あの海で遊んだ日からまた少しの時が経ち、夏休みも後半に差し掛かってきたある日のこと。
今日も今日とて、僕はツクヨミにて『SETSUNA』の練習に勤しんでいた。
『K.O!』
(うーん、悪くはないね)
あまり目立たぬように、ゲーム系ライバーでありながらカジュアルマッチをただひたすらにやっているため、相手自体に手応えがあるわけではないが、呪力操作。この一点に関しては練度が上がっているのを感じる。
(体術は前世で極めた感覚が据え置き、宿儺に上回られていたであろう呪力操作・効率は、かなりいい線いってると思うけど、どうか…なっ!!)
『K.O!ゴジョーWIN!』
宿儺に勝てるのかは、あの後を知らない僕からはっきりと言えることはない。けど、術式の格で領域初手の押し合いを互角にしていたのを思い出す感じ、足りなかったのは僕自身の技術面。そこを詰めれば話は大きく変わってくるだろう。
幸い、このツクヨミでは呪力による身体強化や術式運用に『スマコン』という外部ツールを経由しなければならないということもあり、呪力操作の練習、その中でも現実ではなかなか難しい負荷向上という面で非常に優秀なのだ。
(それに、何もツクヨミだと全てにおいて不利。ってわけでもないしね)
ピコンッ
次の一戦へ行こうと思っていたところで、突然通知が飛んでくる。
(ん、かぐやからのDMか。この前真実たちとKASSENを教えたばっかだけど……)
最近、かぐやにコラボという名目で『KASSEN』。その中の『SETSUNA』を教えたことを思い出す。
そのせいでと言うべきかおかげでと言うべきか、地味な戦闘スタイルと、見られることが多いことから無限を使わなかったのもあり、大した数じゃないけど、僕のファン数も少しは増えた。
(まあ?僕最強だし?イケメンだし?少ーし気合い入れちゃえばすぐ有名人になれますけど?)
そういったこともあり、かぐやは最近『かぐや争奪戦』なるものを開催していたらしい。マジでウケるよね、日にちが合えば僕も参加したかった───
『悟!!なんかいきなり彩葉が倒れちゃって、どうすればいいか分かんないんだけど…!』
────よ…
『今どこ?もし外で倒れてるんなら場所送って?』
(まさか呪い関連?いや、かぐやの文面から誰かに何かされてるわけじゃなさそうだし、限界が来たか?)
ふざけていた思考を切り替え直ぐに原因を探ろうとするが、とりあえず彩葉の安全を確保するのが先だと判断し、かぐやに場所を送ってもらう。
送られた場所は立川の不動産屋。呪力の反応的にもその辺りだと目星はついていたのもあり、すぐさま不動産屋周辺の反応を探り、呪い関連ではないのを確信に変えた。
『直ぐに向かうから二人はその場で待機。なるべく安全なとこにいて』
かぐやにそう返信し、ツクヨミからログアウト及びスマコンを仕舞い、外の開けた場所に出て瞬間移動をする。
この僕が寄り道をせずにまっすぐ目的に向かうなんて、我ながららしくない行動に自嘲しながらも、彩葉たちのところへ向かった。
「……え、?」
気が付くと、私はいつもの部屋でいつもの布団に寝かされていた。
(なんで、家にいるの?さっきまでかぐやと不動産屋に……)
ぼんやりと、でも確実に状況を整理していく。
一瞬、あそこで倒れたとしてもどうやって家まで私を運んだのかという疑念が思い浮かんだが───
(…かぐやは宇宙人だし、私を家まで運ぶくらい出来るのかも)
そう結論付けてもう一度辺りを見回……す…
「違う!やばい、バイト…」
ようやく自分のやらなければいけないことを思い出し、慌てて飛び起きようとしたが、足に鉛でも付いたかのように、身体は思うように動かない。
「彩葉、しんどい?」
「平気、すぐ出るから…ぅ」
やはり運んでくれたのはかぐやの様で、心の中で感謝を述べながら立とうとするが、これまた身体が上手く動かせず、フラついてしまった。
「バイト休む連絡入れたから、彩葉、もう休んで〜!」
目に大粒の涙を溜めながらそう訴えかけてくるかぐや。
慌ててスマホを見てみれば、そこにはおぼつかない部分も多いがしっかりと休みの連絡を済ませた、かぐやの優しさが詰まっていた。
「ありがと……」
今度はちゃんとお礼を言い、少しだけ安心したようなかぐやに目を向ける。
「いやいや!お礼なら───「お邪魔しま〜す、戻ったよーかぐや」あ、ちょうどいいところに♪」
「え、え?…え!?」
そう言ったかぐやの視線の先には両手に食材を入れたであろうレジ袋を持った悟がいた。
「な、なんで悟が?」
「お、彩葉目、覚ました?いや〜、突然かぐやから連絡が来たと思ったら彩葉が倒れたって言うから、このGLGが馳せ参じたってワケ♪」
「悟、すごかったんだよ!!かぐやたちの周りにぐるぐるってなんか書いたと思ったら次の時には……」
「まあまあかぐや、彩葉も疲れてるし、ほら。頼まれてた食材たくさん買ってきたからさ」
悟の言葉に「天才かぐやちゃんに任しときっ!」と頷き料理を作り始めるかぐや。
でも、そんな光景を見ながらも私の心は"部屋片付けできてないどうしよう"という悩みでいっぱいになっていく……が、
きっと、二人で相談した結果、悟の家より私たちの家の方が良いという決断になったんだろうし、私も実際助けられた身だから恥ずかしさをそっと胸に押し込むことにした。
「あ、……」
「彩葉?」
しかし、それとは別に目を向けなければいけない問題がもう一つあることに気づいた。
こういう時に一度現実を見てしまうと抜け出せなくなるというもの。いつもの私なら隠し通せていただろうが、弱っていたこともあったのだろう。つい本音を洩らしてしまう。
「───やっぱり無理だよ……全部ギリギリで予定組んでるから、何日も休んだら…もう追いつかなくなって、そうしたら奨学金も…出ないかも……」
少しだけと零した本音も、一度出してしまったが最後だと言わんばかりに、決壊したダムのような勢いで溢れ出ていく。
「彩葉……彩葉は、なんでそんなに頑張らないといけないの?」
そんなかぐやの質問に少し困ってしまう、ややこしい話だからきっと分かんないことも沢山あるだろうし、話そうと思うと母との話を避けては通れない。
だからといって悟の方を見ても、彼にしては珍しくだんまり。
仕方がないと決意を固め、ぽつぽつと分かりやすく、今までの経緯を語った。
死んじゃったお父さんの話、出ていってしまったお兄ちゃんの話、変わってしまった母の話、正しさに潰されそうになった私の話。
こんな時にまで母の言葉を思い出してしまうだなんて、私もダメだなって思いながら。
「──それで、私が一人で学費も生活費も賄うならって、やっと折り合いついたんだよね」
「えらい簡単に言ってるけど、みんなそんなことやってなくない?」
「お母さんはそのくらいのこと平気でやってたし、私も譲らなかったし。最初にここで目を覚ました時のことよく覚えてる。何にもないし、誰にも頼れないけど、自分の力で生きるんだって思ったらめっちゃ力湧いてきた。なんかラッキー……みたいな?」
そう言うとかぐやはやはり、そんなのラッキーでも何でもないと言った。実際その通りだと思うし、きっと私だって聞かされる側ならそう思う。
でも───
「かぐやには……」
「え?」
「ううん、何でもない」
「───ほら2人とも、それくらいにして、一旦ご飯食べな。力つけないと治るもんも治んないよー?」
話に区切りがついたタイミングで悟がそう言う。
いつの間に作ったのやら、かぐやが仕込み悟が仕上げたらしいおじやを持ってきた。
「ふっふっふ!今日の料理は────」
そう切り出してかぐやが料理について説明を織り成していく。
くどめの説明が終わり食べてみれば、説明の最後にあった通りかなり熱いが───
「……超うまい」
否定出来ない、優しさを感じる美味しさだった。
「それでさ、私が話したんだし、悟も話してほしいんだけど」
「ん、何のこと?」
「その、悟の昔の話的な、」
食事を終え、後は睡眠をとるだけという時に、私は話を再び切り出す。
悟は別に過去のことを話してほしいと促したわけではない。
しかし、過労による疲れと、これまで求めてこなかった誰からの温かみに浸ったことが逆に悪さをし、私だって話したんだからという半ばこじつけにも近い言い訳を並べて、それを聞いてしまった。
「───ご、ごめん!つい魔が差して、私が話そうと思って勝手に話しただけなのに……」
「いや、いいよ。僕も盗み聞きしてたようなもんだし、別に気にしてるわけでもないしね」
「ほ、本当に…?」
「もちのろん!このSGT五条悟くんに不可能はない!」
「なんか、色々混じってない?古いし日本語おかしいし、あとSGTは何?」
「スーパーグレートティーチャー………って!古いとかやめてよ!?」
「なんでティーチャーなのよ……ふふっ」
あいも変わらずのバカテンションだけど、弱ってる今の私には少し救いになった気もして、少し笑みが零れてしまった。
「それでなんだけど────」
再び話に区切りがついたところで、悟は話し始めた。
私が想像しようもない過去を────
「ひっ……!?き、気味が悪い!来ないで!」
「く、来るなァ!」
転生して数年。毎日のように僕は親に殴られ、蹴られ、不味い飯を食わされ続けている。
母・父どちらにも似ていないどころか日本人離れした僕の容姿に怯えたのだろう。僕を取り巻く周りの環境は、経験したこともない猛威を振るった。
前世と真逆。
五条家の嫡男・数百年ぶりの無下限呪術と六眼の抱き合わせ、高専に入学するまでは甘やかされ続けたことも特殊事例なのだろうが、これが普通なはずもない。
「い゛っ…!」
『以前冥さんにおすすめの移住先を聞いたときに言われたんです。新しい自分になりたいなら北へ。昔の自分に戻りたいなら南へ行きなさいと』
あの空港で僕が北を選んだのか南を選んだのかは覚えていない。
(───でもこうして転生してるってことは、僕は北を選んだのか?いや、僕が北を選ぶ……ってより、南を選ばないことの方が考えにくいか)
では何故転生しているのか。ということに関してもわりとすぐに折り合いがついた。
罰なのだろう。人の命は国の数ほど救ったが、同時に星の数にも勝るほどの罪も犯した。
呪術師をやってる以上、呪詛師に狙われることは何も珍しいことじゃない。
術式を知覚してからずっと懸賞金が賭けられているような僕なら尚更。
呪術の世界は基本どこでも弱肉強食だ。当然、命を狙われて黙っているほどのお人好しは直ぐに死んだ。特例だけど、悠仁のような子たちは特に。
……ツケが回ってきたのだろうなと、僕にしてはすぐ合点がいった。
術式も理解はしているが肉体の都合上知覚出来ていない時期、約4年半。
いたぶられ恐れられた僕は機会で言えば人生で数少ない『痛み』を経験させられた。一生分と言っても過言ではないほどに。
『親だけ特別というわけにはいかないだろう。それに私の家族は、もうあの人たちだけじゃない』
(今度会ったら傑にもう一度、きちんと言ってやらねぇとな。オマエの親はやっぱり、殺すには惜しい人たちだったんじゃないかって……実力の違いで価値を分けてたアイツに言っても、意味はねぇかもしれないけど)
「や、やめ……!す、すみませ…」
グシャアッ!
そうして訪れた4歳と少し経った
「───とまぁこんな感じ。こうしてまだ幼い五条君は寄る辺もなく、1人で生き抜いていく覚悟を決めたのでした……」
そう悲しそうに、でも芝居がかった口調で悟はその話を終えた。
「いや、これかぐやがおかしいのかな…今のところ聞いた二人とも頑張りすぎな気がするけど…」
「大丈夫よかぐや、アンタの感覚が正常だから。でも、その後大丈夫だったの、まだ4歳だったんでしょ?」
「うーん、どうだろ?僕も何とか脱出しただけで記憶が……あの人たちがどうなったかを想像したらウケるケド。この僕を手放すなんてねー」
「そっか……悟は今、幸せ?私は、悟の力になれてるかな、迷惑かけてばっかりだけど…」
「か、かぐやも、悟のことハッピーエンドに連れて行きたい!なんか困ったら言って!かぐやたちが力になるから!」
「…………」
私がそう聞くと悟は少し考え込んだ後、サングラスに隠れた口元を僅かに綻ばせた。
「……二人は充分僕の力になってるし、むしろ僕の方が認識を改めることになったよ…だから、もっと頑張ってね〜……僕を満足させられるくらい」
私が悟に「何その上から目線」と笑うと、かぐやもそう言う悟…というより、私を見て笑い、悟もそれにつられてか笑う。
普段から仲は良かった私たちの中の、どこか越えれなかった壁が、1つ無くなった…そんな気がした。
補足:五条は前世のこと・両親を殺めたことを伏せた上に脚色して話しています。
あと、彩葉に会うまではこの人生何のためにあるんだよどーでもいいわって感じに擦り切れてます
リアルが忙しいので毎日更新は難しいですが、結末と月人戦どうするかは初期から構想しているので後半に連れて書きやすくはなるかと。
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