リユニオン ウィズ ジ ディシースト   作:うどん米

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第1話・最強の”第一世代魔術師”のプロローグ

 

 

 目は光を失っていた。

 

 使い古された装束に、ぼさぼさ髪、一見浮浪者にも見えるその姿を見てもこの街の人間は誰も蔑むような目で見る者はいない。

 

 むしろ、誰もが彼を心配しているようにも見える。

 

 

 やがて、とぼとぼと僕が歩いていくと冒険者ギルドの前までたどり着いた。

 扉を開け、中に入ると数人が僕に視線を向けたが何か気まずそうに目を逸らした。

 

 そして、僕は真っすぐカウンターに向かい声をかける。

 

「……おばちゃん」

「ないよ」

「そっか」

 

 おばちゃんと呼ばれた彼女も手慣れたように僕をあしらい。

 僕の方も、それに慣れてしまったせいで特段反応は見せなかった。

 

 それは、この場にいる他の冒険者も同様なようで、その光景に特別な反応を見せることもない。

 

「ほら、依頼だろ。これ、いつもの今回は近場だからちゃっちゃと討伐しちまいな」

「ありがとうございます」

 

 そう言われて渡された羊皮紙を受け取って、僕は覇気のない声と共にギルドを去って行く。

 

 

 その時、カウンターの奥からまだ若いギルド職員が現れた。

 

「あの、今のってSランク依頼ですよね。あんな人に任せて大丈夫なんですか?」

「あ?……あぁそうか、お前は今日が初めてか」

「は、はい!」

 

 彼女の一睨みに思わず新人職員の背筋が伸びる。

 

「問題ない。アイツはSランク冒険者だからな」

「Sランク冒険者!?そ、それって『最強の”第一世代”魔術師』の二つ名を持つこの街唯一の……!?」

 

 彼の驚愕も頷ける。

 

 冒険者は星の数いると言われるが、その中でもSランク冒険者に成れるのは一握りの存在だけ

 それぞれが特別な二つ名を持ち、他とは圧倒的に違う力を振るう者たちなのだ。

 

 

 

 門を通り、草原を越えて、近場の森に入り少し進んでいく。

 

(こいつかな?)

 

 近くにまで来ると土色の肌に、ごつごつとした岩肌を持つ巨大な土竜が目の前に現れる。

 地中を進むことに特化した故に翼を持たない竜の為、空に逃がす心配はないが魔法を操る相手であるため慎重に立ち回るべき相手だ。

 

(通常サイズよりちょっと大きいな)

 

 森に入った瞬間から薄々見えていたが、近くに来ると思わず息を呑む。

 まるで動く山と相対している気分だった。

 

 こんな魔物を倒せるかと一瞬脳裏によぎるが、倒さなければ近隣への被害は避けられない。

 

 だが、この行為が多くの人の助けになると思うと自然に目に光が灯る。

 

(バレてないし、さっさとやっちゃうか。多分、縦30m、横10mくらいか?深さは5mくらいあれば十分かな)

 

 僕は目測で奴の大きさを何となく図る。

 これをしなければ、第一世代の魔術はそもそも成立しない。

 

 そそくさと土竜の背後まで移動し、足先を土竜に向けた。

 

「『”水”よ。我が足元の前方20m先の横10m、深度5m、縦30mの”土”と混合し泥沼を作れ』」

 

 僕の魔力が地面を伝い、ちょうど土竜の腹の下あたりでバケツをひっくり返した水のように広がっていく。

 瞬間、土竜の足元の地面が水と混ざり合い泥沼が形成された。

 

 異変に気付いたときにはもう遅い――と思いきや。

 

「『”風”よ。我が前方32m、高さ10m先に横10m、高さ5m、縦5㎝の刃を作り出し振り下ろせ』」

『ッ、何モノダ!!』

 

 詠唱のすぐ後に空中にギロチンの刃のような風刃が出現する。

 それを知覚した瞬間、土竜は逃げるために藻掻くと泥沼が意外と浅くあっさりと抜けられてしまう。

 

 そのせいで振り下ろされた風刃は奴の首を少し掠める程度に済んでしまった。

 

『我ノ体ヲ傷ツケシ人ノ子ヨ。ソノ度シ難イ愚カサニ免ジテ天罰ヲ下シテヤロウ』

「全くありがたくないね。ていうか、天罰より僕はもらうなら司法から罰をもらいたいね」

 

 そして、やらかしたと思うと同時に土竜の口先がこちらを向いた。

 一歩踏み出すたびに、地面が鈍く沈み、木々が軋んだ。

 

 燃え移ってしまう可能性がある以上、森の中では最大火力をぶっ放すわけにもいかない。

 

(後出しだと僕の魔術じゃ間に合わないな)

 

 土竜が使ってくる魔法は大抵、土に関係している。

 魔力の塊をぶつけてくるブレスの可能性もあるし、土の壁が出てくるかもしれないし、何なら隕石が口から出てくるかもしれないのだ。

 

「我ガ咆哮。自然ヲ操レルト言ウ傲慢ノ権化。人ノ子ニハ防グ事、叶ワヌゾ!!」

(ブレスか)

 

 魔力の動きから次の動きを先読みし、すぐ次の動きを決める。

 もうすでに魔力が喉元に集中していることから、下手に中断させれば大爆発を起こしかねない。

 

 もちろん、このまま突っ立っていれば僕ごとここら辺の一帯がブレスの錆に変わるだろう。

 

「『”風”よ。我が前方1m先から横10m、高さ5m、縦10mの”嵐”となりて”浮上”させよ!』」

「『金枝篇を折る(インぺリウム)が如く大罪(スパイア)』」

 

 だから、正面から受けるつもりなんてさらさらない。

 ”風”、”嵐”、”浮上”この三つのワードに大量に魔力を込め効果を強めた魔術は奴の首だけを的確に捉え浮上させる。

 

 魔術に巻き込まれ空へ巻き上がる土、草、木――

 

「ナアァアア!!」

 

 すると、首だけが上を向きブレスは自然と何もない空を焼き尽くした。

 

(当たれば死んでたな……)

 

 凄まじい魔力に少し唖然としながらも腰の剣を抜く。

 

 だが、次はない。

 溜めた魔力を放出した隙を見逃さずバックから不思議な模様の目立つナイフを数本取り出し投擲する。

 

 それが、動揺する土竜の眼前に迫った瞬間――

 

 爆発の衝撃が僕の髪をたなびかせると同時に白い閃光が炸裂した。

 

「さようなら」

 

 その瞬間を見逃さず僕は跳躍し土竜の巨大な首目掛けて剣を振りぬく。

 

 すると、刃は豆腐でも切るように首を刈り取られ、数秒じたばたした後動かなくなった。

 

「……」

 

 こいつを倒したことで近隣の村や街は地震や土砂崩れなど災害に合う可能性は減少するだろう。

 多くの人を救ったことと同義だ。

 

 けれど、倒した後の僕の瞳からは蝋燭の火が吹き消えるように光が失われた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 依頼を終え、ギルドに土竜の素材を持って帰って来た。

 

「おっ、意外に遅かったじゃないか。物はいつも通りおいてきな」

「はい。鑑定が終わるまで、少し出てますね」

「ああ、いつもの所だろう。行ってきな」

 

 そう言って、マジックバッグごと入っている土竜の素材をギルドに置いて足早に外に出た。

 それを、おばちゃんと呼ばれたギルド職員と新人が見送って行った。

 

「……あれが、この街唯一のSランク冒険者。最強の”第一世代”魔術師のアポロ。でも、第一世代って」

「第二世代以降と違って長い詠唱が必要になる分どうしても、魔法を使う者としては劣った者って呼ばれてるな」

「そうですよね」

 

 同調しながら、彼は自身の体に刻まれた第二世代の刻印に魔力を通す。

 

「『ファイアーボール』『ウォーターボール』『ウィンドボール』『グラウンドボール』俺でもこのくらいのことでも簡単にできますよ」

 

 詠唱と共に空中に現れる四つの属性を元に展開された魔法たち

 ボールとは言ったものの職員は剣、槍、弓など次々と姿を変えていく。

 

 これを、第一世代の魔術師が再現しようと思ったら相当長い詠唱が必要になるだろう。

 

「だが、アイツは強い」

 

 魔法を使う者たちは才能がその実力の9割を占める。

 そして、最も才能の劣るものを魔術師と呼び、第二世代以降の魔法を使う者を魔法使いと呼んだ。

 

「今は色々あって目が死んでいるがあたしが知るうえで最強の魔術師だ。元騎士だから剣もいけるしな」

 

 間違いなく彼を称賛しているはずなのに、その言葉には少し影がかかっていた。

 

(アポロ……お前の祖母は本当にこんなこと望んでたのか?)

 

 彼が去った後の扉を少し憐れむように見つめた後――

 

「色々って何ですか?」

「っ、色々は色々だ!!ほら、さっさと鑑定を済ませるぞ!!」

 

 話をそらすように新人に渇を入れて彼女は土竜の素材の鑑定業務に移るのだった。

 

 

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