩葉だね」とすかさず追撃を入れる。
「ぐわあー。でもやっぱり優勝したい!こんなんじゃまだ足りないよ〜!芦花、どうすればいい〜?」
「うーん、もう結構色々やってるみたいだしなー」
かぐやと芦花が悩みの声をあげる。
ネタ切れという配信者あるあるに直面しているようだけど、僕から言えるアドバイスはほぼない。
登録者数ではまだ何とか耐えているものの、もう人気度では抜かされているも同然なのだ。
「はいはーい!私あるよ、ナイスアイディア!いろP着ぐる解放からの初登場配信は?これまで着ぐるみで正体を隠していた彩葉がついにベールを脱ぐことにより新たな需要をだね────」
「はい却下」
「あ〜!嘘!今の嘘〜!」
言い終わらないうちに、彩葉が怒りを込めた焼きそば強奪を成功させ、そのまま啜る。
食べるのが好きな真実は涙目だ。
「それで言ったら、五条君も顔出ししないの〜?ツクヨミ内だけなら素顔晒したくなくても安心だし、アリな気もするけど〜?」
「ん?あぁ、そのことね。まあ、僕はそこまで有名になりたいわけでもないし、有名になってもいいことばかりじゃないからさ〜」
話を振ってきた芦花に対しそう受け答えする。
そういえば、外で顔を見られた事自体ないかもしれない。
学校にはサングラスを付けてても文句言われない(無視してたら言われなくなった)し、最近ヤチヨにBANしないよと言われたし、ましてやこの世界で僕に傷をつけれるやつなんている訳ないけど───
(あれ、じゃあ別に
そうやって自問自答していると────
「ねー、悟からも彩葉に言って〜!!」
「おっと…!?」
考え込んでいたのと、
そのまま突撃してきたかぐやに海まで吹き飛ばされてしまう。
「あ、ごめん悟!!」
バシャンと音を立てて、買った水着が濡れていく感覚が広がるが、滅多に経験出来ないことだし、そもそも水着だということで、甘んじて受け入れる。
こんな感覚は沖縄以来だったので、少し懐かしく、今はもうあんな素直な気持ちでは触れられない思い出に浸る。
(術式OFFにしてたとはいえ、僕一応190あるんだけどな…忘れかけてたけど、さすがは宇宙人ってとこだね)
クリアになった頭でそんな考え事をしつつ立ち上がると、そこには先ほどまでの賑やかさとは打って変わり、周りの観光客や彩葉たち全員の視線がこちらを向く、シーンとした空気の流れるビーチが待っていた。
「…ん?、あ」
立ち上がった僕の真下には、海の塩水に浮かぶサングラス。
前世で、天内の学校に乗り込んだ時のことが頭をよぎった。
確かあの時は────
「フッ………どうしたの?そんなにこっち見て……」
「「「えぇぇぇぇ〜!!??」」」
───夏場の海なのにも関わらず凍りついたように固まるみんなの前で決めポーズ。
フッ。ツクヨミでは誰も居なくて失敗してしまったけど、今回は完璧に決まった……
「ちょっと!?調子乗んないでよ!?」
周りの観光客から歓声が届く中、最初こそ見たことのなかった素顔に固まっていたものの正気を取り戻した彩葉がすかさずツッコミを入れてくる。
(あの水着といい、なんか既視感あるな……)
「ヒュ〜、五条君めっちゃイケメンじゃん、だからサングラスなんてかけてたの〜?」
「あの笑顔と、赤黒の帝様と対をなしたかのような青い目と白い髪……これはかぐやちゃんと合わせて3推し確定だ…ひょっとしなくともツクヨミの目隠しの下も………ふぎゅ」
「おぉ〜キメるね悟!!かぐやもそれやってみたい!」
その後、収拾がつかなくなりそうなところから何とか抜け出し、4人には、別にサングラスは外せたが付けてる時間の方が長かったから癖で掛けてたと、気を遣わせていたことに謝罪と少しの脚色を入れ乗り切り、いつかの海を思い出す一日は幕を閉じたのであった。
彩葉=天内(転生後)にはしませんが、彩葉×かぐや(ヤチヨ含む)×五条にしようかは迷ってます(百合をとるかどうするか)
作者はハーレムみたいなのは好みではありませんが、この作品に関してはこの先書く予定の展開的にありな気もしてて…まあ大筋には影響しないので気長に決めていきます(紹介にもある通り作者は男が挟まることでいろかぐの関係値が険悪になるのは嫌なので、もしそうなってもいろかぐは消滅しません)