中に入ると、すぐに目が入ったのは横長の受付カウンターだった。
そこまでの道にはレッドカーペットが敷かれており、まるで玉座への通路のようになっていた。
(でも、流石に城の絨毯の方が上物なんだな。そりゃそうだけど)
そんなくだらないことを考えている内に、彼女は先に進んでいた。
遅れて僕も追いつきカウンターの受付嬢さんに話しかける。
「すみません。えっと、そうだ。こちらのギルドに加入したくて伺ったんですけど」
「はい、では冒険者カードはお持ちですか?」
「これで、お願いします」
Sランクと書かれた冒険者カードを渡す。
すると、受付嬢は大きく目を見開き僕とカードを交互に見る。
「し、失礼ですが二つ名を伺ってもよろしいでしょうか?」
僕たちのようなSランク冒険者には認定と同時に、それを称賛する二つ名が送られる。
冒険者カードに記載されることはないが、大体気がつけばその名が轟いていることが多い。
(あ、そうか。ここだと、まだ無名だし。でも、いちいち言うの恥ずかしいんだよな)
だから、こう言ったように街を変えた時二つ名を聞かれることは珍しくないのだ。
「さ、最強の……だ、第一世代」
「あーもう何顔赤らめてるのよ!こいつは『最強の”第一世代”魔術師』って言われてる冒険者よ」
結局、じれったいのを嫌う彼女に横から言われてしまった。
だが、それを聞いた受付嬢の反応は予想したものじゃなかった。
「最強の第一世代?ふふっ、なんですかそれ第一世代で最強で意味があるんですか?」
先ほどまでの丁寧な態度はどこへ行ってしまったのか、180度変わった態度に思わず顔が引きつる。
「何よ。どういうつもり!!」
「いえいえ、別に何も。これ、本物なんですか?この街で取った物じゃないですよね」
「本物ですよ。確かに、この街で取った物じゃないですけど僕が確かに実力で勝ち取ったものです」
そこまで言われて、言われっぱなしではいられない。
だが、言い返しても彼女は鼻で笑うだけだった。
「はいはい。夢なら寝てるときに見てくださいよ。あっ、ザレク」
サラっと煽られながら、彼女はおそらくクラン員の名前を呼ぶ。
振り向くと、明らかに染めたとわかる金髪と頂点の黒髪が目立つ青年が立っていた。
「何、メリーちゃん。俺っちに何か用?」
「この人、Sランク冒険者って自称しているんだけど第一世代なんだって、完全に詐欺師でしょ!ちょっと、追い出してよ」
「えー仕方ねえな。ま、俺っちに任せときな」
軽薄な会話を聞いて僕も少しイラついて来た。
だが、この場で面倒ごとを起こさまいと我慢する。
「ほら、拾いなよ。偽物の冒険者カードをさ」
「……」
そう言って、彼女は僕の冒険者カードを地面に投げる。
それを、僕は何も言わず拾い鞄に入れた。
(これが、大手クランねぇ)
別に、こんなこと初めてじゃない。
騎士学校の時も似たようなことは何度もあった。
(ここで、僕が我慢してればいい)
むしろ、いちいち相手するのも疲れるしここは適当に話して凌いだ方がこのクランとの摩擦は防げるし、アフェにも迷惑は掛からないだろう。
たとえ、こいつらにいくら罵られようとも何も問題はない。
濁り始めた瞳に気づかないふりをしながら、そう思い込むようにした。
「何してんのよ!!」
それで、済むと思っていた。
先に噴火したのは僕ではなく、傍らで一部始終を聞いていたアフェであった。
怒りに任せてカウンターに拳を打ち込み場の空気が変わった。
「あんたたちに何がわかるのよ!!アポロは間違いなくSランク冒険者よ!あたしが知る中で最強の冒険者なのよ!あたしの恩人で街の英雄で……!」
「アフェ、アフェ!!」
彼女を咄嗟に止める。
残念ながら彼女がこの場でいくら僕のことを話してくれたところで状況は変わらない。
「アポロ、でも……」
「ありがとう、本当にありがとう。アフェのおかげで僕はどうすればいいかわかったよ」
彼女の言葉は確かに僕の支えになる。
濁りかけていた僕の瞳の暗闇を晴らしてくれた。
「なんだお前ら!詐欺師が何イチャコラしてんだよ」
「それで、君はどうするんだい?」
相手の魔力の流れからして、おそらく第二世代魔法使いだろう。
速度では圧倒的に不利だが、問題ない。
「ちっ、こうするんだよ!『ファイアーボール!』」
詠唱と同時に彼の体に刻まれた”刻印”に魔力が通い空中に直径25㎝ほどの火の玉が生成される。
このように、第二世代以降の魔法使いは刻印に魔力を通して魔法を発動するのだ。
だが、僕のように魔力の察知が得意な魔術師だと魔力量で大体の規模がわかってしまう。
(大した威力じゃないな。射程もそれほどない。一応、後ろのカウンターへの配慮はできるんだな。屋内で火は使うくせに)
そう考えている内にファイアーボールが発射される。
弾速はそこそこ、瞬き数回できる余裕がある。
そして、僕は手に魔力を纏わせハエでも叩くように火の玉をかき消した。
「なっ、俺っちのファイアーボールを素手で!?」
「『”水”よ。我が前方3m、高さ1m60ⅽm先に横25㎝、高さ25ⅽm、縦25ⅽmの水球を作り出し前進せよ』」
相手が驚いている内に詠唱を終わらせ、奴の眼前にわざわざ調節して水球を生成する。
そして、詠唱の内容通り前進し顔面に激突しはじけた。
「うげぇっ!?」
同時にザレクは変なうめき声をあげて全身びしょ濡れに変わった。
これくらいのお灸は据えたって罰は当たらないだろう。
「よしっ、行こう!アフェ」
「う、うん!!」
それを確認した僕は彼女の手を取ってクランの外に走った。
後ろから何だかキーキー聞こえたがきっと気のせいだろう。
迷宮都市ラビリンスに来て早速問題事が起きたが、別に構わない。
ここに来たときは彼女が僕の手を引いていたが、今は僕が彼女の手を引いていた。