ヒヒダルマは俺とN様をベンチに座らせると、ひと息ついて話し始めた。
「…N様、ポケモンたちがどうやって城にやってきたか、いえ、連れて来られたかご存知ですか」
「? もちろん…人間たちに住処を追われたり、虐待を受けたりしてプラズマ団が保護したんだろう」
「そうですね、その通りです。プラズマ団はわざとそういうポケモンたちを連れてきていたのです」
「……わざと?」
「そういうポケモンたちをN様のもとに集めることで、N様への人間への不信感は強くなる……そうすればゲーチスたちの望む世界になるからです」
「ゲーチス!?なぜ彼の名前が出るんだい!?」
あー、やっぱりそうか。そりゃよほど周囲の声が固まってないと洗脳ってのはできないはずだからな。要するにゲーチスたちはN様の洗脳のためにポケモンたちを使ってたってことか。
「そして傷ついたポケモンたちの中には、プラズマ団の手でわざと傷つけられたポケモンもいました」
「なぜ、そんなことを!?」
「それは当然、N様に思想を植え付けるため。人はポケモンを傷つける、苦しめるものなのだと」
「馬鹿な、プラズマ団の皆がそんなことをするわけが……!」
「そうですね、皆が皆そういう人間というわけではありません。ただ、ゲーチスという男が腐っているだけです」
「ゲーチスが……?」
「城で暮らす中、ある夜に私はN様の部屋を抜け出したことがあります。その時、私は見てしまったのです」
「……何を?」
「狭く暗い部屋で、ポケモンを傷つけるよう指示を出すゲーチスの姿を」
「狭く、暗い部屋……」
「? 何か心当たりが?」
「……ある時にボクの部屋にやってきたポケモンが話していたんだ、狭くて暗い部屋で、ニンゲンに暴行を受けたと……」
「ゲーチスも見られては困ると分かっていたのでしょう、実際その部屋にたどり着くのに苦労しましたから」
「だが、なぜそんなことを!?ポケモンたちを苦しめて、そこまでしたいことがゲーチスにはあるのか!?」
「ええ」
否定してもらいたいであろうN様に対して、ヒヒダルマはただただ事実を伝えていく。いつもとは違う、完全シリアスモードのヒヒダルマ。それにゲームを知ってる俺だからわかる、ゲーチスはゲーム内で描写されてないだけで多分もっと色んな悪行をやってきているんだろう。
「ゲーチスには野望があります、イッシュを我が物にするという野望が」
「野望……」
「ええ、野望です。夢と表現するにはあまりに狡猾で邪悪……ですから野望と呼んでいます。そしてそのためならばどんな手間も犠牲も厭わない。そういう人間です、彼は」
「…………」
「あの現場を見てから、私はそれとなく探りを入れ始めました。プラズマ団員のポケモンたちと話し、協力して、ゲーチスの人間性、そして思想を探っていったのです」
「それで……どうだったんだ」
「ええ、端的に言ってしまえばプラズマ団は全てゲーチスの野望の為の踏み台だったのです。N様、あなたでさえも」
「……………」
「それから間も無く、私はゲーチスに鍛えられ始めました。おそらくN様の手持ちとして使わせるためでしょう。自分でいうのもなんですが強いポケモンですから」
「もしかして、お前のレベルが高いのって…」
「はい、その頃の賜物です。タブンネを倒すよう命令されました、拒めばゲーチスのポケモンによって戦闘不能にさせられる。学習装置も使われましたかね」
「マジか、タブンネ狩りまで……」
「おかげでレベルは上がりました……人並みのトレーナーやポケモンなら打ち倒せる程度には。しかし当然それで良いわけがない。その頃の私はまだ人語が話せませんでしたから…」
「…どうして、教えてくれなかったんだい?きみが、キミたちが苦しめられていたこと……ボクなら分かってあげられたのに」
「……外を知らないN様には、その事実はあまりに過酷すぎる。それに、今のあなたならともかくまだ当時のN様はポケモンバトルすら知らなかった。そんなあなたに事実を教えても…きっとゲーチスに踏み潰されるだけだったでしょう」
「…………」
「そして傷つく日々は続きましたが……私はここである人と出会います」
「ある人?」
「ええ……名前も知らない、ナースの女性です。彼女は私の治療を担当していました。しかし彼女は……私にいろんなことを教えてくださいました。皆が皆ポケモンを傷つける人間ではないこと、人間とポケモンはお互いを信じていること、そしてポケモンや人を平気で傷つけるゲーチスを、憎んでいることを」
「そんな人がいたのか」
「そしてレベル上げと治療を繰り返す日々の中で、未来予知をしました。それがトウコさん、貴女と歩む未来です」
「そうか、その頃に……」
「はい。その時に私は人間の女性の素晴らしさに……」
「おっとそれ以上言ってみろ。あたしの拳が火ぃ吹くぞ」
「冗談です。本気ですが。……と、まぁそれはともかく。その未来を視た事で私は城……ゲーチスの支配からの脱出を考えるようになりました。そしてそれに協力してくれたのが、ナースさんでした」
「ナースさん……」
「彼女は私の入れられているモンスターボールを探し出し、破壊してくれました。そして私もパワーを使って城を破壊し、脱走したというわけです」
「ん?ちょっと待て、ナースさんは?」
「……彼女は、自分が少なからずプラズマ団の悪事に加担していることに罪悪感を抱いていました。なので、自分はここに残ると。自分も裁きを受けるべきだから、と……」
「……そうか」
「そうして脱走した私は、イッシュの各地を巡り、人とポケモンの関係を観察しました。もちろんポケモンを苦しめる人間もいるにはいましたが……ほとんどの人が、ポケモンを尊重し愛していた。」
「それで、あたしのところに来たってことか」
「はい。その間に私は人語を話せるようになったのです。これぞパワーです!」
「それはどうでもいい。それよりも……」
N様は、愕然としていた。そりゃそうだよな、今まで信じていたものが足元から崩れていったんだ。
「……ボクは、間違っていたのか?」
「いや……苦しめる奴から解放しようってのは間違ってないさ。でもみんなが苦しめているっていうのは間違いかな」
「そうですね、現に私はトウコさんたちと一緒にいて幸せです!」
「……ボクは、どうすれば……」
「……N様、これは私からの提案というか願いなのですが……貴方はそのまま、イッシュを巡ってはどうでしょう?」
「え……?」
「今までのN様の世界は、ゲーチスによって都合よく作られた箱庭でした。しかし今は違う、この広いイッシュで、人間とポケモンたちの関係性を……改めて見ていただきたい」
「そうだな、あたしもそれがいいと思う。ジムリーダーに挑戦とかいいんじゃないか?」
「…………」
「その上で……N様、貴方の望む世界を教えてください。」
「でも、ボクの掲げてきた夢が……」
「何言ってんだ、夢なんてコロコロ変わるもんでしょ」
「え?」
「それこそ…あたしは昔ポケモンレンジャーになりたかったけど、今はもう違う夢持ってるし。それでいいんじゃないか?」
「そうか……うん、そうしてみるよ。ポケモンたちの、より良い未来のためにも。アリガトウ、ヒヒダルマ。キミに出会えてよかった」
「私も。貴方に真実を伝えられてよかった」
「ああ。それと、キミは……」
「あたし?トウコって言います」
「トウコか、ヒヒダルマが一緒にいて幸せというならキミは善い人なんだろうね」
「は、はは……」
俺のボディに惹かれてこいつは一緒にいるんです、とか言ったら多分この空気ぶち壊れるんだろうな。
それからN様は歩いていった。ちょくちょくN様の様子見るかな……
ヒヒダルマ
今回の主役。プラズマ団の暗部を全部知っている。
N様
とんでもない情報量をぶち込まれた人。この先どうなるかな?
ナースさん
ヒヒダルマに外のことを教えた女性。ゲーチスによって殺されている。